エヌシージャパンのMMORPG『タワー オブ アイオン』(以下、AION)で、8月20日、サービス開始以来最大のリニューアルが行われた。
従来は1か月以上を要したキャラ育成期間が3時間で済み、初心者向けの新クラス「ルミネス ウイング」が登場。AION史上、PVPが最高潮に盛り上がったエリア「ティアマランタ」も、12年ぶりに復活した。
現在のAIONは、誰でもインストールしたその日にキャラを一人前にして、最もアツいPVP環境に身を投じられるのだ。
AIONが正式サービスを開始して16年が経過するが、このあいだにMMORPGジャンルの姿形は激変している。
スマホゲームの登場でライトになったのをはじめ、ガチャやPay to Winなどの到来により、昔ながらのPC向けMMORPGの醍醐味の多くは、いまでは失われている。こういった現状を受けて、スマホゲーム世代でも楽しめるように、AIONが最適化された形だ。
若い電ファミ読者の多くは知らないかもしれないが、エヌシージャパンは2002年に『リネージュ』を展開して以来、PC向けMMORPGに徹底的にこだわり続けるパブリッシャである。もちろん、エヌシージャパンで働く運営スタッフも、MMORPGに人生を捧げてきたような人ばかりだ。
そんな彼らは、このMMORPGジャンルの移り変わりについて、どのように感じているのだろうか? そんなことを思い立ち、AIONが大きく変わるこの節目に座談会を企画してみた。
現在主流となっているスマホ向けMMORPGについて、ぶっちゃけどう考えているのか。それに対し、エヌシージャパンは現在どのようなアクションを行っているのか。そして、今後MMORPGジャンルはどのように変化するのか。
MMORPGに関心のある人や、かつて関心があった人は、ぜひ一読してほしい。

・座談会の出席者:
タナベ氏:AIONよりも前の『リネージュ2』の頃から運営チームに在籍。MMORPGの運営におけるユーザーとの距離感を模索し、前例のないチャレンジをし続けた。
ミウラ氏:現在のAION運営プロデューサー。エヌシージャパンのPC向けオンラインゲーム事業を全般的に歴任してきた経歴を持つ。
アライ氏:『リネージュ2』が好きすぎてアライアンス担当として入社し、同作の日本統括プロデューサーまで上り詰めた男。プライベートではAIONの元廃人プレイヤー。
カトウ氏:元AION運営プロデューサー。最初はWebサービスの企画職だったが、AIONをひたすらプレイしていたのを発見され、スカウトされた経歴を持つ。
聞き手・文/kawasaki
2勢力間のPVPを主軸に置くも、人数格差に悩まされ続けたAION
タナベ氏:
いやー、ついにAIONがサービス終了ですか!
ミウラ氏:
いきなり誤解を招く言い方はやめてください!(笑)
ライブサービスは終了しますが、AIONそのものは今の時代に最適化されたクラシックサービスとして続きますから!
タナベ氏:
(笑)。ライブサービスって、今まで何年くらい続けてきたんでしたっけ?
ミウラ氏:
16年ですね。
MMORPGの主戦場がスマホ中心になって久しいこのご時世に、コアなPC向けMMORPGがここまで長く続いたのは感無量というか、もう十分にやり切ったと言っていいと思います。「よくぞここまで……!」という想いですよ。
──AIONはクラシックサービスに一本化されるほか、広域エリア「ティアマランタ メサ」の追加、ゲーム全体のリニューアルなど、大きな節目を迎えます。そこで今回は、AIONの歴代運営スタッフの皆さんにお集まりいただき、好きなだけ語ってもらおうと思いまして。
アライ氏:
語るのは構わないんですが、その内容を記事として公にできるのだろうか(笑)。
──この機会を逃したら二度とチャンスが来ないかもしれないので、ややこしいことは後で考えましょう。それでは、まずは今回のアップデートについてお願いします。
ミウラ氏:
今回のアップデート、つまりライブサービスで12年前に実装された「Episode 3.0」は、本当に完成度が高かったです。あの環境をクラシックサービスで再び展開できるのは、現在のAIONサービスチームを担当する者として、とてもワクワクしています。
タナベ氏:
ワクワクするのは分かるけど、12年前の運営スタッフとして言わせてもらうと、当時はめちゃくちゃ大変でしたよ?
そもそもの話をすると、AIONのサービスを立ち上げた頃は、PC向けMMORPGでPKに対する反発がめちゃくちゃ強かった時代です。そんななか、プレイヤーを天族と魔族で2分させて、お互いにPKさせるというメインコンセプトそのものが受け入れがたかった。
「そんなの日本でうまくいくわけないじゃん」って、社内でも言われていましたから。
──しかも日本では、「天族 vs.魔族」の対立構造が「天使 vs.悪魔」のイメージで受け止められてしまい、サービス開始後は天族に人気が集中しました。
タナベ氏:
そうなんですよ。
大規模PVPコンテンツの「要塞戦」なんかも明らかにバランスが悪くて、どのサーバーも天族が優勢でした。魔族側のモチベは下がる一方だし、サービスチームとしても、「魔族を増やさないと、どんどんプレイヤーが減っていくぞ!」って危機感が常にありました。
それで、魔族側に経験値ボーナスなどのバフを与えるなど優遇をしたら、今度は天族側から「ずるい!」とクレームが殺到して……。あの頃のサービスチームは、この人数格差をどうすれば解消できるか、そのことばかりを考えていました。
アライ氏:
人数のバランスを取るために、一時期は天族側だけ新規キャラクターを作成できなくするなど、いま考えるとけっこう無茶してた記憶がありますね。
ミウラ氏:
でも、最初からプレイヤーコミュニティを二分化して、最終的に大規模PVPに向かわせるAIONのコンセプトは革新的でしたよね。他社さんのタイトルも含め、同ジャンル内では頭ひとつ抜きん出てたと思います。
タナベ氏:
まぁ、それは一理あるかなと思います。
──AIONのPVPは、どちらかというと仲間との連携プレイの延長線上にあるんですよね。“PK”という言葉からは物騒なイメージも受けますが、実際には超高性能なAIキャラクターとスポーツライクに戦っているような気分で、ギスギス感は意外と少ないという。
ミウラ氏:
もちろん、常に100%完璧なサービスなどありえないので、さまざまなトラブルにも遭遇しましたが、当時のサービスチームが「完成型MMORPG」とブチ上げたくなる気持ちは、今はよく分かります。実際、その原点に回帰した仕様のクラシックサービスは、いい感じに盛り上がっていると感じます。
タナベ氏:
クラシックサーバーの種族格差はどんな感じなんですか?
ミウラ氏:
じつはクラシックサーバーがオープンして以来、どちらかというと魔族が優勢な状態が続いているんですよ。
タナベ氏:
えっ、マジで!?
ミウラ氏:
たとえば魔族の特徴である肌の色や赤く光る目、尖った爪など16年前は敬遠されていましたが、いまは違います。プレイヤーの抵抗感がないどころか、むしろカッコイイと受け止められることも多いです。
あとは、クラシックサービスが始まるときに、有名なストリーマーさんがプライベートでガッツリ遊んでくれていて、その配信を見た人たちが集まってくれたのも大きかったですね。
「ティアマランタの目」でPVPが盛り上がった頃のAIONが再び
──そんなクラシックサービスに、Episode 3.0のコンテンツが再び登場します。12年前に、AIONライブサービスのサービスチームで頑張っていたタナベさんに、当時を振り返ってもらいたいのですが。

