開発者にとって、ゲームのキャラクターは自分の子供みたいなもの。だから不必要なセクシャル表現はやりたくない
──ちなみに、須田さんの中で「ビデオゲームでこれだけはやっちゃダメ」という線引きはあるのですか?
須田氏:
直接的なセクシャル表現はダメなんですよね。そこはやりたくないというか。これまで手がけてきたタイトルでも、お色気シーンとか、お色気コスチュームをパブリッシャーが求めてきたときは、いまだから告白すると抵抗感がめちゃくちゃありました。
ゲーム制作者にとって、ゲーム内のキャラクターって、自分が生み出した子どもみたいなものなんですね。だからその子どもが際どい服を着せられるのは……。
でも、パブリッシャーからの要望には応えざるを得なくて。ただ、お色気を入れたことでお客さんから叩かれるときは、矛先が作り手である僕にくるわけです。自分たちがやったものだから言い訳はしないんですけども……。ですから、自分たちでハンドリングできる場合は売るためだけのセクシュアルな表現には触れたくないと思っていますね。
──今作ではそういったご自身の考えを貫けたわけですね。
須田氏:
そうですね。もちろん、必要があればそういったシーンは入れるんですが、必然性がなければ入れないわけで。たとえば、ダイナーでジュリエットがロミオに触れるシーンは誘惑的な場面なんですけど、表現にはすごく気をつけました。さりげなく誘惑する感じというか、『閃光のハサウェイ』でギギがハサウェイを誘惑するみたいなあの感じで(笑)。
──(笑)。ちなみに、発売後の反響、手応えはいかがですか?
須田氏:
複数のメディアの方から「これだけさまざまな映像手法を使ったゲームは初めてだ」みたいなことを言ってもらえたんですね。じつは、そこは自分たちでは意識していなかったところなんです。組み上げていく中での結果論というか。
ですから、プレイした方々の声を聞いて「あ、今作は成功したんだな」と初めて実感したんですね。成功というのは「売上の成功」ではなく、「ゲームの強度としての成功」。違和感とか、「なんだこれは」という意見ではなくて、「新しいもの」として捉えてもらったことを強く実感しました。
──『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』はいろいろな要素が混ざっているんですけど、「ごった煮」ではなく、すごくきれいに仕上がっているなと……。さまざまな食材を使っていながら濁りがなく、複雑な味わいで深みのある美しいコンソメスープというか。
須田氏:
この道33年、おいしいコンソメスープを作り続けているので、秘伝の隠し味みたいなものがたぶんあるんですよね(笑)。
──(笑)。
須田氏:
メディアの皆さんは仕事柄、ゲームをたくさんやっていますし、やらなきゃいけないじゃないですか。そういう人ほど『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』の異質さというか、特別さを感じてくださっている気がします。
忘れられない感情を生み出すゲームというか、中毒性のあるゲームというか。そういうタイトルを作れたということを、プレイした方の感想から気づいて。それはすごく励みになっていますね。
「よそのゲームがどう」なんて知ったこっちゃない。意識するのはゲーマーがどんなものをおもしろいと思ってくれるか
──個人的に、須田さんがこれまで手がけたゲームの中では『killer7』がいちばん好きだったんですね。でも『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』はそれを超えたと感じていて。感覚として、『killer7』と同様に尖っているんですけど、その尖りが洗練されているというか……。
須田氏:
そう、『killer7』当時の僕は、ささくれ立っていたんですよね。その尖りみたいなものが、遊んだ方に突き刺さっていたんだと思うんです。でも今回は、おそらくそういう攻撃的なものじゃなくて……。
『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』は尖りがありつつ、なんというか「やわらかなパルス」みたいなものを同時に発しているというか(笑)。多様性というところも、先ほどお話ししたように、チームの各スタッフが僕とは異なる周波数を出してくれて、そこがよかったんだと思うんです。
──だからひとりでも多くの人に『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』を遊んでほしいんですよね。「このゲームのおもしろさをもっと伝えなきゃ」というゲームメディアとしての使命感を感じたので。
須田氏:
うちのスタッフがAIに「『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』はどれくらい売れますか?」と質問したら、「現在の評価なら100万本は突破します!」と回答してきたらしいので「AI、嘘をつかないでくれよ」と思っています(笑)。
──(笑)。先ほどの質問と被っちゃうかもしれませんが、須田さんはビデオゲームにおける時代性みたいなところをどう捉えているのか、もう少し深掘りさせてください。
須田氏:
