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元『アイマス』総合P坂上氏×『学マス』P小美野氏と振り返る、『学園アイドルマスター』誕生秘話【『学マス』1周年記念特別対談】

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『学園アイドルマスター』(学マス)の核となるコンセプトは、2019年夏の6月から9月のわずか3ヵ月間で作られていた──。

そう明かしてくれたのが、本作のメインプロデューサーを務める小美野日出文氏だ。そして、このコンセプトが『学マス』ヒットに欠かせないものだったと、小美野氏は語っている。

また、そんなコンセプトづくりの際に、まるで1000本ノックのように内容を確認してはアドバイスをしてくれたのが、元『アイドルマスター』(アイマス)シリーズ総合プロデューサーの坂上陽三氏だったというのである。

『学園アイドルマスター』1周年特別対談:元『アイマス』総合P坂上氏×『学マス』P小美野氏と振り返る、『学マス』誕生秘話_001
コンセプトがまとめられた企画書(過去インタビューより)

坂上氏と小美野氏の付き合いは、約10年にも及ぶそうだ。もともとは飲み会でいっしょになる程度の仲だったふたりだが、2019年に上司(坂上氏)と部下(小美野氏)の関係に。

そして今では、小美野氏自身が「プロデューサーとしての仕事の仕方は坂上さんから勉強させていただいた」と、断言するほどに深い関係となっている。

その影響なのだろう。スマッシュヒットを飛ばした『学マス』のプロデューサーとして数々の媒体でインタビューを受ける小美野氏の口からは、坂上氏とのエピソードが語られることが多い。

そこで、今回は坂上氏と小美野氏が直接お話する対談企画をセッティング。

じつは最初からゲームで作る予定ではなかったという『アイマス』新ブランド立ち上げの話やシリーズ初となる「学園もの」が採用された理由など、『学マス』のルーツに迫るお話をたっぷりお届けしていく。

『学園アイドルマスター』が、まさかこんな風に生まれていたなんて……!

が、わかる記事となっているので、ぜひ楽しんでいただきたい。

なお、対談中のやりとりからは、上司と部下の垣根を超えたふたりの信頼関係が、非常に濃く感じられた。その姿はまるで師匠と弟子のようにも見えてくる

また、あくまでいちユーザーとしてだが、普段はキャスト陣や後輩プロデューサーを引っ張る姿を見せることが多い小美野氏の、意外な一面が見られたことは新鮮な体験であった。

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坂上陽三氏(左)と小美野日出文氏(右)。

聞き手/竹中プレジデントジスマロック
編集/竹中プレジデント
撮影/松本祐亮


『学園アイドルマスター』は、もともとゲームではなく小説や漫画から始める予定だった

──『学園アイドルマスター』(学マス)リリースから約1年、さまざまな媒体を通して、小美野さんの口から坂上さんのエピソードが語られることが多く、そんなおふたり揃って直接お話をお聞きしたい……というのが本日の対談の趣旨となっています。

坂上氏:
小美野の話が本当なのか、嘘なのか。それを確認するために呼ばれたわけですね。

小美野氏:
本当のことしか話してないですよ(笑)。

──まさに今のような、おふたりのやりとりの雰囲気もお伝えできればと思っています(笑)。早速ですが、『学マス』はもともと坂上さんがプロジェクトを進められていたんですよね?

