皆さんはスマホでアプリをダウンロードするときに、どのアプリストアを使うだろうか?
「どういうこと?」と疑問に思われる方も多いだろう。つい最近まで、この質問は使用している端末を知るためのもの、つまりAndroidかiPhoneかを識別するためのものだった。AndroidであればGoogle Play、iPhoneであればApp store。そのどちらかのプラットフォームを利用してアプリをダウンロードするのは、当然の前提になっていた。
そんな国内デジタルプラットフォーム事業に新たな選択肢として登場したのが “発見型”アプリストア「あっぷアリーナ!」だ。Google Playでも、App storeでもない、新たなプラットフォームなのである。
GoogleとAppleの“同業他社”として名乗りを上げる先見性はもちろん、驚くべきはアプリストア開設までのスピード感だ。「あっぷアリーナ!」の運営チームが、ベースとなる海外サービスの担当者とコンタクトをとり、本格的に交渉を開始したのが2025年の9月。
もとになるサービスがあったとは言え、わずか半年でプラットフォームをひとつ作ってしまったというのである。
「なぜ、ここまでのスピード感でアプリストアに参入したのか?」「そもそも“発見型アプリストア”とはなんなのか?」。そういった疑問を解消するべく、電ファミ編集部は「あっぷアリーナ!」の仕掛け人・橋本雅斗氏へのインタビューを敢行。聞き手として元ソニー・インタラクティブエンタテインメント、株式会社yosp代表取締役の吉田修平氏をお招きし、「あっぷアリーナ!」への疑問を橋本氏にぶつけていただいた。

ソフトバンク株式会社のグループ会社BBSSによる、新たなアプリストア開設。 その裏には「10年に一度」レベルの法改正があった
吉田修平氏(以下、吉田氏):
私は家庭用ゲーム機の仕事をしてた時間が長く、モバイルアプリのビジネスは専門外なので、まず率直な疑問をぶつけさせていただきます。なぜいま、「あっぷアリーナ!」という新しいアプリストアを立ち上げようと思ったんでしょうか。
橋本雅斗氏(以下、橋本氏):
タイミング的には「法改正があった」という部分が大きいです。
吉田氏:
ここでいう「法改正」とはつまり、2025年12月に施行された「スマホソフトウェア競争促進法」【※】のことですね。これによって、プラットフォーマーの公式ストア以外のサードパーティストアも認められるようになった、と。

橋本氏:
おっしゃるとおりです。「あっぷアリーナ!」の詳細をお話する前に、私の経歴を軽くお話させていただくと、もともとソフトバンクの子会社で働いていて、ずっとIT畑で生きてきました。あとは、ソフトバンクショップでの携帯アクセサリー等の販売ビジネスの立ち上げにも携わっていました。
そういう形で、モバイルビジネスにはずっと関わってきていたのですが、「アプリストアを立ち上げよう」と考えるいちばん大きなきっかけになったのが、「法律が変わります」というアナウンスが出たことでした。こういった「市場開放型の法律改正」というのは、10年に1度あるかないかというレベルの大きな話なんです。
法律の変更というのはひとつの大きなビジネスチャンスになります。そういった観点で見たときに、「これはかなり大きな動きがあるんじゃないか」と感じました。
「あっぷアリーナ!」は、構想を立てた当初、社内での反対意見もあったのですが、自分の年齢を考えると「あと10年ぐらいかな」という感覚もあったので、エンタテインメント業界でチャレンジしてみたいと思いました。
吉田氏:
橋本さんならあと30年はいけると思います(笑)。
橋本氏:
ありがとうございます(笑)。そういった背景があったので、法改正を前にいろいろと調べ始めました。そしてゲーム業界の現状やさまざまな意見を知っていくうちに、「今回の法改正で大きなチャンスが生まれる」という確信が持てたんです。
先ほどご紹介した店頭でのアクセサリー販売のように、私は新規事業の立ち上げをいろいろなパターンで行ってきた経験があります。その経験を活かして「あっぷアリーナ!」を立ち上げることで、結果的にゲーム業界が抱えている課題の解決や、ゲームを販売するベンダーさんに対してプラスアルファを提供できる形になれば、ということを目指しています。
また、単純にビジネスの話としてではなく、私自身が徹夜して遊ぶほどゲームが好きというのもあり「いままで楽しんできたゲームの世界に貢献できることがあるんじゃないか」という思いもあって、「あっぷアリーナ!」を立ち上げたいと考えました。
TGSで挨拶を交わして、半年後にストアをオープン? ポルトガル生まれの新興プラットフォーム「Aptoide(アプトイド)」との電撃連携
吉田氏:
なぜ、Aptoide(アプトイド)さん【※】との提携というやり方で参入しようと決めたのでしょうか。

