ローポリ・ホラー。それは、90年代〜2000年代のCGグラフィックを想起させるアートスタイル(ローポリゴン)を特徴としたホラーゲームの総称であり、ここ数年、急速に注目を集めているジャンルでもあります。
『Mouthwashing』や『Crow Country』、『Psychopomp』など、高評価作品も数多く存在するローポリ・ホラーの新たな期待作と目されるのが、TPSアクションホラー『NIGHTMARE OPERATOR』。
本作は2023年12月にX上で情報を公開し、翌年1月には公式サイトをオープン。まったく新規のゲーム開発スタジオながら、ローポリ・ホラーの王道をいくような粗く想像力をかきたてるグラフィックを武器に、SNSを中心として多くの話題を呼んだ。
そんな本作は、意外性という意味でも抜きんでていた。TPSでありつつも戦闘システムに格闘ゲーム的なコマンド入力を採用し、どういうわけかあの格闘ゲームの祭典「EVO Japan」にてデモ版の試遊出展をおこなってみせたのだ。
ゲームだけでなく、施策でも目を惹くというのは、簡単なことではない。一体どんな人物が本作の開発をおこなっているのだろうか? 否応なく高まるそんな疑問を解消するべく、今回電ファミ編集部は本作の開発者であるノーラン・ジョセフ氏にインタビューを敢行。
ジョセフ氏の生い立ちから、本作の開発チーム発足に至る流れ、開発の続く『NIGHTMARE OPERATOR』に関する突っ込んだ内容まで、さまざまに語っていただくことができた。
なお、今回のインタビューは5月22日から24日にかけて開催されたインディーイベント「BitSummit PUNCH」の会場でおこなわれた。本作は同イベントのアワードにて見事「ゲームデザイン最優秀賞」を受賞しており、注目を集める中での実施となった。
インタビューに先んじて最新のビルドを体験した試遊レポートも掲載しているので、ぜひこちらもチェックしてほしい。
ローポリ・ホラーの魅力は「情報量が少ない」こと。重要なものだけを描くことで、画面内の優先度が明確に
──本作を鮮烈に印象付ける、いわゆる「ローポリ」グラフィックですが、あえていま初代プレイステーションのころのようなスタイルでゲームを作ろうと思った理由についておうかがいできますでしょうか。
ノーラン・ジョセフ氏(以下、ジョセフ氏):
いろいろありますが、まずひとつ大きいのは「ホラーとの相性がいい」ことですね。粗いことで、「見せたいもの」以外の情報量を効果的に減らすことができます。ネットではVHS風の「粗い映像」を用いたホラーコンテンツが話題になることも多いですが、これも同じ理屈ではないでしょうか。
──「情報量を落とす」ことの効果を教えてください。
ジョセフ氏:
最近のゲームは、グラフィックが非常に美しい。それはすばらしいことなのですが、どこを見ても綺麗で画になる風景が広がっていると、プレイヤーは「次にどこへ行ったらいいのか?」がわからなくなることがあるんです。
一方で、初代『サイレントヒル』や『バイオハザード』のような90年代のホラーゲームは、景色こそ粗いですが、向かうべき場所が明確に示され、プレイヤーをしっかりと誘導する作りになっていると感じます。
これは、ゲーム内で描写できるものに限りがあったからこそ、重要な部分だけを見せることができ、結果的に「“制約”がプレイヤーへのガイドとして機能していた」部分があるのではないかと思っています。そして、私はそのゲームらしい制約が非常に好きなんです。
たとえば、「ゲーム内でショッピングモールを描く」となったら、現実のモールと比べて置かれている物は少なくなり、通行人の数は減ります。違和感は生まれますが、わかりやすくもなる。
そして、その違和感はホラーと相性がいい。これが、僕がローポリでホラーを描こうと考える理由です。
──そんなローポリ・グラフィックを構築するうえで、影響を受けた作品はありますか?
