「プロデューサーとして責任をもって、登場するキャラクターの精神がちゃんと壊れているかを全力でチェックしながら開発に取り組んできた」
そのインタビューは、耳を疑うひと言から始まった。
“キャラクターの精神がちゃんと壊れているかを全力でチェック”するとはいったい……? そして、そのチェックにより生み出されるゲームとはどのような内容なのか……? そんな疑問が頭をよぎる。
そのゲームの名は『カオスゼロナイトメア』。仲間になるキャラクター全員が“精神崩壊”する(しかも、専用グラフィック、ボイスあり)ゲームだ。登場キャラクターは22人【※】。つまり、22人の精神崩壊が描かれることになる。
※先行プレイ環境で確認できた人数。正式リリース時とは異なる場合があります。


そして、このアイデア(精神崩壊システム)を思いついたのが、今回お話をうかがう本作の開発プロデューサーを務めるキム・ヒョンソク氏である。
正直なところ、ゲーム内容から「キャラクターをひどい目にあわせることに並々ならぬこだわりがある方なんだろうな……」というのが、ヒョンソク氏に抱いていた印象だった。
しかし、実際には違った。いや、違うと言い切れない部分はある(後述)のだが、開発プロデューサーとしての戦略的な視点が大きかったと、ヒョンソク氏は語る。

聞くに、もともとはストーリーをそこまで重視しない傾向にあった韓国発ゲームであるが、「中国のmiHoYoによるビジネス的な成功事例」や「日本の文化が好きなクリエイターの増加」を起因として、「ストーリー・キャラクター・世界観」といった要素に注力する会社が増えている、と。
それにより、韓国内において「サブカルチャーゲーム」と呼ばれる、美少女キャラやストーリーを重視する作品開発が増加。2025年だけでも20タイトル以上のゲームがリリースされている……というのが、現在の韓国モバイルゲーム市場のトレンドだという。
そんな状況で、プロジェクト(後の『カオスゼロナイトメア』)頓挫の危機にあったチームに、立て直しを図るためにヒョンソク氏が合流。“他の作品との差別化となるポイント”を盛り込みたい意図から、精神崩壊システムの実装を提案したというのだ。
つまり、精神崩壊システムのアイデアは、ライバルが非常に多いなかで、ユーザーに興味を持ってもらうための「『カオスゼロナイトメア』ならではの強み」を見出すためのアクションだったのである。
とはいえ、ヒョンソク氏の話を聞いていると、市場を俯瞰して判断を下すプロデューサーとしてだけでなく、純粋に作品を楽しむオタク(という表現が現代において適切か難しいが)の顔が見え隠れする。
反対する開発メンバーへの説得したときのことを思い出して、「当時の私は“崩壊”システムを入れたくて、理性的な判断はできていなかったかも」「みんなを説得する必要があったから、後付けで考えた」と、胸の内を明かしたり。
子どものころに『新世紀エヴァンゲリオン』のアスカに心を奪われた過去があったり、『Fate』シリーズを嗜んでいたり、最近は『呪術廻戦』や『チェンソーマン』にハマっていたり。
話せば話すほど、キャラクターをひどい目にあわせることに並々ならぬこだわりを隠し持っていても不思議ではない人物のように思えてしまった。
……さて、本作は10月22日にリリースを控えており、どんなゲームなのか気になっている読者も多いだろう。今回の取材では、精神崩壊システムをはじめ、ゲームの根幹となるローグライト要素や対人要素を排除した理由など、『カオスゼロナイトメア』がどんな想いで作られたゲームなのかをお聞きしてきたので、楽しんでいただければ幸いだ。
「(ヒョンソク氏自身が)取締役だからコストを度外視できた」
という彼の言葉からわかるように、『カオスゼロナイトメア』は、ヒョンソク氏の持ちうるすべての権限を行使して作られた作品となっている。その開発の裏側に迫っていこう。
取材・編集/竹中プレジデント
※この記事は『カオスゼロナイトメア』の魅力をもっと知ってもらいたいスマイルゲートさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
※ゲーム画面は開発中のものになります。
仲間キャラクター全員の精神を壊そうと思ったのはなぜなのか?
