東京から遥か西方に約8800キロ。「ニーベルングの指輪」に歌われた長久なるライン川のほとり、豊かな平原と農地の広がるドイツ西部に、ケルンという町はある。

そこへ、行ってきた。旅行か? 残念ながら仕事である。旅行ならばともかく、仕事のためにコメダ珈琲も100V電源もない国へ行くというのは、本来であれば気が進まない。余はおぐら餡のトーストを所望である。
古人に曰く、父母在せば、遠く遊ばず。遊ぶこと必ず方有りという。「両親が心配するほど遠くへ行くもんじゃないヨ」という、ありがたいお言葉である。その言に照らせば8800キロなど言語道断、孔子先生も激昂のあまり悶絶失神するであろう。
だが、そんな超遠い場所の仕事でも、楽しくなってしまうイベントというものもある。そう、gamescomだ。
gamescomに行ってきたぞー! ドコドコドコドコ(顔文字略)
ということで! ゲームメディアで仕事をしているなら一生に一度は行ってみたいイベントのひとつ、そんな夢のgamescomに行ってきました! 嬉しい!!!
世界最大規模のゲーム展示イベントであるgamescomでは、各国のゲームメーカーがこぞって新作タイトルの最新情報や試遊スペースなどを提供。今回も多数の話題作がブースに登場しました。
一方でgamescomは、ゲーム好きにとっては年に一度の盛大なお祭り。発奮した海外オタク勢による力の入りまくったコスプレや、狂気レベルに作り込まれたゲームの世界観の再現セット、センスの突き抜けまくったグッズの販売、謎のレトロゲームの展示……等々、ヘンテコなモノも盛りだくさんです。
さて、そんなわけで今回はgamescom2025に関するレポートです。海外のイベントなので、それなりにゲーム好きな人でも意外と知らないという人も多いかもしれませんが、マジですごいお祭りなんすよ。
個別の記事については今日までにもいくつか出しているので、最新情報に関心のある方はぜひそちらもご参照あれ。
会場面積は幕張メッセの約5倍。端から端まで“歩くだけ”で30分弱。とにかくデカい
日本から14時間の空の旅、日本でいう新幹線にあたるドイツ高速鉄道ICE、ケルン市内の地下鉄移動などなど、ほぼほぼ世界を4分の1周して……
やってきたぜ、gamescom2025!
もしも読者が電ファミヘビーユーザーであれば「年に何回か狂ったようにポスト連投するタイミングがあるな?」とお気づきかもしれないが、そのひとつがこのgamescomだ。
より正確には、gamescom開催前夜に行われるオープニングナイトライブのタイミングがそれで、多くのゲーム会社がここで最新タイトルの情報などを発表する。今年も『黒神話』シリーズの新作『黒神話:鍾馗』や、『SEKIRO』アニメ化などが発表されたほか、最新映像などが公表されたタイトルも多数あった。
gamescomは毎年ドイツのケルンで開催されている世界最大規模のゲームイベントのひとつで、日本の東京ゲームショウ(TGS)や、かつてアメリカのロサンゼルスで行われていたE3(Electronic Entertainment Expo)とあわせ、世界三大ゲームショーと呼ばれていたこともある。
会場となるケルンメッセは11の展示会場を持ち、屋内面積は284,000(㎡)。加えて、屋外エリアも100,000(㎡)を有している。東京ゲームショウが開かれる幕張メッセの展示面積が75,000(㎡)なので、単純計算で屋内展示会場だけでも約4倍ほどの広さである。
ちなみに会場であるケルン市は世界最大級のキリスト教聖堂であるケルン大聖堂を有する観光都市でもあり、その威容はまさしく圧巻。今回の取材では最終日にちょこっとだけ市内を回らせてもらいましたが、めちゃくちゃ楽しかったです。
閑話休題。このケルンメッセ会場、とにかくめちゃくちゃ広い。どのくらい広いのかというと、ただ会場を端から端まで歩いて移動するだけで30分弱くらいかかる。ブースを覗いて回るとか、各展示会場をひとつずつ巡るとかではなく、単に“移動するだけで”だ。
ケルンメッセの会場は、北東から南西を大きな通路が貫くようになっており、そこを通ることでどの展示会場にもスムーズに向かうことができる。展示会場のデカさだけあり、人もブースもとにかく多い。
先輩編集者から「死ぬほどデカいよ」と聞いてはいたのだが、話に聞くのと実際目にするとでは全然違う。グーグルマップで見ればわかるのだが、敷地の中に街の一ブロックがすっぽり入ってしまう大きさなのだ。
本稿を書きながら「なんか皇居みたいなスケール感だな……」と思って気になり調べてみたところ、皇居は約115万㎡(宮内庁より)だったので、屋外面積まで含めても皇居の方が3倍くらい広かったです。皇居つよい。

