少女が現代的な廃墟を探索し、「遺失物」と呼ばれる超常的な存在を収集する。そんな魅惑的な設定を、独自のアートワークで表現する『遺失物統轄機構』は、“存在しないゲーム”としてイラストを発表し、大きな話題を呼んだ作品だ。
そんな架空のゲームである『遺失物統轄機構』が、フリューの手掛ける新作TPS『アノマリス』とのコラボを発表したとき、そのあまりの組み合わせの妙に筆者は思わず膝を打ってしまった。
『SCP』や『Backrooms』といった、ネット発のホラーコンテンツの作風を取り込み、廃墟を少女が探索するという“画作り”など、両作品の共通点は非常に多い。この2作品ほど、コラボの親和性が高い組み合わせはそうそうないのではないか? と思ってしまうほどだ。
そうなると、気になるのはコラボの成立経緯である。『遺失物統轄機構』は画集こそ発売されたものの、発端はイラストレーター・ほし氏が考えた架空のゲームであるし、『アノマリス』に至っては完全新作のTPSなのだ。
いったいどのような形でこの「納得すぎる」コラボが成立したのか? なぜこの2作品はこれほど「親和性が高い」形で世に送り出されたのか? そんな疑問を抱いた電ファミ編集部は、インタビューを実施。『遺失物統轄機構』の生みの親であるほし氏と、『アノマリス』プロデューサーのフリュー城所凱氏に、対談の形で話をうかがうことにした。
『アノマリス』の企画が始まる前から『遺失物統轄機構』が好きだったという城所氏の「いちファンの立場」からの質問が飛び出したり、幼いころから攻略本が好きだったというほし氏の口から、『遺失物統轄機構』が生まれた経緯が語られるなど、非常に興味深いお話を聞くことができたので、ぜひ最後までお読みいただきたい。

『遺失物統轄機構』と実在のゲーム『アノマリス』がまさかのコラボ。作者・ほし氏がこだわったのはバックパックの傾き
──架空のゲームの設定として作られた『遺失物統轄機構』が、実在のゲーム『アノマリス』とまさかのコラボをするということで、発表時には大きな話題となりました。この形に収まるまで、ほしさんとフリューさんとのあいだでは、どんなやり取りがあったのでしょうか。
完全新作ゲーム『アノマリス/ANOMALITH』に、遺失物統轄機構と世界観が交わるコラボミッションを実装していただいております…!
— ほし (@HOSHIBACKYARD) May 22, 2026
任務完了すると、名無装備とドローンが手に入ります。
主人公・玲緒奈さんに着てもらえば遺失物機構職員になりきれます。 https://t.co/BIOYBdOtIW pic.twitter.com/KLUcGPfqZY
ほし氏:
制作については、私が直接作業をしたわけではありません。ほとんどのことは、フリューさんがやってくださいました。
流れとしては、まず最初に私から、キャラクターの衣装やドローン、バックパックなどのデザイン画をお渡ししました。
デザイン画をもとにフリューさんが『アノマリス』のゲーム内で使用されるイラストなどを制作され、そちらのイラストを見ながら「この模様の位置が違う」とか、「サイズを調整してほしい」とか、あとは「バックパックを、ちょっとだけ傾けてほしい」など、そういった監修を入れさせていただきました。
──キャラクターのバックパックの傾きは、ほしさんのこだわりポイントだったんですね。
ほし氏:
はい(笑)。フリューさんはこちらの監修に対しても本当に細かく調整いただきました。
──コラボの経緯としては、フリューさんからほしさんへ打診があり、実現したとのことですが、もともと何かつながりがあったのでしょうか?
ほし氏:
いえ、まったくつながりはなく、初めてのご連絡でした。
ただ、『遺失物統轄機構』の画集を発売したあとのご連絡だったので、「コラボとして合いそう」と判断していただいたのかなと。
私としても、こういったお話をいただけたのは本当にうれしく、了承させていただきました。
──とはいえ、発売前の新規タイトルだと、ほしさんの中でも最初は「どんなゲームなんだろう」というイメージがなかなかできなかったと思います。『アノマリス』への第一印象はどのようなものでしたか?