──『カオスゼロナイトメア』では、仲間(プレイアブル)キャラクター全員に“精神崩壊”状態の専用グラフィックやボイスが用意されているようですが、どのキャラもいい表情をしていますね……。
キム・ヒョンソク氏(以下、ヒョンソク氏):
ありがとうございます。おっしゃる通り、“精神崩壊”状態は本作の特徴のひとつで、仲間になるすべてのキャラクターに“精神崩壊”専用のグラフィックとボイスを搭載しています。
私自身、プロデューサーとして責任をもって、登場するキャラクターの精神がちゃんと壊れているかを全力でチェックしながら開発に取り組んできたので、ご注目いただけるのはとてもうれしいです。
ただ……このアイデアを提案した当初、開発チーム全員からかなり反対されてしまったんですよ。
──えっそうなんですか!?
ヒョンソク氏:
ええ。本作はモバイルゲームですから、もっと一般の方に受け入れられる作品のほうがいいのではないか、という意見でした。
──ああ、なるほど。
ヒョンソク氏:
私としては逆の考えでした。『カオスゼロナイトメア』の原型となった当時のゲームデザインは、私から見て「いまいち物足りないな」と思うものでした。言ってしまうと目立った長所がなかったんです。
私はこのプロジェクトに途中から参加したのですが、そのような内容ですから、プロジェクトじたいも頓挫しかけている状態でした。
そこから立て直していくことになるわけですが……その際に、なにかひとつでもいいから「他の作品との差別化となるポイント」を盛り込みたいと思ったんです。
──それが精神崩壊だったと。
ヒョンソク氏:
そうですね。当時、日本で流行っているコンテンツを見ていると、登場人物の背景や状況によって、受け手に激しい感情を抱かせる作品がヒットしている傾向にあると感じましたし、私自身もおもしろいと思っていました。
──当時、反対していた開発メンバーはどのように説得されていったんでしょうか。
ヒョンソク氏:
他ゲームとの差別化の重要性やヒット作の傾向など、戦略的な視点でお話をしていきました。
ただ……正直なところ、当時の私は“崩壊”システムを入れたくて、理性的な判断はできていなかったかもしれません。みんなを説得する必要があったから、後付けで考えた理由でしかなかった気がします。
もちろん、戦略的な視点の話に関しては事実を述べたつもりです。でも、それらはすべて、私から開発チームのみんなへの弁明に過ぎなかったのかもしれません。
──つまり、ヒョンソクさんはどうしてもキャラクターたちの精神を壊したかったということですか?
ヒョンソク氏:
いや、まさかそんな……(笑)。あくまでアイデアとして気に入っていたんだと思います。
まずは「どう(精神を)崩壊させていくか」からキャラクターのバックボーンを検討していく
──すべての仲間キャラに“精神崩壊”状態の専用グラフィックやボイスを実装するとなると、純粋にその分、制作コストは跳ね上がりますよね? どのような判断があって、差分の制作にGOサインが出たのでしょう?
ヒョンソク氏:
答えはひとつです。私が『カオスゼロナイトメア』のプロデューサーであると同時に、会社の取締役だから、コストを度外視して進められたんです(笑)。
──まさかの答えが(笑)。ちなみに、もし部下からこのようなアイデアが出てきたら、取締役としてはどう判断されますか?
