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『ゼンレスゾーンゼロ』のキャラって、どう作られてるの?プロデューサー:李振宇に聞く、みんなでとにかく粘って粘って粘りまくる『ゼンゼロ』流の「心を掴むキャラクター」の作り方

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『ゼンレスゾーンゼロ』は、やっぱり「ビジュアル」がすごい。

キャラクター、UI、アニメーション……その圧倒的な絵作りこそが『ゼンゼロ』の魅力であり、この「絵作り」の面において、『ゼンゼロ』は間違いなく世界トップクラスのタイトルだと思う。実際、CEDEC2025にて、ビジュアルアーツ部門の優秀賞を受賞したりしている。

今回、『ゼンゼロ』のプロデューサーである李振宇(リ・ジェンユー)氏にインタビューをできることになったとき、私は真っ先に「『ゼンゼロ』の絵作りについて聞いてみよう」と考えていた。

きっと、独自の工程が存在していたり、天才的なクリエイターが何人も集っているに違いない。なにか、『ゼンゼロ』のビジュアルには秘密があるはずだ……インタビューが始まるまで、そう考えていた。

しかし実際に李氏から語られたのは、「とにかく粘って調整し続ける」という、すごくシンプルで、かつ実直な解答だった。

『ゼンレスゾーンゼロ』プロデューサー李振宇インタビュー:みんなで粘って調整し続ける『ゼンゼロ』流のキャラ作りについて聞いてみた_001
李氏。

おしゃれでスタイリッシュな、『ゼンゼロ』のビジュアル。

そんな煌びやかな見た目の裏には、ある意味「泥臭い」とも言える、開発陣の「粘り続ける」スタイルがあったのだ───と、なんだか意外かもしれない『ゼンゼロ』開発チームの地道な努力や苦労について、貴重なキャラ原画を交えつつ、いろいろとお聞きしたインタビューになりました。

そして同時に、李さん自身の独特な経歴についてもお聞きしてみました。

もともと映像制作の仕事をしていて、趣味でMAD動画やPVを作って、それから『ゼンゼロ』に……と、なんだか不思議な経歴なのですが、これがそのまま『ゼンゼロ』の理念に繋がっていたり、チームの「粘って調整する」というスタイルの原点であったり……。

タイトルのトップである李さんを通して、『ゼンレスゾーンゼロ』という作品の精神性のようなものを、深くお聞きするインタビューになりました。きっと、あなたも「『ゼンゼロ』というタイトルの在り方」が、より理解できるはず。

ぜひ、最後までご覧ください。

聞き手・文/ジスマロック
編集/実存


とにかく「粘る」、『ゼンゼロ』流のキャラ作り

──本日は、『ゼンゼロ』のキャラクター作りについてお聞きできればと思います。ちょっと順を追ってお聞きできればと思うのですが、『ゼンゼロ』の開発において「一番最初に作られたキャラ」はどの子になるのでしょうか?

李氏:
最初に作ったのは、アンビーですね。

そこまで特別な理由はないのですが……アンビーは「刀(ブレード)」を持って戦っているキャラですよね。その「刀を持って戦う」という要素が、やはり伝統的なアクションゲームのイメージに合うだろうと思いましたし、デモに使用するキャラクターとして伝統的な武器を使った方が着地しやすいのではないかと考えていました。

『ゼンレスゾーンゼロ』プロデューサー李振宇インタビュー:みんなで粘って調整し続ける『ゼンゼロ』流のキャラ作りについて聞いてみた_002

李氏:
そのため、初期の段階では「真新しいユニークな設定のキャラを作ろう」というよりかは、「みんながイメージしやすいアクションゲームのキャラ」という親しみやすさの観点から、アンビーを作りました。

つまり、みんなの共通認識の中にある「アクションゲームのキャラ」を、いかに完成度の高い形で作り出せるか、いかに極めることができるか……それが開発チームとしての考えだったので、アンビーが最初に生まれたんです。

──たしかに、『ニーア オートマタ』『メタルギア ライジング』など、アクションゲームは刀や剣を持っているキャラが中心にいるようなイメージはあるかもしれません。

李氏:
やっぱり、刀(ブレード)を持っているキャラは、アクションゲームの中では王道だと考えています。

逆に、そういうキャラクターがいないアクションゲームの方が浮かびにくいというか……『ベヨネッタ』や『ゴッド・オブ・ウォー』なども、最初はそうじゃなくても、ゲームを進めると刀(ブレード)のような武器が手に入りますよね。

──それで言うと、『ゼンゼロ』のキャラは所属しているチームと一体になっている印象があります。アンビーのように、まず「刀を持っているキャラ」というキャラ個人のイメージから作り上げ、そこに陣営を当てていくことが多いのでしょうか?