橋本氏:
これに関しては「自分たちだけでやるには業界が違いすぎる」という判断がありました。
Appleにしても、Googleにしても、既存の事業者さんは非常に大きなグローバルカンパニーで、仕組みも全部持っています。彼らが持っているものを、すぐに自分たちで用意するというのは高いハードルがあるということはよくわかっていました。
法律が変わるとわかってから実際に施行されるまで、それほど時間はなかったので、アプリストア事業へ参入することを検討し始めた時点で、「いちから自分たちで作るというのはそもそも無理だろう」というのが前提でした。
ただ、日本で法律が施行される前に、ヨーロッパで先に同様の法律が施行されていることも知っていましたので、調べていくうちに「ヨーロッパですでに展開しているAptoide(アプトイド)という会社がある」とわかったんです。
とはいえ、相手がポルトガルの会社ということもあり、「どうやってアプローチするんだ?」となったんですね。「海外の人と知り合うのであればLinkedInがいいかな?」と思って調べてみたら、担当者のページが見つかったので、そこからダイレクトにご連絡しました。
吉田氏:
直接アプローチされたんですね。
橋本氏:
はい。意外と話がスムーズに進んで、こちらのやりたい要望と向こうのやりたいことが合致したので、「いっしょにやれるかもしれない」と考え、細かいコミュニケーションを取り始めました。
そうやって彼らの仕組みをいろいろと聞いているうちに、「これは日本でもやれそうだ」と確度が高まっていきました。しかし、「Aptoide」といっても日本ではまだまだ知られていないのが現状です。
ユーザーさんに安心してもらうためにも、「日本の会社がちゃんと運営していますよ」というのは伝えていかなければいけないと感じたので、Aptoideをベースとしつつ、カスタマイズを行って「あっぷアリーナ!」を作り上げていきました。

吉田氏:
Aptoideさんと「やりましょう」となってから、3月31日のスタート(あっぷアリーナ!はiOS版が3月31日、Android版が5月1日に配信)まで、どれくらいの時間で準備されたんですか。
橋本氏:
嘘みたいな話ですが、半年です。最初にご挨拶したのが昨年の9月の東京ゲームショウ会場でした。
吉田氏:
えっ?
──わずか半年で、アプリストアというプラットフォームそのものを準備したのですか?
橋本氏:
そうなんです。ですので、本当にたいへんでした(笑)。
当初、昨年末のオープンも考えていたのですが、さすがに間に合わず……。スピード感を重視したため、現在はちょっと中途半端なストアになってしまっていることも認識しております。タイトルラインナップの充実を含め、現在注力している状況です。
吉田氏:
あっぷアリーナ!はUIがすごく日本的ですけど、ゲームのラインナップは現状ですと海外のものが中心ですよね。