ヒョンソク氏:
難しいですね……すごくいい案だったら考えるのですが……。
──専用グラフィックとボイスをキャラ分用意するわけですもんね……。ちょっと気になったのですが、”精神崩壊”状態の差分はグラフィックとボイス、どちらを先に作っているんでしょうか。
ヒョンソク氏:
基本的にグラフィックが先です。あらかじめゲーム内で再生される演出であったりグラフィックを作って、演じられる方にお送りしています。それを見ながらイメージをかためていただき、収録に臨んでもらう流れです。
収録現場でも、細かくディレクションをしつつ、さまざまなバージョンを収録しています。本作の開発のなかでもとくに注力している要素のひとつですね。
──可能な範囲で、具体的な制作フローを教えていただきたいです。
ヒョンソク氏:
キャラクターによって異なる部分もありますが、最初にキャラクターのバックボーンにあわせて「どう(精神を)崩壊させていくか」を検討していきます。そのうえで、崩壊後のイメージグラフィックもいくつか試案を用意します。
基本的にはその後にボイス収録に進んでいくのですが、イメージグラフィックですごく魅力的なものがあれば、グラフィックに合わせてストーリーを変更することもあります。
──ヒョンソクさんが個人的に気に入っている「精神崩壊状態がイチオシ」のキャラクターはいますか?
ヒョンソク氏:
難しいですね……どのキャラクターも本当に大好きです。そのうえであえて誰か名前を挙げるとするなら、「レノア」と「ベリル」のふたりですね。
──ほほう。その子たちはどんな具合に精神崩壊するんでしょう?
ヒョンソク氏:
レノアは精神崩壊状態になると、怒りに身を任せて暴走してしまうんです。セリフでも「殺す!殺す!!」と叫ぶところがとてもいいですね。
ベリルは対照的に「呆然」とした崩壊のしかたになるんですけど、演技も含めてそういうところが気に入っていますね。


いま、韓国のモバイルゲーム市場では美少女ゲームがメインストリームになろうとしている?
──ここからは、現在の韓国ゲーム市場におけるトレンドについてお聞きしていきたいです。
ヒョンソク氏:
韓国のゲーム市場のトレンドといっても、グローバルと大きな違いはないと思います。
韓国ならではの特徴でいうと、『リネージュ』を始めとしたMMORPGは今も昔も流行っていて、ジャンルとして強い人気を見せています。それに、韓国のゲーマーはMOBA、FPSなどの対人戦を好む人も多いですね。
また、いわゆる「ハイパーカジュアル」と呼ばれる、シンプルな操作と短いプレイ時間で遊べるジャンルが人気で、そういう意味では日本市場とは少し異なるかもしれません。
──最近の日本市場で人気を博しているモバイルゲームを見ると、美少女キャラクターをメインに据えて、物語性や世界観を重視した作品が目立っているようにも感じます。『カオスゼロナイトメア』もまさにそうですよね。
ヒョンソク氏:
そのイメージは間違っていないと思います。
少し前までは、韓国発ゲームはストーリーを重視していない傾向にありました。しかし、最近になってそれらの要素の重要性に開発者たちが気付いて、ストーリーやキャラクター、世界観といった要素に注力する会社が増えているんです。
韓国内において、「サブカルチャーゲーム」と呼ばれる、美少女キャラやストーリー重視のゲームは2025年だけでも20タイトル以上がリリースされていますし、来年以降も多くのタイトルのリリースが控えています。
──その動きにはなにかきっかけがあったのでしょうか?
