「時間軸を考えての画面構成と構図」デモに込められた演出の技法
──ここからは「静止画のクオリティ」についてお話を聞かせてください。撮影するにあたり、構図をご自身の頭の中で考えてから臨むのですか?
飯野氏:
イシイさんが僕を「撮影・演出」に選んでくださった要因のひとつが、「静止画を時間軸で捉える視点があること」だと思っています。
脚本にあるシーンを撮影するにあたって、たとえば状況を説明する画があってからひとりずつ写していくのがいいのか、単体から見せてドンと行くのがいいのかなど、いろいろな表現があるわけです。
画面に表示されるテキストをいちばんドキドキする形で見せるには、「引きから見せてアップに行く」のか「アップから見せて引きに行くのか」みたいなことをまず考えないといけないんですね。そこを考えないと構図は出てこないんです。
顔から行くと決めたときに「では、顔はどう写っていればいいのか」となり、具体的にカメラの位置とか使うレンズを決めて……とトータルで考え始めていきます。
デモプレイ映像でも亜蓮の顔がドンと出るシーンがありますが、あのシーンはもともと「道にいる」といった状況説明が入っていたんです。ただ映画で言うと、状況説明ではなく、絶対にセリフから入ったほうがいいと思ったので、亜蓮編が始まった瞬間に「もう一度、聞く」から入って、ドンと顔を映すようにしています。こちらのほうが「なんだろう?」とプレイした人が思ってくれるはずなんです。

ですので「状況説明の文章を削除させてください」と北島さんにお願いして、その代わりに顔のアップで始めることにしました。そういったことを総合的に考え、カット割りを行っているイメージですね。

──なるほど。ちなみに『SSS』の本編ではキャラクターごとに雰囲気を変えていく予定はあるのですか。
イシイ氏:
キャラクターを切り替えたときにある程度わかるようにしたいと思っていますので、それが映像で表現できればベストです。
ただ、『428』では加納編と亜智編は「追う者と追われる者」という役割からテイストが似ていたんですね。今回もそういった関係性のあるキャラクターであれば、テイストや雰囲気が似てもいいと考えています。
単にキャラクターごとのUIの色を変えるというものではなく、何らかのアイデアを出して雰囲気を異なるものにしていくつもりです。『428』でもレンズはいろいろな種類を試しましたので、複数のオールドレンズでテストするのもいいかもしれないですね。
少し脱線しますが、飯野さんはアニメもお好きなんですよ。実写のレイアウトだけじゃなくてアニメのレイアウトもものすごく勉強されているんです。「安彦良和さん、庵野秀明さんのレイアウトはここがすごいよね」という話題もお話できるので、幅広いアンテナを持たれているんです。
たとえば旧ガイナックスはアニメではありますが、あえて静止画を多用していたり。そういった使い方とサウンドノベルは似ているところがあるんですよね。実写でそれをやるのは嫌がる人が多い気がするのですが、飯野さんは懐広く取り入れてくれる器があるんです。
飯野氏:
デモプレイ映像でも、亜蓮が高架下にいるシーンで鉄骨が映っているカットがあるのですが、そこはアニメ的な方法論かなと思って入れています。照明を1発だけ当てて、「静止画としてテキストが載ったときにどう映えるか」ということを意識しています。

イシイ氏:
レイアウトを発見するためのアプローチ。そこに対しての信頼が飯野さんにはあります。僕はレイアウトへのこだわりが強いので、カメラマンと感性がずれていて、わかってもらえないと、非常にもどかしい思いをするわけです。でも、飯野さんにはそれがない。
飯野さんが過去に手がけた『ガソリンゼロ』という作品があるのですが、レイアウトがすごくいいんです。スタートしてから「このレイアウトいいな」と思っていたらさらに変わっていって、「ここでピシャッと止まったら完璧!」と思った瞬間に、カメラが動かなくなるという、最高のカットを探っているのがわかるシーンがあるんですよ。
その決まったレイアウトがめちゃくちゃよくて……。ほかにも、同じように感じるシーンがいくつもあったんです。最高のカットを探ってたどり着いたレイアウトが「ここしかないでしょ」と僕が思うところと合致しているんですよね。「僕がカメラマンでも絶対ここで止める」という。だから、この人は絶対にレイアウトを保証してくれるなと思ったんです。
──ここまでお話をうかがって、「いい写真」というのは、カメラマンの腕前や技術的なものだけで生まれるのではなく、「考えて撮影する」という向き合い方やアプローチが重要なんだということがよくわかりました。
飯野氏:
正直、僕の静止画撮影のスキルは、ほかのカメラマンさんほどにはないんですよね。世の中に大勢いらっしゃるスチールカメラマンさんの経験値にはまったく及ばない。
ただ、僕は作品に対して、「時間軸を考えての画面構成と構図」に全力を注いでいます。もちろん、それは動画でもやっていますので、そのアプローチを最大限に活かして、心地よくユーザーのみなさんに届けられるように今後も努力していきます。

──そういえば、デモプレイ映像のメイキングの中で、想像以上に飯野さんがカメラを動かしているのに驚きました。
飯野氏:
あれは動画を撮っているときですね。動画の撮影時はいわゆる時間軸の動かし方、わざと揺らす撮影方法を取り入れていました。スチールを撮るときはブレないようにしなければいけないのでカメラは動かさず、僕が動くので真逆ですね。
たとえば北上さんが角からこちらを覗いているシーンだとしたら、撮影中に僕が動いてずらしながら撮る、というのは結構やります。カメラマンが動きながらベストのポイントを探す、ということですね。
実写ADVはリズムゲームと同じ? 『SSS』でも『428』と同じくテンポを重視した
──『428』発売後のインタビューで、「ノベルゲームはボタンを押すのが楽しいゲームでなくてはならない」とイシイさんから教わったというお話がありました。それはずっと意識されているのでしょうか?
飯野氏:
ふだんゲームはあまりやらないほうだったのですが、『428』に携わったときに実際にゲームを遊んでみて、イシイさんがおっしゃったその意味がすごくよくわかったんです。
実写ADVはリズムゲームと変わらないんです。「テキストを読んでボタンを押したときに気持ちいいリアクションがある」。テキストADVはこの「気持ちよさ」がとても重要なんだと。

──そのテンポ感やスピード感、爽快感は『SSS』に踏襲しているわけですよね。
飯野氏:
デモプレイ映像では追求しきれていない部分ではありますが、ボタンを押すと何かが変わっていく気持ちよさというのはとても大事に考えています。
ユーザーの方がストレスなく、気づいたら気持ちよくボタンを押していた、となることが最良だと思っているので、それを阻害するような演出や画にしないようにつねに気を配っています。
──ザッピングでキャラクターが入れ替わるシーンで、演者どうしが手を叩いてキャラクターがスイッチする演出がとてもよかったです。

イシイ氏:
そのアイデアは箕星さん【※】です。箕星さんには、グラフィックにおけるゲームデザイナー的な役割をしていただいています。今回、制作を分業している感覚がすごくあります。僕は総監督、ディレクターであって、ゲームデザインに関しては各位の解釈でそれぞれのアレンジを作り上げる形で分業ができているんですね。北島さんにも、ルート分岐の部分でゲームデザイナー的なことをしていただいています。
※箕星さん……キャラクターデザイナーの箕星太朗(みのほし たろう)氏。『SSS』ではアートディレクターとして制作に参加している。
──ザッピング時の演出もデモ版だけの仮のものになるのでしょうか?
イシイ氏:
仮ですが、思った以上にいい演出だったので、本編にも入れ込むかもしれません。衣装替えをしながらできたらおもしろいなとか……。
