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「現実より意味のある仮想世界を作る」──『EVE Online』の生みの親が18年掲げ続ける”クレイジーな宣言”は、比喩ではなく本気だった

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“Our mission is to create virtual worlds more meaningful than real life”

これは、あるゲームスタジオが公式サイトに掲げている、実在のミッションである。
訳せば、「現実の人生より意味のある仮想世界を作る」

そのゲームとは『EVE Online』。2003年のサービス開始から23年、全プレイヤーがたったひとつの世界を共有し続けている宇宙MMOだ。

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宇宙船を失えば、本当に消える。裏切りも、強奪もルールの範囲内で認められている。
そして23年間、誰もこのゲームに”勝っていない”。

この宣言を掲げた男の名は、Hilmar Veigar Pétursson(ヒルマー・ヴェイガル・ペトゥルセン)。30年間、仮想世界だけを作り続けてきた人物である。

仮想世界を作る会社は、いまや珍しくない。だがこの言葉は、その中でも一段強い。
「現実より意味がある」とは、比喩なのか、本気なのか。
10年ぶりに来日した本人に、真正面から聞いてみた。

答えは「本気」だった。しかも、想像よりずっと過激な理屈で。

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Fenris Creations CEO、Hilmar Veigar Pétursson氏

聞き手・文/kawasaki

「現実より意味のある仮想世界」──2008年、この宣言はクレイジーだった

──Fenris Creationsの公式サイトには、「現実より意味のある仮想世界を作る」というミッション・ステートメント/理念が掲げられています。

2008年に掲げられたものと伺っていますが、仮想世界を作ること自体を目的とする会社は、当時も今も珍しくありません。その中でこの理念は、一段強い言葉のように思えるんです。現実よりも意味のある体験を提供できると、本気で考えていらっしゃるんですか?

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「Fenris Creations」公式サイト

Hilmar氏:
はい。
当時、我々は会社の「コアパーパス(中核的存在意義)」を書き出す作業をしていました。そして「我々はバーチャルワールドを作る会社だ」という点では、全員が一致していたと思います。

そこで次に考えたのが、「では、そのバーチャルワールドを”どんなもの”にしたいのか?」でした。収益性の高いものにしたいのか? 美しいもの? 没入的なもの?

……そうして我々は、「ミーニングフル(意味のある)」という言葉にたどり着いたのです。

──「収益性が高い」でも「美しい」でもなく、「意味のある」仮想空間だと。

Hilmar氏:
すると今度は、「どれくらい意味のあるものにしたいのか」という問いが生まれます。
現実の人生と同じくらい意味のあるもの? 現実の80%くらい? 少しだけ劣るくらい? それとも、現実”より”意味のあるものにしたいのか?

そこで我々は、大胆な宣言をすることに決めました。
「我々のバーチャルワールドは、現実の人生より意味のあるものにしたい」と。──当時、これを口にするのは相当クレイジーなことでしたが。

──2026年のいま聞いても、クレイジーだと思いますよ。

Hilmar氏:
もちろん、そこに到達するには何十年もかかるでしょう。
しかし、それこそが我々のコアパーパスなのです。

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日本の法律もお金も、いわば”日本というゲームデザイン”

──では、「仮想世界が現実を超える」というのは具体的に、何がどうなった状態を指しているのでしょうか。

Hilmar氏:
人が自分の現実の生活について考えるとき、constructed things(人為的に構築されたもの)やshared agreements(人々が共有する合意・共通認識)で満ちていると思うのです。我々が「本物だ」と思っているものの多くは、実はそれほど本物ではない。それらは実のところ、「ゲームデザインの一形態」なのです。

──……といいますと?

Hilmar氏:
日本の法律、日本のお金、日本の社会構造などを考えてみてください。

これらは事実上すべて、「物事はこうあるべきだ」という社会的合意です。だからこれは、いわば”日本というゲームデザイン”なのだ──そういう等式も立てられるわけです。

職を持つ、給料をもらうといった構造にしてもすべて、人間が打ち立てた(human erected)ものです。物理法則ではないし、自然でもないし、生物学でもない。

──たしかに日本における常識は、日本人が作ったものですね。

Hilmar氏:
つまり我々は、大部分が「作りもの」でできた世界に生きています。

家を所有する、仕事がある、市場がある、給料がある──あなたはゲームについて書き、私はゲームを作る。これらはどれも、実はさほど”リアル”なものではないんですよ。

そうした社会構造や、インセンティブの枠組み。つまり、現実に組み込まれた”ゲームデザイン”です。それらについて考えるとき、私は、現代生活の”いまあるデザイン”よりも意味のあるものを、我々の世界に目指してほしいと思うのです。

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──先ほどの理念を掲げた2008年は、『EVE Online』がまだここまで成功する前でした。それでも、ここまで強く言い切ったのですね。

Hilmar氏:
EVEを作る前から、我々はたくさんのアイデアを持っていました。このゲームがどのように遊ばれ、どう感じられ、そこから何が創発するのか、多くのコンセプトを考えていたのです。

そして実際にゲームをリリースすると、その多くが現実になりました。さらにそれ以外のこと──人間の振る舞いの、実に目を見張るようなことの数々も現実になったのです。

2008年の時点で、EVEはすでに5年間運営されていました。その5年だけでも、私は個人的に、ゲームの中で起きる驚くべき出来事の数々を目にしていたのです。

──その5年間のあいだに、現実をも上回る仮想世界の可能性を、『EVE Online』を通じて見出していた、と?

