李さんって、絶対忙しいですよね?
──ちょっと雑談となってしまうのですが、李さんが最近ハマったゲームはなにかありますか?
李氏:
つい最近、『ユニコーンオーバーロード』【※】をようやくクリアしました。もうだいぶ前にリリースされたゲームなんですが、最近やっと時間ができて、クリアできました!
もともとヴァニラウェアさんが好きなメーカーなこともあり、プレイしていましたね。
※「ユニコーンオーバーロード」
ヴァニラウェアが開発を行った、シミュレーションRPG。リアルタイムストラテジーの要素も組み込まれており、システムやグラフィックの完成度が高く評価された。
──李さんから見て、面白かったポイントはありますか?
李氏:
『ユニコーンオーバーロード』で今回特に魅力的だと感じたのは、独自のキャラクター親密度システムが導入されていて、多くのキャラ同士がつながりを持ち、さらに全キャラと「契約の儀」ができるという点がとてもユニークで面白かったです(笑)。
それに加えて、戦闘システムもSRPGとして新鮮な体験を与えてくれましたし、プレイを通して開発チームのこだわりや丁寧な作り込みが随所に感じられました。
──『ユニコーンオーバーロード』はかなり骨太なSRPGだったと思うのですが、実際のところ李さんはゲームを遊ぶ時間はあったりされるのでしょうか? 『ゼンゼロ』ほど大きなタイトルのプロデューサーになると、すごくお忙しいはずですよね。
李氏:
まず、「忙しいです」と言わせてください(笑)。
ただ、いちクリエイターであり、ゲームを作っている人間としては、自分たちのゲーム以外も、しっかりインプットをする必要があると考えています。だから、どうにか週末や、仕事を終えた夜などに時間を見つけて、ゲームを遊ぶようにしています。
──そうなりますよね。なにか、その空き時間でゲーム以外のアニメなどもご覧になられたりしますか?
李氏:
もちろん、見ています!
個人的にもアニメを見るのが好きで、時間があったら見ていますね。最近見たのは、『ダンダダン』【※】の1クール目です。1クール目は続きが気になるところで終わったから、2クール目がすごく楽しみだったんですよね。
そして、ちょうど最近2クール目が始まったじゃないですか(笑)。
もうちょっと話数が溜まったら、一気に見ようと考えています。
※「ダンダダン」
「少年ジャンプ+」にて連載されている、漫画作品。作者は龍幸伸。オカルトや怪奇現象などの要素が扱われている。2023年より、テレビアニメが放送開始。
──ちなみに、李さんはアニメだと作画やアクションのいい作品がお好きなのでしょうか。それとも、『ダンダダン』のように、オカルトやSFなどのジャンルがお好きだったりするのでしょうか。
李氏:
いろんなジャンルのアニメが好きで、けっこう何でも観るほうです!
どちらかというと、物語の面白さや、アニメ全体のクオリティを重視して見ることが多いですね。それこそ『ダンダダン』で特に驚かされたのは、キャラクターデザインを含むアート全体の完成度の高さです。もちろん、ストーリーもとても気に入っています。
「直さない理由がない」から、調整する
──最後に、『ゼンゼロ』の運営方針についてもお聞きできればと思います。1年間運営されるなかで、メインストーリー中のTVモニターパートの撤廃や、必殺技の仕様変更など、かなり思いきった調整を何度も行っている印象があるんです。これはなにか、チームとしての方針などがあるのでしょうか?
