SNSでは、物事はただあなたに”起こる”だけ──奪われた「主体性」を取り戻す
──今回の取材のメインテーマである、Fenris Creationsの理念の「現実より意味のある仮想空間を作る」に立ち返って、改めて伺います。現実と仮想空間の境界は、いったいどこにあるんでしょうか。
Hilmar氏:
境界は間違いなく存在します。
我々の頭の中のアイデアと、物理的な事物との間には、境界がある。実際のところ、アイデアの世界と、物質・物理の世界は同じものではありません。
しかし我々はますます、現実世界で生きる以上に、”頭の中”で生きるようになっていると思うのです。それはソーシャルメディアを通じて、そして言うまでもなく、映画や本やゲームなどを通じて見て取れます。
我々の生活の多くの部分が、すでにバーチャルになっていて、現実との境界は、あらゆるところで曖昧になりつつあります。人工知能も、その曖昧化を加速させています。
紙のお金からデジタルのお金へ。クレジットカード、ウォレット、スマートフォン。こあいった曖昧化なら、我々はすでに経験済みですよね。
──言われてみれば、お金がデジタルになることを、僕らは「バーチャル化」だと意識すらしていませんね。それらは有って当たり前だと受け入れている。
Hilmar氏:
つまり我々は、ますますバーチャルな世界に生きている。しかしその世界は、”とても意味のあるもの”としてデザインされているとは言い難い。明確な意図のないまま、ただそうなっているだけのように見えます。
だから我々がやりたいのは、このバーチャル化・デジタル化のすべてに、意味を与えることなのだと思います。例えば、人間の感情のスペクトラム全体を、そこに宿すこと。そして最も重要なのが、エージェンシー(主体性)です。
なぜならソーシャルメディアの上では、あなたの主体性は「消費者」のそれでしかないからです。物事はただ、あなたに”起こる”だけ。あなたは、その中の行為者ではない。目の前を流れていくものに対して、大きな主体性を持ってはいないのです。
我々は、こうしたデジタルでバーチャルなもののすべてに、もっと「意味」を吹き込みたい。それこそが我々のやりたいことであり、ブロックチェーンやAIといった新しいテクノロジーに目を向けている理由なのです。
「モット、イミガアル」
──僕は昔からMMORPGが好きなんですが、長年心血を注いだ仮想世界でのゲームプレイには、人生の一部と言っても差し支えない価値があると感じています。ただ、世間がそこに「意味」を認めてくれるかは、また別の話です。Hilmarさんにとって、「意味がある世界」と「意味がない世界」を分けるものは、何なんでしょうか。
Hilmar氏:
私なら、こう問いかけます。それは、あなた自身を向上させているか。
あなたの人生を、人間関係を、友情を、向上させているか。
「意味のあるもの」とはおそらく、あなたを成長させ、他者とつなぎ、“最高のバージョンの自分”にしてくれるもののことです。逆に言えば、それがあなたの成長を助けているなら意味があり、妨げているなら意味がない。
実際にEVEでは、「このゲームのおかげで、自分はより良い人間になれた」と言ってくれる人を、数多く見てきました。自信がついた。友人が増えた。自分自身のことが、より良く分かるようになった。こうした声を、ファンイベントなどで何度も何度も聞いてきたのです。
それが、「意味のある道」です。
逆に「意味のない道」とは、ゲームがあなたを、個人としての成長や、人との関係作りや、人間としての成熟から遠ざけている場合のことです。
──世界そのものに意味の有無があるのではなく、プレイヤーがどちらの”道”を歩んでいるか、という話なんですね。MMORPGの廃人プレイヤーの中には、当時を振り返って後悔している人もいると思うんです。そういった人が歩んできたのは、「意味のない道」だったということになるのでしょうか?
Hilmar氏:
それは、ゲームに限った話ではないと思うのです。
人は同じことを、現実でもやっている。
日本を旅していて、とても印象的だったのは、「孤独」が繰り返し話題に上っていたことです。私は日本について深く理解しているとは言えませんし、前回訪れたのも10年前でした。それでも、多くの人が仕事に対して「意味を見いだしにくいもの」と感じているように話していたのが印象に残りました。
残念ながら、現実にも、意味の乏しい人生を生きている人たちがいるのです。意味を感じられない仕事。少ない友人。そして同じことは、ゲームの中でも間違いなく起こります。
我々は、少なくともゲームの世界では、それをより良くするためにここにいます。すべての人を、いつでも救えるわけではない。それでも、自分たちが作るものを、人々にとってより意味のあるものにしようと努め続けています。
なぜなら現代社会では、意味というものが、とりわけ失われつつあると思うからです。理由は分かりません。大都市だから。周りが見知らぬ人ばかりだから。大きな機械の中の、小さな歯車だから。理由はいくらでも挙げられるでしょう。
しかし少なくとも我々のコアパーパスは、我々の作るものの中の「意味」を増やすことなのです。
……「more」は、日本語で何と言うのですか? motto? 「モット、イミガアル」?
