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帰ってきた名企画! ベストセラー本“ホラー”ゲーム化会議『人生がときめく片づけの魔法』 【麻野一哉×飯田和敏×米光一成】

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ゲーム化会議_第1回

 2002年に発売された、知る人ぞ知る名著――『ベストセラー本ゲーム化会議』

ベストセラー本ゲーム化会議
ベストセラー本ゲーム化会議』 麻野 一哉・米光 一成・飯田 和敏 (原書房・2002)

 まさにタイトル通り、『チーズはどこへ消えた?』など当時のベストセラー本をゲームにする目的のもと、現役のゲームクリエイターがブレインストーミングをする様子を記した本である。

 メンバーは『ぷよぷよ』開発者でお馴染みの元コンパイル・米光一成『アクアノートの休日』などの独創的なゲームを開発してきた飯田和敏、そしてチュンソフトで『かまいたちの夜』『街』などの名作サウンドノベルのシナリオや監督を務めてきた麻野一哉の3人という豪華な顔ぶれ。第一線で活躍してきた開発者がゲームを妄想する姿をそのままエンターテイメントにしてしまった伝説の企画である。

 さて、今回そんな『ベストセラー本ゲーム化会議』(以下、BGK)の著者3人に、電ファミニコゲーマー編集部がホラーゲーム特集の一環としてお願いしたのは、ベストセラー本の「ホラーゲーム化」会議としての復活。全3回の連載初回となる今回は、お片づけ本として空前のベストセラーとなった、“こんまり”さんこと近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』を採用。

 片づけ指南書として海外でもベストセラーになり、ついには2015年には“こんまり”さんがTIME誌の「世界に影響を与える100人」に村上春樹とともに選ばれる快挙を成し遂げた一方で、読書好きの間では「ゲラゲラ笑えて面白い」という、通常“お片づけ本”では出てこないはずの評価を受ける、この謎の大ベストセラー。

 果たして、復活を果たしたBGKの3人は、どう料理してみせるのか!

テキスト入ります
『人生がときめく片づけの魔法』 近藤 麻理恵(サンマーク出版・2011)

 2011年に発売された、片づけコンサルタント・近藤麻理恵の処女作にして、全世界シリーズ累計600万部を突破した、21世紀の日本を代表する大ベストセラー。

 幼少期からの大量の“お片づけ本”の読書経験や、自身のコンサルタント体験にもとづき、モノを捨てる際の基準を”ときめくかどうか”で行うことを提唱。そのシンプルかつ魅力的なお片づけ術が日本のみならず、世界中で話題を呼んでいる。

 その一方で、本の中に散りばめられた、彼女自身の子供時代からの常識外の”お片づけエピソード”や、お片づけを巡るほとんど「哲学」の領域に達した(?)独自の見識も大きな魅力になっており、読み物としての面白さも一級品。

 TIME誌に「アーティスト部門」で選ばれた、”こんまり”の独自の世界が広がっている一冊。

構成/稲葉ほたて
カメラマン/佐々木秀二
イラスト/negiyan


BGKは出版業界の”地雷処理班”だった?

米光一成(以下、米光):
 今回は、電ファミニコゲーマー「ホラーゲーム特集」に合わせて、『ベストセラー本ゲーム化会議』が“ホラーゲーム 縛り”で復活したんだけど編集部が選んでくれた本が……。

飯田和敏(以下、飯田):
 これは、もう絶叫間違いなし!
 ……なんですよね?

一同:
 (笑)

電ファミニコゲーマー編集部:
 ど、どうなんでしょう……(笑)。

選んだのは、『人生がときめく片づけの魔法』『東京タラレバ娘』『これからの「正義」の話をしよう』の3冊。もちろん、通常はホラーに分類されることはありません。(編集部)
選んだのは、『人生がときめく片づけの魔法』『東京タラレバ娘』『これからの「正義」の話をしよう』の3冊。もちろん、通常はホラーに分類されることはありません。(編集部)

飯田:
 かつてわれわれは畑違いであることをいいことに、後先考えていなかった。もうね、出版業界の常識を知らんぷりして”地雷”をあえて踏みにいく捨て身の“地雷処理班”だった。

米光:
 「捨て身」というか、単に「無知」でしょ。言いたい放題言ってただけじゃん(笑)。

飯田:
 でも……それを僕らは果たして、いまも同じテンションでおこなうことができるのだろうか? これは大きな問題ですよ。

米光:
 いいんじゃないの。
 なんかダメなの。しがらみとかできたわけ?

