「僕らの職業って現実に体験していないものを表現していくものですから」
『呪術廻戦』の七海建人や『遊☆戯☆王』の海馬瀬人、実写映画のラスボス役など、その低く響く声と圧倒的な演技力で、善悪問わず複雑な背景を持つ人物を演じ切る。声優の津田健次郎さんはそう語る。
彼はかつて自らの声を「アウトロー的」と評した。その言葉通り、津田さんはこれまで組織の裏側に生きる者や、ひと筋縄ではいかない影のあるキャラクターを数多く演じ、ファンを魅了してきた。
そんな津田さんが、ブシロードが手掛けるビジュアルノベル『ROAD59 -新時代任侠特区- 摩天楼モノクロ抗争』(以下、『ROAD59』)で、またもや特異なバックボーンを持つ役に挑んだ。それが、元極道にして現警察。復讐心を胸に抱くサイボーグ。名を新見正宗という。
役の第一印象を「特徴が強すぎますよね(笑)」と笑う津田さん。収録では「勢いを殺さず、ノリを最優先にした」と語る。
復讐心を抱く役柄へのアプローチ論から、自身の声への再分析まで、唯一無二の「津田健次郎ボイス」が、いかにしてキャラクターに命を吹き込むのか。その秘密に迫る。
サイボーグで元極道という設定は特徴として強すぎる
──今作『ROAD59 -新時代任侠特区- 摩天楼モノクロ抗争』は、近未来の摩天楼で「ジンギ」と呼ばれる任侠者たちが抗争を繰り広げるという一風変わった世界観と物語が特徴となっています。津田さんは、元任侠のサイボーグで警察組織所属の「新見正宗」を演じられていますが、どのような経緯でご担当されることになったのでしょうか。
津田健次郎さん(以下、津田さん):
この役はブシロードさんからオファーをいただいて演じることになりまして、その時に台本や企画書も同時にいただきました。新見の見た目や性格についてもその時に知ったのですが……やっぱりサイボーグであるというのは特殊な設定だな、と。そもそも特徴が強すぎますよね(笑)。
作品に関しても近未来感のある世界観で、極道の雰囲気バリバリなのが不思議と言いますか、面白いなと思いましたね。
──元任侠で、現警察で、そのうえサイボーグですからね。実際に演じられた津田さんから見た、新見というキャラクターの魅力はどのようなものになりますか。
津田さん:
キャラクターとしての魅力は、やはりギャップです。見た目がサイボーグで中身が極道ですから。また、情に熱くて非常に感情豊かで、ストレートなところが出ているのも面白いところだなと思いますね。
まさに直情型の猪突猛進、言葉遣いも粗暴という、元極道という設定らしさが表れている感じです。
──アフレコで印象に残っているセリフや、スタッフとのやりとりがあったら教えてください。
津田さん:
新見のセリフは、「コノヤロウ!」とか「バカヤロウ!」など、とにかく荒っぽいものが多いんです。それが口癖になっていると言いますか、日常会話でそれが自然に出てくるタイプのキャラクターに感じました。
収録中は「勢いのある雰囲気で」とディレクションがありました。そのあたりの勢いのようなものは、台本からも滲み出ていましたね。
あと、台本に書かれている台詞がどことなく文語体……書き言葉っぽいものだったんです。それについてはもっと「崩したほうがいいんじゃないか」とのやりとりがあって、自分としても「(キャラの特徴が)確かにそのほうが色濃く出るかもしれない」と思いながら演じました。
──ちなみに、津田さんとしては、このキャラクターは正義側なのか悪役側なのか、どちらのイメージを持たれて演じられたのでしょう?
津田さん:
警察組織に所属はしていますが、もともとは極道なので、悪役側のイメージです。
勢いのある雰囲気を大事に。復讐心を抱いている雰囲気はセリフに表れる
──今回、新見というキャラクターを演じるうえで、津田さんはどのような流れで役作りを行い、演じるキャラクターの特徴を掴んでいったのでしょうか。
津田さん:
『ROAD59』の場合はゲームということで、アニメーションなどとはちょっと役を作っていく過程が違うかなと思っているのですが……演じるキャラクターの言葉遣いであったり、特徴などを把握したうえでイメージを作っていく感じです。
その仮定したイメージに加えて、アフレコ時にスタッフさんからリクエストをいただき、すり合わせていくという形ですね。
新見の場合は勢いのある雰囲気ですから、その勢いを殺さず、それでいて彼自身が持っているノリや、、決めるところは決めるといった特徴が出てくるといいのかな、と考えたりしました。
──今回演じられた新見の場合、「復讐心を抱いている」という設定があります。過去に津田さんが演じられたキャラクターの中にも、同じように復讐心を抱いている設定のキャラクターがいましたが、そのようなキャラクターを演じる際に意識されていることはあるのでしょうか。
津田さん:
熱量ですね。たとえば、恨みを抱いているにしても、いろいろな種類の熱量があります。その種類に応じた違った熱量を表現できればいいなと、演じる際には心がけています。
だいたいの場合、復讐心を抱いている雰囲気はセリフに表れているんです。それを演じる時にどこまでそのキャラクターが内に秘めている熱量を足せるか、恨みを抱いていることを滲ませるのかというのは意識していますね。
──津田さん自身、映画がお好きということですが、今回の『ROAD59』のモチーフでもある任侠物の映画ってご覧になりましたか?
