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観客が舞台に入り込み、自分だけの物語を体験するイマーシブシアター。急成長を遂げるこのジャンルの作り手たちは、華やかな体験の裏側で何を試し、何に悩んでいるのか

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観客が舞台に入り込み、好きな演者を追いかけ、自分だけの物語を体験する──

イマーシブシアターは近年、国内でも年100公演を超えるまでに広がりを見せている。
だがその裏側で、作り手たちは会場が見つからない、資金が続かない、「イマーシブ」という言葉が乱立して伝わらないという現実と格闘し続けている。

3月13日に開催されたミニセミナー「イマーシブシアターの未来」では、第一線の制作者たちがそのリアルを包み隠さず語った。

観客が舞台に入り込み、自分だけの物語を体験する「イマーシブシアター」の作り手は何を試し、何に悩んでいるのか_001

IGDA日本 体験型エンタメ部会(SIG-体験型エンタメ)は特定非営利活動法人映像産業振興機構と共同で、3月13日(金)に東京都中央区にあるVIPOホールRで本セミナーを開催。

SIG-体験型エンタメの正世話人でエレメンツのゲームデザイナーでもある石川淳一氏に加えて、イマーシブシアター団体「ego:pression」代表の秋吉朝子氏と水星 『泊まれる演劇』クリエイティブディレクターの花岡直弥氏の3名が登壇した。

2002年にIGDA東京という名称で発足したIGDA日本は、2004年にIGDA日本へと改称。その後2012年にNPO法人の認定を受けている。

同団体では、基本的にボランティアベースでセミナーやワークショップなどを開催している。その中にSIGと呼ばれるさまざまな部会があるが、石川氏が属しているのが今回のイベントを主催した「SIG-体験型エンタメ」だ。

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SIG-体験型エンタメ 正世話人の石川淳一氏

ちなみにこの「SIG-体験型エンタメ」では、日常空間やリアルメディアを使った体験型・参加型のエンターテイメントに携わる国内外の製作者との交流の場と、知見・情報の共有をミッションにしている。

今回のセミナーでもイマーシブシアターに関する貴重な知見が共有されたので、本稿でレポートしよう。

取材・文/高島おしゃむ
編集/kawasaki

イマーシブシアターは参加者が中に入っていける演劇

ふたつの公演に先駆けて、石川氏より今回の主題でもある「イマーシブシアター」について紹介が行われた。

石川氏は、イマーシブシアターを「参加者が中に入っていける演劇」と捉えている。これにはふたつの意味があり、ひとつは物理的に舞台の中に入ることができることを指している。少し言い方を変えると、イマーシブシアターは「第4の壁がない」とも言われることがある。

お芝居の舞台には左右にふたつの壁があり、後ろにも壁がある。しかし前方にも、観客席と舞台の間に見えない壁があると言われており、それを「第4の壁」と呼んでいる。イマーシブシアターにはこの「第4の壁」がなく、演者と参加者が同じ空間に存在することで、物理的に舞台の中に入ることができるのである。

もうひとつは、物語の中の一員として入ることができるところだ。一般的なお芝居は、舞台で行われているものを見るだけである。だが、イマーシブシアターの場合は物語の一員として、自分自身が入っていくことができる。

これは作り手側から見ると、全てを見せることができないことが前提で設計された演劇となる。参加者が自由に会場を移動したり、好きな演者を追いかけたりするためだ。
その結果、参加者は自分が見ることができなかったものを想像したり、他の参加者とコミュニケーションすることで情報を共有したりするという楽しみ方が生まれるのである。

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イマーシブシアターは、従来の演劇と比較していくつかのパターンに分類することができる。既存の劇場空間に対しては、意味を持った特殊な空間を作る「サイト・スペシフィック」であること。固定の客席ではなく、座らずに動き回ることができる。そして「第4の壁」がない舞台もある。

舞台装置や小道具は、インスタレーション寄りのものや、五感に訴えるものが用意されることもある。一方的な作品の提供ではなく、インタラクティブなやり取りや、シーンを見る順番を決めることができる。
そして、演劇の傍観者ではなく、物語の一部や中核的な存在になるなど、参加することができるのもイマーシブシアターの特徴だ。

