2018年4月20日。Nintendo Laboが発売され、人類は鉄の時代からダンボールの時代へと移行した。
ソフトとダンボールキットがセットとなったNintendo Laboは、「あそびの発明」をコンセプトに生み出されたもので、付属のダンボールで“Toy-Con”を自作し、Nintendo Switchと組み合わせて遊ぶというもの。
ダンボールの時代というのは大げさな話ではなく、任天堂の新製品を実際に体験した筆者の、率直な実感だ。
『バラエティキット』と『ロボットキット』の2種類のキットは、未来の創作者たちへのギフトとなるだろう。
ここではNintendo Laboのファーストインプレッションを語ってみたい。購入後に出社し、会議室を5時間占領して組み立てた製作記として読んでもらえれば幸いだ。
文/しば三角
購入から開封まで──任天堂の本気はすでに始まっていた
ゲームは常に驚きを与えてくれる。Nintendo Laboもその例外ではない。
初めてその箱を目にした時、筆者はその迫力に圧倒された。
でかい、そして重い!
そう、贈り物(紙)がぎっしり入った箱は重いのだ……。
バラエティキットとロボットキット両キットの箱のサイズ・重さは同じぐらいで、バラエティキットには28枚、ロボットキットには19枚のダンボールシートが入っている。
Amazonで購入すると、特別デザインの箱で届き、リモコンカーとロボットのヘッドセットにつけられるダンボーのシートがついてくる。Amazonといえばダンボール、粋なはからいと言えるだろう。
両キットとも、開封するともっとも目立つ位置にソフトが入っている。筆者は早速、ここで任天堂のこだわりを感じたのであった。
プレイヤーをダンボールの物量で圧倒する代わりに、まずソフトを起動するように促す。地味な工夫ではあるが、最初にもプレイヤーを迷わせないで案内するという重要な役割を果たしている。
ダンボールはすでに切れ目や折り筋が入った状態となっているので、手で軽く押すだけで指定の形に切り抜くことができ、折り目もすでに入っている筋に合わせてつければ良い。
完成までにのりやハサミといった工具は必要とせず、箱に入っているパーツと手だけで完成まで持っていける。あとはJoy-Conを組み合わせれば遊べる状態に。
ちなみに、箱には組立時間の目安が記されており、バラエティキットでもっとも単純なリモコンカーは10分、工程の多いピアノは150−210分。一箱まるまる使ったロボットキットは180-240分が目安となっている。
このロボットキットを筆者(大人)が本気で制作したみたところ、完成までの時間は合計で90分程度だった。
“うごく説明書”では、一段落つくタイミングで休憩を挟むよう促されるので、じっくり作るのも悪くないかもしれない。
Nintendo Laboに搭載されているのは「つくる」「あそぶ」「わかる」の3モード。
ここからは、各ステップを一つずつ追っていこう。
「つくる」に込められた「誰も挫折させない」という意思
付属のソフトを起動すると、「うごく説明書」が組み立ての工程を説明してくれる。
3Dのうごく説明書は紙の説明書と違って自由なスピードで動かし、回転・拡大もできるので、ダンボールの形状を立体的に確認することができる。
紙の説明書はついていないので、外で作るときはNintendo Switchの電池に注意しよう。
「うごく説明書」を起動してまず驚くのは、テンションの高さだ。
チュートリアルでは画面を拡大できただけでめでたい音が鳴り、その行動を讃えてくれる。
ピアノの鍵盤やロボットの心臓部となるおもりなど、似たような形状をしていて繰り返しが発生してしまう部分でも、ファンキーに説明をしてくれて飽きさせない(なんと使い回しのセリフはなさそうだ)。
組み立てに細長すぎてちぎれそうな部分はなく、折り目を付ける作業も、平面のときは裏返して谷折りにするという工程を徹底している。
難しい部分や細かい部分は、先に警告してくれるし、一段落するたびに休憩を促してくれるしで、集中力が途切れがちな子どもに優しい仕様である。
「どんな不器用な人の手でも失敗させない」という開発者の意志をここで感じた。
