8月20日から8月24日にかけて、ドイツ・ケルンにて開催された世界最大級のゲームイベント「gamescom 2025」。
弊誌でも、配信イベント「gamescom Opening Night Live 2025」の発表や現地取材を通じて、いくつもの記事を掲載した。
gamescomは、2009年に開催された第1回の時点で参加者数が24万人を超えたビッグイベントであり、今年開催された「gamescom 2025」では参加者35万人を記録している。世界中から大量の来場者を迎えるgamescomを支えるのが、運営者の抱く「gamescomはひとつのフェスティバルだ」というテーマ意識だ。
2024年に弊誌で掲載した運営スタッフインタビューでも、gamescomの運営者が「gamescomが世界最大のゲームフェスティバルになるまで」について、gamescomの前身であるゲームイベント「Games Convention」からさかのぼる形で言及している。
それから1年がたった今年、はたしてgamescomはどう進化し、どう変化したのか?
電ファミでは、昨年と同じくgamescom運営のシュテファン・ハイクハウス氏、ティム・エンドレス氏のおふたりにインタビューを実施し、2025年のゲームトレンドや、世界最大級のゲームイベントでありゲーム文化全体を祝う“フェスティバル”たるgamescomの現在地と目指す未来についてお聞きした。
聞き手/TsushimaHiro
編集/うきゅう、恵那
今年のトレンドは「3世代で遊ぶゲーム」と「持ち運べる大作ゲーム」。2025年も進化を続けるgamescomの現在地
──世界各国から多くの参加者が訪れた「gamescom 2025」ですが、今年掲げたテーマや出展ブースのトレンド、明らかにできる参加者数の規模など、イベントの概観について教えてください。
シュテファン・ハイクハウス氏(以下、シュテファン氏):
「国境を越えて人々をつなぐ」というのが、我々が発信しようとしているメッセージです。
今年のgamescomはこれまで以上に規模が大きく、多様性に富み、国際的になりました。128か国から35万7000人が来場し、動画としても8月23日夜までに世界で6億3000万回以上が再生されました。
gamescomの強みは、B2BとB2C【※】を融合したハイブリッドなアプローチです。このgamescom独自の構成によって、グローバルな観客にイベントを届けることができるのです。
今年見られた出展ブースのトレンドとしては、「三世代で遊ぶゲーム」と「持ち運べる大作ゲーム」があげられます。
まず「三世代で遊ぶゲーム」について。ドイツではゲーマーの平均年齢が約40歳にまで上昇しており、祖父母・親・子が一緒にゲームを楽しむ時代になっています。会場でも、幅広い年齢層の参加者がゲームを楽しんでいる様子が見られました。
もうひとつの「持ち運べる大作ゲーム」は、任天堂のNintendo Switch 2や、マイクロソフトのROG Xbox Allyに代表されるような、ハイスペックのハンドヘルド(持ち運び)機が登場したことを受けてのトレンドです。かつてデスクトップでしかできなかったことが、持ち歩き可能なデバイスでも実現できるようになってきているのです。
※B2BとB2C……
Business to BusinessおよびBusiness to Customerの略称。企業(Business)と消費者(Customer)がどのように取引に関与しているかを指しており、B2Bならば企業同士の商取引、B2Cであれば企業と消費者商の商取引を、それぞれ意味する。
ティム・エンドレス氏(以下、ティム氏):
我々が重要視しているのは、規模とバランスの融合です。gamescomは巨大なゲームの祭典であると同時に、ゲーム業界のなかで最も効果的なビジネス環境のひとつでもあります。
今回のgamescom 2025では、35か国から40のパビリオンを、72か国から1568社の出展者を迎え、パートナー国であるタイ、ドバイ、キルギスからの新規参加もあるなど、世界各国から数多くの参加者を迎えることができました。
またgamescomはケルンでの祝祭でありつつ、動画やライブ配信などのデジタルプログラムを通じて現地へ来ることのできないゲーマーにも情報を届けています。今年のgamescom Opening Night Liveは7200万回の視聴を記録するなど、物理的なインパクトとデジタルリーチの両立こそが、gamescomを強力なプラットフォームにしているのです。
ステファン氏:
7200万回というgamescom Opening Night Liveの視聴回数は、前年と比べて約80%増という大きな成果であり、非常に際立った成功と言えます。また、関連イベントの「gamescom congress」は参加者が1000人を超え(昨年比+10%)、「devcom」(来年からgamescom devに改称予定)の参加者は5400人に達しました(昨年比+6%)。
──Opening Night Liveのほかにも、メタルバンド「サバトン」がライブパフォーマンスを披露したり、『ウィッチャー3』の10周年コンサートが開かれるなど、多くの音楽イベントが盛況でした。今後もゲーム関連の音楽イベントは実施される予定ですか?