李氏:
アンビーのように、個人から作り始めるキャラクターもいたりはするのですが、現在の『ゼンゼロ』チームとしては、やはり陣営ごとにキャラクターを作ることが多いですね。

これは美術チームのAtwoさんがチームに提供してくれた考え方なのですが、キャラを作るときは、複数のキャラクターが並んだときに、全体のビジュアルはどう見えるか……つまり、シルエットの表現力を重視し、キャラクター同士の違いを際立たせるよう工夫しています。まずは陣営で並べたときのシルエットを重視して、そこから細かいディティールを調整するような作り方です。

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──これまでのキャラクターの中で、「最も制作が難航したキャラ」はどの子になるのでしょう?

李氏:
キャラクターごとに直面する問題はそれぞれ違ったりするのですが、やはりみなさんの期待が高かったキャラクターに関しては、制作上もろもろの調整も多かったりします。

たとえば、星見雅・儀玄・「シード」の3人は特に難しくて、開発チーム内でも何度も調整を行いました。

──雅と儀玄は納得感があるのですが、「シード」がそこに並ぶんですね。

李氏:
これは、「シード」が実装されてプレイしたら、わかっていただけるのではないかと思います(笑)。

そして「シード」に関しては、当時私は日本でCEDECの授賞式に参加していて、登壇中の時間以外は、ずっと社内チームと電話でやり取りをしていました。「もっと改善できる点はないか」といった話し合いをしていて……やはり現地にいないと何かと不便ですね。

──もうそれくらいギリギリまで調整されているんですね。

李氏:
そうですね。ギリギリまで粘って、どのくらいクオリティを高められるか……そういった最後の調整は、いつも頑張っています。

制作したものが必ずしもプレイヤーの皆さんに満足していただけるとは限りませんが、限られた時間のなかで、自分たちの力を尽くし、可能な限り最高のクオリティを目指して取り組んでいます。

──今回、李さんには「『ゼンゼロ』のハイクオリティなビジュアルや絵作りを、運営型タイトルとしてどのように維持し続けているのか」ということをお聞きしてみたかったんです。お話を聞いていると、その「ギリギリまで粘る」ことが重要なのでしょうか。

李氏:
結論から言うと、やっぱりそうですね。

チーム全体の理念と目標のひとつは、「ギリギリまで粘って、よりいいものを作り上げる」ことです。

たとえば、ver2.0のアップデートでは、新たに「箱庭のマップ」を実装したのですが……もともと『ゼンゼロ』の技術的な基盤では、箱庭型のゲームプレイを実現することができませんでした。

それでも、このような遊び方はきっとプレイヤーの皆さんに楽しんでいただけるはずだと考え、最終的には技術基盤のフレームを作り直す決断をしました。

ただ、新たなシステムということもあり、至らないところが出てきてしまうんです。だからこそ、運営型のタイトルとして、最初のシステム全体のフレームが完璧でなくても、継続的に改善とアップデートしていくしかないと考えています。

我々はいつも、より完璧なゲーム体験をプレイヤーの皆さんに提供したいので、ギリギリまで粘って調整を続けています。ゲームシステムに限らず、この「細部にまで徹底的にこだわる」ことは、私自身が追及していることであり、チームの理念でもあります。

──ビジュアルだけでなく、ゲームシステムなども粘り強く調整することを重視しているんですね。

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(画像は『ゼンレスゾーンゼロ』Ver.1.5「輝きのモーメント」予告番組 – YouTubeより)

──『ゼンゼロ』は、キャラのコスチュームにもこだわりというか、開発チームの愛を感じるんです。アキラとリンの別衣装、柚葉とアリスのサマーコスチューム、エレンの制服など……こういった別のコスチュームはどのように作り上げられているのでしょうか?