ジョセフ氏:
先ほど名前を挙げた『サイレントヒル』や『バイオハザード』など、初代プレイステーションの時代のゲームにはやはり影響を受けています。
また、最近のゲームでは『SIGNALIS』というタイトルがあります。こちらもローポリグラフィックが印象的なタイトルで、僕は勝手に「インディーゲームの仲間」と思っています(笑)。
ほかにも、『Crow Country』というローポリ・ホラー作品があり、僕自身そういうタイプの作品が好きなので、意識している部分はあります。
──いまタイトルとしてあがった『SIGNALIS』や『Crow Country』、また最近では『Mouthwashing』などもそうですが、「ローポリ・ホラー」というのは近年急激に人気が高まっており、ブームとも呼べる状況にありますね。
ジョセフ氏:
じつは、本作の開発は4年ほど前から始まっており、当時はそれほどブームにはなっていなかったんですね。ですので、最近の盛り上がりを見ていると「出すのが遅れてしまった!」という気分になっています(笑)。
──こういったローポリ・ホラーが人気を集める理由はどこにあるとお考えですか?
ジョセフ氏:
ローポリ・ホラーが、というよりもインディーゲーム全体の魅力とも言えるかもしれませんが、「プレイ時間が短い」「価格が安い」という部分は非常に大きいと思います。
僕自身、2年前に娘が生まれたことをきっかけに、クリアまでに何十、何百時間が必要なゲームをプレイすることが難しくなっています。そんな状況で『Mouthwashing』をプレイしたのですが、この作品は大体4時間程度で終わるので、「映画を見る」ような感覚で遊ぶことができました。
ほかにも、最近は世界中でさまざまな物の値段が上がっています。ゲーム1本を9000円も払って購入したにも関わらず、うまく楽しめなかったときは非常に悲しいし、どうしてももったいない気持ちになりますよね。一方でインディーゲームは価格も安いものが多く、「好みに合わなくても別に大丈夫」と切り替えることができます。
こういった手軽さのおかげで、僕はいまでもたくさんのゲームで遊ぶことができています。
サイバーパンク的な世界と“妖怪退治”の融合
──本作はサイバーパンク的な世界と、「妖怪や都市伝説と戦う」という伝奇ホラー的な設定が融合した、非常にユニークなストーリーになっています。こういった設定を思いついたきっかけはどこにあるのでしょうか?
ジョセフ氏:
僕は幽霊の登場する話を聞くたびに「なぜ“この場所だけ”、“この人の前だけ”、幽霊が出るのだろう?」という疑問を持っていました。幽霊が普通に存在して、一般的なものになっている設定があればおもしろいと思ったんです。
一方で、幽霊が一般的なものになれば、その世界の住人は「幽霊が出る」というだけでは驚かなくなるし、怖がりもしないでしょう。そこで、「SF的なすごい機械があっても幽霊には効果がなく、満足に戦うことができない」という設定をくわえることで、絶望的なおもしろ味をくわえています。
この発想には、2020年に世界中で巻き起こった危機も影響しています。どれほどの技術があっても、社会的な要因で問題を解決することができなかった。そういう部分もテーマとしつつ、「SFと妖怪」の組み合わせで表現しようと考えてます。
──そういった、社会的なテーマも作品に取り込んでいると。
ジョセフ氏:
はい。ほかにも、妖怪を“神”のように崇めて支援するテロ組織「黄昏ノ刃」もまた、そういった社会的なテーマ性を持った存在のひとつです。
とは言え、直接的に社会の話をゲームに入れすぎてしまってもあまりよくないかと思い、あくまでも要素として取り込みつつ、ゲームのなかのストーリーをおもしろくする形での描写になるよう心がけています。
──本作では、伝統的な妖怪や都市伝説と本作オリジナルの怪異を、どういったバランスでゲーム内に取り入れているのでしょうか。
ジョセフ氏:
現在までに公開されている存在としては、口裂け女をアレンジした「口裂け女子」や「犬神」がありますね。また、BitSummitで公開したデモ版では新たに「狐」も登場しました。
ゲーム全体での配置としては、基本的には、雑魚敵はオリジナルで、強くなるにつれて皆さんも知っているような妖怪が出てくるようになります。
これには「有名な妖怪を通常敵にしたくない、もっと重要な存在にしたい」という思いがありました。
──ちなみに、ジョセフさんが好きな妖怪や都市伝説はなんですか?
