対人要素を排除した理由は、ユーザーに「好きなキャラなのに性能が理由で使えない」体験をしてほしくないから
──本作には対人要素がないわけですが、モバイルゲームにおいて「対人戦で勝ちたい」という動機はマネタイズにおいて柱となる要素だと思います。しかも韓国では対人ゲームが今もなお人気です。なぜ対人要素を排除したのか……理由についておうかがいできますか?
ヒョンソク氏:
『カオスゼロナイトメア』の根本は、キャラクターを収集するゲームになります。その場合、ユーザーさんがガチャを引くモチベーションとなるのは「そのキャラが好きだから」がメインになると思います。
もし、対人戦がゲーム内にあると、「好きなキャラなのに性能が理由で使えない」、あるいは「好きなキャラではないけどそのキャラを手に入れないと対人戦に勝てない」といった体験が生まれてしまいますよね。
あくまで『カオスゼロナイトメア』の話になりますが、そのような体験をプレイヤーにさせるのはよくないと考えたんです。
──では、ユーザーがガチャを引く動機はどう設計しているのでしょう。
ヒョンソク氏:
『カオスゼロナイトメア』では、ひとりのキャラクターに対するバリュー(価値)を高くできるように意識しています。
本作では、プレイヤーのみなさんがローグライト要素をプレイした結果、どのようにカードを組み合わせてデッキを構築したかが「セーブデータ」という形で残ります。
その「セーブデータ」の付け替えによって、ダメージディーラーやサポーターなど、ひとりのキャラがさまざまな役割を担うことができるんです。
ひとりのキャラクターを獲得できれば、そのキャラクターを軸にデッキビルドや、他キャラクターとの組み合わせなど、膨大な遊びかたができるというわけです。私はよく「レゴ・ブロックを自分で組み立てるような楽しさ」と表現しています。
──「レゴ・ブロックを自分で組み立てるような楽しさ」というのはいったい?
ヒョンソク氏:
たとえば、「恐竜」のレゴ・ブロックを1セットを買ったとします。設計図通りに恐竜を組み立てることもできますが、発想しだいではそのブロックで他の生き物を作ることもできますよね。
レゴ・ブロックにおけるワンセットが、『カオスゼロナイトメア』におけるひとりのキャラクターだと思っていただければ。
──キャラクターはあくまで素体で、そこから自由にカスタマイズしていける。本作ではその自由度が幅広いという認識でしょうか。
ヒョンソク氏:
おっしゃる通りです。それに、ご存じのようにローグライトはランダム性がありますから、理想のデッキが記録された「セーブデータ」を作るまでには、試行錯誤を含めたさまざまな経験ができるようになっています。
ひとりのキャラを極めようとした場合、50時間以上は遊んでもらえると想定しています。
ローグライトというジャンルだからこそ提供できるキャラクターの価値や、体験の幅広さに、プレイヤーのみなさんはきっと価値を感じてくださると思っていますし、それが結果としてマネタイズにつながると考えています。
──おお……なるほど。
ヒョンソク氏:
ひと昔前であれば、キャラクターの性能やビジュアルを動機として、ガチャを回すのが主流だったとは思うのですが、最近はキャラクターを深掘りして推していく文化が根付いています。
たとえば『Fate/Grand Order』は、IPとしての強さに加えて、キャラクター、ストーリー、世界観を楽しむユーザーが多くて、今でも人気の高いコンテンツですよね。
キャラクターのバリューでマネタイズできると考えられるようになったのも、それら文化の変化が影響しているのだと思います。
『カオスゼロナイトメア』はローグライト要素を前面に押し出したタイトル
──『カオスゼロナイトメア』では、“精神崩壊”が演出としてだけではなく、ローグライトにおけるゲームシステム【※】にも関わっているというのは印象的でした。
※くり返し大ダメージをくらうなどして一定以上の被害を受けると、そのキャラは“精神崩壊”状態になり、まともに行動できなくなってしまう。
ヒョンソク氏:
世界観とゲームシステムが噛み合っていないと、ゲームとしての完成度が高くならないと考えたんです。
開発当初から『カオスゼロナイトメア』は可能な限り高いクオリティを目指していましたから、そこはしっかりと統一することにしたんです。
──ローグライトというジャンルは、韓国ではどのような立ち位置なのでしょう。
ヒョンソク氏:
日本同様に韓国でも人気のあるジャンルですね。インディーゲーム市場ではもちろん、開発規模の大きいゲームでもローグライト要素を取り入れていることが多いです。
ただ、それらもあくまで「ランダム性」という要素を取り入れている形で、『カオスゼロナイトメア』のようにローグライト要素を前面に押し出したモバイル向けのタイトルというのは、まだまだ珍しいのかなと思います。
ただ、ローグライトは、そのゲームの性質上、どうしてもプレイするうえでハードルが高いゲームになってしまいます。
とくに『カオスゼロナイトメア』はモバイル向けのタイトルです。ですから、ゲームとしてのおもしろさは維持しつつ、いかにプレイするうえでのハードルを下げるか……については常に考えて、工夫してきました。
──その「ハードルを下げる」というのは、具体的にどうやって実現していったんですか?
ヒョンソク氏:
本作は「デッキ構築ローグライト」と呼ばれているジャンルですので、カードのテキストを読んで、理解してもらうのが、ゲームを楽しむうえでの第一歩になります。
そのためにも、読みやすい文章量を意識するのはもちろん、意味が通じるようにローカライズにも注力しました。また、テキスト含めた視認性というのも力を入れたつもりです。
──日本でも特別先行テスト(9月18日~9月21日)を実施していましたが、参加したユーザーからの反応はどうでしたか?