ステファン氏:
はい、今後も実施していく予定です。こういったゲーム音楽イベントは、gamescomがゲーム文化全体を祝うフェスティバルであることを示す好例と言えます。
例としてあがったふたつ以外にも、金曜日と土曜日には『Tony Hawk Pro Skater』シリーズや『The Rogue Prince of Persia』のサウンドトラックを演奏するバンドも登場しましたし、Opening Night Liveでは『Clair Obscure: Expedition 33』のライブ演奏が観客を沸かせていました。
イベントアリーナには最大5000人を収容できますが、Opening Night Liveのチケットは完売しましたし、コスプレコンテストなども満席となりました。
──gamescomを「フェスティバル」だとおっしゃっていましたが、そうした「フェスティバルらしさ」を演出するために行っている取り組みがあれば教えていただけますか?
ティム氏:
今年はイベントアリーナを新設し、新たなエンターテインメントホールを作ったほか、過去最大規模のインディーエリアを実現しました。また屋外のスペースも拡張し、人の流れや滞在時間に関わる問題を改善しました。
また、会場外では「gamescom city festival」が開催され、週末に約8万人が来場するなど、町全体に祝祭が広がりました。
我々はこの成果を、フェスティバル精神が会場内・街中・オンラインのすべてに根付いた証拠だと考えています。
インディーゲームへのサポートや、アジアなど新たな地域へのアプローチも強化中。目標は「世界のゲーム産業全体を反映すること」
──インディーブースの拡張というお話がありましたが、インディーゲームへの支援は今後も継続していくのでしょうか?
ティム氏:
もちろんです。我々の目標は非常にシンプルであり、「素晴らしいチームやゲームが発見されるようにする」ことを目指しています。
そのため、インディーゲームのショーケースである「gamescom awesome indies」をさらに拡充し、より参加しやすいモデルや、プログラムの可視化を進めていく予定です。
また、運営面でもビジネスエリアやマッチメイキングツールを活用し、インディーチームがパブリッシャー、プラットフォーム、メディア、クリエイター、サービスパートナーとつながれるように改善を続けます。
──gamescomに出展するドイツ国外の企業や参加者の割合は全体の7割にのぼりますが、公式サイトを見るとその内訳はヨーロッパが中心となっている印象です。今後、ほかの地域に対してはどのようにアプローチしていくつもりですか?

ステファン氏:
国際化は、gamescomにおける最重要課題のひとつです。今年、商談のために来場した方は3万4000人を超え、なかでもアメリカ、中国、カナダ、日本から来られた方の数が飛躍的に増加しました。また、gamescomは東南アジアとの関係を深めており、今年はあらたにタイが公式パートナー国となり、ドバイやキルギスからも新しいパビリオンを迎えることができました。
gamescomの目標は「世界のゲーム産業全体を反映すること」にあります。そのため、中国向けにはbilibiliと、日本向けにはIGNとそれぞれ連携して、gamescom独自のコンテンツを届ける施策にも取り組んでいます。
──出展者を選定するうえで、特に重視した基準はなんでしょうか? また、主催者の視点でもっとも印象に残ったタイトルを教えてください。
ティム氏:
重要なのは、ゲーム文化への貢献です。
ゲーム文化へコミットし、行動規範を守りつつ来場者へ新たな価値を提供すること。gamescomではそうした点を重視しており、今年はAtari、Roblox、Paramountといった企業が初参加しました。ゲーム開発やパブリッシングをおこなっていなくても、ゲーム文化を支える存在であれば我々は歓迎します。
たとえば、ストリーミング企業がゲームIPを原作とした映画やドラマを制作するケースなどがそれにあたります。
どのタイトルが多くの来場者の心に響いたのかを知るためには、gamescom awardsが適しています。今年であれば『バイオハザード レクイエム』、『ホロウナイト シルクソング』、『アノ 117: パックスロマーナ』、またインディータイトルである『Tiny Bookshop』が大きな受賞を果たしました。