津田さん:
ジャンルとして少し違うかもしれませんが、『ゴッドファーザー』に『グッドフェローズ』といった名作と言われるアウトロー系の映画は観ています。任侠物、そして邦画となるとあまりないのですが、イメージとして高倉健さん、鶴田浩二さんが浮かぶところはありますね。
──そういう映画がインスピレーションに繋がったり、役作りに対して影響を与えることはあるのでしょうか。
津田さん:
ジャンルに関わらず、いい作品を観た時は何かしら刺激になったり、影響を受けたりはします。ただ、それが実際の演技に繋がることもあれば、目に見えず、言葉にもできない感覚的な部分に表れたりもします。
──なるほど。少し話は変わってしまうのですが、以前【※】に津田さんはご自身の声を「アウトロー的な声」だとコメントされていたことがありました。それから約3年、アウトロー系も含めて沢山のキャラクターを演じられてきたように思います。今、改めて振り返ってみて、ご自身のアウトロー的な声に関して、どのように分析されているのでしょうか。
※「Netflix Festival Japan 2021」に出演した際。
津田さん:
そこはあまり、当時と抱いている思いは変わりないですね。なんと言いますか……立ち位置が独特だったり、特殊なキャラクターを演じる機会が多いのもあるかもしれません。
現実に体験していない役柄を表現し、演じることが僕らの職業でもある
──『ROAD59』ではお酒もテーマになっており、ゲーム内でも「お酒を飲む」シーンがあるとお聞きしています。津田さんご自身はお酒はほとんど飲まれないんですよね?
津田さん:
そうですね。酒は飲まないほうです。
──新見を演じるなかで酔っぱらうお芝居をすることもあったかと思います。現実では体験したことのないシチュエーションを表現する際に、大変だったり、難しいと感じられることはあるのでしょうか。
津田さん:
いえ、とくにそういったことはないですね。そもそも、僕らの職業って現実に体験していないものを表現していくものですから。お酒に限らず、人殺しも会社員の役も体験していない点では全部同じなんです。
正直、体験したことのある役をやったことはほとんどないんじゃないのかなと思います。それこそ、役者の役なんて滅多にありません。

──確かに。そんな新見を演じるに当たって参考にされた役であるとか、出来事はあったのでしょうか。
津田さん:
それについては自分の中にストックされているものがありまして。カテゴライズされている訳ではないのですが、演じるキャラクターごとに「これはこんな感じかな?」と、勘で演じています。
──勘……ですか。声優さんや俳優さんにお話を聞く際に、感覚で演じる人と理詰めで演じる人の2種類がいるとよく耳にするのですが、津田さんは前者にあたるんですか?
津田さん:
いえ、どちらも大切にしています。キャラクターごとにアプローチの仕方を変えるわけでもないです。どちらのやり方も大事だと考えています。
今回の新見の場合は勢いとか、ノリが最優先かと思っていましたので、あまり台本に書き込んだりすることはなかったです。ほとんどスタッフさんとすり合わせをしながらやっていった感じでしたね。
──なるほど。津田さんは今、アニメやゲームに限らず、ドラマや映画にも出演されています。俳優としての活動をしたことで、声の演技をされる際にアプローチの仕方が変わったようなことはあるのでしょうか。
津田さん:
もともと、俳優も声優もそんなに違いはないと思って僕は演じているタイプですので、そんなに変化みたいなことはないですね。ただ「芝居を見直してみたい」と考えることはあります。
──お芝居を見直す、ですか?
津田さん:
はい。芝居そのものを根底から立ち上げ直すような感じですね。「そもそも芝居とは何か?」と。ただ、芝居について見つめ直す機会は少しだけ増えたのかなと思います。
個性的で不思議な設定のゲームの中で、特徴の強いキャラクターを演じた今回の収録
──今回はゲームへの出演となります。ゲームのキャラクターを演じる際に、アニメや映画やドラマなどとの違いや難しさを感じることがあれば教えてください。
津田さん:
基本的にゲームの収録はひとりで行うため、掛け合いがないことですね。相手がどのようなお芝居をしているかわかりませんから、どのようなリアクションが正解であるのかが自分ではわからない。そこが大きな違いだと思います。
ですから、音響監督さんをはじめスタッフさんとのやりとりがないと不安に感じることはありますね。ただ、演じることに対する心構えは、ゲームでもそこまで変わらないと思います。細かい作業だと台本でタイムを計るなど違いを感じることもありますけどね。
──今の時点ではご自身の声と演技しかわからない状況というわけですが、そういう際は最終的な仕上がりがどのようなものになっているか、気になるものなのでしょうか。
津田さん:
そうですね。自分が演じているキャラクターは大きな声を出してギャーギャー騒いでいますが、そのキャラクターとやりとりするキャラクターはクールで淡々としているイメージなので、ギャップの大きい掛け合いになるんじゃないかなと。
台本や資料は読んでいて、情報としては知っているのですが、実際にゲーム上でどのようなものになっているか楽しみです。
ただ、まあ……自分の演じる新見はもう、いろいろと特徴が強すぎて、どちらかというとそちらがどう表現されるか気になっています(笑)。
──(元)極道サイボーグって時点でインパクトがすごいですもんね……(笑)。最後に、本作のプレイヤーや、津田さんのファンの方々に向けてメッセージをいただければと思います。
津田さん:
本当に近未来的な感じと任侠モノの雰囲気が混ざっているのは随分変わっていて、ゲームとしてもかなり個性的なものになるんじゃないかなと思います。
その中で自分は凄く特徴の強いキャラクターを演じさせていただきました。最終的にどんなやりとりが描かれるのかは僕も楽しみにしていますので、ぜひ手に取って楽しんでいただければと思います。よろしくお願いします!
(了)
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