飯田和敏(いいだ・かずとし)  1968年生まれ。多摩美術大学卒。  卒業後アートディンクに就職、『アクアノートの休日』『太陽のしっぽ』を手がける。 その後、独立して有限会社バーラム(現・有限会社バロウズ)を設立、『巨人のドシン』を制作。  現在は株式会社グラスホッパー・マニュファクチュアに在籍。立命館大学映像学部インタラクティブ映像学科教授も務める。

 飯田和敏(いいだ・かずとし)

 1968年生まれ。多摩美術大学卒。
 卒業後アートディンクに就職、『アクアノートの休日』『太陽のしっぽ』を手がける。 その後、独立して有限会社バーラム(現・有限会社バロウズ)を設立、『巨人のドシン』を制作。
 現在は立命館大学映像学部インタラクティブ映像学科教授。 

飯田:
 それなりに、できましたよ(笑)。

麻野一哉(以下、麻野):
 えー、俺は今のところ全くないな。

米光:
 俺も全然大丈夫なんだけど……飯田さんに何のしがらみがあるの?

飯田:
 いや、”こんまり”さんの本を出してるサンマーク出版に怒られたら……とか思いませんか。あとはTwitterで炎上したりとか。当時の僕はオフェンスタイプだったけども、今や完全にディフェンスタイプですからね。

米光:
 まあ当時とは環境は変わったよ。しかも、今回はWebだからねー。でも、リスクを言い出したら、昔からあったじゃない。
 ともかく、さっそく”こんまり”さんの本から始めようと思うんだけど……。

飯田:
 ……いきなりここから口火を切るわけですね。
 まあ、“こんまり”は……ナイ!

一同:
 (笑)

米光:
 この流れでいきなりdisりたいの!? ねえ、そこから入るの(笑)?

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米光「”こんまり”信者になりそう」

飯田:
 ええ、(にっこりしながら)僕は“dis派”です

米光:
 ああ、そうなの……。

飯田:
 はい、では「是」か「非」かの二択からスタートしましょう。僕は「非」です(笑)。

米光:
 うーん、俺は諸手を挙げて「是」って言えると幸せなんではないか、と。

米光一成(よねみつ・かずなり) 1964年生まれ。  1987年に専任の企画職としてコンパイルに入社。後に同社の看板タイトルとなる『ぷよぷよ』『魔導物語1-2-3』を監督。  1992年にコンパイルを退社後はスティングに移籍し、2001年にスティングを退社後しフリーランスに。  ゲーム制作以外にも、ゲームをはじめとするサブカルチャーやビジネスに関わるコラム・書籍の執筆、カルチャーセンターの講師など、幅広く活動している。デジタルハリウッド大学客員教授も務める。

米光一成(よねみつ・かずなり)

 1964年生まれ。1987年に専任の企画職としてコンパイルに入社。後に同社の看板タイトルとなる『ぷよぷよ』『魔導物語1-2-3』を監督。1992年にコンパイルを退社後はスティングに移籍。スティングを退社後はフリーランスに。
 ゲーム制作以外にも、ゲームをはじめとするサブカルチャーやビジネスに関わるコラム・書籍の執筆、カルチャーセンターの講師など、幅広く活動している。デジタルハリウッド大学客員教授も務める。

 

米光:
 “こんまり”信者になりたい。もちろん、ツッコミどころも沢山あるんだよ。でもトータルとして、この世界観を習得できれば片づいちゃう。片づけるためにも、ときめきの世界へ行きたい。

飯田:
 よし、引き留めよう(笑)。

米光:
 こんまりさんのやってることは「心がときめくモノは残して、心がときめかないモノは捨てていく」――というシンプルな話なんだよ。
 お姫様になりなさいって発想。「ケーキだけでいいじゃない?」みたいな。「必要なもの」を残したいのではなくて「素敵なもの」だけにしたい、世界をときめくピンク色だけにしたい。ソフィア・コッポラ監督『マリー・アントワネット』のケーキの部屋にしちゃいましょうってことだよね。

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飯田:
 じゃあ、それがこの本の「ときめく」なの?

