EVEの高すぎるハードルを逆手に取ったサバイバルゲーム
──その一方で今回の『EVE Frontier』は、「サバイバルゲーム」を掲げています。この部分についての説明をお願いします。
Hilmar氏:
私が『EVE Online』を作ったとき、それは当時のMMOのスタイル、つまり『Ultima Online』や『EverQuest』といったロールプレイングゲーム全般に、かなり則った作りでした。
そしてMMOはしばしば、ビュッフェレストランのようになります。あらゆる料理が並んでいるけれど、専門店ではない。ある意味、すべての料理を出そうとするレストランなのです。MMOの多くは、そういうものです。

──運営が用意したコンテンツを順に消費していくタイプのMMOで、一般的に「テーマパーク型」と呼ばれるものですね。プレイヤーの行動そのものが世界を作っていく『EVE Online』のような「サンドボックス型」とは、よく対比されます。
Hilmar氏:
一方、サバイバルゲームというジャンルは、言うまでもなく『Minecraft』が大きく普及させ、その後『Rust』や『Valheim』など、数多くのゲームが続きました。
サバイバルゲームをプレイするとき、最初の目的は非常に明確です。「最初の夜を生き延びろ」「食料を切らすな」。ゲームのごく序盤から、強い明確さとフォーカスが生まれるのです。
我々はそこをもっと実験して、序盤のフォーカスを強めたかった。

──その「序盤のフォーカス」は、『EVE Online』に欠けていたものだった、ということでしょうか。
Hilmar氏:
EVEには、あまりに多くのゲームプレイと機能があり、新規プレイヤーとして入っていくのがかなり難しい。学ぶべきことが多すぎるんです。
しかしサバイバルゲームなら、明確な目的から始まって、体験がMMO的なものへと育っていく。プレイヤーの旅の始め方として、違うやり方になると感じました。
──なるほど。『EVE Online』は序盤のハードルが高いことで有名ですが、そのハードルの高さを逆手に取ったわけですか。
Hilmar氏:
宇宙は、サバイバルに実によく合うのです。
宇宙で生き延びるのが困難だということは、誰もが自然に知っていますから。
だから我々は、EVEにすでにある過酷さを土台にしながら、それをさらに、サバイバルゲームというジャンルから得たインスピレーションで強化したかった。
それは序盤のフォーカスを生むと同時に、現代のオーディエンスにとっての馴染みやすさも生んでくれるのです。

「我々は、あなたに恐怖を感じてほしい」。失い得るからこそ、意味がある
──『EVE Frontier』は、『EVE Online』よりもっと過酷なゲームになるんですか?
Hilmar氏:
「もっと過酷にすること」自体がゴールというわけでは、必ずしもないのです。我々がよりフォーカスしているのは、ゲームプレイを通じた没入感と、このゲームをプレイすることの”危険”です。
このゲームの中にいることは、危険に感じられるべきです。ちょうど、フロム・ソフトウェアのゲームをプレイすることが、危険に感じられ得るように。
『ELDEN RING』で巨大なボスを目にしたとき、「これをいったいどうやって倒せばいいんだ」と思うでしょう。そして挑み、そのボスを恐れることになる。
我々が目指しているのは、そうした種類の感情であって、過酷さやデスペナルティそれ自体ではありません。世界が危険に感じられる。その帰結として、プレイヤーの内側にあの感情を呼び起こすことなのです。

──ソウルライクゲームの魅力は世界中に浸透していますが、全体として見れば少数派、多くは快適さや優しさを前面に出しています。そうしたなか、『EVE Frontier』で厳しさを選ぶのは、リスクだという見方はできないでしょうか。
Hilmar氏:
いいえ。我々はゲームを、より難しくしています。
我々は、あなたに恐怖を感じてほしいのです。
──ゲームの難しさ・過酷さを追求することは、先ほどから伺っている「意味のある仮想空間」に、どう繋がっているんでしょうか。
Hilmar氏:
あなたにとって「意味のあるもの」とは、失いたくないもののことだと思うのです。
意味のあるものを持っていれば、それを保ち続けたい、失いたくないと思うでしょう。
つまり、ゲームが常にあなたから何かを奪おうと脅かしてくる。その事実そのものが、「自分にとって何が意味のあるものなのか」を自分で決めることを、強く促すのです。
例えば、私が『ELDEN RING』をプレイしているとします。建物の外の高い場所を歩き、ちょっとしたパズルのような足場を飛び移っている。もし落ちれば、ルーンを失います。最初からやり直して、そのルーンを回収しに戻らなければならない。
私がルーンを大切に思うのは、それを失い得るからです。
では、決して失うことのないもの。維持するために、何も投資しなくていいもの。
……それは本当に、あなたにとって意味のあるものなのでしょうか?
DeepMindの創業者と語り合った思考実験「AlphaEVE」
──ここからは、「現実より意味のある仮想世界」を『EVE Frontier』で実現するための、具体的な手段について伺います。先日開催されたカンファレンス「IVS2026」でHilmarさんが登壇された際、AI、オープンソース、ブロックチェーンについて語られていましたよね。あの3つがFrontierの鍵になると感じたので、順に聞かせてください。
まずはAIから。Fenris CreationsはGoogleのDeepMindと提携しています。DeepMindと言えば、これまで囲碁や『StarCraft』といった分野でAIの限界にチャレンジしてきた企業です。今回の提携は、どういう発想から生まれたものなんでしょうか。
Hilmar氏:
Google DeepMindの共同創業者であるデミス・ハサビスとは、非常に長い付き合いなんです。最初に会ったのは10年前。そして2017年の初頭に、とても興味深いミーティングをしました。
そこで我々は、思考実験(ソート・エクササイズ)として『AlphaEVE』を作る、という話をしたのです。
──AlphaGoがプロ棋士を破って世界を騒がせたのが2016年ですから、その直後には、もう“EVE版”の構想を話していたわけですね。
Hilmar氏:
ええ。その後、去年……もうほぼ1年前になりますが、ロンドンのカンファレンスで彼と再会しました。そこからDeepMindの人々と、AIとEVEの双方をどう前進させられるか、より深く一緒に動き始めたのです。
そして同じ時期に、我々はPearl Abyssと、マネジメント・バイアウト(MBO)【※】についての話も並行して進めていました。そこである時点で、私はDeepMindに「このMBOに参加しないか」と持ちかけたのです。こうしてこのパートナーシップは生まれ、以来多くの仕事を一緒にやってきています。
※MBO:経営陣が自社の株式を買い取り、親会社などから独立する手法。『EVE Online』の開発元CCP Gamesは2018年に韓国のPearl Abyss傘下に入ったが、2026年5月、総額1.2億ドルのMBOにより独立。社名をFenris Creationsに改めた。この際、Googleが少数株主として出資し、Google DeepMindとの研究提携が結ばれている。

──もし当時、Pearl Abyssの傘下を出るという選択肢がなかったとしても、それでもDeepMindと提携していたと思いますか?
Hilmar氏:
起こり得たかもしれませんが、違う形になっていたでしょうね。
独立した会社であることは……(と、ここで言葉を切る)。
いや、Pearl Abyssのことは大好きなんですよ。我々は良き友人です。
ただ、2018年に統合した後も、お互い、自分たちのゲーム作りにあまりに忙しくて、実際には何も一緒にやっていませんでした。
だから、袂を分かつ方がいいだろうと合意したのです。
そして今、我々はこの新しいMBO体制のもと、少数株主(マイノリティ・シェアホルダー)となった彼らとともに、非常に深く協働しています。


