グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏は、海外にも数多くのファンを抱えるゲームデザイナーだ。
氏が手がけたすべての作品は、その独創性から畏敬の念を以て「須田ゲー」と呼ばれている。ゲームメディアの中にも「須田ゲー」と称する媒体は多いのだが、はっきり言おう。筆者はこの言葉が嫌いだ。大嫌いだ。
なぜか。それはゲームの魅力を伝える立場にある人間として「須田ゲー」という言葉は表現の思考停止、表現の袋小路だと感じているからだ。須田氏のゲームに深いリスペクトがある筆者にとっては、「須田ゲー」という言葉ひとつで論じられることに納得がいかないのである。
『シルバー事件』での“FILM WINDOW”の発明を「須田ゲー」の言葉だけで済ますのか? 『killer7』での狂気・残虐・理不尽・無秩序・背徳・不道徳・悲哀・電波・風刺・ギャグ・陰謀・超科学を無造作に詰め込んだシナリオの魅力を「須田ゲー」という言葉だけで伝えるのか?
たしかに「須田ゲー」と言えば、コアゲーマーには簡単に伝わるのだろう。だが、その表現はあまりに乱暴すぎないだろうか? 本来は伝わるはずだった人に向けて、短絡的に「須田ゲー」という言葉を使ったがゆえに、届かないものになってはいないだろうか?
グラスホッパー・マニファクチュアの最新作『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』はすばらしい出来栄えの作品だ。怪作であり傑作。だからこそ、その魅力は「須田ゲー」という言葉だけでは伝え切ることはできない。トロコンまでプレイした身としても、今作を「須田ゲー」という簡単な言葉でひと括りにされているのが許せないのだ。
そんな怒りに似た感情を内に秘めたまま、電ファミニコゲーマーは、須田氏にインタビューを行う機会をいただいた。『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』の魅力について話をうかがいつつ、本人に「須田ゲー」と呼ばれていることをどう思っているのかを聞いた。
タイトル画面も難易度選択もゲームUIも、全部が奇抜。スタッフが「なんとなくかっこいい」と描いたアートもタイトルに採用
──本日はよろしくお願いします。まずタイトル画面についての話を聞かせてください。お世辞抜きで「世界でいちばん美しいビデオゲームのタイトル画面」だと思ったんですね。
須田剛一氏(以下、須田氏):
ありがとうございます。僕もそう思います(笑)。
──(笑)。「Half A Person」とさりげなく記されているワードも、主人公のロミオを象徴していますし、The Smithsの楽曲も示唆していて……。
須田氏:
そこにも気づいていただけたんですね。そうなんです、うまくハマりました。
真面目な話、タイトル画面は毎回悩むところなんですよね。タイトル画面がバシッと決まらないと、ゲームの開発自体が進んでいない感触があるのですが……じつは『デッドマン』のタイトル画面もなかなか決まらなかったんです。僕の中でもイメージが出てこなかったんですね。
そんな状況の中、能丸(グラスホッパー・マニファクチュアのコンセプトアーティスト:能丸督之氏)のデスクトップを見たら、水槽とアロワナが映っていたんです。『デッドマン』はアンリアルエンジンで開発していたのですが、起動画面をよくスタッフが差し替えているんですよ。あるとき「なんだこれ?」と思ってよく見たら、そのアロワナがめちゃめちゃかっこよくて。
能丸に聞いたら「なんとなく描いてみました」、「いやアロワナがかっこいいんで」と、とくに理由もなく(笑)。そのアートを毎回スタッフが見るわけじゃないですか。そうしているうちに「タイトル画面、これでいいんじゃないの?」となって(笑)。その後、描き下ろしを用意してクリーンアップしていったんですね。
うちには「ミスター・パーティクル」と呼ばれる達人プログラマーの山田くん(山田巧氏)がいるんですけど、彼の技、タクミ・スペシャルでアロワナを動かしてほしいと依頼して。アニメーションではなく、パーティクルを駆使してアロワナが水槽を泳いでいるムードを生み出してもらいました。
もともとゲームタイトルロゴを大きくしたくなかったんですよ。皆さん、購入されて手にとっている状態でタイトル画面を見るわけじゃないですか。その前提を考えると、タイトルロゴ自体はアクセントで十分かなと。
