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マンガの9割がAIで作られる未来も?『はじめの一歩』森川ジョージ氏らがAI時代のマンガ制作と著作権問題について議論

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一般社団法人MANGA総合研究所は、マンガ・アニメのボーダーレス・カンファレンス「IMART」を2025年11月12日に東京・池袋にあるアニメイトシアターで開催した。そして、本カンファレンスの次なる展開として、2026年3月24日から27日にかけて「IMART2026春 Global Business Matching」の開催が予定されている。

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本稿では、前回のIMARTにて開催された、「マンガとAIの関係はシンギュラリティに向かっているのか?」と題されたセッションの内容をお届けする。モデレーターを務めたのは、一般社団法人MANGA総合研究所 所長(代表理事)の菊池健氏と、アル株式会社 代表取締役のけんすう(古川健介)氏。ゲストとして、株式会社THE GUILD代表取締役の深津貴之氏『はじめの一歩』などで知られる漫画家の森川ジョージ氏が登壇。

それぞれの立場から、ここ最近話題になることの多い生成AIをテーマに、それがマンガ業界にどのような影響を及ぼすのかということについて語られた。

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取材・文/高島おしゃむ
編集/kawasaki

マンガの9割がAIによって作られたものになる危機意識がある

セッションで最初に取り上げられたのが、「シンギュラリティポイント」についてだ。数学者でSF作家のヴァーナー・ヴィンジ氏が、1993年に発表した技術的特異点(シンギュラリティポイント)のことで、人間がAIなど自分より賢い知性を作り出した瞬間、技術的な進歩が人間の理解を超えて加速していくことから、このように呼ばれている。

深津氏は、このシンギュラリティポイントについて、「AIが自分で次のバージョンのAIを作れるようになり、その次のAIがさらに頭のいいAIを作る。自分で作ることで無限に頭が良くなっていく入り口部分のこと」だと説明する。

AIという言葉自体は、それこそ『ドラゴンクエスト』シリーズで味方を自動制御する「ガンガンいこうぜ」などのコマンドなどでも登場しているが、最近は主にLLM(大規模言語モデル)を使ったものを指すことが多い。しかし、LLMではシンギュラリティポイントは到達できないのでは? と菊池氏は考えている。

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2022年頃から話題になり始めた最近のAIだが、その問題の多くはアウトップットされるものだ。けんすう氏によると、このAIには利用学習公表という段階があり、自分で出力し、その結果を公表しなければ大きな問題にならない。だが、公表してしまうと、たとえば著作権法に違反してしまうことがある。

ChatGPTが登場してからは、○○風といった絵柄も出力できるようになり、法律的には問題があるとはいいにくいものの、倫理的にはどうなのかといった議論が沸き起こった。そこに、動画が生成できる「Sora2」が登場。マーベルやDC、ディズニーなど海外のIPについては生成できないように制御されていたが、その一方で日本のIPは制限が掛けられておらず、結果的に野放し状態になってしまう。それを受けて、出版社や公益社団法人日本漫画家協会が声明を発表するという事態になったのである。

このマンガとAIに関して、2025年11月時点では一部のアダルト作品を除いて画像の生成AIはマンガで使われているケースは少ない。アイデアやシナリオ、製作に伴うプログラムは使われるケースは表だっていないものの多いが、少なくともマンガの既存ツールでAIに振り切った国産アプリは存在しないというのが現状だ。

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こうした現状を踏まえて、マンガとAIのシンギュラリティポイントはどちらに向かっていくのだろうか?
これに対してけんすう氏は、技術と倫理、感情の問題があるが、それらを考慮しない中国企業などがどんどん学習していき、中国漫画が増えていく未来はありうるという。問題を無視して出していく企業が出ると、それを使う人も増えて気にしない読み手も増える。そうなると、マンガの9割がAIによって作られたものになるという危機意識がある。

その一方、ポジティブな面ではこれまでコストが掛かっていた漫画家の作業が軽減され、より面白い作品作りに力を入れることができるということもあり、これらが同時に起きる。

深津氏によると、歴史の流れの中で出てきた新しい技術は、止めることは難しいと考えている。そのため、止めることができない中でどう生きるかということが、基本的な考え方になっていく。

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AI自体はただのツールだが安易に悪用できるところが問題

AIと呼ばれているものがLLMだとすると、シンギュラリティには届かないかもしれない。しかし、異なるロジックのものが登場し、著作権的な問題をクリアして出てくることも考えられる。これに対して深津氏は、テック業界で今一番注目しているのは「世界モデル」だという。