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先ほどの「第4の壁」を破る試みは昔からさまざまに試されてきた。中世時代にまで遡ることができるが、20世紀に入るまでメジャーな成功例はほとんどなかったのが現実だ。

そうした中で、日本では寺山修司氏が市街劇『ノック』を公演。杉並区(阿佐ヶ谷界隈)の街でゲリラ的にさまざまな生演劇を行い、観客を半分巻き込むような形で行われたことがあった。

また、イマーシブシアターが生まれる前の数少ない成功例として1981年初演の『Tamara』が挙げられる。その後、1984年にロサンゼルスで9年間のロングラン公演が行われた。この『Tamara』は、ほぼ現在のイマーシブシアターの形式を備えた作品でもある。

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イマーシブシアターの始まりは、今世紀に入ってからだ。2000年から「Punchdrunk」という団体が活動を開始。同団体が作った作品がルーツと言われている。

ちなみに、イマーシブシアターという用語の始まりについては確定的な情報はないものの、石川氏自身が調べた中で最も古い記述があったのは、2006年10月に『The Guardian』という新聞に掲載されたレビュー記事であった。

このイマーシブシアターは、「Punchdrunk」が制作したニューヨークの『Sleep No More』の大ヒットから流行がスタートしている。こちらは2011年から公演が開始され、約14年間のロングランとなった。延べ200万人以上を動員しており、その後のイマーシブシアター作品を作るときの中心モデルとなっている。

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日本のイマーシブシアターに関しては、大きなものとしてふたつの例を挙げることができる。ひとつは、2017年にDAZZLEが公演を行った『Touch the Dark』だ。こちらは、日本初の本格的なイマーシブシアター商業公演である。

もうひとつは、2018年にユニバーサル・スタジオ・ジャパンで行われた『ホテル・アルバート』である。メジャーなテーマパークでの開催により、イマーシブシアターの認知が一気に広がった例でもある。

これ以降、2021年あたりから明らかに増加傾向にあり、2023年には爆発的に増加。小さなものも含めると、年100公演ほどが行われるようになっている。

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イマーシブシアターの種類は、3つに分類することができる。ひとつは、自由に歩き回れるタイプ「自由回遊型」。ふたつ目は、ある程度誘導しながら動いていく「誘導型」。3つ目は、それほど数は多くないものの、基本的には座ったままの「固定型」である。

上演形式に関しては、セリフのある一般的なお芝居のような「バーバル」(ストレートプレイと呼ばれることもある)と、セリフが基本的に存在しない「ノンバーバル」の2種類がある。先ほどの『Sleep No More』も、基本は「ノンバーバル」の形式で行われている。

物語への関与という点については、「外部からあまり物語に関与しないタイプ」と「物語の一員に入り込むパターン」があるが、これもきっちり分かれているわけではない。外部の参加者であっても、時々俳優側から話しかけられるというタイプもあるからだ。

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セリフが無いお芝居のノンバーバル形式は本能に訴えかけるもの

講演1として、イマーシブシアター団体「ego:pression」代表の秋吉朝子氏より、「イマーシブシアターの構造論」というテーマでプレゼンテーションが行われた。「ego:pression」は、副代表の落合香里氏と共に2011年に設立された団体だ。2024年には法人化も行っている。

イマーシブシアターに関しては、2020年から非公開のものも含めてこれまで9作品ほど上演してきた。それ以前はダンスパフォーマンス団体としてプロセニアム形式(額縁舞台)のダンス公演を制作してきた。

その制作過程で、秋吉氏と落合氏のふたりがニューヨークの『Sleep No More』と『Then She Fell』に出会い、いつか日本でもやりたいという夢が2020年に叶って、それ以降イマーシブシアターの上演を行っている。

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イマーシブシアター団体「ego:pression」代表 秋吉朝子氏

