ゲーム化開始~ゾンビもののFPSに?
米光:
じゃあ、そろそろホラーゲームにしますか。
飯田:
まあ、確実に”こんまり”世界はめちゃめちゃ恐ろしい世界ですよ。モノとモノが場所を奪い合い、自分にメッセージしてくるわけですから。ある種のホラーな世界観なのは間違いないんで、ホラーゲームには向いてるでしょう。
麻野:
でも俺、この人と気質が似てるからわかるのよ。この間、友人の部屋を整理することになって、ものすごい勢いで片づけまくっていたら、充実した毎日だったもん。確かに汚い部屋に行くと、もう面白いテレビゲームを前にしたときみたいな気分になるよ。
その面白さって、『テトリス』みたいなものじゃない?
米光:
『涙の倉庫番』みたいに、まさに「片づける」ゲームもありますからね。
飯田:
じゃあ“ホラー”テトリスでいけばいいね。『テトリス』って7種類のブロックだったよね。では今から妖怪を7匹考えて……。
麻野:
いきなり仕様に入るんかい(笑)。落ちてくるのが全部妖怪になってるわけ?
米光:
単純すぎませんか。誰が見ても”こんまり”と結びつかないでしょ……(笑)。
飯田:
でもさ、確か『テトリス』を作ったパジトノフさんは精神科医で、その後『ハットリス』という帽子を重ねるゲームも作ってるんですよ。だから、彼女の強迫観念をそのままパズルゲームにして……。
麻野:
そんな無理やりな(笑)。
飯田:
で、ここにいる米光さんは『ぷよぷよ』も作ってるし、もう妖怪だけ考えたら、あとはゲーム化は米光さんに任せちゃいましょう!
米光:
なんでだよ! ぶん投げかよ(笑)!
一同:
(笑)
飯田:
えーと……じゃあ、この本を素直にホラーゲームにしてみます?
ある日突然、家のモノ全部に目と口と鼻がついてて、部屋に入った瞬間に「おかえりー」とか言われるというのはどうですか? 一回バタッとドアを閉じて、晴明神社に祈祷師を頼みに行きますよね。
麻野:
まあ、それは恐ろしいよね。
米光:
”こんまり”さんと同じ「モノが話しかけてくる」世界観を誰もが持てたら、逆に捨てれない人が多くなる気もするんだよ。だって、色んなモノが話しかけて対話してきたら、「こいつ捨てたら恨むんだろうな」とか思っちゃうもん。
麻野:
あー、それはわかる気がする。
「好きな女の子と一緒に行ったときの……」みたいなのを言い出すと、ちょっとしたシールまで大事になってくるよね。ときめくと、逆にモノが捨てられないと言うね。でも、この人も実は本当に語りかけてきてるモノは捨てられないんじゃない。
米光:
こんまりさん、よく「役割を終えた」とか言うんですよ。
麻野:
そうそうそう。「卒業式」とか言うよね。だから、死んだ人と一緒で、役割を終えると語らなくなるんじゃないかな。
米光:
そこはホラーに結びつくね。なんかバンバン捨てちゃったけど、実はそいつらは”こんまり”さんのことが好きで……。
麻野:
ゾンビのように蘇ってきて、捨てたはずなのに次の日に起きてみたらまたある……。
米光:
”こんまり”さんは「一番役に立ってくれるモノ、一番幸せにしてくれるモノとなって、また戻ってきてくれるのです」と言うのだけど、なぜ本当にそれが「良いかたちで」戻ってくると思えるのか。俺的にはいやーな感じで戻ってくる方が、想像にたやすい。
麻野:
『猿の手』だよね。死んだ人が戻ってくるのを望んだのだけど、ドアをノックしている姿を見ると死んだ姿のままだった……みたいなね。
飯田:
じゃあ、自分の部屋の全てのモノがゾンビになって戻ってきて、襲ってくるFPSですかね。
麻野:
そこに判断の要素も入れてみようか。ゾンビを撃つゲームでも、人間かゾンビかを判断して撃ったりするでしょ。一瞬でときめきを判断して、的確に処理していくとかね(笑)。
実際、ときめいたかどうかって、かなり判断力がいるよ。俺、この本を読んだあと、クリーニングに出してから4年経っている服が3着くらいあるのを捨てようかと迷ったんだけど、なんとなくいまだに部屋の片隅に積まれているからね。判断するという行為には、どこか「恐怖」がある気がするんだよな。
