「Sabaton(サバトン)」。
それは、スウェーデン教育機関である「Föreningen Vetenskap och Folkbildning(通称:VOF)」より2022年に「国民啓発賞(Årets folkbildarpris)」が授与された異色のメタルバンドだ。
……教育機関から表彰されるメタルバンドって何?
Årets folkbildare och Årets förvillare 2022 har utsetts! https://t.co/BKrbQHpHgA
— Vetenskap och Folkbildning (@SwedishSkeptics) January 10, 2023
もちろん、「みんないいこになろうね」なんて曲はまず歌わないだろう。メタルバンドだし。
彼らのことが気になった私は、色々と調べてみた。
すると、彼らは現実に起こった“戦史”をテーマにして、一躍有名になったミュージシャンであることがわかった。そのジャンルは、「ウォーメタル」と呼ばれているらしい。
VOFの公式サイトによると、サバトンは自らを歴史学者とは位置づけず、専門家の知見を取り入れたうえで第一次世界大戦をさまざまな側面から描き、複数のアルバムをリリースした。
また、公式のYouTubeチャンネル「Sabaton History Channel」では、実際に世界で行われた戦争の歴史を振り返る動画を定期的に投稿している。記事執筆時点で、歴史動画は129本にものぼる。ファンがより深く歴史を学べる形で展開しているようだ。
ふと、「日本の歴史も取り扱っているのだろうか?」と思って動画を辿っていると、「Nuclear Attack – Atomic Bombings(核攻撃-原爆投下)」と書いてある動画が投稿されていた。
動画のコメント欄でサバトンは、核兵器のおそろしさについて「世界を滅ぼす可能性がある」と説いている。コメント欄には「私の祖父は、日本本土に上陸した最初の一人でした。爆弾を仕掛けた船に乗っていた」とコメントする視聴者も現れている(真実は不明だが……)。興味がある人は、ぜひ見てほしい。
そんな教育的な活動もしているサバトンが、8月某日にドイツのケルンで開催された特大ゲームイベント「gamescom2025」にて、基本無料の戦車MMO『World of Tanks』の「PLAY BIG」イベントのあとにライブパフォーマンスを披露していた。
彼らはゲーム業界においては、『World of Tanks』および開発元であるWargamingのフランチャイズ全体に関わっており、楽曲の演奏のみならずコラボイベントにも出演しているそうだ。
戦車の上に設置されたドラムパフォーマンスから始まり、会場は一気にヒートアップ。
「サーバートン!!!」「サーバートン!!!」「サーバートン!!!」
Y”E”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”(地響き)
と、大盛況だった。今回は、そんなサバトンに直接インタビューできる貴重な機会をいただけたので、みなさまにお届けしたいと思う。
取材/文:TsushimaHiro
編集:うきゅう

今回インタビューをさせていただいたのは、上記画像の右下にいるリードギタリストのChris Rörland(クリス・ローランド)氏と、一番左に座っている創設メンバーのひとりであるPär Sundström(パー・スンドスロトーム)氏だ。
この取材に挑む前にこの写真を見た私は、「腕の一本くらいはもぎ取られるかもしれないな」と半分覚悟していた。真ん中にはアベンジャーズに登場しそうな人物もいるぞ。
さて、実際に会ってみると……?