米光:
 俺たち“理屈男子”には、「ときめき」という言葉は辛いけど、言い換えれば、「一つ一つのモノと向き合って、自分で責任持って判断して捨てろ」ってことを「ときめき」で決めろって言ってるだけだろうから。

飯田:
 つまり、男子的には「YAZAWA入ってるかどうか」ということだよね(笑)。

米光:
 俺の中にYAZAWAの成分が少ないからわかんないけど(笑)、そういうことかもね。要は一つ一つのモノと向き合って、「こいつは俺のマブ達。あいつは違うから出てけ」という判断をする。実際、彼女は「モノと対話しよう」と言うんですよ。そうすると、それが何のためにあるかわかるから、と。

麻野:
 面白いところだよね。日本人には古びたものが妖怪になるという発想があるけど、彼女の考え方もそうだよね。モノが多すぎると妖怪だらけになるから、まずそこから捨てた方が幸せだし、そこで残すのは「良い妖怪」だけ、という。

米光:
 俺なりに“極端に”要約すると、彼女の主張は「部屋の中を“神社”にしよう」という話なんだよ。すごく日本的。
 でも、だから日本でベストセラーになっただけでなくて世界で600万部売れて、ついにはTIME誌の「世界で最も影響力のある100人」に村上春樹と並んで選ばれてしまったんじゃないかな。

飯田:
 まあ、僕の手元にある本は77刷ですからねえ。僕からすれば、この本が売れてるのがそもそもホラーですよ(笑)。

麻野一哉(あさの・かずや) 1963年生まれ。  1987年にチュンソフト(現スパイク・チュンソフト)に入社。『弟切草』『かまいたちの夜』『街』などのサウンドノベルシリーズや、『不思議のダンジョン』シリーズといった、ゲーム史の転換点となる作品の礎を築いたゲーム開発者。  2002年にチュンソフトを退社した後は,フリーのクリエイターとして活動している。

麻野一哉(あさの・かずや)

 1963年生まれ。1987年にチュンソフト(現スパイク・チュンソフト)に入社。『弟切草』『かまいたちの夜』『街』などのサウンドノベルシリーズや、『不思議のダンジョン』シリーズといった、ゲーム史の転換点となる作品の礎を築いたゲーム開発者。
 2002年にチュンソフトを退社した後は,フリーのクリエイターとして活動している。

麻野:
 読んでみるとわかるんだけど、少しスピリチュアルが入ってる。でもアメリカ人って、禅とかが好きじゃない。彼女のメソッドにはそのノリがあったんだと思う。

飯田:
 でも確かに、読み物としてパンチ力が抜群なのは認めざるを得ない。東京に来る新幹線の中で読んでて、スイッチが入ってゲラゲラ大爆笑しちゃったもん。隣に座ってるおじさんがチューハイ飲んでて、僕はこれ読んでて、二人ともゴキゲンですよ(笑)。

 僕がハマったのは、服の話が書かれたページからですね。服を畳むときに「立てる」習慣をつけるという話があるんだけど、その前に畳むことで服に「エネルギーを注ぐ」と書いてある。もう、こっから笑いのスイッチがドンドン入って止まらない。

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米光:
 一番すごいなと思ったのはラスト。本文の最後に「本当の人生は「片づけたあと」に始まるのです」って書いてあって、その通りとうなづいてたら、そのあとにあるあとがきに、「片づけをしすぎて病院に搬送された」って、
 「お前の人生、まだ始まってもないよ!」と思いました。さすがにこれは軽々しく乗っかっていいのかと不安がよぎる。

麻野:
 「片づけすぎて、首が上がらなくなって、病院に搬送された」ってヤツね? 普通はそうなったら、もうやめようかと思うもんね。そもそも小学生時代から片づけが趣味だったというのは、かなり変な子でしょ(笑)。特異な人だと思う。

