クラウドファンディングプラットフォーム「うぶごえ」による巨額の未入金というトラブルに見舞われながらも、実写アドベンチャー『シブヤスクランブルストーリーズ』(以下、『SSS』)は歩みを止めていない。支援の場をCAMPFIREに移し、改めて支援を募る中で9月1日にはゲームプレイデモ動画も公開された。
実写アドベンチャーゲームでは、プレイヤーがつねに見つめ続けることになる実写の質が問われる。撮影した写真、静止画のクオリティは、そのままゲーム全体のクオリティに直結するわけだ。だからこそ、公開されたゲームプレイデモ動画には注目が集まった。

支援者からすれば、「制作陣がどんなクオリティを目指しているのか」が一目瞭然となる内容であったし、これまで興味がなかった方からすれば「こんな画で、こんなゲーム性なのか」と深く知ることができる内容だったからだ。
しかし、まだいくつかの疑問が残る。なぜ『SSS』は3回目のクラウドファンディングを実施しなければならなかったのか? これまで集まった金額では制作は不可能なのか? 実写ADVにおける制作費とは、どう試算されるのか? 実写ADVの「静止画のクオリティ」とは何を指すのか?
これらの疑問に回答いただくべく、『SSS』の総監督を務めるイシイジロウ氏、撮影・演出担当の飯野歩氏、そして本編で御堂筋 美登里(みどうすじ みのり)役を演じる俳優、北上史欧氏にインタビューを実施。
3人が織りなす現場は、20年近くにわたる信頼関係のうえに成り立っている。デモプレイ映像で伝えたかったこと、変わりゆく渋谷という街、8年ぶりに現場へ戻った役者の覚悟──。
急ピッチで作られたというデモ映像の撮影の裏側には、制作陣の覚悟と「現在の実写ADVに求めるクオリティ」があった。
なお、取材に合わせてイシイ氏からゲームプレイデモ動画の撮影風景を記録した「メイキング映像」を特別にご提供いただき、そちらを見させていただいたうえでインタビューに臨んでいる。

聞き手・文/豊田恵吾
デモプレイ映像は『SSS』が目指すクオリティを伝えるために制作された
──本日はよろしくお願いします。まず、9月1日に公開したゲームプレイデモ動画についてお聞かせください。なぜこのタイミングでデモ映像を制作、公開しようと考えたのでしょうか?
イシイジロウ氏(以下、イシイ氏):
現在、クラウドファンディングの第3弾(CAMPFIREでの第2部。9月1日〜9月30日まで実施)を「開発参加型クラウドファンディング」と名乗って実施しています。
うぶごえでの未入金問題と同様の事態が起こらないよう、1ヵ月単位で入金確認をさせていただいているため、3回目のクラウドファンディングとなっているのですが、同じプロジェクトで3回も支援を募るのは珍しいことです。
制作費はまだ足りないのか? 『SSS』で目指しているクオリティとは? 実写ADVにおけるクオリティとはどういったものなのか? そういった支援者の方々の疑問にお答えすべく、ゲームプレイデモ動画を用意させていただいたんですね。また、まだ『SSS』に気づいていない、潜在的な支援者の皆様へ向けて、ゲームのイメージをより具体的に知っていただく目的もありました。

──なるほど。撮影にあたり、イシイさんから飯野さんへはどういったお願いがあったのですか?
飯野歩氏(以下、飯野氏):
根本の部分をお話しすると、僕は『428』の撮影を担当していましたので、「どういう仕事をするのか」というのは、ある程度イシイさんにわかっていただいていたんですね。
そういった経緯もあり、『SSS』のデモプレイ撮影に関しては「飯野さんの好きなようにやってください」とお任せいただいたんです。静止画のルックや質感については事前の相談をせず、いったん僕が考える形で提出させてもらいました。
「イメージとぜんぜん違う」と言われたらマズいと思っていましたが(笑)、無事にOKをいただいて……。『428』のときは、「イシイさんは何を求めているのか?」を学びながら作っていったので、そのときの経験が活きたといいますか。
──デモプレイ映像の撮影は短時間で行われたということですが、北上さんは役柄にどうアジャストしていったのですか。
北上史欧氏(以下、北上氏):
御堂筋 美登里を演じるにあたり、台本を読み込むのはもちろん、脚本を担当する北島行徳さんからも、いろいろとお話は聞いていたので、事前に僕の中で役作りがある程度できていました。
実際に僕の中にあるもので演じてみて、ハマっていたら監督さんはそのまま使ってくださるし、監督さんの中で違うと思ったらおっしゃっていただけますし、できるだけ短時間でそこに合わせに行くのが役者としての仕事だと思っています。