めちゃくちゃ親しみのあるひとたちでした。
さっそく質問しようとしたら、「君、どこから来たんだい」と気さくに聞いてくれて、こちらの緊張を和らげてくれました。
ファンタジーではなく、現実に存在することを歌いたかった
──本日は、世界的に有名なメタルバンドであるサバトンにお会いできて光栄です。
パー・スンドスロトーム氏:
こちらこそ、ありがとう。
クリス・ローランド氏:
嬉しいね。
──サバトンは結成から25年以上にわたって軍事史をテーマにした楽曲で世界中のファンを魅了し続けてきました。
一貫して歴史、とくに「軍事史」をテーマに楽曲を制作し続けているのはなぜですか?あらためて、その理由をお聞かせください。
パー・スンドスロトーム氏:
キャリアの初期段階で、私たちは「何か意味のあること、自分たちが本当に関心を持てる興味深いことについて歌いたい」と考えていました。そこで、ファンタジーやフィクションの世界を選ぶのではなく、現実に根差したものを歌おうと決めました。
そのなかで、軍事史は私たちにとって歌うに値する有意義なテーマだと感じたのです。
最初のアルバムで軍事史を扱って以来、私たちはこの道を貫くことに決めました。伝統的なロックやメタルについて書くよりも、こちらの方が「良い」と感じたのです。その道のりが、今日の私たちを形作っています。
──デビューアルバムの「Primo Victoria」は、すべてバンドの自費で制作されたと伺いました。
パー・スンドスロトーム氏:
はい、その通りです。活動当初はすべて、私たち自身が直接資金を賄っていました。当時はレコードレーベルとの契約も何もありませんでしたからね。
今こそレーベルとの良好な関係を築いていますが……ある意味では、その時の精神は今でも変わりません。
パー・スンドスロトーム氏:
当初、サバトンの可能性を信じていない人もいました。しかし、私たちは自分たち自身を信じ、自らの手で運命を切り開きました。
教育に影響を与えたメタルバンド「サバトン」。実は宮本武蔵について書いた曲もある。

──2022年には、スウェーデンの教育機関から最優秀賞である「国民啓発賞」を受賞されていますよね。この反響については、どのように感じていますか。
パー・スンドスロトーム氏:
スウェーデンの国民教育に貢献したことに対して贈られる、非常に名誉ある賞です。受賞の知らせには本当に驚きましたが、同時に大変嬉しく思っています。
私たちはこれまで、音楽に関する賞をそれほど多く受賞してきたわけではありません。ですから、この受賞は全く予期せぬものでした。
もちろん、私たちの第一の目標はヘヴィメタルバンドとして活動することです。しかし、その活動を通じてスウェーデンの人々の教育に貢献できると評価していただけたのなら、これほど嬉しいことはありません。

──サバトンは、これまでにも日本の西南戦争をテーマにした曲「Shiroyama」を制作されていますが、今後、日本を舞台にした楽曲を制作する予定はありますか?
パー・スンドスロトーム氏:
はい。実は、次のアルバム「Legends」には日本の宮本武蔵についての曲が収録されます。日本の歴史は非常に興味深く、以前からサバトンが曲のテーマとして注目してきた対象です。
今後も、日本の歴史をさらに深く掘り下げていきたいと考えています。将来的にも、きっと何かを期待していただけると思います。
──最後に、これからサバトンのことを知っていく日本のファンへ向けて、メッセージをお願いします。
パー・スンドスロトーム氏:
私たちは、日本に来るたびにいつも素晴らしい時間を過ごさせてもらっています。世界中をツアーで旅していますが、「日本での公演が決まった」と知らせた時に、メンバー全員がこれほど幸せで興奮した場所は他にありません。
現在、ウェブサイトで新しいアルバムのツアー計画を進めていますが、発表されている日程はまだ一部です。
でも、心配しないでください。長期のツアーを計画しており、その中で必ず日本を訪れることを約束します!(了)

インタビューが終了後、雑談交じりに筆者の故郷である長崎県の離島、対馬の戦争の歴史について話してみたら、彼らは「それは知らなかったよ。僕らは、歴史の専門家じゃないからね。でもとても興味深い。「日本にはまた必ず行くよ」と言ってくれた。
VOF公式サイトの記述どおり、自分たちはあくまで歴史の専門家ではなくヘヴィメタルバンドであることは全くブレていないようだ。それでいて、「専門家に意見を聞いて広める努力をする」という謙虚なスタンス。その姿勢が、多くのファンを獲得した要因のひとつであるのかもしれない。
宮本武蔵に関する楽曲が収録され、今年の配信が予定されているというアルバム「Legends」を視聴できるのが楽しみだ。