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早くもGOTY候補に挙げられる、フランス産JRPG『エクスペディション33』。チーム人数は32人+1匹──いかにしてこの傑作が生み出されたのか、スタジオ代表に聞く

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フランス産JRPG『Clair Obscur: Expedition 33』(クレール・オブスキュール:エクスペディション サーティースリー)が全世界で高い評価を得ている。

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本作はフランスのスタジオ「Sandfall Interactive」(サンドフォール・インタラクティブ)が開発を手掛けており、スタジオの処女作にもかかわらず、発売から約2週間で世界累計販売本数200万本を突破。

さらに、「Metacritic」では5月21日時点でメタスコア92点、ユーザースコア9.7という驚異的な数字を叩き出している。これは、2025年に発売されたタイトルの中でも最上位のものであり、ユーザースコア9.7というのは、Metacritic史上最高スコアとなる可能性がある、驚くべき点数である。

また、バトルシステム、サウンド、アートワーク、ストーリー、キャラクターなど、すべての要素において高評価となっていることも、本作の特異さを表している。

突如現れた『Clair Obscur: Expedition 33』(以下、『エクスペディション33』)。Sandfall Interactiveはいかにしてこのような傑作を生み出すことができたのか? ほかの開発者、ほかのスタジオと “決定的に違うもの” はなんなのだろうか?

この疑問に回答いただくべく、Sandfall InteractiveのCEOであり、『エクスペディション33』クリエイティブディレクターを務めるギヨーム・ブロッシュ氏にインタビュー取材を打診。オンラインでの実施となったが、直接話をうかがうことができた。

電ファミではすでにギヨーム氏とJP UNIVERSE田畑端氏との対談記事を掲載しているが、発売後の反響も含め、どのように本作を制作されたのかを直撃した。

「スタッフたちが連鎖的に “狂気的な作り込み” をしてしまう環境」や「雑談で生まれたアイデアを取り入れる方法」など、開発過程の詳細をお届けしていく。

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ギヨーム・ブロッシュ氏

聞き手/豊田恵吾
文/柳本マリエ


『ペルソナ5』は戦闘描写やUIの作り込みに関しては世界一

──発売後、本作はスタジオとしての第1作目にもかかわらず、全世界で高い評価を得ています。率直にこの反響をどのように捉えていらっしゃいますか?

ギヨーム・ブロッシュ氏(以下、ギヨーム氏):
自分たちもここまで評価されたことが非現実的すぎて、現実逃避しています。まだ信じられません。

少ないメンバーでしたが情熱を持ってスタートしたプロジェクトですので、世界中の方々にさまざまな要素が評価されたことは誇りに思っていますし、感謝の気持ちでいっぱいです。

──具体的にどういった点に手応えを感じていますか?

ギヨーム氏:
アートディレクションに関しては、ほかのタイトルよりも特異なものになっていると思いますので、そこは目立って評価されている部分だと感じています。

フランス的なアートだったり、ベル・エポック【※】であったり……スーパーリアリズムとして描写にこだわって制作したゲームですので、フランス人に受け入れてもらえることは想像できたのですが、全世界で評価される結果となったことには驚いていますし、光栄に思っています。

※ベル・エポック……直訳すると「美しい時代」。おもに19世紀末から第一次世界大戦勃発(1914年)までのパリが繁栄した華やかな時代、およびその文化を回顧して用いられる言葉。

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──国による受け取られ方の違いなど、地域ごとに「ここが刺さるのか」といった違いや想定以上に評価されたことなどがありましたらお聞かせください。

ギヨーム氏:
見えているのがおもにSteamレビューの反響なので、すべての意見を捉えられていないという前提のもとにお話すると、アジアではエンディングやストーリーラインが合わなかったという方々がいらっしゃるなど、地域的な文化が反映されている意見がありました。

逆にヨーロッパでは、悲劇的なストーリーは受け入れられているものの、ゲームの難度に対して不満のある方がいらっしゃったり(笑)。カルチャー的なこともそうですし、地域特有の捉え方をされていて、特徴が出ていておもしろいなと思っています。

