実写ADVの撮影は「1日100万円」が基本。人も場所も必要だからお金がかかる
──生々しい質問になりますが、実写ADVにおける撮影費用はどのようなところにお金がかかり、総額でおおよそいくらかかるものなのでしょうか?
イシイ氏:
僕がこれまでの経験で学んだ計算式をお伝えすると、撮影スタッフの費用、お弁当代などの経費を含めて、「1日100万円」を基本にしています。
この100万円にプラスして、キャストさんの出演費用がかかります。過去の経験に基づく概算ですが、仮に60日撮影する場合、撮影スタッフや経費だけで約6,000万円になります。そこにキャストの出演費用、プリプロダクションとポストプロダクション(収録した素材の加工や仕上げを行なう工程)の作業費用も加わる形になります。
このように計算すると、億という単位がすぐに見えてくるわけです。撮影日数と必要なスタッフ数が決まっているわけですから、コスト計算はすごくわかりやすくてあまりブレることはありません。

飯野氏:
クラファンで「この映像を作るために資金が必要です」とお伝えしているのは、「人が必要です、場所が必要です」という枠の話なんですよね。
北島さんの脚本に対して、いまは人も場所も十分には足りていない状態です。僕らは北島さんの作り上げた世界を最大限そのまま制作したい。そのためにクラファンで支援をお願いさせていただいている、ということです。
イシイ氏:
先ほどキャラクターごとにバリエーションを付けるかどうかの話がありましたが、バリエーションをつけないほうがコストは低くなるわけですよね。
この苦しい部分について「みなさん助けてください」というのが本音です。3回目のクラウドファンディングを実施しているのは、クオリティを担保するための制作費がまだ足りないからなんです。
制作費があれば時間もかけられるようになりますし、演者さんの余裕も大きく変わってきますので。
飯野氏:
「デモプレイ映像は撮れたじゃないか」というご意見があるかもしれませんが、「それはちょっと違うんです」とお伝えしておきたくて。たしかにデモは撮れましたが、あれは本当にすべてのところで無理をしているんですね。
とくに、デモの撮影は役者のみなさんにいきなり現場で演技をしていただいていて……。本来であれば現場では撮影中に安全を確保する人員なども必要ですし、準備段階からしっかりとしなきゃいけないんです。役者さんが演技に集中できる環境を整えるためにも、ご支援をいただけるとたいへん助かります。

イシイ氏:
3シーンを無理して撮るのか、余裕を持って2回と1回に分けるのか、それだけでもいろいろなことが変わってきます。詰め込めばコストは下がりますし、日数も60日じゃなくて40日で撮るとなれば、その分の費用は圧縮されるわけです。
でも、期間が短くなるほど静止画1枚1枚のクオリティが下がってしまう。「僕たちが目指すクオリティはこうなんです」とお伝えするために、ゲームプレイデモ動画を用意したんですね。
飯野氏:
今回のデモの撮影では、短い収録時間の中でも同じ角度で何回も撮り直しているんですね。いまの制作費ですと、それが本編ではできなくなる可能性があるんです。たとえば、デモプレイ映像は約11分のものですが、「同じ予算で22分のものを作りましょう」となると、1回のシーンにかけられる時間と費用は半分になるわけですよね。
そうなったときに、どこまでクオリティを保てるのか。役者さんも疲弊するでしょうし、いろいろな問題が出てくるので、なるべく余裕は持ちたい。……最終的にどこまで行っても余裕は絶対に出ないのはわかっているんですけど、せめていまよりは余裕を持たせたい、というのが切なる思いです。
イシイ氏:
「制作費が足りません」と何もない状態でお伝えしても、「いまの金額でできるでしょ?」とお客様が思われるかもしれません。そこを少しでも知っていただくべく、デモプレイ映像で「『SSS』が求める静止画のクオリティ」をお見せしたかったんです。
お金が集まらなかったとしても、昨年のプロトタイプ用に僕の撮った写真のようなクオリティにしたり、シナリオにも長いワンカットを入れてシチュエーションを少なくするなど、割り切ればできなくはない。でも、多分それはお客様が求めているものにはならないんですよね。