うーん、時代性って難しいですよね。若いゲーマーの方にどうやって届けるのか。そこはいつも意識するのですが、なかなか答えは出ないですよね。
たぶん、グラスホッパーは時代性を考えないスタジオなんでしょうね、きっと。もちろん意識はしているんですけれど、「意識する程度でいいのかな」と僕自身は思っています。
僕の中では古いものが好きな面があって。たとえば、仕様に関しても古いものを使いたくなるんですよね。でも、その仕様は時代と合っていない可能性もあるわけで。
そこは若いスタッフに「どう思う?」と積極的に聞いているんです。「絶対やめたほうがいいです」と言われたらもちろんやめるんですけど、なかには曲げられないものもあったり。
須田氏:
でも、若いスタッフの感性だったりを取り入れていかないと、古いものになってしまって、広く届かないんですよね。『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』も、僕の感覚だけで作っていたらこれほど広くは届かなかったかもしれない。
だから、時代性を意識はしているんですけども、やっぱり見るべきはゲーマーの方、遊ぶ方たちなんですよね。正直にいえば、マーケットがどうとか、業界がどうとか、っていうことは僕にとってはどうでもよくて……。
──イチゲーマーとして、須田さんにはそこを貫いてほしいと思っています。
須田氏:
日本のゲームがどうとか、海外のゲームがどうとか。そんなのは正直な話、知ったこっちゃないんですよね。ゲーマーの方たちがどういうものをおもしろいと思ってくれるか。そこを考えて、これからもゲームを作っていければいいなと思っています。
「須田ゲー」はもともと褒め言葉ではなくて、7割が「ディス」。だからその意味を減らして、最終的には言葉そのものを壊したい
──「須田ゲー」と呼ばれることに対して、ご自身はどう思われていらっしゃるんですか?
須田氏:
正直な感覚で言うと、最初のころは褒め言葉じゃなかったですよね(笑)。クソゲーの要素が混じっていたというか。でも、よくも悪くも突出した存在感のあるゲームみたいなことを指しているんだろうなと。
だから褒め言葉3割、ディスが7割というか(笑)。でも、タイトルを重ねていくごとに、ちょっとずつディスを減らしていっていると思うんです。
僕自身の中では「須田ゲー」という言葉への感覚はそれくらいしかなくて。ディスをいかに消せるのか。同時に、自分自身が今後の作品で「須田ゲー」という言葉そのものを壊したいと思っているんですね。
じつは『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』も、タイトルアナウンスのときに最後までグラスホッパーの名前は出さないようにして、どのスタジオが作ったのかわからない映像にしようと考えたんですね。なんですけども……映像が流れてから開始3秒でグラスホッパーだとバレているんですよ。
──(爆笑)。
須田氏:
シットコム風のファミリーアニメにしたのに、すぐにバレたんです(笑)。「最初の「コケコッコー」でわかりましたよ」と言われたり。ロミオの顔に機械がぶっ刺さった瞬間に、海外の方が「SUDA!?」と盛り上がっていて(笑)。
すぐにバレたのはショックでしたね。だから、残念なことに『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』では「須田ゲー」を壊せなかった(笑)。壊すことに失敗しているんです。ですので、つぎこそは「須田ゲー」という言葉を壊したい。最後の最後で「ええっ? これグラスホッパーなの⁉︎」と思わせるゲームを作りたいですね。
ただ、海外でも「SUDAGAME」という言葉が浸透してるらしいからなあ(笑)。
──たとえば『チェンソーマン』ってめちゃくちゃ人気があるじゃないですか。僕は須田さんのタイトルを構成している要素って、『チェンソーマン』と差異がないと感じているんですよね。シリアスとギャグの混ざり方とか、突き抜けた感じとか、映画のオマージュの使い方とか。なので、ちょっとしたきっかけやエッセンスで一気に爆発するポテンシャルがあると思っていて。だからこそ、「須田ゲー」という言葉で須田さんのゲームが短絡的に語られてほしくないんですよね。
須田氏:
そう言っていただけるのはとてもうれしいです。一刻も早く「須田ゲー」という言葉を壊して、上書きしていきたいですね。
──では最後に『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』開発の想いと、今作に興味津々な方々へメッセージをお願いします。
須田氏:
『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』はいろいろな感情とさまざまな時間軸の中で作ってきたゲームなんですね。作っていく過程の中でNetEaseもいろいろあって。でも、振り返ってみると、おもしろい時間を過ごせたと感じているんです。
ただ、本音で言うと東京ゲームショウだったり、gamescomだったり、僕らは多分、そういった大きな会場で『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』単独の巨大なブースがあり、試遊台がいっぱいある中でプロモーションを行ってゲームを発売する、というイメージがあったというか。そこに向けて作ってきたというか。