ただ、伝えたかったゲームの本質的なおもしろさは全世界に伝わっていて、そのように評価されているのはなによりもうれしいですね。

──日本では愛着をもって「フランス産JRPG」と呼ばれていたり、その人気ぶりにパッケージ版がどこに行っても買えないという状態が続いています。

ギヨーム氏:
とてもうれしいです。個人的なエピソードになりますが、日本向けのパッケージやトレーラーを公開前に共有いただいたときには、心の奥から込み上げてくるものがありました。

田畑さんと対談させていただいたときにもお伝えしたとおり、私は日本のRPGから大きな影響を受けました。本作を通じて、大好きな日本の皆さんに少しでもお返しができたなら……。本作が日本の皆さんに受け入れられたことは、どの国で評価を得たことよりもうれしく感じています

私は日本のゲームで形成されていますので、魅力的なゲームを生み出してくれた日本に対する愛が『エクスペディション33』を通して伝わったのであれば、本当にうれしいです。

──改めてとなりますが、ギヨームさんが影響を受けたゲームを教えていただけますか? また、それらのタイトルのどういった部分に感銘を受け、どのように独自性を加え、超えていこうとされたのでしょうか。

ギヨーム氏:
どのタイトルのどの要素とは言えないくらい、子どものころからゲーム、とくにJRPGで育ってきました。さまざまなゲームのプレイ体験があったうえで、自分なりに「この部分がおもしろい」とか、「自分が考えるいちばんおもしろいターンベースのRPGはこうだ」というものが最終的なビジョンとしてありました。

西洋ですと表面的な部分だけを真似した、「これがウケたから真似する」という、いわゆる劣化コピーのような作品もあるのですが、そういうものは作りたくなかった。

幼少期から育んできた、自分なりの「JRPG観」を昇華させ、自分のオリジナリティを加えて展開する、ということを大切にしました。

影響を受けた具体的なタイトルでいうと、羅列するときりがないのですが、『ファイナルファンタジー』シリーズの『Ⅵ』〜『Ⅹ』、『シャドウハーツ』『幻想水滸伝』『アトリエ』シリーズ、『ロストオデッセイ』、そして『ペルソナ』シリーズ……。

とくに『ペルソナ5』は、戦闘描写やUIの作り込みに関しては世界一のゲームだと思っています。プレイヤーが操作するたびにカメラがドラマティックに切り替わり、映画を見ているような演出が展開されることにすごく影響を受けています

それをさらに自分の作品にあったカメラワークに変えていったり、自分なりのこだわりを加えたのが『エクスペディション33』です。『ペルソナ5』のいいところというのはまだまだ盛り込み切れていないので、じつはいまでもUIの改善は続けています。

ちなみに、ゲームプレイに関してはJRPGの影響を受けていますが、物語の組み立て方はこれまで私が読んできたフランスの小説から影響を受けていますので、ストーリーはフランス的だと思います。

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──要望の声が集まれば、DLC展開の可能性もあるのでしょうか?

ギヨーム氏:
じつはもともとDLCを展開する予定はありました。しかし、予想を遥かに超える反響をいただいているので、これからどうするか再考する必要があると思っています。続報をお楽しみにしてください。

制作過程にずっと寄り添った作曲家がいるのが理想的

──以前、ギヨームさんは「開発初期に作曲家(ロリエン・テスタール氏)をチームに招き入れた」と話されていましたが、本作をプレイしてその意味がとてもよくわかりました。クオリティの高さや曲数、テイストの豊富さはもちろんのこと、いちばん驚いたのは「ゲームシーンと楽曲が完璧にシンクロしている仕掛けが随所に施されていたこと」です。これは、ゲームシーンを秒単位よりも細かくわかっていないと実現できないことだと思います。なぜここまでの作り込みができたのでしょうか?

ギヨーム氏:
要因は多層的にありますが、まずロリエンさんが天才というのがありますね。そのうえで、チームに初期から入ってもらったことによって、ディレクターと脚本担当のつぎに、世界観やキャラクターの作り込みを深いところまで理解していたのがロリエンさんでした。

脚本、スクリプトは何度も書き直しやリテイクがあったのですが、「音楽はこうあってほしい」、「こう演出してほしい」という考えが私の頭の中にあったので、修正が発生するたびに作曲家に指示を出したり、すり合わせを行っていきました。曲の使い方まで含めて、当初からの構想どおり、計画どおりになっていますので、音楽に関してはかなり特徴のあるゲームになっていると思います。