橋本氏:
そうなんです。まずは形を整え、とにかくアプリストアをオープンすることを重視しました。
「新しいストアを出したよ」というところをアピールし、そこからタイトルを集めるという方向に舵を切ったんです。それでも、ベースがしっかりできていたこと、Aptoide側が日本市場に対しての興味が強く、協力的だったこともあり、なんとか形にすることができました。
いま振り返っても「半年で新しいアプリストアをオープン」するのはあり得ないと思いますけど、なんとかやり遂げました(笑)。いい経験でしたが、本当にたいへんでしたね。
世の中には“日の目を見ていない良いゲーム”がたくさんある。目指すのは、良ゲーとプレイヤーをつなぐ「発見型アプリストア」
吉田氏:
あっぷアリーナ!は「発見型アプリストア」と公称していますよね。ここには既存のストアへの課題と、その課題を解決しようという意識を感じるんですが、いかがでしょうか。
橋本氏:
ひとつには、すでに圧倒的なシェアを持ち、経験も豊富な既存のストアと同じやり方では差別化できないという実情があります。ですので、ほかの価値を提供できる方法を考える必要がありました。
もうひとつは、吉田さんのおっしゃるとおり、既存ストアでゲームを探そうとすると、どうしても「ランキング」に頼ってしまうということへの問題意識があります。
私自身も、ランキングを見て「上位にあるタイトルだから、とりあえずやってみよう」というやり方が多かったんですね。しかし、ランキングには上位200位までしか掲載されておらず、それ以下はわからない状態なんです。
一方で、SNSなど口コミで広がっているタイトルを遊んでみると、それがおもしろかったり。「ランキングにはなかったけれど、こういうタイトルもあるんだ」という感覚が、ずっと自分の中にありました。
あくまでも私個人の感覚でしかありませんでしたが、ゲーム業界を勉強していく中で実際に「日の目を見ていないけど、いいゲームがすごくたくさんある」ということがわかってきたんですね。
ですので、そういったキュレーション的なところにフォーカスを当てて、既存ストアとの「差別化のひとつ」にもできるのではないか、と考えたんです。みなさんがたどり着けていないアプリを届ける。そういう意味で「発見型」という名称を使っています。
「アプリの届け方として、どういったやり方がよいのか」というのは、最終的にはユーザーさんが判断する部分となりますが、どのやり方をするにしても「プレイして楽しかったかどうか」という点が重要だと思っています。
しっかりと楽しいゲームを紹介していければ、自然とゲーム好きの人たちも集まってくるでしょうし、そこからコミュニティができて、さらに広がっていくということも必然的に発生していくだろうと。そういう期待も込めて、「発見型」をコンセプトに進めることにしました。
吉田氏:
あっぷアリーナ!はアプリ内に「編集部」のページを設け、ソムリエのようにおすすめのゲームを記事として紹介していますが、その記事を通じてユーザーさんにいいゲームに出会っていただく、というコンセプトですね。
橋本氏:
単にランキングを見せるのではなく、運営側から積極的に記事を書くなど、さまざまな手段でゲームを紹介し、ユーザーさんに発見してもらうことが狙いです。
吉田氏:
アプリ内でライターさんの記事が出てくるのは、すごく印象的ですよね。
橋本氏:
こういった運営側からのゲーム紹介というのは、既存の事業者さん、ストアさんはまずやらないことだと思います。インディータイトル特集などがあっても、一過性のものに留まっている印象です。
あっぷアリーナ!はそういった形ではなく、しっかりと作品にフォーカスを当て、表に引っ張り出していきます。それをきっかけに、タイトルとプラットフォームがいっしょに育っていければ、それがいちばんじゃないかと思っています。そして、それを続けていくことでユーザーのコミュニティが広がり、ビジネスもついてくるのではないかと考えています。
吉田氏:
ランキングではなく、「人がおすすめするキュレーション」というところに注目されているのは、どういう理由からなのですか。