タナベ氏:
天族と魔族の人数格差が少し落ち着いた頃に、Episode 3.0のアップデートが来たんですよね。でも、この内容が大問題だったんですよ。
せっかくPVPを楽しむ人たちが残ってくれたのに、Episode 3.0ではインスタンスダンジョンが多数追加されるわ、PVPが行えない中立エリアも出てくるわで、大規模PVPを主軸とするAIONのコンセプトがブレまくっていると感じました。当時の日本サービスチームとしては、開発に対して言いたいことが山ほどありましたね。
アライ氏:
納得しかない……(笑)。
タナベ氏:
でも、そういった問題はあっても、Episode 3.0のコンテンツ自体が盛り上がっていたのは間違いないです。AIONのサービス全体を振り返っても、正式サービス開始直後の「アビス」【※】の次に活気があったのが、このEpisode 3.0だったと思います。
※アビス:
エリア内の全域で、翼を持ったプレイヤーキャラが飛行できるPVPVEエリア。360方向で繰り広げられる空中戦は当時大きな話題となった
──具体的なコンテンツでいうと、どのあたりでしょうか?
タナベ氏:
やっぱり、「ティアマランタの目」のエリアですね。
さほど広くないこのエリア内では、いつ突発的なPVPが起こってもおかしくない。「アビスポイント」や「勲章」【※】を目当てに大勢のプレイヤーが参加して、敵対種族と必然的に遭遇する構造になっていたんです。
敵対種族が画面内に現れるとき、ほんの一瞬ラグって、画面内にログが流れるんですよね。あの瞬間の昂りといったら、もう、たまらない。
※アビスポイント、勲章:
PVP用装備の獲得に必要な専用ポイント。これらの獲得が事実上
アライ氏:
ティアマランタの目にあった、PVPを行うデイリーミッションが楽しかったですね。
あれを行うために現地で即席チームを組むんですが、全員が必殺技スキルを惜しみなく使うから、たとえ敵対種族に遭遇しても、半ば“ひき殺し”状態。みんなテンション上がりまくりで、そのまま敵対種族の本拠地まで突っ込んで暴れ回るくらいの勢いでした。
そうして嵐のような時間が10数分続いて、「おつかれー」って後腐れなく解散して、皆が思い思いのコンテンツに戻る。あのサイクルが心地よかった。
ミウラ氏:
ティアマランタの目でいうと、個々の決闘チックなPVPというより、天族 vs.魔族の総力戦だったところが強く印象に残っています。
誰かがチャットで「ここに天族がいます!」と報告したら、1分以内に仲間が風道【※】に乗って駆けつけてくるとか。そうやって小競り合いを続けていたら、お互いどんどん参戦してきてライン戦になるとか。
たとえフレンドや同じレギオン(※ギルド)でなくても、同じ種族のプレイヤーのみんなが、何かしらの形で共闘してたんですよね。仲間意識の強さが、種族対種族における強さに直結していました。