ほし氏:
じつは、お話をいただいた時点で、デモ版のような結構動かせるものを見させていただいていたんです。
ステージは商店街か病院だったと思うんですけど、そこで銃を持って走るキャラクターのプレイ映像のようなものを用意いただいていて。その時点で雰囲気はばっちりとつかむことができましたし、「この雰囲気なら、コラボしてもまったく問題ない」と思いました。
城所凱氏(以下、城所氏):
お見せしたのは商店街ですね。発表よりもかなり前の段階でアルファ版だったと思います。かなり序盤のものですから、最初のモック(ゲームシステムをテストするための簡易バージョン)かな?
ほし氏:
私がお見せいただいた時点で、リミナルスペースの雰囲気は出ていました。グラフィックの色味も製品版と近しいもので。だいぶ前から完成系が定まっていたんだろうな、と感じました。
──「『遺失物統轄機構』をゲーム化したの?」と思うぐらい、雰囲気が似ていますよね。
ほし氏:
そうですね。私ももともと『バイオハザード』などに代表されるホラーTPSに、すごく画作りの影響を受けています。だから、やっぱり好きな人がそういうものを作ると、似たような物が出てくるんだろうと思います。
──コラボとして『遺失物統轄機構』キャラの衣装やドローンが『アノマリス』に登場しますが、「どの程度の規模のコラボにするか」を決めるにあたって、どういった話し合いがあったのでしょうか。
ほし氏:
最初に、見た目として『遺失物統轄機構』の要素を出したい、というご提案がありました。何の脈絡もなく『遺失物統轄機構』側の要素が登場したら世界観がおかしくなるので、そこをコラボシナリオでどう繋ぐか。そういったところを含めてフリューさんにはいろいろと気を遣っていただきました。
『遺失物統轄機構』って、あまりテキストとしての物語が存在しない作品なんです。ですので、物語をどこまで『アノマリス』側に入れるのか、という問題がありました。結果的には、かなり「余韻を残す」ような形になっています。
明確には『遺失物統轄機構』のストーリーを形付けないぐらいのバランスで、作っていただいた形となります。
城所氏:
『遺失物統轄機構』の画集を読んでいる方であれば知っている名前がアイテムの資料などに出てきますので、「なんとなくつながっている?」と感じていただけるバランスとなっています。
あまり深く食い込みすぎちゃうと、お互いの作品にとって良くないかな、と思うんです。「キャラクターの交流」や「世界観交流」といった形にとどめたうえで描写させていただいた、ということですね。
ほし氏:
結果的に、すごくいいバランスに仕上がっていると思います。
──正直、『アノマリス』のファーストアナウンスのときに、真っ先に『遺失物統轄機構』が思い浮かびましたので、今回のコラボは本当に相性がいいなと。
城所氏:
じつは、私はもともと『遺失物統轄機構』のファンだったんです。画集が出る前から、ほしさんがSNSに投稿していた画像をときおり見ていて「いいな」と思っていました(笑)。
ほし氏:
フリューさんは、私の制作環境にすごく気を遣っていただいて、「ほしさんの負担にならないように」ということをすごく重視してくれていました。
だから私は、「楽」と言ったらアレなんですけど、出していただいたものに対して「ここだけ設定、言葉をちょっと直してもらえますか」とお伝えするくらいで……。
──デザインもシナリオも、監修という形での関わり方だったのですか?
ほし氏:
はい。そのために何かを新規に描き起こした、ということはとくにありません。
ゲーム制作への挫折と、なかなか目の出ないイラスト業。ふたつの苦難がもたらした、「架空のゲームの攻略本」という意外すぎる糸口
──ほしさんはゲーム好きだということですが、どういったゲームがお好きなのでしょうか。『遺失物統轄機構』で影響を受けた作品などもうかがえれば。
ほし氏:
ゲームは好きですね。みなさんが画集のイラストから想起できるゲームは、だいたい好きです(笑)。『バイオハザード』もそうですし、『ドラッグオンドラグーン』から連なる『ニーア』シリーズ。あとは『ペルソナ』とか、『サイレントヒル』。
また、「遺失物」という名称は、同人STG『Hellsinker.』から多大な影響を受けています。
アニメっぽいルックのキャラクターだったり、ホラーだったりというゲームが好きで、よく遊んでいました。だから、『遺失物統轄機構』はそういうエッセンスをだいぶ取り入れている作品だと思います。
──世界や設定を作ったうえで「架空のゲームがあったら」という独自のアイデアは、どのように生まれたのでしょうか?