李氏:
やはり『ゼンゼロ』は現代を題材にした作品なので、キャラクターたちにはもっと多様な現代的な衣装を着せたくなります。

また、IPの設定という観点から見ても、プレイヤーのみなさんはキャラクターたちの新たな衣装や、普段とは違う一面を見たいと思っているはずです。特定のイメージに縛られず、さまざまな姿を見せていくことが大事だと考えています。

さらに、『ゼンゼロ』は都市型のアートスタイルを採用しており、美術的な面でも現代ファッションとの親和性が高いです。そういった意味でも、ゲーム内にサマーコスチュームを取り入れることは不自然なものではなく、ファンタジー系の作品と比べても、説得力があると思っています。

──ちなみに、エレンや儀玄などの別コスチュームのアイデアは、どのように考えられているのでしょうか?

李氏:
たとえばエレンは、もともとのキャラクター設定として「学生」であることをひとつのポイントとしていたので、そこから自然に制服という選択肢に至りました。もちろん、将来的には別のコスチュームが出てくる可能性もあるとは思います。

そして儀玄に関しては、「宗主」という設定のキャラクターですが、彼女の別の一面もみなさんに見せたいと考えていました。そのため、衣装の面でも彼女本来の設定にとらわれすぎず、既存のイメージを打ち破るような新たな姿をお見せできればと思っています。

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エレン(制服)のキャラクター原画。いつもの4人が描かれている。

実はキャラ作りにおいて、「○○」が存在しない

──『ゼンゼロ』でキャラクターを作られるとき、具体的にどのような工程を踏んで作り上げられていくのでしょうか? シナリオチームからアイデアなどが上がり、それをデザイナー側で形にしていくような流れなのでしょうか。

李氏:
実は、『ゼンゼロ』のキャラクター作りに関しては、特に固定された制作工程のようなものはないんです。

それこそ、シナリオなどのIP側から「こういうキャラクターを作りたい」という発案があることもあれば、デザイナーなどの美術チームの方からキャラクターのアイデアが出てくることもあります。だから、いわゆる工場のパイプラインのように、固定している流れがあまりないんです。

──ええっ、正直それは意外です。

李氏:
逆に、そういう固定された制作工程を決めてしまうのは、「面白いキャラクターを生み出す」ことに制限をかけてしまうんじゃないかと考えています。

そのために、場合によって、全く違った工程でキャラクターを作っていますね。

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李氏:
ただ、私自身もキャラクターデザインにおける工程を繰り返し見直しており、時間が経つにつれてチーム全体の認識も変化してきています。

たとえば最近では、「アニメーションチームから逆算してキャラクターデザインを考える」という手法にも挑戦しています。キャラクターの動きやモーション、武器の見せ方から発想を広げ、そこからデザインを構築していくというアプローチです。

これまでの開発では、武器のデザインが先に完成していたものの、実際に落とし込む段階でうまくいかなかったり、制作中に新しいアイデアが生まれて何度も調整を行ったりすることもありましたので、私たちはチーム間の連携をより一層強化してきました。

シナリオチームやアートチームはもちろん、他のさまざまな部署のメンバーとも意見を交わしながら、「キャラクターにどんな面白い要素を加えられるか」を多角的に考えるようにしています。

全体として、私はデザインとはコミュニケーションの過程だと思っています。
職種が異なれば、どうしても情報のギャップは生まれるものですが、「キャラクターをより魅力的にするにはどうすればいいか?」という視点を共有しながら、各部署と連携し、最終的な方向性を決めていくようにしています。

──そういった意見交換は、どのように行っているのでしょうか? 『ゼンゼロ』ほど大きなタイトルになると、部署間で意見を交わすのも物理的に難しそうです。

李氏:
私がよく推奨している方法としては、さまざまな部署の人たちに「ぜひ積極的に意見を言ってください」と、お伝えすることですね。

職種が違うとどうしても考え方に偏りが出てしまう……そして具体的なビジュアルや設定が見えないままだと、情報の伝達が不足してしまい、チーム全体で共通認識を持つことが難しくなります。結果として、面白いアイデアが生まれる可能性も減ってしまうのです。

もちろん、意見や理念が一致しないことも多く、それは非常に難しい問題でもあります。現時点で完璧な解決策は見つかっていませんが、私はみんなにミュニケーションを取り続けることを絶えず促し、現場で問題解決に向けて取り組む姿勢を大切にしています。

私たちの目標は、面白いキャラクターを創り出すことです。そのためには、部署の枠を超えて協力し合うことが不可欠だと考えています。

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──さきほど「シナリオ側からアイデアが出たキャラ」「デザイナー側からアイデアが出たキャラ」というお話がありましたが、具体的にはどのキャラクターが該当するのでしょう?