そして、説明書の解説文もただものではない。
ダンボールを折って箱型を作り、隙間にツメを入れてロックする過程を「寝技が決まった」と表現するなど、工程を無味乾燥なものではなく、そこに鮮やかな「見立て」を導入し、想像力を掻き立てる遊びに昇華しているのだ。
作っている人を飽きさせず、まるで工作を楽しむ人の頭の中を代弁しているかのよう。
工作の導き手として、これほど誠実なことがあるだろうか。
工程を丁寧に説明し、動きを見せ、真似させ、うまく動くことを確認したらそこですかさず褒める! 人に何かを説明するという仕事のお手本のようだ。
だが気になる点もある。
折り目をつけるだけの工程であっても、折る様子をすべて見せてくれたり、繰り返し部分はセリフが変わるにしろ、やっている事自体は同じなのに、画面の中で工程が進む様子を全部見ていなければならないため、工作に慣れている人はまどろっこしさを感じるかもしれない。
とはいえ、ボタンを右に引っ張ることで早送りができるので、随時活用していくといいだろう。
バラエティキットとロボットキットは両方、最初にJoy-Con ケースをチュートリアルとして作る。これがまたよくできていて、1パーツというシンプルさながら、全てのパーツの基本を説明しつつ、Toy-ConとJoy-Conとの合体を体感できるようになっている。
あらゆるパーツは、まず折り目をしっかりとつけ、それから箱型や三角形に組み立て、隙間にツメを差し込んで固定するという段階を経るよう徹底されていて、そこから外れる場合は必ず説明書の方から「気をつけよう!」と注意喚起がなされる。そしてパーツが完成するたびにめちゃくちゃ褒めてくる!
ここには徹底した教育への目線がある。
教育の役割のひとつは、自分はこれが得意なんだ、と自信をつけてもらうところにある。うまく出来たことを何度も褒められて成功体験を積むことで、恐れずに物事をなす自信をつけることができる。
言葉で言うと簡単そうに見えるが、実は上手くできたことをすかさず褒めることは非常に難しい。初めての試みは往々にしてうまくいかないし、何か出来たとしても、誰かが見ていてすぐに褒めてくれるという状況はなかなかないからだ。
この成功体験サイクルを最もうまく回してきたのは、実はゲームのレベルデザインなのかもしれない。努力がステージクリアやハイスコアなどできちんと報われるから、人はゲームが好きなのだ。
このプロダクトはゲームをやりたいという気持ちを通して工作へのハードルを下げている上に、手厚い「うごく説明書」で、きちんと完成まで褒めながらサポートしている。
かつてマリオのジャンプがゲームの操作感、プレイヤーの没入感を底上げしたように、「うごく説明書」は“何かを説明する”という作業のステップアップのデザインを底上げするものになるのかもしれない。
「あそぶ」── Nintendo Laboは想像力をプラスして完成する
Toy-Conが完成したら、お待ちかねのゲームの時間だ!
ここではリモコンカーとロボットキットを例にしてその体験を説明しよう。
リモコンカーは左右に取り付けたJoy-Conの振動で駆動する。
最初の画面は左右のボタンを押して操作ができるだけだが、真ん中のボタンに気づいたプレイヤーにはすてきなオプションモードが待っている。
オプションモードではカメラの映像が見られたり、振動の周波数の調整をしたりなど、もっとたくさんのことができる世界が開かれる。自動走行モードなど、あそびの幅を広げるボタンも隠されている。
ここでも最初は簡単に、慣れてきたら複雑で楽しいことも見せていくという流れが徹底されている。
作ったものが動くよろこびから、そこから何ができるのかを発見するよろこびへと滑らかに案内するという、任天堂のレベルデザインの教育的意義を感じ取ってしまうのだ。
ロボットキットでは、リュックを背負って頭と手足にToy-Conを装着する。足踏みすると画面の中のロボットが歩き、腕を伸ばせばパンチを放つ。プレイヤーが頭を傾けると、同じ方向にロボットが向く。
自作のコントローラーで立派なロボットがズギャーンと動くのは、ほかのゲームでは味わえない達成感がある。丁寧に組み立てたコントローラーで街やUFOを破壊するのはどれだけ爽快なことか!