『SSS』は『街』、『428』の出演メンバーをメインに集まっていただいていますが、同窓会にするつもりはもちろんありません。お客様からは「あのときの感動をもう一度」、「あのときよりも進化した作品を」という声をたくさんいただいていますので、それ以上の実写ADVを作らなければいけません。
クラウドファンディングなしで準備した金額ですと、おそらくみなさんが満足するゲームには届かない。これまでの実写ADV以上のクオリティの作品を出したいというのが、20年のあいだ、ファンの方々とお話した僕なりの決意ですので、ぜひ引き続き応援をよろしくお願いします。

『428』撮影秘話と、渋谷という舞台のおもしろさ
──『SSS』で求めていることがよくわかりました。比較対象というわけではありませんが、これまでの実写ADVの例といいますか、『428』撮影時のエピソードもお聞かせください。
イシイ氏:
実写アドベンチャーとしては『忌火起草(イマビキソウ)』【※1】が自分の中でテストケースとしてあったのですが、『忌火起草』と『428』では物量が圧倒的に違ううえに、実際の渋谷でロケをするという特異性もありました。ロケといっても当初はブルーバックの使用も含めて何かしらの形で実現できればいいと思っていたのですが、現場からも「渋谷の街で実際に撮影をしたい」という強い要望があったんです。
当時は「後加工」という考え方も強く、『428』では飯野さんはサブカメラ担当だったので、銀残し【※2】のテイストを自分で作り込んで提案していたんです。メインカメラはできるだけフラットにあまり色をつけずに撮影し、加工を行う際に「この写真は銀残しを強めで、この写真は色合いを出して」といった作り方をしていました。
※1 『忌火起草(イマビキソウ)』……2007年10月25日にセガから発売された、チュンソフト開発のプレイステーション3用サウンドノベル。”忌火起草”にまつわる呪いの物語が展開。イシイ氏はプロデューサーを務めている。
※2 銀残し……フィルム現像の工程で銀(ハレーション防止層などの金属銀)をあえて残す特殊な技法、またはそれを模した写真の表現方法。映画『セブン』、『プライベート・ライアン』、『マトリックス』、市川崑監督の『おとうと』などが代表的。ざらついた、リアリティのある、シリアスな空気感を演出できる。
──『428』では全部で12万枚撮影されたというエピソードは有名です。
イシイ氏:
約2ヵ月間で12万枚を撮影しました。すべてチェックし、そこからゲームで使用する写真を4000枚選んだのですが、ほかの業務もある中での選定作業だったので、4000枚まで絞るのに3ヵ月ほどかかっています。
ただ、4000枚に絞った時点で「もう僕としては仕事が終わった」という感覚があったんですね。というのも、最初からシナリオをカット割りしていたんです。「この文章のここからここまでは1枚の写真にする」、「ここはアップでいく」といった、絵コンテのようなものを撮影時に使用するシナリオ台本の空白部分に描き込んでいました。シナリオをA3にプリントアウトして、テキストの横にある余白に、僕の頭の中にあるイメージをイラストとして描いたと。

飯野氏:
ロケの前に「これを絵コンテにしてください」とイシイさんから毎週渡され、それを必死に描いていきました。
イシイ氏:
僕が描いたイラストをもとに、現場でより精度が高い絵コンテにしてもらったんですね。たとえば「肩なめのアングルだったらこういうことでしょ」とか、「走るシーンだったらもうちょっとこうしないと」といった対応を現場の撮影チームにやってもらいました。
ですので、『428』のときは撮影については僕は直接的に手を出していないというか、撮影という性質上、何か問題があったときは現場の方たちがその場その場で判断しなきゃいけないんですよね。
撮影現場には同行していましたが、僕が直接シャッターを切るわけではないので、撮影中は問題点を見ていることしかできないんです。何か問題があったとしても、撮影が終わった日の夜に「明日からはこうしてほしい」と伝えて方向性がブレないようにするくらいで。
──撮影チームというのは、カメラマン以外にどういったメンバーがいるのでしょうか?