あと、じつはもうひとり、サウンドエンジニアのようなインテグレーションを行うスタッフがいて、カットシーンやストーリーに関わるところだけではなく、ゲーム中のちょっとしたボイスや戦闘中の音楽の設計も、映像と音楽の整合性をすべてとっているんです。ですので、そのスタッフの功績も大きいと思っています。

またこれは私の個人的な意見となりますが、最近のゲームは「さきにゲームがあり、その上にサウンドやBGMをのせる」作品が多いと感じています。そうではなく、最初から音楽もありきで、制作過程にずっと寄り添った作曲家がいるというのが理想的だと考えています。

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──ギヨームさんはさらっとおっしゃっていますが、お話を聞いていて、やはり作り方が特殊だと感じています。作り方の中にひとつまみの狂気があるからこそ、本作を特別たらしめているといいますか……。

たとえば、チームが同じ方向を見るように努力しても、それができずに振るわない結果となるタイトルはたくさんあります。Sandfall Interactiveは、なぜチーム全員が同じゴールを目指すことができたのでしょうか?

ギヨーム氏:
何か特別なことをしているつもりはなく、秘密のようなこともなくて……。すばらしいメンバーに恵まれた、というのが成功した秘訣だと思っています。

ただ、現在のゲーム業界ではこれがいちばん難しいことかもしれませんが、「チームの人数が少ないからこそ実現できた」というのがあると思います。

たとえば、ミーティングはほぼほぼ実施していなくて、雑談レベルで「こうしていこう」と確認しながらプロジェクトを進行していきました。信頼関係は築けているので、それぞれが自分たちの受け持つ分野において、当事者意識を持って「このゲームをよくするにはどうするのがベストなのか」と突き詰めたものを組み合わせた結果なんです。

たとえば、ひとつのシネマティックシーンができあがった際、その出来栄えがあまりにもすばらしかったために、それを観たキャラクター担当者が「キャラの深みがこの映像に見合っていない。クオリティが足りていない」と感じ、バックストーリーを追加するなど、キャラクターをさらに作り込んでいきました。

そして、その作り込まれたキャラを観て、今度はVFX担当者が「やばい、この表現じゃ見合わない」と自発的にブラッシュアップを行うなど、お互いがクオリティを引き上げていくという循環が自然に形成されていったんですね。この循環が作れたことは、チームとして本当に大きかったと思います。

ですので、こだわったこととしては人間関係や信頼関係。そして、ひとりひとりが本作に思い入れを持ってベストをつくすという環境を整えることでした。

──ギヨームさんをはじめ、Sandfall InteractiveにはUbisoftに在籍されていたスタッフが複数人いらっしゃるかと思いますが、前職での「ふつう」や当たり前に捕らわれず、なぜ新しい環境が作れたのでしょうか?

ギヨーム氏:
Ubisoftでは多くのことを学びました。私はプロジェクトマネージメントを担当していたので、スケジュールの守り方や物事の進め方といったことはUbisoft時代に培われたと思います。一方で、反面教師として学べたこともありました。たとえば「大人数のチームでミーティングを何度も行わない」とか(笑)。

本作の開発を本格的にスタートさせたときの人数は6人だったので、ちょっとうしろを振り返り「いま作ってみたんだけど、どう思う?」と聞いて、フィードバックをすぐに受けることができました。その内容がよければすぐに導入し、よくなければスクラップしてつぎのことに取り組む。こういった確認がミーティングなしで5秒でできるというのが、小さなチームの強みですよね。

──(笑)。逆にUbisoft時代から現在も続けていることはありますか?

ギヨーム氏:
「2週間に1回、自分がいちばん力を入れて取り組んだことをプレゼンする」という習慣を引き継いで行っています。成果がみやすく、ほかのスタッフになにをしていたのかも共有できますし、短い時間でチームの統一感を醸成できるので導入しています。

──ちなみに、開発チームの人数は何人だったのでしょうか?

ギヨーム氏:
32人と1匹(犬)の33人です。タイトルに「33」とありますから、よく「タイトルに合わせたの?」と言われるのですが、もちろんそんなことはありません。また、私はもうすぐ33歳になるので「33」という数字に運命を感じています(笑)。

──もしかして、そのワンちゃんは屋敷の隠し部屋に飾られていた……。

ギヨーム氏:
そのとおりです。犬はモノコという名前です。登場キャラクターの名前といっしょですね(笑)。

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