坂上氏:
そうですね。2019年ころだったかと思うのですが、三本(昌史)【※】と『アイドルマスター』(アイマス)シリーズの次の作品について考えていました。

もともと僕としては、必ずしもゲームである必要はなくて、小説でも漫画でもいいので、小さいアイデアから始める考えがありました。ゲームである『アイドルマスター』の外伝作品のようなものをイメージしたんです。

※三本昌史氏……『アイドルマスター』シリーズのゲーム統括を務める。

──えっ、ゲームとして作る予定じゃなかったんですか!? 『アイマス』の新ブランドなのに。

坂上氏:
というのも、『アイマス』はアーケードゲームからスタートして、家庭用ゲーム、ブラウザで遊ぶソーシャルゲーム、スマートフォンアプリと、技術の進化にあわせて新しいタイトルを出してきた経緯があります。

そういう意味では、『アイマス』の新シリーズを考えだしたタイミングでは、大きな変化が見えていませんでした。ですから、小説や漫画という媒体でスピンオフのような作品を作って、それを原作にして展開できないかと考えていたんです。

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──そのプロジェクトに小美野さんが合流されるわけですよね。どういう経緯で合流されたのでしょう?

小美野氏:
僕は三本さんから「(『アイマス』シリーズ外の)知見がある人を探している」と声をかけられたのがきっかけでした。

『アイマス』の新しいブランドを立ち上げようとしていて、スピンオフ的な内容になりそうだと。どういうゲームなのか、そもそもゲームになるかも決まっていないというお話でした。

当時の僕は、さまざまなIPタイトルに携わっていましたので、「興味があるのでぜひ!」とお返事をしたという流れです。

坂上氏:
でも、社内で公募があった他タイトルに応募しようとしていて、「こいつ~」ってなりましたね(笑)。彼、そういうところがあるんですよ。

小美野氏:
そ、そんなことないです……。そのときは、まさか本気のお話だと思っていなかったんです。

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──小美野さんが合流されて、漫画や小説での展開からゲーム展開の動きにシフトしていくわけですよね。

小美野氏:
声をかけていただいたタイミングで、僕と三本さんはゲームを作る方向で考えていました。

そもそも、僕の本職が「ゲームを作ること」でもありますし、そんな僕にお声をかけていただいたということは「ゲームを作る」ことなんだろうなと。

それに、僕自身としても『アイマス』を担当するなら、やはりゲームを作りたいと思いました。

坂上氏:
小美野が入った時点で、作るのはゲームだと、方向が定まっていったと思います。

小美野氏:
それでも、「小さくスタートする」というお話は坂上さんから何度もありました。最初から大きく考えすぎると大変だと。

坂上氏:
最初から「ゲームを作る」という大きな規模で考えてしまうと、どうしてもアイデアが保守的になりがちなんです。これはできる、これはできない……と、実現できるかどうかを考えてしまいます。

ですから、ゲームだとしても「最初は小さく、自由なアイデアで考えてほしい」というのは伝えていましたね。

「学園もの」案は過去の『アイマス』シリーズでも何度かあった。『学マス』で初めて採用された理由

──『学マス』は『アイマス』シリーズ初の学園を舞台とした作品となっています。この「学園を舞台にする」アイデアはどういった経緯で生まれたのでしょうか。

坂上氏:
もともとは三本から話があったんです。「学園をテーマにしたい」と。

──その案に対して、坂上さんはどう思われたんですか?

坂上氏:
これまでの『アイマス』シリーズの中でも、「学園を舞台にしてみたい」という話が挙がったことはありました。

アーケード版『アイドルマスター』に登場する女の子たちも、厳密にはアイドルではなく「アイドル候補生」という設定でした。事務所に所属しているものの、基本的にはみんな学生だったんです。

そこをしっかり舞台を学園に移して描いていくというのは、僕としても、考えかたとして悪くないと思っていました。

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──学園生活に焦点を当てるということは、これまではあまり描かれなかったシチュエーションや、アイドルの姿が見られることでもありますよね。

坂上氏:
ただ、ひとつだけ気がかりだったのは、登場するアイドルたちの年齢層が狭まってしまうことでした。学園が舞台となると、幼い子どもは入れないし、20歳を超えていても同様です。