李氏:
調整に関して、最初からチーム内で「はやく調整しよう」という方針などがあったわけではないんです。ただ、1年間運営をするなかで、チームには「『ゼンゼロ』には、まだよくない部分がある」という認識はありました。
そして、その「よくない部分を、よくしたい」ということを、開発チームの一番重要な理念として掲げています。そんなチーム全体の気持ちがあって、何度も調整を行っていました。
また、『ゼンゼロ』の開発チーム自体が、変化を求めているチームでもあるんです。運営型のタイトルだからといって、決まったものや、ベタなことをするのではなく、自分たちのゲームがもっとよくなってほしいし、今後のコンテンツでもユーザーにとって新鮮な体験を届けたい。
そのために、私たちは大きな方向転換や思い切った調整も行ってきました。これらはすべて、プレイヤーに常に新しい体験を提供し続けることで、ゲームそのものをより完璧なものへと近づけていきたい──そんな思いからの取り組みです。
──チームとして、そういう理念があるんですね。正直、ここまでのスピード感で調整を行っているゲームはあまりないと思っているんです。
李氏:
そこだけはもう、チームの愛です(笑)。
一同:
(笑)。

──その『ゼンゼロ』自体の臨機応変さは、なにか調整以外の部分でも行われているのでしょうか。実装キャラなども、フレキシブルに対応されていたり……?
李氏:
実装キャラクターは、どちらかというと「調整をするスペース」は用意してるんです。
ただ、実際にそのキャラをプレイアブルにするかどうかは、まず前提の条件として、「合理性」を確保しておく必要があります。いろいろな部署とディスカッションをして、すり合わせや調整を行っていきます。
たとえば、当初NPCとして登場していた「プルクラ」は、かなり長い過程と話し合いを経て、ようやくプレイアブルとして実装に至りました。
──「合理性」というのは、具体的にはどういったものなのでしょう?
李氏:
いろいろと理由はあるのですが、「そのキャラが、世界観やストーリーに合うかどうか」が重要です。たとえユーザーに人気のあるNPCだったとしても、そのキャラが世界観やストーリーに合わない場合もあったりします。そのため、キャラクターを実装する前に、チーム全体で集まって本当に実現可能かどうかを話し合います。
──調整でいうと、『ゼンゼロ』は雅やヒューゴなどで、キャラクターモデルの作り直しをしているのも珍しいスタイルだと思うんです。グラフィック改善を行うときに、チーム内ではどのような議論が行われているのでしょう?
李氏:
これはさきほど言ったことに近いのですが、キャラクターのモデルにおいても、改善できる余地があれば、それをギリギリまで粘って調整したいんです。
一度ゲーム内に登場していたとしても、そのキャラクターにとって一番いい状態ではない……つまり「直す余地」が残っているのであれば、ギリギリまで修正して、一番いい状態で出してあげたいんです。
やはり『ゼンゼロ』は、チームとして作りたいゲームでもあるのですが、ユーザーにとっては運営型の商品でもあります。だから、ユーザーから満足していないフィードバックがあれば、その原因を分析する。もし私たちにこれらの問題を解決し、調整する能力があれば、それを直さない理由がない。
もちろん不可抗力であったり、どうしても調整できない部分はあったりするのですが、可能な限りユーザーの期待に応えられるものを出したいと思っています。
──「直さない理由がない」って、すごい言葉ですね。それは全部のソーシャルゲームが頭を抱える言葉ですよ!
李氏:
それでも、「直さない理由がない」です!
──逆に、李さんのなかで、現状の『ゼンゼロ』の課題だと感じている部分があればお聞きしてみたいです。
李氏:
いまの課題として感じているのは、将来のアップデートをするなかで、さまざまな『ゼンゼロ』の遊び方を、どのように統一するかが課題だと考えています。「ゲームの一体感」と言いますか。
いまの『ゼンゼロ』には、メインストーリー、バトル、ミニゲーム、限定イベントなどの、さまざまな遊び方がありますよね。だから、プレイヤーが遊ぶ理由や目的も、「新キャラをゲットしたい」「バトルをしたい」といった感じで、バラバラだと思うんです。
そこで、現状のいろいろな遊び方を長期運営の中で一体化して、『ゼンゼロ』として、ひとつの融合した遊び方を作り、ゲーム全体の一体感と没入感を高めつつ、さまざまなプレイヤーがゲームの多様なコンテンツを受け入れられるようにすることが、現状の課題だと思っています。これはゲームデザイン上難しい問題でもあるのですが、同時にひとつのチャレンジでもあります。