ジョセフ氏:
それは……難しい質問ですね(笑)。僕は天狗ですかね。天狗と、あとは雪女が好きです。都市伝説だと、マイナーかもしれませんが「赤マント」が好きですね。
主人公が強いゲームだからこそ「どうあがいても勝てない」恐怖をプレイヤーに与えたい
──本作のデモ版をプレイさせていただいて、非常に恐ろしい作品に仕上がっていると感じました。本作の恐怖表現を作っていくなかで、意識した部分や注力した要素があればお聞きしたいです。
ジョセフ氏:
僕は、『NIGHTMARE OPERATOR』をアクションホラーと表現しています。『バイオハザード』シリーズで言うなら、『2』よりも『4』に近いものを目指しているんです。
そのうえで、本作の恐怖表現を考える際に重要だったのは、「主人公が強い」という部分でした。敵をふつうに倒していけるので、単なる敵として恐ろしさを与えるのは難しいです。そこで、「どれだけ強くなっても勝てない」という印象を与えるような恐怖を用意しようと思いました。
主人公が強くても、プレイヤーに恐怖や絶望を感じてもらえるような形。それを目指して作っているのが、本作の恐怖表現です。
──ゲームセンターのステージでは「NPCのオペレーターの奥によく見ると恐ろしい存在がいる」という描写がありましたが、まさに「絶対に勝てない」タイプの恐怖でしたね。
ジョセフ氏:
お気づきになりましたか(笑)。はい、います。
──また、デモ版で強烈な印象だったのが、容赦のないジャンプスケア演出です。この手法はユーザー間で議論を呼ぶことも多い印象ですが、本作においてジャンプスケアを用いている理由はどういったものがあるのでしょうか?
ジョセフ氏:
ジャンプスケア演出は、もちろんプレイヤーを驚かすためのものでもあるのですが、開発者の観点から言うと、「プレイヤーの目をごまかす」ために使用しています。
フィールドを瞬間的に移動させたり、敵をその場に発生させたりといったゲーム的な挙動を違和感なくおこなうために、ジャンプスケア演出が挿入されているんです。
元々はグリッチ演出【※】を入れていたんですが、「どうせならホラーゲームらしく怖いものにしよう」ということで現在の形になっています。
※グリッチ演出……残像や砂嵐など、「映像出力の不具合」を思わせる描写を挿入し、画面に変化を付ける演出技法。
──本作は非常に多彩な恐怖表現が用いられていますが、これらの描写を生み出していくうえで影響を受けた作品などはありますか?
ジョセフ氏:
僕は映画『シャイニング』が好きなので、その影響は受けています。映画ではほかに『ヘレディタリー/継承』という作品を見たのですが、すごく良かったですね。もう二度と見ないと思いますが(笑)。
また、『8番出口』や『Backrooms』のような、リミナルスペースを作品内の環境に取り込みたいと思っています。これも、本作で東京を廃墟として描いた理由のひとつですね。今回のデモ版では中野ステージをプレイすることができますが、現実の中野も夜9時以降にいくと誰もいなくてけっこう怖いので、その雰囲気をゲーム内で再現しました。

あと、恐怖表現という観点ではなくゲームとして、打越(鋼太郎)監督が制作された『AI: ソムニウム ファイル』に影響を受けています。こちらの作品は都市伝説や妖怪の話ではないのですが、事件の起こし方や、その裏に潜む陰謀などが印象的です。僕はそういった話が大好きなので、意識しています。