「ego:pression」は、基本的にノンバーバル形式で上演を行っている。制作者側が意識しているのは、「参加者がどのような形で体験を受け止めるのか」ということだと秋吉氏はいう。言葉のある・なしで、脳内のどこで物語を構築していくのか、入り口が異なるのだ。

バーバル形式の一番の強みは、耳から入る言葉ひとつひとつの重みである。意味の強制力が強いため、状況を説明する一行のセリフで参加者の脳内補完が行われ、イマジネーションが湧きやすい。そのため、設定が理解できないまま迷子になりにくく、物語の結末への納得感も得やすいのである。

また、バーバル形式には参加者が話しかけられる作品もある。その場合、物語を役者と一緒に自分も進めていくという責任感が生まれ、参加者自身にも緊張感が発生する。その緊張感を超えた先に発した言葉に演者がレスポンスを返すことも、達成感を得られる要素だ。

このように、キャラクターと言葉を交わす社会性のような部分も含めて物語を理解し、そこから感情が動くのがバーバル型である。

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一方、ノンバーバル形式の場合はより本能に訴えかけるものになる。ナレーションやパンフレットなどで補完はできるが、基本的には参加者に没入してもらう形になっている。

演者の美しい動きや、苦しんでいる場面を目の当たりにすることで、ストーリーの理解よりも先に感情が共鳴するのだ。ノンバーバル形式ではそれが可能であると秋吉氏は考えている。

例えば、少し前に、1つの空間だけの会場で『MISSION8』という作品を上演している。部屋に区切られていないため、どのキャラクターも上から俯瞰すれば誰でも見られるような空間で、没入体験を作ることができるのかを試した作品だった。

言葉がない分、遠くにいるキャラクターの物語はわからないものの、動きや表情から喜びが伝わる。また、奥の方には苦しんでいるキャラクターがいるなど、離れた場所の情報も認識できるようになっていた。それがノンバーバル形式の良さでもあり、物語自体の厚みを増すことにもつながるのだ。

バーバルやノンバーバルといった形式は、あくまでも物語を伝えるための手段である。感情が動く物語に出会いたいという参加者の目的が同じなら、どちらも目指すゴールは変わらない。

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ego:pressionの制作哲学──世界観を作り込む現場主義

秋吉氏がお芝居を作る上で意識しているのは、「参加者がなぜこの空間にどういう役割でいるのか」という設定を明確にすることだ。ノンバーバル形式のお芝居では、「あなたは誰?」と言ってくれる演者は存在しない。
そのため、自分がこの空間にいてもおかしくない設定だということを、しっかり伝えるようにしているのだ。

設定をわかりやすくするだけでなく、鑑賞ルールも物語に紐付けている。これは物語そのものというよりも、たとえば目の前で大作家が作品を書いているときに大声でしゃべってはいけない、といったように、設定を利用したルールだ。メタ情報と世界に入る境目を、なるべくなくすように意識している。

また、「ego:pression」では、先に会場を決めてから脚本の執筆を行っている。脚本に合わせて会場を選ぶわけではない。
現場でのリハーサルを大事にしており、階段ひとつとっても上り方・下り方など、その空間に合った形でキャラクターが本当に生きているかどうかを追求している。

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ノンバーバル形式の場合、参加者が耳から受け取る情報は音楽や室内BGMがメインとなる。そのため、音楽の設定にもこだわっている。
たとえば外国語の歌詞で意味が理解できなかったとしても、シーンにふさわしくない曲は流さないようにしている。

それに加えて、空間全体を包み込む音楽も重要だ。演者もおらず何も起きていない空間であっても、物語の世界観に沿った音楽が流れている。そこから、何かが起きていることを空間全体の音楽でも感じ取れるようにしているのだ。

そして、読後感を明確に設定することも「ego:pression」が意識しているところだ。参加者にどのような気持ちで帰ってほしいかを、最初に話し合いで決めている。
その読後感の続きとして物語がその人の中で生き続けるよう、パンフレットや一部セットリストの公開、物語に合わせたノベルティの配布なども行っている。

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ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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