ケルンメッセの会場がバカ広いというのは揺るがないが、そうは言っても端から端まで直線距離で1キロもない。本来なら片道30分弱もかかる距離ではないのだが、gamescomの最中はそうではない。
なにせとにかく人が多い。展示会場自体は広いので、中に入ると比較的余裕もあるのだが、通路はまるでディズニーランドだ。そしてそんな混雑を緩和するためか、通路上では場所によって交通規制が布かれており、端から端まで移動するためには大きく回り道をしたりする必要もあるのだ。
たのしいもの、たくさん。へんなもの、たくさん。
かつて世界3大ゲームショーと讃えられたイベントだけあり、会場はまさにお祭り。世界中のさまざまなゲーム会社が自慢の新作タイトルを引っ提げてアピール合戦を繰り広げている。




人気ブースでは試遊まで2時間待ち、なんていうところも。弊誌でも記事を掲載している『カービィのエアライダー』や『ホロウナイト: シルクソング』などでも長蛇の列ができていた。
とは言え企業側もただ手をこまねいているわけではなく、例えば任天堂ブースなどではスマートフォンで予約の整理券を取得すること列を形成せずに済むようにしたり、予約の開始時間を細かく分けて午後からの来場者などにも遊んでもらう枠を設けるなど、多くの人に楽しんでもらうための工夫もあったようだ。
その他にも、なぜかボルダリングできるゾーンがあったり、

等身大のドでか農業マシーンが展示してあったり

知る人ぞ知るレトロゲームハードで、(よりにもよって)任天堂のファミリーコンピューターと同年同月に発売してしまったという伝説を持つ「光速船」(Vectrex)の復活プロジェクトが展示されていたり。とにかく面白いもの、変なものも盛りだくさんだ。

個人的に「楽しそ~~」とかなりワクワクしたのが、EVA(Esports Virtual Arenas)と呼ばれる、実空間のプレイスペースとVRゴーグルとを組み合わせた、超体感型の“1人称”シューティングゲームのブース。
はたから見ているとゴーグルをつけた人たちがなにやらウロウロしているだけで、なんとなくアホっぽい感じなのだが、それぞれのプレイヤーの視点はまさにゲーム空間の中に入り込んでおり、かなり没入感の高いシューティングゲームが楽しめるようなのだ。
また会場ではゲーム関連のブースだけではなく、人気のドラマシリーズなどゲーム以外のエンタメ作品に関したブースも展開されていた。


コスプレなどのコーナーもまとめられており、ゲーム内を再現した非常にハイクオリティなセットなどが展示されていたところもある。
特に気に入ったのが『The Elder Scrolls』シリーズに登場する「タムリエル」世界が描かれた地図。宿屋の一角といった雰囲気で、テーブルから水入れ、ロウソク立てに至るまで、雰囲気抜群。窃盗が多発するほどの人気で知られる「スイートロール」もちゃんとある。
ちなみに会場にはさまざまなコスに身を包んだレイヤーの方たちも多数。そちらについては別記事でまとめているので、興味があればぜひご一読あれ。
ちなみにgamescomは屋内だけでなく、屋外でもブースが出展されていたり、休憩スペースが用意されていたりする。というのも、会場があるケルンの緯度は北緯50.56度。日本最北端である稚内市が45.41度であることを考えると、実はここ、日本の北の果てよりもさらに北なのだ。
つまり、ここも日本と同じく真夏であるにもかかわらず、外気がものすごく気持ちいい。さすがに直射日光を浴びると熱さを感じるが、木陰の下なんかは本当に気持ちがいい。いやヨーロッパの人、こんな過ごしやすい夏を送ってるのに、「地球温暖化対策!」「SDGs!」とかちゃんと言えるのすごいな(?)。
ちなみに緯度が高い=夏の日照時間が長いということでもあり、ケルンの街は夜9時ごろまで外がほの白く明るい。ふだん東京周辺で生活している人間からすると時間感覚が乱れて困るのだが、現地の人たちはレストランのテラス席で優雅に夕食を食べてたりするので、うらやましさがハンパなかった。