飯野氏:
北上さんには本当に助けていただきました。「プロとしてやるのが当たり前」と言っても、今回はほぼ突貫作業だったのでいろいろと難しいところもあって……。ですが、「お客様にエネルギーが詰まった画を見せたい」という意気込みは強くありました。
北上氏:
僕はとにかく馬場蛮役の松田優さん(以下、松田さん)に叩かれたくなかったので(笑)。「松田さんに怒られない芝居はせんとあかんな」と(笑)。
イシイ氏:
松田さんは本当に楽しく撮影していただいたようで、終わったあとに「まだやりたいよ。もう終わりなの?」とおっしゃっていましたから(笑)。馬場蛮という役柄が、松田さんがふだん芝居で演じられているような、ハードボイルドな感じがあるからかもしれませんね。
飯野氏:
松田さんはほかのお仕事がある中、時間を作って来ていただいたのですが、そんな状況でも「まだやりたい」と言っていただけたのはうれしいですね。撮影中、銃を構えるシーンがあったのですが、構える練習をしているときにすごく楽しそうにしていたのが印象深いです(笑)。

ロケ場所で地下駐車場を提案した際、イシイ監督から「ココならアレやりましょうよ」と提案がありまして(笑)、御堂筋と馬場の決めカットは映画『レザボア・ドッグス』的なカットになりました。北上さんも松田さんもカッコよくてうれしくてニヤつきながら撮っちゃいました。
イシイ氏:
『タイムトラベラーズ』【※】でも映画のオマージュを随所に取り入れていたので、その系譜といいますか。僕らが映画好きのオタクだから仕方がないですよね(笑)。
※『タイムトラベラーズ』……レベルファイブから2012年に発売されたニンテンドー3DS/PlayStation Vita/PSP用ソフト。タイムトラベルをテーマとしたアドベンチャーゲーム。ディレクターをイシイ氏が務めている。

飯野氏:
『428』でもそうでしたが、北上さんのピシッと止まったときのフォルムってすごく画に映えるんですよね。
イシイ氏:
北上さんは多分、客観的な視点を持たれているんだと思います。ポーズを取ってカッコ悪い人って、自分はできているつもりで、鏡とかは見ていなかったりするんですよ。でも、北上さんは外からの視点を持っている。それはもう一種の才能ですよね。
飯野氏:
おふたりの衣装もすごくよかったですね。
イシイ氏:
衣装は本編で使用する予定のものを先んじて購入し、着ていただきました。御堂筋だけですよ、カバンも先行で用意したのは(笑)。

北上氏:
道具があったほうが芝居の材料になるので助かります。
衣装の役割ってめちゃくちゃ大きいんですよ。たとえば、医者の役をやるときに白衣を着せてもらうかどうかでぜんぜん違うわけで。
──撮影中、演者の方に「いま撮影した写真がこれです」と確認されることはあるのですか?
北上氏:
ありませんね。そこはもう監督に任せています。「このカットは使わないでください」と役者から言うことはないですから(笑)。監督を信用していますので。
──撮影する前に「こういう構図です」とお見せすることもないのですか。
飯野氏:
なるべくしようと思っていたのですが、今回のデモの撮影はとにかく時間がなかったので、あまりできませんでした。
イシイ氏:
『428』のときは僕が全撮影データが入っているストレージを持っていたので、それを使って撮影の合間に演者さんにお見せしていました。いい画が撮れたときは僕もうれしくて、演者さんにもお見せしたかったですし。
北上氏:
今回、とにかくひさしぶりの芝居だったので……8年ぶりくらいかな?
イシイ氏:
いや、そんなブランクはまったく感じなかったです。演技の刀を磨いていらっしゃったんだなと……。
北上氏:
何も磨いていなかったですよ(笑)。