橋本氏:
ゲームって、知らなかったら遊ばないと思うんですね。また、プレイしたときにおもしろいかどうかというのは個人によって違うと思うんです。
ですが、知見のある人たちの意見、豊富なゲーム知識のある方がおすすめするゲームをプラットフォーム内でお伝えすることで、「この人がおもしろいと言っているなら、そのタイトルをやってみようかな」と、早い段階でリーチできることもあるのではないかと考えています。
あと、ストアは外から誘導されてきてダウンロードしに行くだけのサイトになりがちですよね。「ダウンロードやアップデートのためだけにしかストアを開かない」というのはもったいないと思うんです。
私たちとしては、ストアを見に来ればいろんな情報が入手できて、回遊していくうちにつぎにやりたいゲームが見つかるような場所を作りたいんです。
「あっぷアリーナ!」は現状では配信タイトルがまだ少ないのでそこまで広がってはいませんが、最終的にはユーザーさんが毎日1回「ゲームを起動するついでにストアも起動して見に行こう」と思っていただける中身にしていく予定です。
ストアが充実していれば、よりユーザーさんとの接点が増えていきますし、ユーザーさんとメーカーさんをつなげる接点も増えていきます。キュレーションも含めて、その形を目指してやっていくことで、お互いにメリットが生まれると考えています。
クラウドを活用した“15分間試遊機能”により、「何十分も掛けてダウンロードしたのに面白くない!」という後悔も過去のものに?
吉田氏:
あっぷアリーナ!の「15分試遊機能」は、アプリをダウンロードしないままクラウド上で遊べるという、ほかのアプリストアにはあまりない機能ですよね。これはもともとAptoideさんがやられていたことなのでしょうか。
橋本氏:
Aptoideから既存事業社との差別化のアイデアをいろいろと提示いただいたのですが、この「15分間試遊機能」については、最初に詳細をうかがったときに「すごくいい」と感じました。
最近のゲームは容量が大きくなっており、スペックや環境にもよりますが、ダウンロードだけでもある程度の待ち時間がかかってしまいます。
「このゲームをやろう」とダウンロードしたときに、ゲームを始めるまでに時間がかかってしまう。そして、すごく期待してダウンロードしたのに、プレイしてみたら予想と違ったり、自分に合わなかったりでプレイをやめてしまうことがありますよね。そうなると、どうしても「ダウンロードが終わるまで待っていた時間がもったいなかったな」となってしまう。
そういった気持ちにならないよう、まずプレイしてそのゲームの魅力に触れていただき、ユーザーさんに判断していただく。そのうえでダウンロードしていただければストレスもなく、快適な体験につながると考えました。
「15分試遊機能」は画期的な機能であり、ストアのいち推しポイントです。まだ対応しているゲームの種類は少ないのですが、今後より多くのタイトルが対応するよう、Aptoideと連携しながら進めています。

吉田氏:
対応しているゲームと対応していないゲームが混在しているのはどういう理由なんでしょうか。
橋本氏:
技術的な問題もありますが、基本的には容量の問題が大きいです。
容量の大きなゲームは優先的に対応していきたいと思っていますが、全部を対象としてしまうと負荷が大きすぎるため、まずはユーザーさんが特に興味を持っていただけそうなタイトルを優先して対応していこうと考えています。
吉田氏:
「15分試遊機能」に対応させるためには、ゲームデベロッパーさんの開発が必要になるのでしょうか? それともあっぷアリーナ!側での対応となるのですか?
橋本氏:
あっぷアリーナ!側が対応しますので、ゲームデベロッパーさん側の開発は不要となります。
Aptoide側でタイトルに合わせてひとつひとつ開発が必要になりますし、クラウドのためサーバー負荷が若干かかってしまいます。現在は少し制限を入れている状況ですので、アプリが増えていくとともに、試遊機能に対応したタイトルも増やしていく予定です。
吉田氏:
発見型ストアの中からさらに選ばれたタイトルにこの機能が追加されるということであれば、対応しているタイトルはより一層、「編集部おすすめのタイトル」だとユーザーさんに強く感じてもらえそうですし、そうなると開発者側としてもとてもうれしいですよね。
橋本氏:
そういう形にしていきたいですし、頻繁に入れ替えを行いながら、さまざまなタイトルの対応を目指していきます。