須田氏:
曲に関しても、当初はアンビエントなものが出来上がったんですけど、画面に合い過ぎていたんですね。心地いいんですけど、心地よすぎてなんというか引っかかりがなかったんです。
そんなときにラップを乗せたいというアイデアが出て、たまたまビデオディレクターの荒木(荒木琢真氏)がアーティストのBLYY(ブライ)さんとつながりがあって。曲を聴かせてもらったところ、めちゃめちゃかっこよかったのですぐにアプローチして、BLYYさんの参加が急遽決まりました。
リリックに関しても「ゲームに無関係でもいいかな」と思っていたら、ゲームの世界観を理解してくださったうえで、アーティストならではの解釈で書いていただいて。画面と曲が合わさったときに、完成度が一段、二段上がった感触がありました。ここからゲームの世界に入っていくという、とてもいい導入ができたと感じたんですね。
──難易度選択もチョコレートの甘さを選ばせるというものでしたが、これもふつうのゲームでは出てこない発想ですよね。
須田氏:
もともと、難易度選択は入れたくなかったんですね。でも、今回は入れたほうがいいだろうという判断となり、仕様を考えていったのですが、アクションゲームにおける難易度選択って、皆さん嫌じゃないですか。ゲーマーとしては当然「難しい」を選びたくなるわけで。「ふつう」を選んだときに日和っている感覚になってほしくなかったんですね。
そこでチョコレートにしようと(笑)。あくまでも自分が好きなチョコを選んだだけで、難易度を選択したわけではないという納得感をプレイヤーに与えたかったんです。あと、高級チョコレートって箱の中に入っているのが4粒とか3粒じゃないですか。あの厳選された特別な感じというか、おしゃれな感じがいいなと(笑)。
──主人公の強化画面もとんでもないUIですよね。ポイントを割り振るのではなく、まさかの『ラリーX』的というか、『クラッシュローラー』的なミニゲームという【※】。
※『クラッシュローラー』的なミニゲーム……主人公を強化する際、デッドギア・キャノンボールと呼ばれるミニゲームがスタート。それまでに得たポイント分だけ移動が可能で、通ったルートにある項目が強化されていくという仕組み。
須田氏:
あれは当初、僕もちょっと不安になりました(笑)。開発中の企画ミーティングでは、各メンバーが自由に企画や仕様を考える形にしていたんですね。「デッドギア・キャノンボール」はその中で出てきたアイデアでした。
『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』では、そういう発明をチーム全員で考えていったんですね。そこがいい意味で、今作が従来のグラスホッパーのゲームの手触りを超えている一因になっていると思うんですよ。僕のアイデアだけじゃなくて、開発チーム全員のアイデアの集合体になっている。それがうまく作用してくれたのかなと。ひとりの頭の中じゃなくて複数の頭の中で生まれたものがミックスされているので。
とはいえ、最後に僕がディレクションと味付けは行っています。だから三つ星店の厨房みたいな感じですかね。チーム全員で料理を作り上げて、最後に僕がブラックペッパーを摘んでふりかけて仕上げるという(笑)。
──そういった作り方をされたのは今作が初だったのですか?
須田:
『Travis Strikes Again: No More Heroes』と『ノーモア★ヒーローズ3』もその作り方でしたので、いまのチームで3作目ですね。山﨑(今作のディレクター:山﨑 廉氏)といっしょにディレクションを務めた3本目となりますので、ある意味集大成になっていると思います。グラスホッパー・マニファクチュアとしてもひさしぶりの新規IPですし。
『ノーモア★ヒーローズ3』は「前作をいかに超えるか」という明確な目標があったわけですが、『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』は古くからのメンバーがコアにいて、そこに新たなスタッフが融合したチームでしたので、そういったバランスもよかったのかもしれません。
「須田ゲー」的なトンパチさを十分な予算とスケジュールでカバー。ゲームとしての強度の高いタイトルを目指した
──NetEaseグループになってからの1本目ということで、とくに意識されたのはどういったところなのでしょうか?