文章などをたくさん読み込ませることで言語モデルが賢くなったのと同じように、画像や動画を学ばせることで動画生成AIも当たり前になってきた。この動画が作れるということは、この先にどうなるのかという未来予測に近いことができるということでもある。

この動画をベースに未来シミュレーターのようなものを作り、その中でさらに訓練をしていくことで、いろいろな情報の密度を持ったものが作れるのではないかというのが大きな流れだという。

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けんすう氏が直近で気になっているのは、『Roblox』だ。この中で、『ブルーロック』のゲームを勝手に作った10代の子供が、月に3億円稼ぐという事例があった。著作権的にはアウトだが、3億円売り上げているものを潰すことはいいのかという議論もある。

作家側のメリットを考えるとうまいやり方があるのではないかと考えているのが、講談社だ。公式と公認、非公認といった感じで分けて、著作権を侵害した結果儲かったものは売上げの半分をもらうなど、JASRACやYouTubeのコンテンツIDのような形に落ち着くのではないかと、けんすう氏は考えている。

一方、森川氏はこうした話の内容自体はわかるものの、漫画家という自身の立場から見えるとマーケティング側の視点に過ぎないという。森川氏が気にしているのは、マンガが売れるかどうかということよりも、マンガがうまくなるのかどうかということのほうが重要だからだ。

「マンガを売るのは出版社側の役目で、漫画家は人に楽しんでもらえるものを描きたいと思っているだけ」と森川氏は続ける。そのため、AIでマンガがうまくなるのであれば使いたいという。

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ちなみに、マンガの現場では先ほどの「○○風」の話しではないが、画風自体は現行法ではおとがめ無しだ。そうした中で、「森川はどこまでやったら怒るのか?」という実験が、Xで行われていた。どんどん森川氏の絵柄に近づいていくものがXに投稿されていたのだが、本人自体は寛容であったものの世界発信する場で行われていたため、直接「そろそろ辞めた方がいいよ」と伝えてやめさせたことがあったと披露していた。

森川氏はAI自体はただのツールだと思っているが、それを悪用する人がいる。それが安易にできることが問題で、それにより多くの人が声をあげているのだ。

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AIには、何かに特化したものや汎用型などがあるが、飛び抜けたアイデアを出したり作家性を出したりといったことはほぼ無理だとけんすう氏は語る。そのため、たとえ汎用型のAIが出てきたとしても、人間と同じようにマンガを描くようになるといったことは、むしろ起こらないのではないかと考えている。

これに対して深津氏は、AIは一般論や王道、センターが得意であるため、よほど工夫するかお金をかけないとエッジなものを作るのは難しいという。どちらかというと、突き抜けてはいないものの、周辺業務を巻き取ってもらうといったところから始まるのではないかと思っているそうだ。

森川氏は、AIはどこまでいっても今のクリエイターに勝つことはできないと考えている。その理由は、AIは死なないからだ。だが、漫画家や小説家は悩んで自殺してしまうこともある。そのため、AIが自殺するようになったら横並びに作家として認めるという。

AIが作る作品は、悩んで生まれたものではない。ただし、量産型であるため稼ぐことはできる。量産型か唯一無二かという比較になるが、後者を選んだ人はそちらしかいいとはいわない。そのため、量産型で消費型のものを作りお金を稼ぎたいなら、AIを使うという議論になっていくと考えている。AIがシンギュラリティを起こすのではなく、読み手が「AIが描いたものを欲しがる」というシンギュラリティを起こすかがポイントだという。

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AIを活用して異世界転生ものを描きたい!?

けんすう氏が現在マンガとAIに関して注目しているサービスは、集英社が提供している投稿サービスの機能「マンガノ アナリティクス」だ。こちらはマンガを投稿するサイトだが、そうした作家には編集者がまだついていない人が多い。そこでアクセスを解析してどのような傾向にあるのか教えてくれるのが、こちらのツールだ。その一部で使われているAIに、けんすう氏が関わっている。

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たとえば、1ページ目で離脱率が8割の場合、普通のマンガは4割だったとしたらページをめくりたいと思わせないなどの分析を行ってくれる。これは編集者が、その時々に行うアドバイスの知見を利用している。しかし、ここで問題になってくるのが、AIが作った作品に対してAIがアドバイスをするようになるといったことも考えられる。仮にAI同士でデータが共有されているとしたら、結果的にヘタなマンガになってしまう可能性が出てくる。