とはいえ主催者として、「ベストタイトル」を選ぶことはありません。gamescomの強みは幅広さにあり、大作からインディーまで、多くのゲームを網羅しています。その多様性によって、ファンやメディアはなにかしら、心に残るものを発見できたと確信しています。
gamescomはこれからも続く。今後の課題と、新たな取り組み
──gamescom 2025を振り返って、運営チームにとって最大の成功はどのようなものでしたか? また、最も困難だったミッションも教えてください。
ティム氏:
「現地での来場者体験の質を高めつつ、過去最大規模のgamescomを現地とデジタル両方で実現できたこと」ではないかと思います。
我々にとって最大のミッションは、これだけのスケールのイベントを統合する事でした。35万7000人の来場者、1588社の出展、記録的なデジタル視聴者。gamescomに参加してくださったすべての人の体験を、損なうことなくまとめ上げる必要があったのです。
ステファン氏:
戦略的な観点で言えば、グローバルな参加が促進されたことが、最大の成果と言えます。gamescom 2025では128か国から来場者が訪れ、出展も72か国にのぼります。2009年の初開催時が31か国だったことを考えると、驚異的な変化だと言えます。今後も、包括性と持続可能性を維持しながら、さらにこの水準を引き上げたいと考えています。
──逆にイベントのなかでうまくいかなかった点や、今後の課題などはありますか?
ステファン氏:
この規模のイベントには、必ずどこかにボトルネックが生じます。ですからその改善は我々の義務です。参加者の皆さんからのフィードバックを集め、導線や標識を見直し、収容力と快適性のバランスを調整しますし、問題が見つかれば迅速かつ透明性高く、それを改善します。
──私もgamescom 2025に参加したのですが、広いイベント会場で一度迷子になってしまいました。スムーズな会場案内について、運営側として検討している方法はありますか?
ティム氏:
今年はウェブサイト上に会場内のナビゲーション機能を導入するテストをおこないました。GPSで位置を正確に追跡し、目的地として設定した企業の場所を表示してくれるものです。
このテストは順調だったので、2026年に向けて更なる改良をおこない、より多くの人に利用してもらいたいと思っています。
また、現地でも案内スタッフと動的サイネージ(電子標識)を組み合わせてガイドをおこなっています。こちらも、今後より進化させていきます。
──今後のゲーム業界において、gamescomが果たすべき役割についてどうお考えでしょうか?
ステファン氏:
我々は、2030年以降もgamescomが世界最大かつ最も関連性のあるゲームイベントであり続けるよう、全力を尽くしています。
ゲーム業界は常に変化していますし、そのスピードに対応し続けることは簡単ではありませんが、変化を反映することこそが、gamescomがリーディングプラットフォームであり続けるための条件でもあります。そのため、常に対話を尽くし、進化と改善を続けていきます。
──最後に、日本のゲーマーへ向けてメッセージをお願いします。
ティム氏:
現地参加でも、デジタル参加でも、gamescomは必ず参加者に「忘れられない発見」をお届けします。
gamescomは次回もグローバルな精神を維持しつつ、さらに包括性と国際協力を重視していきます。より拡大するインディーゲームエリアや、強力なビジネスマッチメイキング機会、そしてケルンから世界へ広がるハイブリッド構成にご期待ください。
世界最大級のゲームイベントであり、デジタルとリアルの両輪によってゲームを世界へ届ける「フェスティバル」。そんなgamescomは、すでに2030年以降の未来を見据え、さらなる進化と発展を力強く宣言している。
今後、アジアなどヨーロッパ外へのアプローチを強め、さらなるグローバルを実現したいと語ってくれた。次回のgamescomは2026年8月26日から8月30日にかけて、ドイツ・ケルンにて実施される予定だ。
会場は決して日本から近い場所ではないが、もし現地へ行く機会があれば、町全体を包むその祝祭に参加してみてはいかがだろうか。また、会場には出向けない方も、ぜひ配信サイトなどを通じてオンラインからgamescomに触れ、新たなゲームを発見して欲しい。