ただ、今回はまず小さく作れないかという発想があったので、わかりやすいテーマとして「学園もの」というのはいいんじゃないかと。

──まずは小説や漫画での展開を考えていたのもあって「学園もの」はありだと。

坂上氏:
だから最初のころ、僕の頭の中では、海外に留学していた主人公がアイドルの学校に編入してくる展開がイメージされていました。

本人も当初は「え、アイドルの学校ってなに?」と戸惑うんですけど、徐々にその気になっていく……というような。アイドルや劇団の方が通う学園を想像していました。『アイマス』としては少し変化球だったと思います。

小美野氏:
僕が合流した後にまとめたのがこの資料(下記画像)になります。

坂上氏:
うわあ……懐かしい。

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小美野氏:
坂上さんと三本さん、そしてストレートエッジさんがまとめていたものを、まとめ直した内容になっています。

「なぜ学園なのか」「そもそも学園とはどんな場所なのか」などの定義が書かれています。「初星学園」という名前も初期案からありましたね。

坂上氏:
世界観のアイデアのようなものですね。

小美野氏:
そういえば、校舎のデザインに関して「新しくもなく、流行ってもいない。その代わりに古くもならないものにしてほしい」と、坂上さんから提案がありましたよね。

建築様式の具体的な名称をいくつかいただいて、デザイン担当の多田(烈)さん【※】とやりとりしながら固めていきました。

※多田烈氏……QualiArts側にてアートディレクターを務める。

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──坂上さんが普遍的なデザインを提案したのにはどのような理由が?

坂上氏:
そのほうが、遊んでくださるプロデューサー【※】のみなさんがイメージしやすいと考えたからです。

学園を舞台にした場合、教室、体育館、階段の踊り場など、ドラマが起こりそうな場所は限られているんです。もし、最新鋭の設備が整っている場所であったら、そこで起きるドラマがイメージしにくいですよね。

※プロデューサー……『アイマス』のプレイヤーを指す言葉として使われる。本来であれば「ユーザー」や「プレイヤー」と置き換えたほうがわかりやすい単語ではあるが、この記事ではあえてこの表現で記載することをご理解いただけると幸いだ。

小美野氏:
学校はほとんどの方が通った経験のある場所ですので、それぞれの人生の中で体験してきたものに近づけたい意図はありました。

坂上氏:
そうそう。なんでもない「水飲み場」だったり、誰しも自分たちの思い出の中にある学校のイメージがありますよね。

──たしかに。学園生活は誰しもが経験していることなので、あまりにも現実離れしていると感情移入しにくいかもしれません。

坂上氏:
あと、僕もそうなんですけど、「学園もの」が好きな方って多いじゃないですか。

アニメや漫画で描かれる青春の時間は、誰しもが憧れる場所でもある。だからこそ、みんながイメージしやすい舞台を整えるというのは大事なことだったと思います。

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初期案は魔法学園を舞台にしたファンタジーRPG。「魔法学園アイドルマスター」の可能性もあったってこと!?

──「学園もの」というテーマがあって、小説や漫画からゲームを作る方向に定まって、ついに『学マス』というゲーム開発の一歩目が踏み出されるわけですよね。

小美野氏:
そうですね。ただ、僕が最初に考えた案は、学園の概念をファンタジー世界の「魔法学園」にして、アイドルをしていくRPGでした。

──まさかの「魔法学園アイドルマスター」……⁉

小美野氏:
僕としても合流当初は「なぜ今回の企画は学園が舞台なんだろう?」という疑問がありました。

加えて、「学園もの」は素案としてありつつも、「学園が舞台じゃなくてもいい」と坂上さんがおっしゃっていたので、最初の素案を完全に無視して書いたのがファンタジーRPGでした。

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──リリース直後のインタビュー記事でお聞きした、「ファンタジー世界にアイドルが転生して戦うRPG」ですよね。その案を坂上さんに持って行ったところ……。

小美野氏:
はい。「学園の概念を気にしなくていいと言ったけどこれはないだろ!」と、怒られました

そこで企画書の前にコンセプトを作るように勧められ「どのような企画にするのか」コンセプトをまとめていくことになりました。今あらためて見ると、ファンタジー案はなかなか酷いですね……(笑)。