李氏:
やはり全員で議論しながらキャラクターを作ることが多いので、あまり正確には区別していないのですが……しいて言えば、アートチーム側から「これをやりたいです」とアイデアが上がったのは、「妄想エンジェル」【※】ですね。

ただ、やっぱり『ゼンゼロ』のキャラクターは、みんなが違うテーマや属性を持っていることもあり、「このキャラはどんなテーマにしよう」といった大本のアイデアなども、チームのディスカッションの中で生まれることが多いんです。

だから、実は区別が難しいんですよね。
明確に「これはシナリオが、これはデザイナーが」というハッキリとした違いはなくて……それこそ「妄想エンジェル」もみんなで一緒に議論をするなかで、「どのチームもこういうキャラを作りたい」ということがわかったりしました(笑)。

──それは「妄想エンジェル」の登場が楽しみになりますね。

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※「妄想エンジェル」
『ゼンレスゾーンゼロ』に登場予定となっている陣営。「アイドル」をモチーフにした陣営・キャラクターとなっている。

──特に決まった制作工程が存在せず、みんなで意見を出し合いながらキャラクターを作り上げていくやり方でも、無事に納期などは間に合うのでしょうか? かなり先までスケジュールなどを決めて運営されていると思うのですが、その作り方で『ゼンゼロ』が回っているのが率直にすごいと感じているんです。

李氏:
最初は、いろいろなところで困難にぶつかることも
ありました……。

たとえば、キャラクターの開発スケジュールが合理的なものではなかったり、キャラクターの性能と美術的なデザインが合っていなかったり……特に開発初期は、そんな問題によくぶつかっていました。

ただ、作れば作るほど、みんながこのペースにも慣れていき、「こういうことをすると上手くいかない」という失敗のケースもわかってきた。その経験があることで失敗も減っていき、スケジュールを想定しつつ、もうすこし早めにいろいろなことを決められるようになったんです。

それでも、問題が起きるときはあるんですが……長く続けてきたなかで、その時のための「心の準備」はできています。

──「心の準備」ですか(笑)。

李氏:
もう、「これはたぶん調整が必要だ」と感じた時は、みんな心の準備ができています(笑)。

そして、より素早く、柔軟に開発に取り組んでいけるようにしています。

もちろん、頑張って作ったキャラクターであればあるほど、調整や修正が必要になった時の気持ちもちょっと重くなるかもしれないですが……やっぱり長期に運営するゲームとしては、そういう調整は避けられないですからね。その覚悟をして、続けていくしかないです。

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『ゼンゼロ』の「絵の個性」って、どこから出てるものなの?

──ここまでチームでのお話を聞きましたが、『ゼンゼロ』のキャラクターを作る際、李さん個人はどのくらい関わっているのでしょうか? プロデューサーとして、「『ゼンゼロ』のキャラはこうあるべき」というイメージ像などがあるのでしょうか。

李氏:
これは少し段階を踏んで話せればと思うのですが、リリース初期のころは、やはりプロデューサーとして私が早期介入していたこともあり、いろいろなキャラクターに自分の意見を積極的に述べたり、問題を解決したり……アドバイスなども、もちろんしていました。

ただ、より大きなチームとして動き始めた現在は、基本的にはスタッフのみんなに任せることが多いです。もちろん、私の意見が反映されることもあるのですが……いまはどちらかというと、問題が起きたときの解決方法などをアドバイスするポジションに立っています。

たとえば、モデリング、アニメーション、エフェクトなどの制作工程のなかで新たな問題や困難が発生したときに、私が部署の間に立ってコミュニケーションを取り、解決するために動いたりします。「どうすればこれが着地するか」を考えることが多いですね。

──キャラ性能や戦闘システムの方も李さんがアドバイスをされているんですね。

李氏:
どちらかというと、私が絶対にチェックするのは、そのキャラクターの手触り、操作感とカメラワークですね。

実際にキャラクターを戦闘中に動かしたときの操作がスムーズにできているか、カメラワークが流暢なのか、キャラのスキルの表現力がどうなっているのか……ユーザーがプレイするなかで感じる体験や印象を非常に重視しています。

それに加えて、ひとつのゲーム作品としてのクオリティの高さや、総合的な完成度にも常に目を向けています。たとえば、戦闘エフェクトの細かな演出や、キャラクターごとのスキル発動後のポーズ(後隙のモーション)、さらにはモデリングのディテールに至るまで、細部にわたってこだわりを持ってチェックしています。

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──つまり、リリース当初は最前線でチームを率いていたけど、いまはどちらかというとチームを後ろから支えつつ、全体を俯瞰して見るような立場になられているということでしょうか?