飯田:
いいですね。そして、クリアしたら“ホテルのような部屋”どころじゃなく、もうホテルに住みましょう(笑)。しかし、ホテルといっても安心出来るわけではない。そこが『シャイニング』みたいに曰く付きだってこともあるよ。
麻野:
でも、判断ゲームの路線は本当に面白いかもしれない。
初めはすごく可愛いらしく綺麗なモノがあって、それにときめいてるの。で、時間が経つとそれが腐っていくから、タイミングをうまく見極めながらポイって捨てる(笑)。それで、時々モノがガーッと届いてきて、ゲームは続いていく。
知り合いが、以前「お金が入ってきたら、モノを捨てやすくなった」と言ってたんですよ。「また買える」と思うと捨てられるけど、貧乏だと、いつか困るんじゃないかと思って捨てられないって。捨てられないことの根本には、恐怖と不安があるんじゃないかな。
米光:
そうね。“未来への恐怖”かもしれない。
麻野:
サイン本を捨てられないのも同じ理由だよね。Facebookで人をブロックするのもある意味で「断捨離」なんだけど、そこにも「バレて恨まれないか」という不安がある。だから、捨てる行為って、そのホラーをまず乗り越えて、次にときめくものを取捨選択する二段構えなんじゃないかな。
米光:
”こんまり”さん的には、「バンバン捨てる方が可能性が開けるから捨てなさい」と言うわけでしょ。
麻野:
捨てたほうが、最後には戻ってくるというね……。昔、人格改造セミナーに行ったことあるんだけど、その時のこと思い出した。同じことを言ってたのよ。「これも捨てられない」「あれも捨てられない」と拳をにぎりしめていると、手が空かないから、新しいものが掴めませんよ、と。親との関係も切り、友達との関係も切ったほうがいい。そしたら、どんどん新しいものがつかめて、最後には全てを手に入れるんだよって……。
米光:
いやいや、怖い怖い。
……うーん、あるいは『どうぶつの森』みたいなノリで、どんどんモノが送られてくるネットワークゲームとかどうですか?
麻野:
送られてくるモノが全部ときめかない上に、“サイン入り”だったりして(笑)。
ネットワークを使うなら、捨てたモノが誰かのところに届く仕様になってて、どんどん押し付けていくのは面白いんじゃない?
米光:
俺がよかれと思ってプレゼントしたやつが、全部戻ってきたりしてね。
麻野:
ちゃんと、”こんまり”さんの言う通りだからいいじゃん(笑)。
飯田:
経路もちゃんとわかるんですよ。「あなたがプレゼントしたコインは捨てられました」って通知が来て、「また捨てられた!」と腹が立つ。
米光:
で、自分のプレゼントを持っている人が多ければ多いほど点数が上がるし、捨てられると点数は一気に下がる。だから、なるべく捨てそうにない新しいユーザーにあげるわけだ。
麻野:
初心者がプレイを始めると、「ようこそ! これをあげるよ」みたいにバンバンバンバン増えていく。で、どんどんときめかないものが増えていって、ある程度まで行ったら死ぬ。最期はモノに囲まれて圧死してゲームオーバー(笑)。
こんまりがホラー屋敷を片づけるゲーム!?
麻野:
でも、ホラーゲームになってないな。
そもそも、人ってモノに対する恐怖感ってあるの? 細菌や放射能のような、「見えないモノ」への恐怖というのはあると思うんだけど。
飯田:
いや、包丁の先端とか怖いですよ。
麻野:
ああ、先端恐怖症か。確かにね。
飯田:
じゃあ、全ての家具が尖ってたりして、なにか致命傷を与える機能を持っている部屋に住んでみるゲームはどうですか。家具的なモノが襲いかかってくるんです。
麻野:
タンスを開けると、いきなり犬が襲ってくるとか(笑)。それ、ホラーっていうか、単に危険な部屋だよね。でも、『ホーンテッドマンション』みたいにすればいいのか。
飯田:
タンスは安全だと思っていると、取手のところにカミソリが仕込まれてたりするんですよ。
米光:
あ、それでクリアすると、“ときめく”タンスに変わるというのはどう?