坂上氏:
コンセプトを固める前から企画書をまとめてしまうのは、誰しもが最初に陥りがちなんですよね。

小美野氏:
そこから3ヵ月間は、三本さんとふたりでコンセプトをまとめて坂上さんに持っていく流れでした。

2019年の6月から9月くらいまでは、まるで1000本ノックのようにコンセプトを書いては持って行って、ボコボコにされて帰ってくる日々でした(笑)


坂上氏:
ボコボコにはしてない。めっちゃ優しく伝えてたよ(笑)。

小美野氏:
話しかたは優しかったんですけど、中身に関してはほぼ毎回作り直しに近い形になっていたので……。

坂上氏:
そんな毎回じゃなかったと思うけどなあ(笑)。

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──小美野さんがコンセプトを考えて、それを坂上さんに確認してもらう形だったんですか?

小美野氏:
いえ。まず、僕がまとめた内容を三本さんに確認してもらって、三本さんのOKが出たら坂上さんにもっていく流れでした。

ふたりで意気揚々ともっていくんですが、坂上さんの指摘を受けて、三本さんも僕もシュンとなっちゃって。終わったあとは毎回ふたりで飲みに行っては「あかんなー。難題やなー」ってずっと話してましたよ。

坂上氏:
それくらい最初にコンセプトをしっかり決めておくのは大事なことなんです。

とくに、バンダイナムコエンターテインメントはタイトル開発を他社さんと連携することが多いので、コンセプトについてしっかり伝えられるようにしなければいけませんから。

小美野氏:
それまでの僕は自分の感覚でゲーム作りに臨んでいて、このときはじめてコンセプト作りについて学びました。ですから、あの3ヵ月は本当に大変で、本当にしんどかったです。

コンセプトを作る中で、坂上さんから教わってすごく印象に残っているのが、「テキストで残す言葉は絶対に曖昧な表現で書かない」ということですね。

──曖昧な表現を書かない、ですか。

小美野氏:
開発規模が大きいタイトルとなると、作品に携わる人数も膨大になっていきます。その際に、曖昧な表現で言葉を残してしまうと、それぞれがバラバラの解釈でタイトルを作ってしまうんです。

そうなると、組み合わせる段階でチグハグなものができあがってしまいます。その状態を避けるためにも、言葉の残しかたには気をつけなさいと。でも……当時の僕はその意味をよくわかっていなかったんですが(笑)。

一同:
(笑)。

坂上氏:
めちゃくちゃ明確に言ってるじゃん(笑)。

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小美野氏:
当時の僕は、ひとつずつ自分でチェックしてズレを直していけばいいと思っていたんです。

坂上氏:
ああ、そう思っちゃうよね。でも、しっかりと明文化しておかないと、優先順位をつけるときに大変なんですよ。

僕も開発に携わっていたころによくあったんですが、なぜか重要じゃないところばかりがうまくできあがってしまうんです。そこに力を入れても、うまく作っても仕方ないような部分なんだけど、できているから外すわけにもいかない。

でも全体を見ると、そこに注力しすぎた影響で、本当に大事な部分がうまくできていなくて、いざ組み上げたときに全体のバランスが歪になってしまうんです。

小美野氏:
おっしゃる通りで、開発の規模が大きくなると厳しいんですよね。

坂上氏:
そう。だからこそ、最初にコンセプトを作っておくことが大事なんです。コンセプトが明確であるなら、「そっちよりもこっちのほうが重要だから、こっちに注力してください」という指示もできますからね。

コンセプトというのは、ゲーム開発における基本原則のようなもので、それを基にして他のルールが作られていく。だからその原則の部分は曖昧にしてはいけないんです。

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編集者
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident
ライター
転生したらスポンジだった件
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