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「世界を救う」よりも、「俺が恋した、死体の女の子を生き返らせる!」──『バイオ』のふたりが作るピュアなゾンビの恋物語は、“今の若者”の願いと呼応していた。『ステューピッド・ネバー・ダイズ』プロデューサー・小林裕幸氏/ディレクター・佐々木栄一郎氏インタビュー【TGS2026】

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『バイオハザード』シリーズなどを手掛けた小林裕幸氏らが設立したゲーム開発スタジオGPTRACK50の新作アクションRPG『ステューピッド・ネバー・ダイズ』が描くのは、モンスター界で最弱──「雑魚キャラの代表格」でしかなかったゾンビが、たったひとりの女の子のために成り上がっていく物語だ。

主人公デイビィの願いは、死体の女の子・ジュリアを生き返らせること。ただ、それだけ。

手掛けるのは、『バイオハザード』シリーズ出身の小林氏と佐々木氏。大きな目標を掲げないこの主人公こそ「今の若者に刺さる」と考えたのはなぜか。“ピュアなゾンビ”の恋物語に込めた狙いを、語ってもらった。

『ステューピッド・ネバー・ダイ』小林裕幸氏・佐々木栄一郎氏インタビュー:物語のエンジンは、“個人的な欲望”_001

取材/Tsushimahiro
文/anymo




「バイオを作ったからゾンビ」ではない。予算取りのたたき台に残った、たったひとつの要素

──改めて、『バイオハザード』シリーズを手掛けてきたおふたりが、なぜ「死体に恋するゾンビ」のお話を作っているのかを伺えますか?

小林氏:
我々はふたりともゾンビゲームを作っていましたが、本作は別に「ゾンビ主人公ありき」ではないんです。

GPTRACK50というスタジオは、新規IPで新しいアクションゲームを作りたい仲間たちが集まっています。私はカプコン出身ですが、それ以外の大手メーカーさんからもメンバーが集まって作っているので、決して最初から「ゾンビにしよう」という考えがあったわけではなかったんです。

スタジオ設立と予算取りをするときに「企画を仮に出してくれ」と言われて出した企画の叩き台の主人公が、ゾンビだったんです。この企画書を佐々木はじめコアメンバーに「これを叩き台に、自分たちがやりたいことを入れて新しく企画を作ってくれ」と言ったら、元の企画書の全ての要素なくなりかけたんです(笑)。これはまずいと。

この企画書で予算を取っていることもあり、佐々木に「せめて主人公がゾンビの部分は残してよ」とお願いしました。ゾンビが好きだし、ゾンビ主人公でやろう……というのが経緯ですね。

『ステューピッド・ネバー・ダイ』小林裕幸氏・佐々木栄一郎氏インタビュー:物語のエンジンは、“個人的な欲望”_002

──なるほど、そういうことだったんですね。

小林氏:
だから、決して「バイオを作ったからゾンビ」ということではないんです。本作の主人公は、僕が作った最初の企画書の主人公がゾンビだったからなんです。

みんながこんなに企画を変えなければ、もうちょっと違う展開になったかもしれませんが(笑)。

──本作はコメディチックなゾンビ作品ですよね。「この路線でいくぞ」と決めた決め手はなんだったのでしょうか。

小林氏:
コメディタッチは、どちらかというと佐々木がやりたかったノリなんです。映画で例えると、マーベルの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や、DCの『スーサイド・スクワッド』みたいに、よくわからない個性的な仲間たちが集まって、時には喧嘩もしながらいっしょに目的を達成する。そういうコメディタッチな雰囲気で、キャラクターたちがスラングを言いながら、というノリをやりたかった。

ストーリーはシナリオ会議を1年ぐらいかけて作っていて、その時に「そういう面々を出したいよね」「そういう会話もしたいよね」というやりとりがあってできました。

佐々木氏:
もうひとつは、ゾンビってやっぱり、RPGの中でもいちばんの雑魚だったり、ヘッドショット1発で死んじゃうようなやられ役だったりするじゃないですか。

そういう弱いヤツが努力をすることによって、強いヤツに勝つ──下克上ですね。それがメッチャ好きなストーリーラインだったんです。成り上がりの話は世界中の人がみんな好きですし、王道だと思うので、このストーリーにしました。

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──「ザコ扱いされていたゾンビが這い上がっていく」というストーリーは、どこからインスピレーションを得たのでしょうか。影響を受けた作品などがあれば教えてください。

佐々木氏:
『キックアス』とかですね。主人公はオタクのヘタレで、女の子と付き合ったこともない、この作品をけっこうモチーフにしていますね。

──『キックアス』がモチーフなんですね。

佐々木氏:
あとは「弱いヤツ」もそうですね。これも同じ流れではあるんですけど、たとえば『スパイダーマン』では、スパイダーマンも特殊な蜘蛛に噛まれることによって突然変異の能力を手に入れます。

小林氏:
弱い高校生がね。

佐々木氏:
じつはデイビィも、ある日、ある卵を食べることによって何か能力を得て、人生が変わる。ここも、『スパイダーマン』にインスピレーションをうけてイメージを膨らませてもらっているという感じですかね。

小林氏:
いま挙げたもの以外もいろいろあるのですが、「弱い主人公がヒーローになっていく」作品をいろいろ探しながら、意外とあるなって思いました。

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「世界を救え」ではなく「この女の子を生き返らせたい」。今の若者に響く、ピュアなゾンビの個人的な目標