また、長期運営のゲームとして、我々はより遠い未来に新しいプレイヤーが『ゼンゼロ』を体験し始めることを想定しています。初期バージョンのプレイ体験をさらに最適化し、今後のアップデートで改善や調整を行い、より完成度の高いゲームにしていく方法を模索しています。
さきほどもお話したように、『ゼンゼロ』のチームは常に変化を求めるチームであり、進化を続けています。私は、これからの継続的な運営の中で、より面白いゲームに成長していくことを願っています。
──李さんのおっしゃった通り、『ゼンゼロ』はなにか1本の軸があるというより、アクションやミニゲームなどの遊びがあちこちに置かれている印象があります。そこに、なにか主軸を用意したいということですよね。
李氏:
そうですね。
いわゆる「ひとつの主軸」があって、そこにあわせていろんな内容を調整して一体化したいと考えています。ただ、その主軸を具体的にどういったものにするかはまだ模索中で、もうちょっと成果を出してから決めたいですね。
ただ、やはり『ゼンゼロ』はアクションゲームなので、戦闘体験に関するシステムの革新、アップグレード、そして最適化も、私たちが継続的に取り組んでいることです。
いまのバトルをさらに面白くして、プレイヤーのみなさんがバトルの際に感じる爽快感や全体の体験をどんどん調整していくのは、リリース当初から変わらない方針ですね。
──最後に、1年間タイトルを運営して、開発チーム内での思い出深いエピソードがあればお聞かせください。
李氏:
この1年間の思い出はいろいろあるのですが、そのなかでも一番忘れられないのが、リリース当初の時期ですね。当時はユーザーのみなさまからいろいろとフィードバックをもらい、そこにはポジティブな意見もあれば、ネガティブな意見もありました。
そこで、チームとして、すごく反省をしました。
正直に言うと、その期間はとても落ち込んでいました。『ゼンレスゾーンゼロ』にはまだ多くの改善点があると感じていましたが、同時にその不足点をどう最適化し改善していくかを絶えず考えていました。
チームのメンバーひとりひとりが、その過程で辛く厳しい時間を過ごしながらも、長期間にわたって『ゼンレスゾーンゼロ』のアップデートと改善に携わってきました。しかしチームとして、最終的には乗り越えることができました。
私は、「ともに問題を乗り越えた」というこの経験こそが、私たちチームの成長につながったと信じています。
ですので、その期間は……私にとって忘れられない貴重な経験です。
──李さんが何度もおっしゃられていた「よくない部分を直す」というチームの理念は、そこから来ているものでもあるんですね。
李氏:
今回のインタビューを通してお伝えしたいのは、やはり私自身も、『ゼンゼロ』チームも、「よりよいものを追及したい」という信念を持っていることです。
だから、私たちは『ゼンゼロ』の各バージョンに対して大きなアップデートを実施できましたし、また、困難な時期を一緒に乗り越えた仲間たちにも感謝しています。それら全部含めて、この1年は自分にとって忘れられない経験になりました。
冒頭でも書いたことではあるけど、私は『ゼンレスゾーンゼロ』というタイトルが、ここまで「粘る」「直す」という地道な作業を重んじているのが、なんだか意外だった。
これは主観が混じってしまうかもしれないけど、開発チームにもすごい天才が何人も集まって、常にイケイケの状態で作り続けているものだと……そう思っていた。
しかし実際は、ユーザーの声を聞き、至らない部分があれば直し、ギリギリまでクオリティを上げ続ける地道な工程を、何よりも重んじているチームだった。
「直さない理由がない」。
この李さんの言葉が、何よりも重く感じる。そうして、『ゼンゼロ』は1年間走り続けてきた。実際ユーザーとしても、当初は上手くいっていなさそうなシステムもいくつかあったと思う。それでも、すぐに直し、「よくする」ことを繰り返してきた。
結果として、現在の『ゼンゼロ』がある。
正直、システムやキャラのモデルなどをここまでのスピード感で作り替えていくゲームは、いろんな意味で異様だと感じていたけど……なんだか、すごく納得しました。
そうやって「もっとよくするため」に走り続けた先に、『ゼンレスゾーンゼロ』がどこに至るのか……いちプレイヤーとしては、これからの未来が楽しみで仕方ない。