ヒョンソク氏:
近年ですと、中国のmiHoYoさんの影響が大きいでしょうね。
miHoYoさんの作品の成功事例から、キャラクター、ストーリー、世界観を重視した作品を開発する流れが活発になり、参入する会社が韓国にも増えているのだと思います。
──ああ……。miHoYoさんといえば、『崩壊3rd』、『原神』、『崩壊:スターレイル』、『ゼンレスゾーンゼロ』と、ヒット作を続々と世に送り出していますからね。
ヒョンソク氏:
1990年代の韓国や中国では、ひとつのコンテンツを深掘りしていく“オタク気質”な消費の文化があったんです。
それが2000年代に入ると、どちらかというと表面にあるビジュアルを重視する傾向になり、2010年代に入ると再びストーリーや世界観を深掘りする人たちが増えていく。そういう流れが『原神』のような、キャラクターのディティールに力を入れたゲームが登場するきっかけになったのだと思います。
──ほうほう……。
ヒョンソク氏:
加えて、あくまで私の感覚にはなりますが、日本の美少女ゲームの影響もあったと思います。私自身も『Fate』シリーズは楽しませていただきましたし、いわゆる「萌え」という概念にも興味を持っていました。
韓国において、キャラクターやストーリー、世界観を重視したゲームは、長らく主流のジャンルではありませんでしたが、日本の文化が好きなクリエイターが多くなるにつれ、それらの要素をもつゲームを開発する会社も増えていきました。
近年ですと、先ほどのmiHoYoさんの影響もあって、モバイルゲームとしてはメインストリームになろうとしているところです。
なぜ、美少女キャラがひどい目にあうシチュエーションに惹かれてしまうのか
──先ほど日本の作品の話題が出ましたが、ヒョンソクさんは普段から日本の作品に触れる機会が多いのでしょうか。
ヒョンソク氏:
そこまで幅広く触れられているわけではないのですが、直近であれば『呪術廻戦』や『チェンソーマン』にハマっています。単行本も紙で全部揃えていますね。
──ジャンプ作品がお好きなんですね。
ヒョンソク氏:
はい。今は美少女コンテンツを作っていますが、少年漫画も好きなんです。
──ちなみに、ヒョンソクさんがこれまで出会ってきたなかで一番好きなキャラクターって誰なんですか?
ヒョンソク氏:
『新世紀エヴァンゲリオン』の「惣流・アスカ・ラングレー」です。私がまだ子どものころだったのですが、初めて彼女を見たときは衝撃を受けて、心を奪われました。
鶴巻監督描き下ろしのアスカが表紙‼️
— 株式会社カラー (@khara_inc) May 12, 2020
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──アスカのどこにそこまで惹かれたのでしょうか。
ヒョンソク氏:
「ギャップ萌え」ですね。主人公のシンジ君にツンツンとひどく接するときと、照れるときのギャップが好きでした。
彼女のシンジ君に対する好感度は高いんですけど、純粋な「好き」とは違うように見えていたんです。だから見ている側として安心して好きになれたんです。
──あれ、アスカって作中で心身ともにひどい目にあいがちでしたよね? もしかして無意識のうちにそういうシチュエーションがお好きだったのでは……?
ヒョンソク氏:
なるほど……これまでそういう考えはなかったのですが、心の奥底にある何かが引き出された気がします(笑)。
──『カオスゼロナイトメア』もそうですが、美少女キャラクターがひどい目にあう展開の人気作は少なくないですし、その状況に心を激しく動かされている方もよく見かける気がします。ヒョンソクさんとしては、この感情の変化についてはどう分析されていますか?
ヒョンソク氏:
思っていることをそのまま言ったらインタビューに載せられないかもしれないですが……(笑)。
倫理的な問題や、一線を越えてしまうのではないかという心配があって、多くの人が深く考えないようにしているのは、あると思います。
そのうえで私が考えるのは……たとえば、好きなキャラクターが過酷な状況に陥って苦しい思いをしている、危ない目にあっているとするじゃないですか。そういう場面だからこそ、自分が助けてあげたいと思うんですね。
──ひどい目にあっているのを「助けたい」んですか?
ヒョンソク氏:
それもちょっと語弊がありまして……。「助ける」といっても良い感情ではないというか、少し歪んだ感情なんです。
──歪んだ感情、というのは?
ヒョンソク氏:
そうですね……。「仄暗い庇護欲」とでもいうのでしょうか。
美少女キャラがいたとしても、実際には(作品内だとしても)自分の手は届かない感覚があるんです。
でも、彼女たちが精神的に壊れている状況であれば、自分にもチャンスがあるのではないか……そんなことを本能的に感じるんです。
──『カオスゼロナイトメア』では「仄暗い庇護欲」のような感情を、グラフィックやボイスなども含めてどっぷり味わえるということですね。
ヒョンソク氏:
はい。最大限楽しんでいただけるようにがんばって作っています。