李氏:
実は、いま私がやっているような仕事は、リリース初期の段階からすでに取り組んでいました。ただ、いまはそれに加えて、より一層メンバーひとりひとりが自分の意見やアイデアを積極的に出せるよう、働きかけることを意識しています。

制作途中のスタッフのみんなも、実際のところ「ここに問題がある」ことそのものはわかっているんです。でも、その問題を解決する方法がわからないこともある。そのときのために、私がアドバイスや解決策を提供しています。

ただ、いまは『ゼンゼロ』の開発チームが大きすぎるうえに、私の時間も限られていて、すべてを見ることはできないんです。だからこそ、開発チームのみんなに、いつも言っていることがあるんです。

それは、「自分のことを“プロデューサー”として見る必要はない」ということです

私はむしろ、みんなの“サポート役”でありたいと思っています。もし問題があって行き詰まったときは、遠慮なく私に相談してほしい。そのうえで、私なりにベストな解決策を考え、できる限りの力で問題を解消していきたいと思っています。

いまのところ、このやり方はかなりうまく機能していると感じています。
チームメンバーが相談に来てくれたとき、多くの場合は一緒に問題を解決できています。もちろん、中には私ひとりでは解決できない課題もあります。そんなときは、メンバーみんなを巻き込みながらディスカッションを重ねて、一緒に答えを見つけていくようにしています。

──個人的に気になっているのですが、『ゼンゼロ』はチーム全体で作り上げながらも、ゲームそのものに強烈な個性……それこそひとりのクリエイターの好みが炸裂しているような味があるんです。チーム全体でその個性を出すための意思統一や、なにか工夫などがあったりされるのでしょうか?

李氏:
実は、「『ゼンゼロ』の個性や独自のスタイルを作る」という点において、いまのチームとしては結構自然にこうなったところがあるんです。

──それって自然に作り上げられるものなんですか?

李氏:
これに関しては、どちらかというとチームを作るときに、私の意見や感性に賛同してくれた人……つまり、センスや好きなアートスタイルが一致している人が多かったんです。

そして、そういう志が一致している人たちと一緒に仕事をしていたら、より深くお互いの好きなものもわかっていき、最終的に「私が好きなものはみんな好きで、みんなが好きなものも私が好き」というような状態になりました(笑)。

だから、いまの『ゼンゼロ』の個性は、誰かひとりのクリエイターのスタイルや感性というより、「チーム全員の個性」が表れているのだと思います。

──なにか、それは李さんがチームメンバーを集める段階で、「自分と同じ感性、同じ志のスタッフを集めること」を意識されていたのでしょうか?

李氏:
最初から「同じ志を持っている人を探す」という意識があったというより、逆にそういう人でないと、いいものを作りにくいと考えていました。やはり、自分と同じ感性を持った人たちが集まることで、いいチームが作れて、その流れでいいものも作れるのだと思います。

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ここから話題となる、デザイナーの水熊氏が描かれたカリン。その後ライカン、リナ、エレンと一緒に陣営「ヴィクトリア家政」として実装されました。

李氏:
たとえば、キャラクターの原画を担当している水熊さんというスタッフがいるのですが、その水熊さんが描いたものに対して、最初からチームのみんなはそれを「いいもの」だと認識しているんです。

こうした環境の中で、チームとしての基本的な美的センスや方向性は少しずつ共有されていきます。もちろん、すべてのデザインが全員に完全に納得されるわけではなく、意見が分かれることもあります。

ですが、それはごく自然なことだと思っています。長期的に共同作業の中で、私たちは「プレイヤーにとって魅力的かどうか」という視点での判断力も徐々に高まってきていると感じています。

あと、これも関係しているかもしれないのですが……私はもともと、映像のポストプロダクションの仕事をしていたんです。つまり、プロダクト全体のトーンや方向性をひとつにまとめることを得意としています。

ゲーム制作においても、最初にどんなデザインが上がってきても、それをいい感じに仕上げる……デザイナーそれぞれの絵のスタイルがあるなかで、バラバラのものが上がってきても、それを同じ箱のなかに入れたり、統一感を持たせたりする。それが私の仕事だと考えています。

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ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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