須田氏:
いわゆる「須田ゲー」という言葉の定義の中にある「トンパチさ」みたいなものは僕らも感じていたんですね。それはスケジュールだったり、予算だったりとかで作り切れない部分も含めて。
でも今回、NetEaseのグループに入って、これまででいちばん大きな予算で、スケジュールもある程度もらった中で開発ができたことにより、それが払拭できたのではないかと。その時間と予算の中で最後までちゃんと仕上げる、調整をちゃんとやり切るというのがいちばんの目標でした。
隙のない、すべてのフレームに対して調整が完了しているものを仕上げて世に出すというミッション。各要素はチームがしっかり作り上げてくれていたので、最後に僕がどこまで編集作業だったり、調整作業で仕上げきるのか。そこは完遂できたと思っています。
今回は、アクション、ストーリーといういち部分の評価ではなく、トータルパッケージとしての完成度を上げたかったんですね。それをいかにやり切るのかというのが最大のミッションでしたね。
──実際、ユーザー評価がすごく高い【※】ですよね。一方でメタクリの評価を見ると、メディアがおもしろさに気づいていないといいますか、「須田ゲー」で片付けてしまっているというか。
※『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』の評価……2026年5月27日時点でSteam評価は1880件を超えるレビューで「非常に好評」(約88%が好評)。PlayStation Storeでは1600件以上のレビューで5段階中4.62。メタスコアは72点、ユーザースコアは7.6。
須田氏:
そこはメタクリの構造上の問題だと思うんですよね。たとえば1時間でもいいのでちゃんと遊んでいるのかどうかもわかりませんし、クリアしたのかどうかもわからない人たちが点数をつけているわけで。うちは小さなスタジオですし、赤点をつけてもいいスタジオじゃないですか(笑)。
──そこを逆手にとって、グラスホッパー公式で低い点をつけたレビューをまとめたものを出されていましたよね(笑)。
— 【OFFICIAL】ROMEO IS A DEAD MAN (@romeoisadeadman) February 13, 2026
須田氏:
そうなんですよ。別のタイトルでもやろうと考えていた施策だったんですけど、そのときはストップがかかってしまって(笑)。メディアは自分たちの意志で点数をつけているわけですから、低い点を出されてもいいだろうと。「高得点のものだけをメーカーが使うと思うなよ」って話ですよね(笑)。
──(笑)。でも、『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』はゲームとしての強度が高いですから、プレイした人にはしっかりと伝わっていると思うんですよね。
須田氏:
そう言っていただけると本当にうれしいです。でも、発売を迎えるまでは「遊んだ人たちがどう感じるのかな」とハラハラしていました。
僕らはやれることはやり切ったと思っているんですけど、自分の中では「ここで詰まるかも?」というポイントがいくつかあって……。結果としては杞憂でしたが、そこはすごく心配でしたね。
──レベルデザインが突き抜けているからこその不安ですよね。たとえば通常エリアではマップ表示がありましたが、亜空間ではマップがなかったり。ただ、現実とは違う空間だからこその違いというか、レベルデザインにまで世界観が活かされていることに個人的にはグッときて。
須田氏:
そこはレベルチームを牽引してくれたリーダーの羽原くん(羽原友大氏)ががんばってくれたところです。亜空間のアイデア自体も彼が出してくれて。
もともと「無限回廊」という要素をゲームに入れ込もうというアイデアだったんですね。いわゆる現実のマップとマップをつなぐ役割のスペース。
そこから亜空間に変更となったのですが、変更後は最初からあのビジュアルだったんです。ブロックをキューブ状に配置したエリアというデザインが最初からあって。
──亜空間は、見せ方の演出もとてもうまいですよね。キューブがずっと可視化されているわけではなく、視界を遮るものがないから遠くまで見渡せる。でも近づくとキューブに阻まれて先が見えなくなったり、進めなくなったり。それでいて、だんだんと広がっていく感覚というか、先に進んでいると手応えはちゃんとあって……。
須田氏:
現実のエリアを描くうえでNGなことを亜空間には入れ込んでいるんですよね。そこが独特の雰囲気を生み出していることにつながったと思っています。亜空間は本当にドンピシャでうまくいったという手応えがありますが、ある意味、挑戦でもあったんです。
