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「現実より意味のある仮想世界を作る」──『EVE Online』の生みの親が18年掲げ続ける”クレイジーな宣言”は、比喩ではなく本気だった

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オープンソースで手の内を明かす理由は「信頼は、双方向の道」

──最近はAIが急速に浸透しており、それを利用した一般ユーザーが企業をハッキングを行う事件も起きています。そうした現象は、『EVE Online』や『EVE Frontier』に何か影響を及ぼしているのでしょうか。

Hilmar氏:
我々も、誰もがそうであるように、AIがもたらすITセキュリティへの影響を懸念しています。

実はここしばらく、我々はエンジンコードの多くをオープンソース化【※】する作業を進めてきました。この6月に大きなマイルストーンを完了して、3Dエンジン、物理エンジン、ネットワークエンジンなどをオープンソースにしたのです。

※オープンソース:ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを一般に公開し、誰でも閲覧・利用・改良できるようにすること

──セキュリティを懸念しているのに、コードを公開してしまうんですか? 普通に考えれば、手の内を明かすのは真逆の行動に思えますが。

Hilmar氏:
1つは、まさにセキュリティのためなんです。コードがオープンであれば、より多くの人がバグを見つけて、報告してくれる。

さらに、いまのAIモデルはハッキングが本当に得意になっています。だからコードを公開しておけば、最強クラスのAIを使って、いわば自分のソースコードを”事前にハックしておく(プリハック)”ことすらできるのです。

EVEでは、そのセキュリティに対する考え方を根本から見直さなければならないような重大な侵害は、これまで一度も発生していません。
しかしセキュリティは終わりのないレースで、常に先を行き続けなければならない。オープンソース化の動機の一部は、これから我々が入っていく、様変わりしたセキュリティ環境への備えなのです。

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──隠して守るのではなく、晒して鍛える、という考え方ですね。理由は他にもあるんでしょうか。

Hilmar氏:
もう1つあります。
我々には、ゲームに貢献(コントリビュート)することが大好きな、非常に熱心で技術力の高いコミュニティがあります。だから我々は、その貢献を歓迎したい。

そしてFrontierの場合はさらに、我々はプレイヤーのデジタル資産を管理する立場になるので、「信頼」の重要性が質的に違ってきます。
自分たちのコードが正確にどうなっているのか、アーキテクチャがどうなっているのか。その透明性は、信頼を勝ち取るための優れた方法です。

こうしたいくつもの要素が重なって、我々はエンジンコードの全部と、Frontierのコードの大部分をオープンソース化する、という決断に至ったのです。

──とはいえ、バグが見つかりやすくなるというメリットの裏で、それを悪用されるデメリットもありそうです。そこへの心配はないですか。

Hilmar氏:
Linuxの物語を見てみましょう。
あのOSは、最初からオープンソースでした。

もちろん、我々はまだこの旅を始めたばかりです。だから、バグが「報告される」のではなく「悪用される」可能性のある、脆弱な期間が少しあります。
しかし、私はタイムマシンを持っていません。過去に遡って、最初からオープンソースにしておくことはできない。今日やるしかないのです。

そしてLinuxの歴史が示している通り、コードをオープンにしておくことは、コードを安全に保つための優れた方法なのです。

──理屈は分かりましたが、それだけなんでしょうか。いわば自由を明け渡すようなこの決断は、一般プレイヤーのコミュニティを信頼している、ということでもあるんでしょうか。

Hilmar氏:
ええ。信頼は、双方向の道ですから。

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『EVE Frontier』

ブロックチェーンに対する懐疑は「妥当」、それでもインフラとして使う

──次は、ブロックチェーンについての質問です。現在は「ブロックチェーン」と聞いただけで、ネガティブな反応を示す人も、正直たくさんいると思います。そういった反応があることを、Hilmarさんはどう受け止めていますか。

Hilmar氏:
その懸念と懐疑は、完全に妥当だと思いますよ。
なぜなら、あのテクノロジーを使って素晴らしいゲームを作れるのだと、実際に示した者はまだ誰もいないからです。これまでの歴史は、控えめに言っても、ひどいものです。

そのうえで、我々はブロックチェーンを、インフラストラクチャー(※活動を根本から支える基盤)として捉えています。他のインフラとは異なる特性を持った、1つのインフラです。

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──投機の対象でも、思想でもなく、ただの技術部品として見ている、と。その「他のインフラとは異なる特性」とは何なんでしょうか。

Hilmar氏:
まず1つは、Modding【※】に関わる特性です。ブロックチェーンの上ではスマートコントラクトというプログラムが動くのですが、これは誰でも、我々運営の許可なしに、作って動かすことができます。我々はそれを、サーバーのModdingプラットフォームへと転用しました。

※Modding:プレイヤーや外部開発者がゲームに改造・拡張(Mod)を加えること。PCゲームでは一般的な文化だが、通常は手元のクライアント側(見た目や操作性など)に限られる。

──つまり、普通のオンラインゲームでは、ゲーム世界の中身に手を加えられるのは運営だけ。しかしこの仕組みなら、プレイヤーや外部の開発者が作ったプログラムをゲーム世界の中で動かせる──クライアント側だけでなく「サーバー側のMod」が成立する、ということですね。