飯野氏:
映画やドラマのメイキング映像などで皆さんもご覧になったことがあると思いますが、基本は動画の撮影チームと同じです。実写アドベンチャーゲームは当然役者さんがいらっしゃいますから、どうしてもドラマ撮影と同規模になります。
収録している側が「動画ではなくスチールで撮る」という違いはあるものの、照明さんもいるし、制作進行さんやプロデューサー、監督、監督助手、撮影アシスタントもいる状態です。ほかにも、役者さんがいるときは当然スタイリストさん、メイクさんも張り付いていますから、映画の撮影現場と比較しても遜色はありません。
北上氏:
『428』のときは助監督さんも複数いらっしゃいましたよね。
飯野氏:
3人いたと思います。
北上氏:
サードまでいるっていうのは、映画と変わらない体制ですよね。
──なるほど。ものすごい規模の撮影だったんですね。
イシイ氏:
撮影期間中は、考える暇がないぐらいのペースで動いていました。前日の夜に「明日どうする?」と考えて、実際に決まるのが当日だったり。「ここのロケ地が空いたから今日行けます!」と突発的に動いたり。
飯野氏:
映画やドラマの場合、クランクインの前までにいろいろなことを確定させるのが基本なんですけど……。僕はそこには関わっていなかったのであとから聞いたのですが、「まだいろいろ決まってないけど、クランクインはしなきゃいけないから入ります」という状況だったようで。
香盤表にも空白があって決まっていなかったり、撮影が終わったあとに「みんな解散! じゃあメインスタッフはロケハンに行きます!」と、そのまま翌日のロケハンに行くこともあったり……。
──『428』発売後のインタビューで、飯野さんが「しばらくは渋谷に行きたくない」と発言されていたのが印象的でした。
飯野氏:
物理的に渋谷の街は疲れるんですよ。単純に人も多いですし、そこを毎日毎日歩き回っているだけで、空気感や雑音にあてられてしまうというか……。
イシイ氏:
音疲れはありましたね。たとえばゲームセンターの中で撮影をしていたときに、システム上、BGMが消せなかったんですよ。撮影しているあいだ、ずっと同じ曲がループで流れ続けていて……あれは精神的にかなり参りましたね(笑)。
──ちなみに、『SSS』制作のために、渋谷のロケハンはすでに始められているのですか?
飯野氏:
もう始めています。渋谷は街並みがすごいスピードで変わってますから、隅々までまわらないとロケーションがつかめないと思っていて。
──『街』の風景と『428』では街並みがガラッと変わっていましたから、『428』の街並みもいまの渋谷にはあまり残っていないですよね。
飯野氏:
とくに渋谷駅周辺はかなり変わっていますね。迷子になりながら回りました。ただ、意外とぜんぜん変わっていない場所もあるので、そういったおもしろさを『SSS』では取り入れていきたいですね。
──ロートレックの撮影場所だった恵比寿の「喫茶 銀座」【※】も2026年8月9日に閉店してしまいましたし……。
※喫茶 銀座……『428』に登場する喫茶店、ロートレックのロケ地となったお店。恵比寿にあるが店名は「銀座」。
北上氏:
最終日には、『428』ファンのみなさんが集まっていらっしゃったんですよね。ファンの方も「ありがとう喫茶銀座」と発信されていて。

飯野氏:
『428』に登場したほかのお店も、いろいろなくなってしまっています……。ただ、渋谷のおもしろいところは、先鋭化・近代化している場所の100メートル先に、昭和の佇まいが残っていること。また、坂が多くて高低差があるところも特徴ですね。映像的には、高低差があると奥行きが出やすいのですごく魅力的なんです。
「いろいろな舞台を見せられる」という意味で、渋谷はすごく魅力的な街なんですよね。海外の方も東京をイメージする際に「渋谷か浅草」と言われるじゃないですか。
新宿にも池袋にも東京駅にもない、渋谷だからこそのガチャガチャとしている魅力をロケハンを行っているときに強く実感しました。『SSS』の物語にもその魅力が溶け込んでいくでしょうし、入っていってほしいと思いながらロケーションを設定しています。
演技も撮影も、実写ADVゲームの経験を生かしていく
──演者の方はセリフは台本で覚えてくるにしても、実際の現場でどう動いてどう演技するのかはまったくわからない状態で臨まれるわけですよね?