『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』はジャンルでいえばアクションゲームじゃないですか。アクションとアクションのあいだに非戦闘区域がほしかったんですよね。プレイヤーのリズムを、アクションからクールダウンさせる区域をどうしても入れたくて。
ただ、亜空間にあるパズルをクラシックゲームに近いものにしていたので、「いまの時代にこの遊びが届くのかな」という心配もありました。ただ、ここもちゃんと伝わっていたようなのでほっとしています。
──ラジオのチューニングというか。しかも、禅の雰囲気のある謎の解き方で(笑)。
須田氏:
あれは某マーベルゲームのオマージュなんです(笑)。現実世界とのリンクみたいなものとして、禅のテイストを入れた周波数合わせを用意したんですね。ただ、シンプルなだけに、手触りを含めて細かく調整を行ったところでもあります。
『ガンダム』パロディも『怒首領蜂』ネタも、やりたいことがあふれ出てしまう
──謎解きもそうですが、『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』はアクションを含めたすべての手触りがすごくよかったんですよね。
須田氏:
そこは積み上げだと思います。さきほどお話したように、『Travis Strikes Again: No More Heroes』、『ノーモア★ヒーローズ3』に続くタイトルということで、ひとつひとつのアクションを積み上げていくことができたからですね。
また、『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』は「4つの近接武器と4つの遠距離武器」という組み合わせを当初から定め、攻撃を与えて血を溜め、いかに必殺技(ブラッディーサマー)へ導くのかという設計があったので、丁寧に調整をかけていった結果、あの手触りになったわけです。
──キラキラ……もといブラッディーサマーも気持ちよさを阻害していないんですよね。カットシーンが入るとテンポが乱れるアクションゲームもありますが、『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』はずっと気持ちよさが続くものに仕上がっているなと。
須田氏:
じつは当初は違う映像を入れていたんです。もっとオシャレなカッコイイ映像だったんですね。でも、スーパーロボットものでよくある、必殺技を出したときに画面全体に演出が入るものがかっこいいなと思い、それを取り入れました。まあ、結果的には『機動戦士ガンダム GQuuuuuuX』っぽい演出になっていますけど(笑)。
──(笑)。
須田氏:
最初は控えめにしていて、一部をキラキラにしていたんですね。でもディレクターの山﨑が「もっと全体をキラキラにしましょう」と提案してきて。
──クレジットにスタジオカラーの名前があって、最初に見たときに驚きました。
須田氏:
あれはカラーの前田真宏【※】さんにバイクと最後の黒い敵デザインで参加していただいたので入っています。
※前田真宏(まえだ まひろ)……株式会社カラー作画部所属のアニメーション監督、アニメーター、デザイナー。代表作は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』など多数。須田氏の過去作『解放少女』では戦艦デザインを担当。
──『ガンダム』オマージュはほかにもいろいろありますよね。主人公ロミオの妹、ルナの衣装のカラーリングが「まさに!」というものでしたし……。
須田氏:
衣装がそのまんまのトリコロールで、ふつうの女の子だったら、あのカラーの服は着ないですからね(笑)。最初からファーストガンダムのファンだっていうことに決めてデザインしました。
ちなみに、ゲーム最後に流れるロボットのシーンは、サンライズさんからそれとなくOKをいただいています。あそこはじつはボツになった章のお話を描いたものなんですね。兄が闇落ちして妹がロボットで戦うというストーリーがあったのですが、いろいろあってカットになって。
──アイキャッチのビジュアルも……。
須田氏:
そういうのがどうしてもあふれ出ちゃうんですよね(笑)。アイキャッチもマスターアップの1ヵ月前に入れ込んだものなんです。本当は途中で『Zガンダム』風、『ZZガンダム』風のアイキャッチも入れようと思ったんですけど、時間がなくて間に合わず、あの1種類だけになっちゃいました。ですので……いつかパッチで入れるかもしれません(笑)。
──(笑)。ほかにも、ワーストピンクの質問に『怒首領蜂』に関するワードが出てきたり。ケイブのクレジットがちゃんとあって「このひと言への執念」を感じました(笑)。
須田氏:
そうなんですよ。やりたいことへの労力は惜しまないといいますか(笑)。