──これまでのお話を一言でまとめるなら、「意味がある仮想空間」とは、そのゲームを通じて現実の人生を充実させられるもの──そう理解しました。
では、これから先、この「意味がある仮想空間」はどう発展、進化していくのか。近年はVRやブロックチェーンといった技術も登場していますが、もしかするとその最先端にいるのが『EVE Frontier』なんじゃないかと、お話を聞いていて思いました。
Hilmar氏:
ええ、まさにそうなることを強く望んでいますし、実現できると思っています。
なぜなら我々には、『EVE Online』での経験があるからです。
『EVE Online』は我々に、ゲームについて、経済について、そして意味について、実に多くのことを教えてくれました。ですから、あなたや多くの人が挙げてくれたような懸念のすべてに先んじていくこと。それが間違いなく、我々の望みです。
ただしもちろん、「できる」ということは、実証してみせなければなりません。
……というより、実はもう、我々のアルファテストに参加できるんですよ(笑)。読者の皆さんも、evefrontier.comにアクセスして5日間のトライアルに参加すれば、プレアルファ状態の『EVE Frontier』がどんなものか、直接見ることができます。

ライブサービスゲームは「究極のサバイバルゲーム」
──Hilmarさんは長年にわたって、一貫して仮想世界を作り続けてきました。しかもPearl Abyssから独立してまで、新作タイトルを作っている。Hilmarさんをそこまで「意味のある仮想世界」に向かわせる原動力は、一体何なんでしょうか。
Hilmar氏:
私はもう、30年間バーチャルワールドを作り続けているんですよ。
最初の会社、OZ Interactiveに入ったのが1996年。正確には、96年の8月ですから、来月でちょうど30年になります。
そして、バーチャルワールドを作るとはどういうことなのか。その理解が年を追うごとに深まっている実感があります。1年ごとに、10年ごとに、うまくなっている気がするんです。
だから私には、新たに身につけたスキルと理解、そしてある程度の熟達を総動員して、もっと意味のあるバーチャルワールドを作りたい。我々のすべての世界の中の「意味」を増やしたい。そういう強い動機があります。
「世界を作るのがうまくなる。その結果、世界がより意味のあるものになる」。私はそのことに、強く駆り立てられているのです。
言うまでもなく、最初の頃は全然うまくありませんでした。でも、10年経つごとにうまくなってきている。今から数十年もすれば、きっとかなりうまくなっているでしょう(笑)。
──MMO関連のジャンルでそれだけのキャリアを持つ人というと、例えば元Blizzard Entertainmentのマイク・モーハイムや、Nianticのジョン・ハンケなど、かなり限られると思います。Hilmarさんはいまも現役で、しかもPearl Abyssから独立してまで、最前線で新作を作り続けている。そのバイタリティは本当にすごい……というか、他にいないですよね。
Hilmar氏:
まあ、「イミガアル」なら、人は続けるものですよ。意味のあるバーチャルワールドを作ること。それが私にとっての、尽きることのない原動力なのです。
──では、時間となりましたので、最後の質問です。何年か後に、『EVE Frontier』が「成功した」と振り返るときが来たとしたら、それはどんな状態になっているでしょうか。先ほどの「意味がある」も1つの答えだと思いますが、他に何かありますか。
Hilmar氏:
このゲームが、価値あるビジネスとして10年間、自立して存続できたなら、それは大きな達成だと思います。ライブサービスゲームを10年生き延びさせるというのは、極めて稀なことですから。
考えてみれば、ライブサービスゲームを作ること自体が、究極のサバイバルゲームなのです。
だから10年後、このゲームが生き延び、そして繁栄していたら。それは素晴らしい成功でしょう。
──『EVE Frontier』の運営そのものがサバイバルゲームというわけですね。非常に難しいインタビューでしたが、それと同じくらい面白かったです。本日はお忙しい中、お時間を取っていただき、ありがとうございました。
AI、オープンソース、ブロックチェーン。
正直に言えば、難しいインタビューだった。
だが振り返れば、難解な各論はすべて、「意味」のひとことに集約されていた。30年間、仮想世界だけを作ってきた男の思考は、驚くほど一本道だった。
取材の終盤、彼はFenris Creationsが掲げるミッションを、覚えたての日本語で言い直してみせた。
「モット、イミガアル」。
18年前、「現実より意味のある仮想世界を作る」という宣言はクレイジーと言われた。
その宣言を彼は、撤回するどころか、時代に合わせてアップデートし続けているのだ。
仮想世界は、現実より意味のあるものになれるのか。
その答えが出るまで、彼はきっと作り続ける。
見届けたい。