ヒョンソク氏:
ありがたいことに多くの方にプレイしていただき、リテンション率(継続プレイ率)も想定以上の数値でした。アンケートにも1万人以上の方に回答いただきまして、結果もかなり好感触でした。
日本は「カードゲーム」というジャンルにおいて大きな存在感を示す市場です。カードでデッキを構築する『カオスゼロナイトメア』のゲーム体験の部分でも、親和性があったのではないかと思っています。
もちろん、いい反応もあれば、逆に改善が必要な部分も浮き彫りになったテストでした。いただいたご意見はもちろん、テスト期間中のプレイデータに関しても分析を行い、改良できる部分については改良していきたいと考えています。
──想定より「反応がよかった点」、「改善しないといけないなと感じた点」について教えていただけないでしょうか。
ヒョンソク氏:
ゲーム体験としてのおもしろさと、難度の調整(ハードルの高さ)に関しては、想定していた以上にいい反応をいただけました。
逆に、ストーリーやローカライズについて、ツールチップ【※】が正常に出ないなどの不具合に関しては、リリースに向けてブラッシュアップすべく、開発メンバー全員で力を入れています。
※ツールチップ……UI(ユーザーインターフェース)の一種。その項目にカーソルを合わせることで説明や補足などが表示される小さなウィンドウのこと。
本気でやりこめば、ひとりのキャラで50時間以上は楽しめる。ぜひ遊んでほしい
──10月22日のリリース日まであともう少しです。お忙しい日々が続いているとは思いますが、今の心境をうかがえますか?
ヒョンソク氏:
そうですね……忙しすぎて、感慨にふける余裕もないというのが正直なところです。
今はローンチまでに直さないといけない部分や残りのタスクなど、確認事項がすごく多いんです。そこに時間をとられているので、なかなか気が休まりません。
──東京ゲームショウ【※】にも出展されていますが、会場全体の雰囲気やブースの様子はご覧になりましたか?
※取材は東京ゲームショウ開催期間中、幕張メッセ近辺のスペースにて行われた。
ヒョンソク氏:
直接見てまわりたい気持ちはあるのですが、リリースに向けて開発チームとのやりとりも並行して行っていたり、このようにインタビューでお話させていただいたりしているので、なかなか時間をとれていないんです。開催期間中になんとか時間をとって回ってみたいと思っています。
──他のメディアさんのインタビューで、なにか印象に残る質問はありましたか?
ヒョンソク氏:
記憶に残っているのはアメリカのメディアのインタビューですね。ローグライトに対する造詣が深く、開発者並みの質問がきて驚きました。
ほかにも、各国のメディアさんによって、質問の内容も異なり、想像もしない質問が飛び込んできたりして、楽しい時間でした。
このインタビューも、まさかここまで精神崩壊について聞かれるとは思っていませんでしたから(笑)。
──変な質問ばかりしてしまってすみません……(笑)。さて、そろそろ取材終了のお時間が迫ってきました。最後に、日本のユーザーに向けてひと言メッセージをいただけないでしょうか。
ヒョンソク氏:
わかりました。といってもなかなか言葉にするのは難しいですね……。
キャラクターたちの”精神崩壊”に関する演出面も見ていただければと思いますが、『カオスゼロナイトメア』は、ひとりのキャラクターで得られるプレイ体験が幅広いゲームになっています。
ランダム性も高く、プレイするたびに異なる体験ができる、本格的なローグライトゲームとして楽しめるように工夫して開発をしてきたので、そこに注目してほしいですね。
本気でやりこめば、ひとりのキャラで50時間以上は楽しめる。新しい体験ができるゲームだと自負しています。ぜひ遊んでいただければうれしいです。
日本のモバイルゲーム市場において、中韓発のタイトルが存在感を放つようになって久しい。そして、人気を博している作品の多くが「キャラクター・ストーリー・世界観」を重視している、というのはひとつの大きな傾向といって差し支えないだろう。
本作『カオスゼロナイトメア』も、韓国に拠点をおくSUPER CREATIVE社が開発を担当し、「キャラクター・ストーリー・世界観」の魅力を打ち出しているタイトルである。
ヒョンソク氏のお話によると、韓国内において2025年だけで20タイトル以上の「サブカルチャーゲーム」と呼ばれる、美少女キャラやストーリーを重視するゲームがリリースされ、そのようなジャンルが韓国のモバイルゲーム市場においてメインストリームになりつつあるというのだ。
そんな状況だからだろう。他作品との差別化を見出すために、本作『カオスゼロナイトメア』は、仲間キャラクター全員が精神崩壊するアイデアを取り入れた。
ストーリーの展開によって、登場キャラクターがひどい目にあうというのは、決して少なくない。むしろ、王道、鉄板の流れでもある。しかし、『カオスゼロナイトメア』ほどに、精神崩壊に焦点を当てているタイトルというのは珍しい印象がある。
本作のキャッチコピーは「全ての絶望(カオス)を、ゼロに」。つまり、標準状態では「絶望に溢れている」という見解もできる。実際にリリース後、登場キャラクターたちの精神をどう壊してくるのか、どのような絶望を見せてくれるのか。「仄暗い」感情の体験も含めて、楽しみである。