飯野氏:
いやいや。地下駐車場でのアップのカットも、北上さんはふだんあんな表情する方ではないんですよね。だから「表現としてそれを出してくださっている」というのが強く伝わりました。……僕が引き出したわけじゃないのでいまお聞きしますが……どうやってあの表情を出したんですか?
北上氏:
いやでも、なんかそういう役でしょう。
イシイ氏:
撮影しているときに「すごい!」と感じましたよ。
必要最低限の中で、「勝てる画」を探した。動画もやってみたら「いいんじゃない」に
──ゲームプレイデモ動画で描かれているのは、本編のシナリオの切り出しではなく、デモ用のシナリオなのでしょうか?
イシイ氏:
キャラクターはある程度決まっているのでブレはないですが、シチュエーションはテストの意味を含んでいます。『SSS』は東急不動産さんにご協力いただいていますので、東急不動産さんが用意していただける場所で撮りたかったんですね。
「この場所だったらこういったシーンが撮れるね」というテストだったり、飯野さんが撮る写真のルックのテストだったり、撮影手法のテストでもあります。
また、東急不動産さんに対して、僕らが迷惑をかけずにできるかどうかという検証も含めています。「こんな撮り方だったら本番もいいですよ」という認識のすり合わせも含めて、いろいろとテストしたというか。
ただ、撮影・編集を非常に短期間で行ったので、音楽はノイジークロークさんの曲ではなく、SEも仮のものです。
今回のデモはゲーム本編を伝えることが目的ではなく、さまざまなテストを行いつつ、静止画のクオリティを支援者のみなさんに伝える意味があったんですね。
飯野氏:
シナリオはデモ用のものなのですが、しっかりと北島さんに書いていただいています。北島さんは、台本に対して「ここをこうしたい」と伝えたら、相談に乗ってくださる方なんですね。今回もデモ用のシナリオを急遽仕上げていただいて……。
北島さんのシナリオをベースに僕がロケハンした中でやれる範囲の場所を考えました。デモ用の撮影ですからスタッフも必要最低限な中で、「勝てる画」を見つけなきゃいけなかったんですね。
「こういった場所を舞台に書いてもらえませんか」という企画書を作成し、北島さんとお話しながら「じゃあこの舞台で4人にしよう」と決まっていって。最終的に、安堂亜蓮と雪城つなぐ、御堂筋美登里と馬場蛮の組み合わせとなりました。

──高架下のロケーションから始まるというのは飯野さんの案だったのですか?
飯野氏:
北島さんの元のテキストでは路地裏だったのですが、それだと今回は映像的にいい形にするのが難しいと判断しました。「場所の持っている迫力とか、先鋭性みたいなところを少しでも出していきたい」と考えたんですね。今回のデモはピンポイントでロケーションを選ばないとダメだなと。
──途中に動画が入っていましたが、それはどなたのアイデアだったのでしょう。
飯野氏:
それは僕の判断でやらせていただきました。イシイさんからは「『428』以上に静止画をメインにします」と事前にお聞きしていたので、動画はやらないだろうと僕も思っていたんです。ただ、「やっぱり動画がほしかった」とならないように、テストで撮影しておいたんです。
ある意味、「『SSS』では動画はやらない」という確約をイシイさんに取り付けようと思って撮影したのですが、イシイさんに提出したところ「動画、いいんじゃない」となり(笑)。
ですので、デモプレイ映像の動画シーンは僕自身、満足なものではないんですよね。
──もともとテストとして撮影していたので、クオリティを考えて撮っていなかったわけですね。
飯野氏:
イシイさんに「動画はなしだね」と言ってもらうために撮ったわけですから(笑)。使われるのがわかっていたら、もっとしっかり撮っていましたね。もちろん、手を抜いているという意味ではないのですが……。
たとえば亜蓮がエスカレーターを駆け上がって行くシーンは、「最初の画がこれで、この角度から亜蓮が入ってきてカメラを振る」といった時間軸があったほうが気持ちいいんですよ。
「動画になった瞬間に画面に映る画」をしっかり考えないとダメなんですけど、ゲームプレイデモ動画の収録は本当にタイトなスケジュールだったので……。

──なるほど。では、本編では動画シーンはもっと違うものになると。
飯野氏:
ゲーム中に動画が入っていることに対して、思いのほか好意的なお声をいただいたので、ああいった形で動画が入ることがユーザーさんのストレスにならないのであれば、考えて入れていくのはありだとは思っています。ただ、それを撮影現場でどう組み入れていくかまではまだわからない状況ですね。
イシイ氏:
静止画はストーリーに大きく関わるものですから、静止画撮影の作業を圧迫するくらい動画にこだわってしまうと、トータルのクオリティが下がるリスクがあります。
そこはバランスなのですが、今回はパッと見たときに「この動画が映像に入ってるほうがお客様に是非を問える」と思ったんですね。もともとは僕への確認用としての動画だったわけですが、お客様に是非を問いかけてもいいクオリティであったわけです。
──デモプレイ映像で実際に役者さんを撮ってみていかがでしたか?
飯野氏:
北上さんが交差点に走り込むのは本当にやっていただいているので、動画で見せたほうがいい、という思いはありました。