Hilmar氏:
そしてもう1つが、デジタルの所有権(プロパティ・ライツ)です。プレイヤーは、自分のデジタル資産に対して、より強固で持ち運び可能な所有の形を持つことができます。

──その「所有の形」が、先ほどのRMTの話に繋がるわけですね。

Hilmar氏:
ええ。私はこれを、国から通貨統制を撤廃するようなものだと見ています。
私は通貨統制下のアイスランドにも、通貨統制のないアイスランドにも住んだことがあります。選べるなら、閉鎖経済より開放経済のほうがいい。

つまり我々は、ブロックチェーンというインフラの持つこれらの特性が、「経済を開放すること」や「サーバー側のModを実現すること」を助けてくれる。そう信じているのです。

もちろん我々は、自分たち自身に対しても、世間に対しても、「その上で素晴らしいゲームも作れる」ということを証明しなければなりません。
そして、素晴らしいゲームを作るのは非常に難しい。とにかく、素晴らしいゲームを作るというのは、本当に難しいことなのです。

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ポケカは秋葉原でトレードできるのに──デジタルの所有権と「RMTを禁止しない」決断

──ものすごく正直に言うと、ブロックチェーンの技術は大変難しくて、この記事を掲載する電ファミの読者の多くが理解できなさそうです。私も含め。そういった人に向けて、『EVE Frontier』がブロックチェーンを採用することで何が実現できるのか、できるだけ噛み砕いて紹介していただけますか。

Hilmar氏:
1つ目。プレイヤーであるあなたが、ゲームを変えられるということです。

Moddingに馴染みがあるなら分かると思いますが、クライアントにModを入れれば、手元のゲーム体験を変えられますよね。Frontierでは、サーバー側も変えられるのです。
もちろん、これは技術的に非常に複雑なことです。それを成立させるための仕組みも、あわせて実装しています。

──PCゲーマーにとって、Modは馴染み深い文化です。ただ、それはあくまで手元のPCに入れるものです。「サーバー側のMod」というのは、具体的にどういう形で遊ぶことになるんでしょうか。

Hilmar氏:
大事なのは、プレイヤー全員がModを「作る」必要はない、ということです。あなた自身は、プログラミングなんてしたくないかもしれない。それでも問題ありません。

代わりに作ってくれる誰かがいれば、コミュニティ製のModに参加すればいい。これは、Robloxに少し似ています。
Robloxでは、誰でもゲームを作れます。その帰結として、Robloxには大量のゲームがある。あまり出来のよくないものもあれば、非常に良いものもあります。

Frontierでも同じように、一部のプレイヤーたちがModを作り、その帰結として、他のみんながそれを楽しめるようになると信じています。それが1つ目です。

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『EVE Frontier』

──では、2つ目は?

Hilmar氏:
次は、主にブロックチェーンをめぐる法制度に関わるものです。
欧州のMiCA、アメリカの市場構造法、そしてここ日本の各種の法律【※】。こうした法制度が整ってきたおかげで、ゲームの作り手である私は、プレイヤーにデジタルの所有権を持つことを支援できるようになりました。

※MiCA(Markets in Crypto-Assets)は暗号資産を包括的に規制するEUの法律で、2024年に全面適用。日本でも資金決済法・金融商品取引法などの改正により、暗号資産やデジタル資産の取り扱いルールの整備が進んでいる。

(実物の)ポケモンカードなら、あなたはそのカードを持って秋葉原に行き、トレードできますよね。あなたがカードを「所有」しているからです。ところが、デジタルのポケモンカードでは、それができない。
ブロックチェーンによって、私はあなたに、デジタルの所有権を持つことを後押しできるんです。

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──過去のブロックチェーンゲームでは、ゲームを楽しむことよりも稼ぐこと、つまり投機が目的となって、ゲームが壊れてしまった例もあるかと思います。先ほどRMTという言葉がありましたが、『EVE Frontier』がそうならないと言い切れる根拠はあるんでしょうか。

Hilmar氏:
我々に「稼がせること」を目的にする意図はありません。
思うに、以前のブロックチェーンゲームの一部は、実際にそれだけを意図していて、だからこそ、良いゲームを作ることがどうしてもできなかったのでしょう。

Frontierの成功と失敗は、そうしたビジネスモデルの次元ではなく、「プレイして面白いゲームかどうか」でほぼ決まると思っています。

ただ、『EVE Online』では長年にわたって、非公認の市場やグレーマーケットで、リアルマネートレードが現に行われてきました。人々は間違いなく、すでにやっているのです。もちろんEVEでは、それは許可されていません。利用規約違反であり、我々はBANしてきました。

しかしFrontierでは、このような行動がゲームのルールやシステムの枠組みの中で成り立つように、経済システムを設計することを目指しています。

ただしそれは、経済デザインを正しく行う責任が、我々により強くのしかかる、ということでもあります。

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『EVE Frontier』

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編集者
元4Gamer。『Diablo』 『Ultima Online』 『EverQuest』 『FF11』 『AION』等々の、黎明期のオンラインRPGにおける熱狂やコミュニティ、そこから生まれたさまざまな文化は今も忘れられません。

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