アライ氏:
ライン戦で劣勢になると、少しずつ押し込まれるんですけど、その代わりに拠点との距離が近くなる。それによって、拠点からの援軍に駆けつけやすくなって、逆に相手側は距離が伸びるので、一気に押し返すチャンスが出てくるんです。
あれは、大規模戦闘における“兵站”の概念そのものだったと思います。
タナベ氏:
たまに、とんでもなく強い人が助けに来てくれるんですよね。超デカい外見のソードウイングの人が斬り込み隊長を買って出て、敵のど真ん中でハルバードをグルグル振り回して、それがきっかけで相手種族が崩れて逆転するとか。あれはめちゃくちゃ格好良くて憧れました。
ミウラ氏:
AIONの大規模PVPのコンセプトを最初に体現したのはアビスでしたが、それをさらに先鋭化させたのがティアマランタの目だと思いますね。
カトウ氏:
ティアマランタの目は、参加時のハードルが低いのも良かったと思います。
ソロプレイでPVPを行うのって、ある程度腕に自信がないと尻込みしちゃう部分があるんですよね。でもティアマランタの目なら、気心の知れたフレンドやレギオンで動いてもいいし、野良のチームに参加してもいい。
ティアマランタの目でイベントを開催すれば、大人数が集まって盛り上がることが確定していたので、サービスチームの視点でも重宝していました。
興奮のるつぼと化す「スナヤカ」討伐戦
タナベ氏:
あとは、ティアマランタの目といえば、やっぱり最強のドラゴン「スナヤカ」でしょう。
あれの討伐中は、必ずと言っていいほど敵対勢力が襲いかかって来る。だからそれを見越して、タゲを取っているパーティがスナヤカをがっちり固定しつつ、それ以外の全メンバー全員が一斉に迎撃に出るとか。

で、バトルの様子が全チャで通達されると、他のエリアにいるプレイヤーも「スナヤカが邪魔されて、なんかすごいことになってる、行こうぜ行こうぜ!」って集まって。次から次へとフォースが結成されて現地に駆けつけて、数百人規模に膨れ上がるとか。
そうして、画面内が敵対種族のキャラネームで真っ赤になるほどのPVPが行われて、そうこうしていると1時間くらい、あっという間に過ぎちゃうんですよね。
アライ氏:
私のメインキャラはシールドウイングで、他クラスと比べてソロプレイはいまいちなんですけど、スナヤカ戦やライン戦のような大人数PVPだと輝くんですよ。あの状況でキャプチャーやスナッチ(※1名、あるいは最多18名の敵を引き寄せるスキル)を使うとき以上の快感って、なかなかないです。

ミウラ氏:
あの瞬間のためだけに、シールドウイングを育成してもいいくらいですね(笑)。
アライ氏:
あと、スナヤカで思い出したんですけど、あれがポップする場所のすぐ隣に、最高難度のインスタンスダンジョン「龍帝の安息所」の入口があるんですよね。
私は当時、ユスティエル ワールドの魔族でプレイしてたんですけど、時間帯によってはエリア全域が天族に封鎖されて、ダンジョンに行けない状態が続いていました。
それでも強引に入場を試みるんだけど、12人の参加者のうち最後尾の2~3名が天族にPKされちゃって。「このメンバーで勝てるのだろうか……?」って頭を抱えながら、ダメ元で挑戦したものの、やっぱり無理だったり。

──おぉ、奇遇ですね。僕のメインキャラはユスティエルの天族でした。封鎖、めっちゃ楽しかったです! ありがとうございます!
アライ氏:
貴様か!(笑)。
でも、あの頃の魔族はキツい戦いを強いられてたけど、そうやって劣勢に立たされていることすら、同じ種族の仲間意識を育んでくれた部分があったと思います。龍帝の安息所に行くのをサポートするために、魔族の強いプレイヤーが集まって血路を切り開いてくれたのは感動しました。
タナベ氏:
うんうん。AIONは天族と魔族の人数格差が長年尾を引きずって、当時のサービスチームとしては魔族劣勢は悩みの種だったけど、今振り返ると、そうやってあがいた経験すら良い思い出につながっているのかもしれないね。