振り返ると基本的に良かった思い出ばかりが出てくるドイツだが、ケルンメッセ会場のトイレの便座がやたら高かった【※】ことだけは微妙にイラついたポイントだ。短足アジア人には踏ん張る権利もないってかァ……?
※さすがにトイレ内でカメラを構える変な人になる勇気がなかったので写真はありません。気になるキミはぜひドイツのトイレに入ってみよう!
ここはドイツ……1ユーロが170円を超える修羅の国……
はっきり言ってgamescomは楽しい。ゲームがいっぱいなので楽しいに決まっている。
だがどんなに楽しくても、時が過ぎればお腹がすく。お腹がすくとかなしい気持ちになる。この悲しみを癒すには、必要だ……食べ物が……。
そんな時に目に飛び込んでくる「Noodles Soup」の文字。つまりラーメンだ。故郷から9000キロ離れたドイツの地でラーメンが食べれるなんて!うれしい!
一杯23.5ユーロ(約4000円)……!?
嘘、だろ……。ラーメンだよな……?
そう、忘れるべきではなかった。ここは1ユーロ172円(9月2日執筆時点)という修羅の通貨を使用する国であるということ。信義と礼節、和をもって貴しとなす極東のよわよわ通貨である円の国で生きる人間にとっては、あまりに厳しい国なのだ。

参考までに、会場でのミネラルウォーター(500mlペットボトル)の価格は3ユーロ(約500円)。ビールでもはいってるんか?? というか日本ならプレモルでも2本買えるが???
……というのはさすがにイベント会場という立地による“夢の国価格”で、会場外のスーパーでは1ユーロ以下で買えたのだが、基本的にこの国、外食というものが高い。

だがそれ以上に怖いのが、海外旅行中の金銭感覚というやつである。よほど旅行慣れしている人間でなければ、海外の通貨で書かれたモノの値段なんてよくわからない。おまけにクレカばっかり使っていると、金銭感覚のマヒに拍車がかかる。だっておいしいんだもん……!
今回のgamescomの間、お昼にはほとんど毎日のように屋台のホットドッグを食べていた。ソースやピクルス、ザワークラウトにオニオンチップまでトッピング自由な上、お値段もだいたい6~7ユーロ程度と(比較的)リーズナブル。一生食える。

財布のひもが緩んで困るのは食事だけではない。会場内には物販系のコーナーもあり、面白そうなものがいたるところに並んでいるのだ。



ドイツで開催されているイベントだけあり、日本のイベントではなかなかお目にかからないような作品のグッズなども多く、正直こちらもめちゃくちゃ面白かった。これで1ユーロ100円くらいだったら言うことなしだったのだが……。来月のカード明細を見たくなさすぎる。
そしてもちろん、旅というのは行きて帰りしものである。14時間のフライトを経てドイツへやってきた筆者は、また半日かけて飛行機で日本まで帰らなければならない。
帰ろう、あの暑い東京へ。そしておぐら餡のトーストを食べよう。
以上、おもしろいものやへんなものがたくさんある、世界最大級のゲームイベント・gamescomの体験記をお伝えした。日本から非常に遠いドイツでの開催ということもあり、気軽に遊びに行くのは難しいかもしれないが、現地ならではの貴重な体験がたくさんできるのは間違いありない。
2026年も8月下旬にドイツ・ケルンにて、「gamescom 2026」の開催が決定しているため、もし機会があれば、ぜひ足を運んでみてほしい。