8月某日、私はとあるゲームタイトルのコンサートを聴きに行くために、ドイツで開催中のゲームイベント「gamescom2025」の演奏ホールへと訪れていた。
演目として選ばれたタイトルは『The Witcher 3: Wild Hunt(以下、ウィッチャー3)』。
『ウィッチャー3』とは、アンドレイ・サプコフスキ氏の描くファンタジー小説『ウィッチャー』の世界設定をもとに、CD PROJEKT RED(以下、CDPR)が手がけたオープンワールドRPGだ。今から約10年前の2015年に発売され、全世界で6000万本の売上を誇る大人気作となっている。
その過酷な世界でたくましく生きるキャラクターたちは、今もなお多くのユーザーから親しまれている。
「gamescom2025」の会場はケルンメッセ。日本の幕張メッセの約5倍の広さを誇ると言われており、「gamescom」の開催期間中には、約30万人以上もの来場者が訪れるという。
その一角ということもあってコンサートホールもすごい広さだが、続々とやってくる来場者によって瞬く間にスペースが埋まっていった。さすがは『ウィッチャー3』だ。
ということで、今回は現地レポートを通して、『ウィッチャー3』のコンサートがどのような空気感だったのか、みなさんにお届けしたいと思う。

取材・文/TsushimaHiro
編集/うきゅう
『ウィッチャー3』不朽の名オープニング曲の「シュィ──ゼ────」から始まり、会場爆熱に
「シュィ──ゼ────↑↑↑(イ”エ”ェェェェ)」
会場
\\ワ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”(地響き)//
序章では、『ウィッチャー3』のオープニングシーンでも使用された名曲「The Trail」が演奏された。やっぱり、『ウィッチャー3』といえばこれだよ。クエストをクリアした時も「アアアアア──ン」って鳴るけど、印象深い“音”っていったらやっぱりコレ。最初の演奏が終わったあと、会場は地響きが起きるほど沸き上がった。
この曲は、ポーランド作曲家であるMarcin Przybyłowicz氏が作曲を担当している。『ウィッチャー3』の楽曲は、シリーズを通して東ヨーロッパのスラヴ系民族の音楽がベースとなっており、冒頭で叫ばれる「słyszę(シュイーゼー)」はポーランド語で「聞いている」という意味があるようだ。
会場では、クソデカ画面3つに主人公のゲラルトとヴェセミルが行方不明となった魔術師イェネファーの足跡を辿るゲームのオープニングシーンが映し出される。
それにしても……記念すべき10周年に、ゲームの映像と共に生演奏を聴きながら想い出を振り返れるってこと?豪華すぎん?
この流れでオープニングが観れるってことは、やっぱりユーザーとしては印象深い“あのシーン”も上映されるってことなのでは?
やっぱりあった。
会場からは「クスクス」と笑い声が聞こえてくる。
プレイヤーであればこの後のオチがわかっているからだ。
「あ~、気持ちよさそうにお風呂に入ってるな〜。このあと、甲殻類にム●コを噛まれるんだよな」と。
その『ウィッチャー3』の共通体験をこれだけの規模のライブ会場で共有できるのは、後にも先にもこのコンサートだけかもしれない。
チャプターごとにストーリーを振り返れる
ちゃんと『ウィッチャー3』ユーザーのことを“わかってる”人たちが構成したであろう。つかみがバッチリなこのコンサートの進行にともない、会場の熱量はさらにヒートアップしていく。
オープニングが終わると、次のチャプターが流れる。
テーマは「家族」で、ゲーム内でいうところの「血まみれ男爵」の話を振り返る内容となっている。
チャプター4ではシリを操作できるダウンロードコンテンツ。チャプター5ではイェネファーとトリスの邂逅と、ゲラルトとの恋愛模様。チャプター6では、ゲラルトとシリの再会シーンが描かれる。チャプター7では「ケィア・モルヘンの戦い」で行われる決戦シーンを……と、ゲーム全体の流れを生演奏と共に振り返ることができた。
『ウィッチャー3』は、プレイヤーの選択により物語の結末やその過程が細かに変化するようにできている。おそらく、この会場にいる観客もそれぞれの想い出をしみじみと振り返っていたことだろう。10年経っても色あせないものが、そこにはあるんだ。
ちなみに、筆者はゲラルトを浮気者として振る舞わせてしまったので、最終決戦前にトリスとイェネファーに浮気がバレてベッドに手錠で固定されるルートを歩んでいたことを思い出した。
アンコールではサプライズ演奏も
チャプターは追加コンテンツの楽曲も含め9番目まで演奏された。会場の熱気は最高潮で、会場を埋め尽くした観客たちによる「アンコール!アンコール!アンコール!」という声が響き渡っていた。
その声に応えるように、彼らは最後にサプライズ演奏として最新作『ウィッチャー4』の映像と共に生演奏を披露してくれた。
それにしても、『ウィッチャー3』をプレイしてからもう10年も経ってしまったのか……。
実際にプレイしていた私としても、今なお色あせない部分が多く、ゲラルトとシリのかたい絆が描かれる物語は心に深く残っている。
その物語は、主人公がシリへと移り変わって次世代へと継承されていく。
ウィッチャーの物語は、これから先も続くのだろう。
熱狂する会場の余韻に浸りながら、なんだか感慨深くなってしまったのだった。
「歌はいいね。歌は心を潤してくれる」
かつて、夕焼けと水に沈んだ廃墟をバックに、白髪の少年がそう言い放った。
幼少期に聞いたその台詞が、今でも鮮明に思い出せる。
ただ、その意味を強く実感できたのは、つい最近の出来事だった。
2024年、私はtobyfox氏の手がけた心優しきRPG『UNDERTALE』のゲームコンサートである「UNDERTALE SYMPHONIC CONCERT 2024」へ訪れていた。
そこで体験できたのは、『ウィッチャー3』のコンサートと基本的な流れは同じ。
ゲームの映像とともに、生演奏で想い出を振り返れるというもの。
この体験を通じて、私はこう思った。
「本当にちゃんと人間が演奏してくれているんだな」と。言葉にすると当たり前だけど。
AIが数秒で作成した楽曲ではなく、人間が演奏している。
血の滲むような訓練の果てに本番に挑む人たちが、目の前で演奏を披露してくれている。
それを強く実感できた。特に『ウィッチャー3』のように収録された楽曲がふんだんに使われているタイトルのコンサートだと、より実感が伴う。
歌は良いし、コンサートも最高だ。リリンのうんだ文化の極みだよ。
みんなも行こう。コンサート。生で聴く価値がある。