北上氏:
お芝居を生業にされている方は、ふつうに準備してくると思いますよ。
イシイ氏:
絵コンテもありますし、「ここは顔を撮らない」といったことも書いてあるので、脚本単体よりもわかりやすかったかもしれないですね。
北上氏:
シーンコンテも割ってあるからわかるじゃないですか。脚本はいわば文章が書いてあるだけの設計図ですよね。それを見て、たとえば僕みたいなレベルの役者だったら1日、2日だけ演じる役もけっこうやるわけです。
役者の立場からすると、現場がどんな感じかもわからないし、監督が何を求めているのかもわからないけど、とりあえず行って一発かまして帰ってこなきゃいけない。
爪痕を残す必要はないですけど、少なくともオーケーテイクは取らなきゃいけないわけです。そうすると、たとえばそれが3行のセリフだろうがワンシーンだろうが、仕上がりを想像してその現場で自分のやるべきパズルのピースを演じる。
それは役者であれば皆さんやっていると思いますね。『428』のときはそれをただただ暴力的にやっていたわけですけど(笑)。

飯野氏:
俳優さんはとにかくキャラクターを表現してもらえさえすればよくて、それをいかに撮るのかは撮影側の仕事です。演じる側は脚本にしっかりと目を通されているので、「キャラクターをいかに作っていただくか」に懸かっているわけですが、演じるという点に関しては皆さんブレないでやっていただけています。
北上氏:
『428』のときで言えば、ふつうの撮影現場よりも場に当たる数が多かったんですよね。それは僕が演じた御法川だけではなく、亜智、加納も同様でした。
ずっと御法川という役柄を演じていると、キャラクターが次第に定着してくるというか。そうすると撮る側も安心するだろうし、こちらも何か注意されることが少なくなっていくんですよ。
──演じる側と撮る側に阿吽の呼吸みたいなものが生まれてくるんですね。
飯野氏:
『428』のときは僕はカメラマンで演出は現場での監督が担当されていましたが、一般的に演出する側は「ここはこういう感じで」と最初に役者さんにお伝えするんです。
ただ、言われたとおりに演じるのではなく、言われたことをベースに一度ご自身に溶かしてから演じるのが説得力のある役者さんなんですね。
溶けて出てきたものがどんどん積み重なると、「どうやります?」と今度は撮る側が質問するようになるんです。そこまでいくと、現場はまず演技を見せてもらい、外れていなかったら「それでいきましょう」となる。キャラクターを演者さんが育ててくれるイメージですよね。
とくに『428』は撮影期間も長かったので、御法川というキャラクターは北上さんが演じてくださったからこそ、あれほど魅力的なキャラクターになったというのは間違いありません。
──撮影するときは、ストーリーの最初から順番に撮影するわけではありませんよね。感情の表現などはどうされているのですか?
北上氏:
前のシーンで爆発が起こっていたとしても、「そのときの心情」や「何を背負っているのか」を想像したり、たとえば「誰かを追っているときに自分は何を思ってるのか」などを想像します。
「もしかしたらその日の朝に発生したことが感情のフックになっているのかも」とか。台本の読み方が大事かもしれませんね。
イシイ氏:
映画やドラマは順撮りだと思っている方もいらっしゃいますが、そんなことはないんですよね(笑)。
飯野氏:
撮影では「出会ったあとにすぐお別れ」みたいなことも少なくないですよね。役者の方にはそれを背負いながら演じていただいています。
北上氏:
昔、ホラー映画でワンシーン目にいきなりラストシーンを撮った経験があります(笑)。亡くなった方が棺に入っている場面だったのですが、さすがに「誰を思って俺はこの棺を見てんねん!」となりました(笑)。
撮影は、どうしようもないときがあるんですよね。作り手側もそんな順番で撮りたくないですし、できれば順撮りにしたい。それは役者も演出も作る側もそうしたほうがみんな豊かにできるんですけど、コスト面やスケジュールを考えると現実的ではないんです。
イシイ氏:
実写ゲームの撮影現場は、『忌火起草』、『428』に続き、『SSS』で3回目になりますが、ここまで経験を積んでいる人は世の中にそうそういないと思うんです。
僕は『街』のノウハウを諸先輩方からお聞きしつつ資料を見て勉強し、そのあとに『忌火起草』を作らせていただいたのですが、そのときにいろいろと自分なりの実験をぶつけていたんですね。「もっとこうしたほうがいい」という反省点を踏まえて『428』を作り、それからまた20年経ちました。
コストダウンというか、「インディーのサイズ感で『SSS』が実現できるのか」と考えたときに、「いままでのノウハウがあればできるはずだ」という確信があったんです。
ただ、映画やドラマ畑のスタッフの方々は、プロであればあるほど、ビデオゲーム制作の現場はやり方が違うから混乱されるんですよね。でも、実写ゲームの制作を経験されている方だとその混乱がないだけでも相当違うんです。
ですので、『SSS』はこれまでに実写ADVに出演経験のある役者さんたちを柱にしていますから、「ファンのみなさんが求めている」ことに加え、「実写ゲーム制作に対する経験がある」というところも大きいです。
クラウドファンディングでみなさんの支援を募っておりますので、最後まで応援していただければうれしいです。