飯田:
 いやもう、ほとんど“片づけパラノイア”の世界ですよね。その意味では、実のところ彼女の話はこの2ページで完結してると言ってもよくて、その世界観を丁寧に書くと、このくらいの分量の本になるとも言える。

米光:
 ともかく、この本は確かに“片づけ術”の本ではあるけど、もっと言えば「この世界観になれば部屋は片づく」という世界観を語った本なんだよ。しかも魅力的な世界観でさ。

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麻野「”こんまり”のお陰でサイン本を捨てれる(笑)」

飯田:
 麻野さんはどうなんですか?

麻野:
 俺は「是」というか……実は、そもそも彼女の話の7割くらいは実行してたかな。

飯田:
 おお、実践者だ。

麻野:
 彼女が一回やってやめたと書いてた、「調味料をターンテーブルに置いて回しながら使う」とかも、俺はすでに実践してる(笑)。

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 まあ、そもそも要らないものは持たないタイプなんです。ただ、10割じゃなくて、“7割の実践”と言ったのは、本ね。今、すべての本を処分するモードに入ってるんだけど、全部読み直してからやってるので、アホみたいに時間がかかる。

米光:
 一番驚愕したのは「本を捨てるときに、中を見ちゃいけない」と書いてあったこと。
 表紙をポンポンと触って、ときめいたら取っておいて、ときめかなかったら捨てる。なぜ本の中を見ちゃいけないのかと言えば、そうすると必要かどうかを考えてしまうからだ、と彼女は言うんだよ。普通は部屋の中にあるものって、「ときめくかどうか」じゃなくて、「必要かどうか」で存在していると思うじゃない。だから、「いや、そこは本の中を見て考えたいよ」と思うんだけど……。

飯田:
 いやもう、僕的にはあり得ないですよね。

麻野:
 でも、米光さんの片付かない理由も、どうせ9割は本でしょ。

米光:
 そうなんだよ。結局そういうところが、今の俺の部屋が片づいてない理由なんだよ。
 実際、必要かどうかで取っておくし、「将来必要になるかも……」という程度のものを、そうなりもしないのに取っておいてる。

麻野:
 そうなると、片付かないでしょ。
 俺は、この本で「人からもらったサイン本を捨てろ」と言われて、気が楽になったなあ(笑)。ずっと、どうしても気になってて、サインのところだけ切って捨てたりしてたからね。

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米光:
 それ、もっとひどいでしょ(笑)。

麻野:
 それやらないとバレるんだよ。たまにあるんだよ。「◯◯さんへ」って書いてあるのをブックオフで見かけて、「あ、もらったの捨ててるんだ」ってのが。

米光:
 麻野さんは証拠隠滅してるってことじゃん(笑)!

麻野:
 だからブックオフに持ってけないから、サイン本は困るんだよ。

一同:
 (笑)

米光:
 ついにこの人、「困る」って言っちゃったよ(笑)!
 俺は切ったり捨てたりできないから、ちゃんと取っておいてるからね。

麻野:
 でも、ここで言っておくと、もう誰もくれなさそうじゃない? むしろ助かるよー。20年以上置いてたサイン本とか、やっとこの前捨てたからね。

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飯田「”ときめき”はノリなんじゃないか」

飯田:
 僕としては、「ときめく」ことの内実が語られないのが気になってしまうんですよ。
 「ときめくのなら置いておきましょう。それ以外は捨てましょう」と言うんだけど、肝心の「ときめき」が何かよくわからない。そこがねえ……辛かったですね。
 あと、この人のデータがどうも信用ならない。片づけのコンシェルジュとしてやってきてるのに、なんか数字がアバウトなんですよ。P136に唯一のデータ的な数値の羅列があるけど、妙にキリがいい数字だし……。

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麻野:
 「キッチンの定番ラップは30本」とかでしょ。そこは「書類は全捨てが基本」の人だから、こんまり自身、自分の日報とか作業報告書とかも全部捨ててしまって、正確な数がわからなくなってるんじゃないのかな、と思ったけどね(笑)。