結果的に、そのイメージとはまったく違う形となり、セルフパブリッシュとなりました。2025年11月にセルフパブリッシュでいくことが決まり、そこから駆け抜けての2026年2月発売となったので、本当に短い時間の中での発売になったんですね。かなり濃厚な時間でしたし、想像以上のたいへんさもいろいろありました。
いまお話したようなNetEaseグループだからこその規模感、それが自分たちが想像していた発売の形、それが理想だと思っていたんですけども……いま振り返ってみるとそれは「理想じゃなかったのかもしれない」と思っていて。
須田氏:
今回、セルフパブリッシュで自分たちがコントロールできる中でやっていくおもしろさみたいなものを、強く実感できたんですよね。……できたんですけど、どこかでやっぱり巨大なブースを見ると「悔しい」という思いはあって。ああいう場所に出展されるゲームを作りたいという気持ちはまだ燻ってはいるんですね。
自分たちで『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』を発売できたという、それ以上の価値が生まれたと思ってはいるんですけど、まだ燃えカスみたいなものがあるんです。いまは「そのエネルギーをもう一回点火させて、つぎの作品を生み出す源泉にしよう」となっているというか。それくらい、『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』の経験がおもしろいものだったんですよ。
そこは本当にNetEaseに感謝しています。彼らから与えてもらったクリエイティブフリーダムというものが『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』を構成しているんですよね。本当に一切口を出されることなく……あ、「マスクのデザインをもっとシンプルに」とだけは言われましたけども(笑)。
本当の意味でのクリエイティブフリーダムをひさしぶりに味わわせてもらったんですね。予算とかスケジュールとか、そういったこれまで達成できなかった想いみたいなものを含めてすべて消化できたというか。……いや、すべてじゃないんですけども(笑)。かなりの度合いで消化できたっていうのが『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』なんです。
『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』は不思議なゲームというか……。僕らは『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』をすでにプレイしてくださった方と、たぶん同じ感情を抱いているんですよね。ゲームを終えたあとの読後感みたいなものがまだ残っている感じがしていて……。
それって、おそらく自分たちがすべてハンドリングして作り上げたからこそだと思うんです。ですから、まだプレイしていない皆さんに、ぜひこの感覚を届けたいなと思っています。
「ほかのゲーム」という言葉が適切かどうかはわからないんですけども、ほかのゲームとは違う味わいがあって、違う感情を引き出すゲームが作れたと思っています。
ぜひこの特殊な周波数に合わせてもらって『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』を遊んでほしいですね。いますぐ買ってもらってもうれしいですし、いずれセールもするので、セールまで待ってもらってもかまいません。とりあえずウィッシュリストに入れるだけでも大丈夫です。ただ、必ず1年以内に遊んでほしいですね(笑)。
『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』がいかに多様性を含んだゲームなのか。文字ではない手段でお伝えすると、本記事内に散りばめた画面写真はいずれも『ロミオ・イズ・ア・デッドマン』のスクリーンショットだ。今作をプレイしていない人が見たら「え? すべて同じゲームのスクショなの?」と驚くのではないだろうか。
このように、ビジュアル、UI、物語、手触り、セリフ回しにいたるまで、高い完成度を誇るのが今作なのである。何度でも言おう、今作はすべてのゲーマーにプレイしてもらいたい傑作である。須田氏の発言にあったように「つねに新しいものを」、「先の展開が見えないものを」という情念がゲームの形となっている、唯一無二の味がするエンターテインメント作品なのだ。
「須田ゲー」という言葉をネガティブに受け取ってまだ遊んでいない方は、ぜひこの機会に手に取っていただきたい。おりしもSteamで『ホットライン マイアミ』とのコラボやコスチュームチェンジ、フォトモードなどが入るアップデートがあるとの知らせがあった。同時にセールも開始。手に取るには絶好の機会だろう。
「自分自身が今後の作品で「須田ゲー」という言葉そのものを壊したいと思っているんですね」。そう語る須田氏の次作にも期待したい…………と、本文には掲載しなかったのだが、インタビュー中に「年内に新作を発表できると思います。アクションです」という発言があったことを最後に記す。