──凍死してしまったジュリアの思い出を知っていくうちに、デイビィは彼女に恋をしていきます。でも、ジュリアはすでに死んでいて、復活するかどうかもわからない。それでも彼女を愛し続けるデイビィの姿には、どこか祈りのような美しさを感じるんです。このシチュエーションを通して、おふたりはユーザーに何を伝えたいのでしょうか。

小林氏:
そこは「ピュアなゾンビ」の物語だと思っているんです。女の子とデートしたこともない子が「女の子とデートしたい」という純粋で個人的な目標を持っている。

ストーリーを考えるときに、いまの若い子は大きな目標をあまり持たないと思っているんです。昔のゲームだと、たいてい主人公には「世界を救う」という目的がありましたが、いまはそこまで大きなことを求めていない。でも、「この死んでいる女の子を生き返らせる」という個人的な目的のためなら、なんでもする。そこは共感してもらえるんじゃないかなと思ったんです。

デイビィの行動も意思も、すべて「ジュリアを生き返らせる」ことに基づいて物語が展開していくので、けっこうシンプルなんですよ。純粋です。

博士はもともと世界を救うために卵を研究していたのに、それをデイビィに食べられてしまう。だから博士はデイビィに「お前が世界を救え」と言うんですが、デイビィ自身は別に世界を救いたいわけじゃない。それでも「女の子を救うためならやるよ」と、ふたりで共同戦線を張っていく──という感じですね。

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──力を手に入れてしまった責任を果たしつつ「ジュリア」が好きという軸はぶれない、ということでしょうか。

小林氏:
そうですね。ただ、デイビィ自身に責任を果たす気があるかというと……。あくまで彼の動機はジュリアを生き返らせるためなので、そこはどちらかというと博士の思いが乗っかって、お互いの目的が一緒になっていく、という感じですね。博士の助けがないと、おそらく異世界にも行けないし、ラスボスのKOMにもたどり着けない。だから、ふたりで共同戦線を張るんです。

──そう考えると、等身大の青年が抱えるのと似通った悩みと目線でゾンビが描かれているんですね。

小林氏:
「死なないゾンビ」は何を参考にしたのかとよく聞かれるのですが、もうひとつの参考元として『チェンソーマン』があります。悪魔退治する目的が「純粋な男の子が、女性に対する欲望を叶えるため」ですよね。

そういう端的かつ、欲望をはらんだを結構いいなと思っています。僕らはおっさんですがそういった作品をいっぱい観ていますし、それはそれで好きなんです。若者にヒットしているのはやっぱりそういった個人的な欲望を動機にしているところかと思い、本作にも取り入れました。

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──若い子たちにも共感できるよう、『チェンソーマン』のデンジのように「ジュリアを生き返らせたい」がゆえデイビィが奔走する設定にしたということですね。

小林氏:
やっぱりゲーム市場の中心は20代のゲーマー層ですからね。50代の同世代だけをターゲットにするのではなく、若い世代にも響く作品にしたかったんです。

──佐々木さんはいかがでしょうか?

佐々木氏:
やっぱり歯ごたえのあるアクションというか、「アクションゲーマーのためのゲーム」を目指して作ってはいるんです。そもそものアクションの手触りとしては深く考えなくても手触りとして最高に気持ちいいもの。本作は、アクションの手触りにしても、デイビィの行動原理にしても、すべてが基本的にはシンプルで分かりやすいんです。

よくゲームを途中で止めてセーブして、1週間後の土曜日にもう一度プレイを再開しますよね。そのときに「ん? 俺、何のために何やってるんだっけ」という場面があると思うのですが、このゲームではたぶん起こりません、常に「ジュリアのために戦う」からです。

小林氏:
そう、わかりやすいんです。

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吐瀉物を撒き散らす必殺技「ゲロビーム」の発想源は、「ゾンビあるある大喜利」

──主人公の必殺技……ゲロビームのような、メチャクチャな技が印象的です。

小林氏:
デフォルトがゲロ吐きですからね。それを強化して、ゲロビーム

──吐瀉物を撒き散らすという、ユニークな攻撃ですよね。ゾンビならではだと思うんですが、ああいう技はどうやって思いつくものなんでしょうか。

佐々木氏:
「ゾンビあるある大喜利」をしていって、「ゾンビってそうだよな〜」と納得感のあるものは、もうぜんぶ入れてみた!そういう感じです。

──それでいうと、ゾンビもののパロディも随所に含まれていますよね。

佐々木氏:
はい。たとえばホームとなるショッピングモールの名前もそうです。映画『ゾンビ(Dawn of the Dead)』に「モンローヴィル・モール」というショッピングモールが出てきます。

小林氏:
うちのモールは……。

佐々木氏:
マリリン・ビル(笑)。こうやって、他作品をもじったりもしています。

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──そういえば、ミュージックビデオのような映像も公開されていましたね。

小林氏:
本作の発表は、ミュージックビデオですからね。

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編集・ライター
『MOTHER2』でひらがなを覚え、ゲームと育った生粋のRPG好き。キャラメイクや物語が分岐するTRPG的な体験を好む生態。『Divinity: Original Sin 2』の有志翻訳を経て、『バルダーズ・ゲート3』を独力で全訳し完走。『ゴースト・オブ・ツシマ』の舞台となった対馬のガイドもしている。 Xアカウント(旧Twitter)@Tsushimahiro23
編集者
3D酔いに全敗の神奈川生まれ99’s。好きなゲームは『ベヨネッタ』『ロリポップチェーンソー』『RUINER』。好きな酔い止めはアネロンニスキャップとNAVAMET。
Twitter:@d0ntcry4nym0re

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