米光:
 なるほど(笑)。
 自分がときめくかどうか、つまり自分自身と向き合えってことだから、客観的な「ときめき」なんかないのだな。部屋を片づけるためなら、彼女の「ときめき原理主義」に入信してもいい、と思っているわけよ。

 ……ただ、何箇所か教義に矛盾があるんだよね
 例えば、「以前、お客様自身の40年前のセーラー服を発見したときは、さすがに私も胸がキュンとしてしまいましたが、これもやっぱり捨てるべきです」という一文。これが見逃せなくてさ、ときめいてるのに、40年前のセーラー服はなんで“やっぱり捨てるべき”なの!?

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一同:
 (笑)

麻野:
 それは、そんなにときめいてないってことじゃないの?

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米光:
 いやいや、「私も胸がキュンとしてしまいました」と書いてあるから!
 ここだけ急に「必要」かどうかで判断しているわけ。50歳になったらセーラー服はいらないだろう、っていうまっとうな判断。でも、彼女の教義では、ここはキュンキュンしてるんだから取っておかないと。

 あと、もうひとつ見逃せなかったのは、「カバンの中身を一回出せ」というくだり。カバンさんが中にいっぱい入れられて疲れているんだから、夜は全て中身を出してお休みさせてあげないとカバンさんも苦しいよ、みたいなことを彼女は言うんですよ。
 それはいいんです。”こんまり”信者として「そうそうそう」ですよ。モノに意識があり、全てが生きてる八百万の世界観だから。だけど、別の場所にあるカバンの収納の仕方に目を疑うんですよ――「カバンの中にカバンを入れましょう」って書いてあるの。「えっ」てなって。
 カバンさん疲れてるのに、なんでカバン入れてるんだよ! しかも、自分の同類を入れるって最もマズくない?

麻野:
 カニバリズムみたいなね。でも、カバンにカバンをいれると、確かに片づくんだよね(笑)。

米光:
 そこで急にときめきを捨てて、「必要性」になっちゃうんだよね。
 もちろん、「プレゼントをもらっても、ときめかなかったら捨てろ」みたいなのが心情的に引っかかるとかもあるんだけど、俺としてはこの微妙な矛盾が気になってならない。なんか「この“ときめき”って都合よく使われてね?」みたいに思えてくる。

 もうね、”こんまり”的世界観ではモノに意識があるからね。”こんまり”さんは、きっとカバンに襲われるよ。だって、カバンは恨むもん。「……なんで靴下はあんなに疲れて休ませてもらってるのに……俺だけ……」みたいな。

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飯田:
 結局、ノリで書いてるんじゃないかと……どうも、そう思っちゃうわけですよ。

米光:
 「ときめき」だから、それをノリって思うか、我が心の信条とするか。YAZAWAなんだから(笑)。

飯田:
 いや、でもやっぱり僕としては彼女に「ノリだけで人生生きていけると思うなよ」と言いたいわけです。何しろ、BGKの当初から今日に至るまでで、僕の人生で最も変わったのはノリですよ。「ノリだけで人生を生きるな」と昔の俺にも言ってあげたい。本当に危険だから(笑)

米光:
 この15年で人生に揉まれて学んだ、と。

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飯田:
 まあ、別に彼女が普遍化を目指さないで、自分がコンサルしている部屋が片づくのが目的であると言うのなら、いくらでもどうぞ、という感じですよ。でもさ、「ホテルみたいな部屋になりました」というのが、クライアントの最大級の褒め言葉なんでしょ。だったら、ホテルに住めばいいよね……。

米光:
 すごい突き放し(笑)。確かに、この片づいた部屋に住みたいのかという問題はあるんだよね。

飯田:
 ただ、米光さんのさっきの「ときめき」の説明はわかる気もするんです。僕の場合は、「勝新」と理解しましたけどね。要はロールモデルに同化しようという話でしょ。確かにその基準で全てを触っていくと、部屋のモノが1/10になりそう。というか、もうそうなったら俺が勝新になれるかもしれない(笑)。