ほし氏:
『遺失物統轄機構』のアイデアの根幹には、「ゲーム」と「イラスト」、ふたつの軸があります。まずゲームとしては……私事になるんですけど、弟が現役のゲームクリエイターなんです。彼が誰に言われるでもなくゲームをいろいろ作っているのを間近で見てきました。
その反面、自分はひとつもゲームを完成させられず……。じつは私も昔、ゲームを作ろうとしていたことは何度かありました。でも、全部挫折してしまったんです。「自分にはちょっと向いていないかも」、「そもそもゲーム制作はちょっと難しいな」という感覚は持ちつつも、それでもゲームが好きなのは変わりませんでした。
「イラスト」の部分に関しては、ずっとマンガ家だったりマンガアシスタントだったり、そういう仕事をしていたんですけど、なかなかそっちも芽が出なくて。
そこで一度、自分の創作を見直したんですね。好きなゲームとイラストの、いいところを掛け合わせられないか。そう思ったのが、最初のきっかけです。
自分の苦手な要素を避けつつ、好きな要素でなんとか合わせられないだろうか。そう思って始めたのが、この「ゲーム風イラスト」でした。
商店街の奥へ pic.twitter.com/2spqjS6biL
— ほし (@HOSHIBACKYARD) September 29, 2024
──イラストを生み出すうえで、最初にキャラクターを考えたのでしょうか?
ほし氏:
当時の私は、マンガの背景制作で3Dも触っていたので、変な作り方なんですけど、まず最初に背景を作り込みました。ゲームのフィールドのような感じですよね。そういう背景を作ってから、そこにいちばん合うキャラクターのシルエットを、あとから探っていく形で制作を行ったんです。
──それはワンシチュエーションではなく、舞台全体をまず構築されたということでしょうか。
ほし氏:
そうです。画としてみたときにもっとも良い画角を探りつつ、そこにキャラクターを置く形で最初のイラストを描きました。
それが、自分には向いていたように思います。ゲームをたくさん遊んでいたこともあって、「この背景、このカメラの画角で、キャラをここに置くとワクワクする」という感覚が、自分のなかに蓄積されていたんです。
──そこから「もしこれが架空のゲームの世界だったら」という発想につながっていったのですね。
ほし氏:
はい。でも最初は、シリーズにするつもりもまったくなかったんです。いちばん最初にSNSへ投稿したときは『遺失物統轄機構』という名前もありませんでしたし、キャラクターの設定もありませんでした。

でも、おかげさまで反響をいただいたので「じゃあ、もうちょっといろいろ書いてみようかな」と思って、この1枚からどんどん連作を続けていった形ですね。
だから本当に、何もない場所から「連想ゲーム」的につなげていった作品になっています。
──画集を出されてからの反響はいかがですか。
ほし氏:
反響自体も、すごく大きかったです。
国内だけでなく、おもにアジア圏だと聞いていますけど、海外の方からも二次創作などを含めた反響をいただきました。さすがにいまは落ち着いているとは思うんですけど、販売直後から、うれしい声をいくつもいただいていました。
──画面比率も当初からゲームを意識されていたのですか?
ほし氏:
もともとゲームのスクリーンショットの比率をそのまま使って作り始めたので、完全にゲーム画面を意識して作っています。
──「リミナルスペース」的な描写も印象的です。そういったものも、以前からお好きだったのでしょうか。
ほし氏:
好きですね。リミナルスペースのほかには、『SCP』の影響もあると思います。……これは『遺失物統轄機構』をご覧になられた方なら、皆さん連想されると思うんですけど(笑)。
城所氏:
「収容・管理」していますからね(笑)。
──色味も独特ですよね。
ほし氏:
色味に関しては、自分の好きなこの青緑っぽい色を、そのままイメージカラーに選んでいるというだけではあるんです。作品全体の背景色として使っていて、それが自分のなかでも統一感のようなものを生んでくれているのかな、と思います。