かなり丈夫にできているので思う存分暴れることができる。
ステージをクリアするとロボットの技が増えるやりこみモードがあったり、ロボットToy-Conを二台用意して対戦できるモードもある。友達と『パシフィック・リム』ごっこをするのも一興だ。
「あそぶ」モードでも見立てが重要な役割を果たしている。ロボットToy-Conで子どもたちが背負っているのは、ただのダンボールにあらず。
これはジェットパックであり、プレイヤーはロボットの司令官となるのだ。ゲームもToy-Conも想像力を補うための部品にすぎない。あそびのメインは、夢中になるその瞬間にこそある。
ロボットの中に搭載された「なりきり」モードは、「見立て」てあそんでもらうという考えを裏付けるものになる。
このモードは手足の動きに反応してドラムや動物の鳴き声を出すことができる。シンプルなモードではあるが、ここからは製作者の、ロボットToy-Conを使って、ダンスや芸など楽しいことを考えてくれというメッセージを受け取った。
この「見立て」の考えをさらに推し進めたものが、「わかる」モードの「Toy-Conガレージ」だ。
「わかる」モードで想像力をブーストしよう
「わかる」モードでは、なぜToy-Conが動くのかをゆかいなキャラクターが動画を交えて解説してくれる。
ピアノを例にとってみても、押された鍵盤を検出するしくみや、空気の振動が音となって聞こえるしくみ、隠された機能の紹介など、楽しくプレイヤーの知的好奇心を満たすものになっている。
理解できるということはその知識で遊ぶことができるということだ。Toy-Conガレージでは、その知識を利用して新しい遊びを作り出すことができる。
Nintendo SwitchのJoy-Conは、ボタンが押されたのを検知するだけではなく、コントローラーの周囲の様子を映すIRカメラや、傾きを検知する加速度センサーなど、実はたくさんの機能が搭載されている。
ノードプログラミングができるこの黒い画面では、Joy-Conのセンサーの様子を表す入力のハコと、振動や音、光を制御する出力のハコをつないで、カメラにマーカーが写ったら振動する、傾きを検知すると光る、ボタンを押すと音が出る、などさまざまな制御ができる。
つまり、Joy-Conをセンサーパーツとして活用し、電子工作ができるようになっているというわけだ。
ちなみにロボットやピアノToy-Conも、このIRカメラを利用して制御されている。マーカーシールを貼ってパーツを組み合わせたときの、「なんて美しいしくみでアイデアを実現しているんだ!」という感動は、忘れられない体験になることだろう。
Toy-Conガレージを使えば、簡単な試作ならすぐに完成まで持っていける。
アイデア次第で新たな楽器やミニゲームを作ることだってできるはずだし、もともと用意されているToy-Conを改造することから始めるのも楽しい。
任天堂の動画の例にもあるように、複数の機能を使っていかに面白いものを「見立て」られるかが試されている。
外装は加工しやすいダンボールを使えばいいし、紙コップや割り箸、ペットボトルなど、家の中にあるものを材料とするのもいいだろう。Nintendo Laboは、「あそびの発明」というコンセプトのとおり、新たなプラットフォームの形を提示しているのだ。
ハードルの高い最初のアイデア出しについても、Toy-Con自体や「わかる」モード内でいろいろ例を見せてくれるので、乗り越えられる“きっかけ”を与えてくれる。ダンボールとJoy-Conは想像力と創造力をプレイヤーにもたらしてくれるのだ。
Nintendo Laboはゲームとして長く遊ぶというよりは、この体験を礎に次の想像力を後押しするものに近い。
ダンボールで丁寧なものを作れるというゲームを通じての提示は、工作の地位を底上げするものになっていると感じた。この遊びを享受した子どもたちの時代は鮮やかに彩られていることだろう。
まずは遊んでみよう。そしてダンボールの時代を呼び込む任天堂の丁寧すぎる仕事に震えようじゃないか。