米光:
 周りが全部勝新としてOKなモノしかなくて、そこで勝新として生きる快楽。しかも、マジで服に「ただいまー」とか声をかけてひと芝居すれば、ますます勝新だ。

麻野:
 俺は、そうなったら付き合いやめるからね(笑)。

米光:
 いやもう、そのときには我々も飯田さんに捨てられてますから、勝新的じゃないという理由で(笑)

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シンギュラリティ以降に生きる”こんまり”

麻野:
 でも、そういう服に話しかける類いのスピリチュアルな部分はツッコミどころなんだよね。

米光:
 世界観そのものが理屈や科学では成り立たなくても、それで部屋を片づける目的が達成されるなら、すごく納得してしまうかな。まあ、遺伝子がどうとかって、言い方としても陳腐だと思うけどな。

飯田:
 「日本人には「たたむ遺伝子」がもともと備わっている」とか言われてもね。「手からパワーが出る」とかホントですか? と思いませんか。
 飲み会トークで「こうだったらいいよね」なら、納得できると思うんだよね。でも例えば、こういうガチな会議の場で議論するような話ではないと思いますよ、僕は!

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麻野:
 いや、ここ、いつからガチな会議になったのさ(笑)。

米光:
 でもさ、洋服と語り合うと聞くと一見スピリチュアルに見えるけど、それをデザインした人の思想や関係者のナラティブと対話してると思えば、決しておかしくないよ。尾崎豊のCDから出る音楽を聞くことは、尾崎豊と対話してることなんだよ。いや、なんで尾崎を例にしたのか自分でもわからないけど(笑)。

 本の作者の思想を心で問答するように、彼女は部屋にあるモノと対話しているんだと思えば、「パワーが出てきている」という考え方は決しておかしくはない。音楽や本からパワーをもらうように。「靴下は疲れているから丸めずに立てろ」みたいな話も、好きな本をぞんざいに扱えないのと同じイメージだと思えばわかる。

飯田:
 いやいや、現実には低賃金で働かされてる人々しか思い浮かばないですよ。フェアトレードのパタゴニアの商品は高くて手が出ないという現実があるわけで……。

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米光:
 そんなこと考えても、ときめかないでしょ(笑)!
 まあ、でも実はこの本、収入がないと実践できないというのは一つあると思う。マリー・アントワネットだからね。

麻野:
 結局、モノが少なくて、大事に持たなきゃいけない時代だったら、彼女はとんでもないやつなんですよ。たまたまこの飽食の時代だからこそヒーローになれた人で、別の時代だったら「なんじゃこりゃ」の扱いだと思いますよ。

飯田:
 そういう意味で、ここまでの議論を踏まえると、逆に今日のAIやIoTなんて言われる状況では、むしろ彼女の「洋服が語りかけてくる」とか「冷蔵庫が教えてくれる」という発想が当たり前になる未来だってあり得るわけか。

米光:
 あと10年もしたらカバンが電子音声で「僕の中にモノを入れないでー」とか「休みたいよー」って語りかけてくる。家に帰ると家具たちが「おかえり」「おかえり」「おかえり」って話しかけてきて、「今日は僕を読んでー」とか「僕は10年前に買われたけど読まれてないよー」とささやいてくる。

麻野:
 めんどくさいな(笑)。
 まあ、部屋がうるさくなるから、全部モノを捨てたくなりそうだけど(笑)。

飯田:
 なるほど。シンギュラリティ以降はそういう世の中になるのなら、全員の声を聞いてノイローゼになる前に喋りかけるモノを絞り込んでおくべきとも言えますね。そう聞くと、2040年が来る前に部屋を整理しなきゃと思えてくる。

米光:
 そう、ときめくものだけにしとかないと、部屋に帰ると嫌なヤツらの声で満たされてるからね。

飯田:
 まさに「哲学」だなと思いましたけど……ホラーとして解釈するとヤバいですよ。シンギュラリティ後に部屋の中で大戦争が起こってくるので今のうちから整理している、という発想でしょ。そんなものを先取りしてる”こんまり”さんは、既にヤバい状態で生きてる訳ですよ。
 いや、でもこの本を買って「そうだ」って思ってる人は、もうその未来がわかってるということか……。

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