Hilmar氏:
企業乗っ取り(コーポレート・ハイスト)、大規模な戦争、ライバル関係、そして数多くの友情が生まれるのを見てきました。EVEは「新しい友情が生まれるゲーム」として非常に有名です。周知の通り、特にここ日本では、孤独(ロンリネス)は大きなトピックですよね。

つまり当時すでに、あのように(パーパスを)蒸留する着想を得るには十分なものを見ていたのです。それ以降も我々は、EVEが人々にとってどれほど意味のあるものになるのか、さらに深いリサーチを重ねてきました。

ですから、このパーパスの実現に向けて、我々は順調に軌道に乗っていると思っています。

──仮想世界での体験は、ある意味で現実をも上回っていた、というわけですね。ただ2008年の当時、社内やゲーム業界から、そのキャッチコピーは「大げさだ」といったネガティブな反応はなかったんでしょうか?

Hilmar氏:
ええ、そう思った人もいました。

おおよそですが、会社の3分の1は気に入ってくれて、3分の1は嫌っていて、残りの3分の1はどちらでもない、という感じでしたね。

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人はなぜ、大人になると遊ばなくなるのか

──Hilmarさんの話を聞いていると、一般的にゲームに求められる「楽しさ」や「没入感」とは、違うベクトルを持った何かを目指しているように思えます。

Hilmar氏:
ええ。私は「意味(ミーニング)」という言葉が本当に好きなのです。

逆に質問なのですが、「meaning」に該当する日本語はないのですか?
目的(パーパス)と、天職(ボケーション)と、熟達(マスタリー)がすべて一緒になったような概念を、日本語では何と言うのでしょう。

──日本語では「意味」と言いますよ。

Hilmar氏:
そう、でしたら「イミガアル」(日本語で)(笑)。

世界には、単純な楽しさだけでなく、もっと多くの意味と目的が必要だと思っています。だから、我々のコアパーパスが「意味」についてのものであることを、とても気に入っているのです。

それは同時に、「意味とは本当は何なのか」「意味があるとはどういうことなのか」を、我々自身が探求し続けることでもあります。

そして多くの点で、我々の理念は挑発的(プロボカティブ)であることも意図しています。何が意味のあることなのか、現実の人生とは何なのか、これらの世界とは何なのか? それについての思考を挑発し、新しい思考を呼び起こすためのものなのです。

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──先ほど、「作りものの世界」と言い表したのも、挑発だったのでしょうね。Hilmarさんにとって「ゲーム」とは何なのでしょうか。少なくとも、娯楽や暇つぶしではないもののように思えます。

Hilmar氏:
「プレイ(遊ぶ)」という言葉自体が、とても示唆的だと思うのです。

我々はなぜ「プレイ」をするのか。スポーツをプレイし、演劇(シアター)でプレイし、ゲームをプレイし、幼稚園でプレイする。我々がプレイするのは、概して、自分自身について何かを学ぶためです。そして、学びのほとんどはプレイを通じて起こります。

これは人間でも、猿でも、ライオンでも同じです。
哺乳類を見れば、幼い頃はみんな必ず遊んでいます。

ところが人は、やがてプレイをやめてしまう。働き始めて、遊ばなくなったのです。ある意味では、そこで学ぶことをやめてしまったのだ、と言うこともできます。

──就職や結婚、子育てといった人生のステージを進むにつれて、他にやらねばならないことが増え、次第に「ゲームを遊ぶ」ことから離れていく人も多いです。でも、Hilmarさんの言う「プレイ」──自分自身について学ぶこと──は、本来ずっと続くはずのものですよね。

Hilmar氏:
だからこそ、人々がプレイし続け、自分自身と他者について学び続けられる「プレイグラウンド(遊び場)」を作ることが、とても重要だと思うのです。

それにプレイは、友達を作るための素晴らしい方法でもあります。人と関わるための”アリバイ”ができるからです。シャイでどう振る舞えばいいか分からない人でも、ゲームの中でなら、他人との交流はもっとシンプルになります。

実際、EVE Onlineで我々が見てきたのは、人々がプレイを通じて新しいことを学び、新しいスキルを身につけ、そして友達を作っていく姿なのです。

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──「現実より意味のある仮想空間を作る」という理念を掲げてから、もう18年近くが経ちました。いま振り返って、『EVE Online』の世界が「単なる仮想空間ではなかった」と言える手応えは感じていますか。

Hilmar氏:
「一部の人にとって、一部の時間には」それが実現している。そんな瞬間を、いくつも垣間見てきたと思います。

ただ、人生の難しいところは、「一部の人を常に満足させることも、すべての人を一時的に満足させることもできる。しかし、すべての人を常に満足させることはできない」【※】ということです。

※「一部の人を常にだますことも、すべての人を一時的にだますこともできる。しかし、すべての人を常にだまし続けることはできない」エイブラハム・リンカーンの言葉として広く流布する格言(実際の出典には諸説あり)を、「だます」を「満足させる」に置き換えたもの。

当然ながらEVEには、意味のある瞬間もあれば、フラストレーションの瞬間も、高揚の瞬間もあります。実に多くの感情の瞬間があるのです。

しかし、その総体として見たとき。長年EVEをプレイしてきたプレイヤーたちに会うと、EVEは間違いなく、彼らが人生の中で「非常に意味があった」と見なすものの1つになっています。とりわけ、このゲームから生まれた友情と、そこでできた友人たちが、です。

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編集者
元4Gamer。『Diablo』 『Ultima Online』 『EverQuest』 『FF11』 『AION』等々の、黎明期のオンラインRPGにおける熱狂やコミュニティ、そこから生まれたさまざまな文化は今も忘れられません。

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