別の事例として、中国の企業はショート動画をクリエイティブではなく工業製品的に作っているそうだが、課金して次の動画を見たいと思わせる作りになっているものの、最終的に見なければ良かったと思うようなものになっているのだとけんすう氏はいう。そのため、AIのアドバイスツールは変な使われ方をすると、そうした方向にいってしまうこともあるのだ。

ちなみにけんすう氏は、前職でメディアに携わっていたときに、ABテストでユーザーに受けるものを選んで出すなどの試みをやりまくっていたものの、結果的に誰の心にも残らないが数字はいいという謎の化け物が生まれてしまい、これは意味がないと思ったそうだ。

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AIはあくまでもツール派だという深津氏。中でもここが面白くなると考えているのが、作家の頭の中から引き出せる作品の量が増えることだという。マンガでも小説でも、作業として大変なパートが存在する。それがあることで、本来大量の作品を出せる作家でも、物理的な制約が生まれてしまうからだ。そこでAIのアシストを使うことで、本来出てこなかった作品が登場し、読者が読めるようになるのではないかと考えている。

これに対して、36年間ボクシング漫画を描いてきた森川氏は、実は最近は異世界転生ものを描きたいと明かす。このジャンル自体はいつまであるかわからないものの、今ならどさくさに紛れて出すことができる。しかし、10年後に描こうとすると、そのジャンルが流行っているかはわからないからだ。

異世界転生ものに限らず、こうしたアイデアは森川氏の頭の中にいくつかあるものの、どうしても手がつけられないことから諦めてしまうのだという。

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異世界転生ものを描くときは、森川ジョージという名前も伏せて出すそうだ

今回のトークセッションのまとめとして、けんすう氏は自分の中で作家性やクリエイティブを出すのは無理だろうと思っていたことに、改めて気付かされたという。自身でブログを書いているときも、相性がいいといわれるAIが提案するものは全部ダメなものばかりだった。

その提案通りに書いたら普通になってしまい、読者が読まないからだ。平均的なつまらない文章は作れるものの、それではないのが人間である。だが、「楽にする部分とAIは相性がいいのでそこが残る」というように考えが整理されたそうだ。

深津氏は、ビッグテック系の人に将来どこが残るのか、どこが大事なのか聞いたところ、何かを始める気力や踏み出すパワーとやりきるパワーのふたつが究極的に残ると言われたという。ほとんどの人は、AIでマンガを描けるといっても最後まで描ききった人はいない。そのため、踏み出すこととやりきることだけをしっかりやっていくことで、次の10年もみんな楽しく生きることができると考えているそうだ。

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マンガ研究家でもある森川氏は、元々日本のマンガ文化は巻物から始まっていると語る。それがストーリーになり、絵が出てくるところから始まったのだ。それがひとコママンガになり、上から下へと流れていくようなマンガがどんどん主流になっていった。

そこで急に破壊する存在として現れたのが、手塚治虫氏であった。今の漫画家は、10割といっていいほど手塚治虫氏のマンガのフォーマットを使っている。韓国から出てきたウェブトーンの縦読みマンガは、森川氏に言わせると巻物に戻ったものだ。始めはすごいといわれたが伸び悩んでいる理由は、手塚治虫氏のような破壊者が出てこないからである。

そのため、手塚治虫氏を超えるマンガをAIが描いたら、それは見てみたいと森川氏はいう。ある意味、マンガにとってAIのシンギュラリティポイントは手塚治虫氏を超えることができるかということになる。森川氏に言わせると、手塚氏はそれを予測して『火の鳥』を描いているのだと語り今回のセッションを締めくくった。

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『火の鳥』に登場するロビタは自殺しているが、まさにAIが自殺するまでになるのかというところもシンギュラリティポイントとなりそうだ

こうしたAIとの共存や、テクノロジーがもたらす新しい創作のあり方を、実際の商機や業界ネットワークへと昇華させる「IMART2026春 Global Business Matching」が2026年3月24日から27日に開催される。

本イベントは、国内外のライセンサーやバイヤー、投資家が相互にリンクする大規模な商談の舞台だ。マンガ・アニメ・ゲームといった領域の枠組みを超え、最新技術を活用した新たなヒット創出や世界市場への進出を志す関係者にとって、最前線の動向に触れられる貴重な機会となるだろう。

ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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