北上氏:
でも走ってみて、昔のキレがなくなっているな、と思いましたけど(笑)。
飯野氏:
いやいや、現場で北上さんがお芝居を始めた瞬間に「20年前の北上さんがいるじゃん!」と強く感じました。御堂筋のベースにあるのはあの時の北上さんですから。
一方、松田さんは「僕らの思い描く松田さん」を演じてくださったんですよね。それが馬場蛮にすごくマッチしていて。そんな北上さんと松田さんとが演技で対決してくださったんですよね。短時間での撮影だったのでたいへんではあったのですが、「これがあるから撮影はおもしろいんだよな」というところを改めて実感しました。
──東急不動産さんが提供してくださったロケーションはどういった場所だったのでしょうか?
飯野氏:
以前から東急不動産さんと撮影プロデューサーと打ち合わせをしていたんですね。「こういう物件があります」とか、「渋谷サクラステージも大丈夫ですよ」といったお話をお聞きしていて。
そんなときにデモプレイ映像の話が立ち上がったので、東急不動産さんに「急遽お借りできるとしたらどういうところがありますか」、「駐車場で撮影は可能ですか?」とお伝えしたところ、合致する場所をお貸しいただけました。

──駐車場のシーンは東急不動産さんからご提供いただいた撮影場所だったんですね。
飯野氏:
そうです。ほかにも御堂筋の後ろにオレンジ色の光のラインが見えたところは、渋谷サクラステージのクルマ寄せの場所なのですが、そちらも東急不動産さんに手配いただきました。

イシイ氏:
東急不動産さんがロケ地を提供してくれるというお話について、「本当はどこまでやっていただけるのだろうか」と若干不安な部分もあったんですね。実際に動くとなるとなかなか調整が難しい、といったことはビジネスではよくあることなので。
でも、今回のデモプレイ映像の撮影を通じて、東急不動産さんがプロジェクトに対して本気でコミットしていただいてることが本当によくわかりました。本編でも、安心して東急不動産さんと撮影に臨めると確信しました。
撮影ではアナログなレンズで「味」を表現
──飯野さんはデモプレイ映像の仕上がりをどうイメージされたのでしょうか?
飯野氏:
僕がやらなくてはいけなかったことは、ユーザーさんを見据えたうえで、最初にイシイさんにプレゼンすることでした。「少し突っ込んだことをやりたいんだけどいいですか?」とうかがったときに、イシイさんからは「まずやってみてほしい」と返答をいただいたんですね。突っ込んだことというのは、レンズの選択。通常のレンズではなく、昔のアナログなレンズを使いたかったんです。
じつは『SSS』で北島さんが書かれている世界は、バラエティに富んで書かれていた過去作と比べると、やや大人びているんですね。
──すごくよくわかります。映像からその雰囲気が伝わりました。
飯野氏:
その「大人の世界」、『SSS』の世界を映像とする際に、光と影をコントロールする必要があり、影はロケ場所で、光についてはいつもと違うレンズの使用がしっくりくると思ったんです。
──レンズを変えるとどういった効果があるのでしょうか?
飯野氏:
撮影ではイシイさん所有のカメラを借りているのですが、もともとは最新のレンズが付いていたんです。今回使ったのは、オートフォーカスも効かない昔のレンズなんですね。でもオールドレンズを使うと、光が入ってきたときにレンズの中の内面反射の影響で柔らかいグラデーションの表現が可能なんです。

光が入ってきたら滲みが出るというのは、本来避けたいことなのですが、狙いによっては「味」にもなると思っているので、今回はオールドレンズでやりたかったんです。デモプレイ映像でわかりやすいのは、北上さんが考えているときの静止画。ボワっとした光が北上さんの前に回ってくるみたいな演出をわざとやっています。同じシーンでも最新のレンズで撮るとくっきりとした絵になるので印象が変わってくるんです。
──なるほど。
飯野氏:
最新のレンズを使った画もシャープな画として悪いわけではありません。ただ、滲んでいるようなジワっとくる感じが、北島さんが『SSS』で描いている大人びた雰囲気、ひと筋縄ではいかない感情みたいなものに合うかなと……。
イシイ氏:
オールドレンズは飯野さんの武器のひとつで、『女流棋士の春』【※】のときも、あるシーンをオールドレンズで撮ってくれています。
※『女流棋士の春』……イシイ氏が監督・脚本・編集、飯野氏が撮影を手がけた自主制作映画。女流棋士の香川愛生氏が主演を務めている。