最初は全て自分に敵対している家具なんだけど、サバイブしていくうちに「”こんまり”パワー」を使って、ときめくモノに変わっていく。
飯田:
よし、それでいこう。
麻野:
ええんかい。雑やな……(笑)。
じゃあ、どうしようか。ステージごとのクリアにするのがいい気がするな。まずはワンルームから始まって、だんだん本格的に、いかにもな怖い屋敷になっていく。”こんまり”さんが『零』 みたいなホラーゲームの美少女になって、ホラー屋敷をどんどん片づけていくわけ(笑)。
飯田:
元々、巫女をやってたみたいだし、ぜひ巫女のコスチュームも着てもらいましょう。
米光:
じゃあ、巫女の格好をした”こんまり”さんが色んな部屋に「片づけアドバイザー」として出向くんだね。でも、どんどんシャレにならないレベルの恐怖屋敷になっていくんですよ。レベル1は簡単。靴下をまとめて、立てるところから始まる(笑)。
麻野:
「3ヶ月前に自殺がありました」とか、いわくのある部屋を片づけていく。そして、次々に”こんまり”さんは怪奇現象に襲われていく。「首が上に上がらなくなる」とか(笑)。
米光:
しかも、タンスや洗濯機が襲ってくる。そこは上手いこと隙を作って、タンスとかに噛まれないように撫でてあげる。すると、”こんまり”さんの優しさで家具が落ち着いていく。
麻野:
そのゲームだったら、俺は買うわ。面白そう。『零』の場合は幽霊の写真を撮るんだけど、”こんまり”さんは手当てをするんだよね。
米光:
なにせ、襲ってきた服たちを「畳む遺伝子」で次々と畳みますからね。
飯田:
「その怨み、畳みます」というね。
麻野:
それ、キャッチコピーにしよう(笑)。
Kinectを使って、本当に手を動かして畳みたい。畳んでパンって置くと、シューって感じで除霊していくんですよ。それで除霊した後は、ときめきを判断するモードに入って、ときめいたら残して、ときめかなかったら捨てる。
米光:
そこで捨てるんだ(笑)!?
怖いなあ、また恨まれそうだ……。
飯田:
それで除霊を終えると、そのたびに輪転機が回って、この本の重版がかかるムービーが入るんですよ。
一同:
(笑)
麻野:
合間に、「また、”こんまり”活躍!」みたいなキャッチが入ってね。
米光:
そこいらないでしょ!
飯田:
そのゲームがヒットしたら、BGKももっと売れるかなあ……。77刷りとかあやかりたい。
麻野:
あやかりたいね。2刷りでもいいよ(苦笑)。
でもさ、ラストはどうしようか。もうさ、ホラールームにホラー屋敷に……と、どんどんデカくなっていって、最後はもう横溝正史の『犬神家の一族』に出てきそうな日本庭園みたいなのを片づけるのはどう? もう、園内に「置いてけ堀の池」とかあるようなね。
飯田:
いや、いっそ最後の聖戦は海外の封鎖地帯にいきましょうよ。ソマリアとかで地雷を片づけるんです。
麻野:
ホラーじゃないじゃん。それ、社会派ドラマだよ(笑)。
飯田:
あ、確かに(笑)。じゃあ、最終ステージはやっぱり日本庭園ですかね。
米光:
『帝都大戦』的に東京の何かを片づけるくらいに広げてもいいよね。「その帝都、畳みます」みたいな。
麻野:
坂本龍馬だね。「日本を洗濯したく候」みたいな
飯田:
名字が「近藤」だから、きっと龍馬と敵対関係にありますよ。たぶん近藤勇の四代目とかなんです(笑)。
米光:
じゃあ、最後は龍馬の霊とか、新選組の昔の家具とかを畳んでいく?
麻野:
もう、なんでもありになってきたな(笑)。
米光:
で、最後は新選組の意思をパッパッパッと畳んで「これ、ときめかないから捨てよう」とか言う。
飯田:
で、世の中から明治維新関係のコンテンツが全てなくなって終わる、と。
いやあ、完成しましたね。タイトルは、『畳み師・麻理恵』ですかね!
米光:
これ、深夜ドラマとかでもいけそうな気がしてきた(笑)。
麻野:
『孤独のグルメ』みたいに、最後の5分間だけ”こんまり”さんが出てきて、「片づけ方はこうするんです」って実演してもらう。
米光:
「靴下は丸めず、気持ちを通わす」とか教えてもらえるんですよ。
麻野:
片づけもできるし、ホラーも味わえる。これでいいんじゃない。片づいたよね。
米光:
片づきましたね。
飯田:
では、“こんまり”本は成仏した、ということで(笑)。
麻野:
でもさ、こういう『ホーンテッドマンション』みたいなゲームが、すでにあるような気がしてきたな……ほら、あれも掃除機で掃除して回ってるよね。
すごいな、こう考えると、あのゲームはめちゃくちゃよく出来てるんだな。(次回『東京タラレバ娘』編に続く)