“MMORPGの面白さ”ってなんだ?
──あらためて、皆さんにお聞きしたいのですが。“あの頃のPC向けのMMORPGの面白さ”って、どの部分にあると思いますか?
タナベ氏:
MMORPGの魅力、ですか。
うーん……。リアルとは別の、もうひとつの人生、かなぁ。
言うならば、「本物の人生、始まる。」ですよ。
アライ氏:
それはリネ2のキャッチコピーじゃないですか!(笑)
タナベ氏:
リネ2でもAIONでもそうでしたけど、みんながリアルとは違うもうひとつの人生を、ゲーム内で過ごしてたんですよね。
オフ会に行くと、みんながキャラクターネームのままで呼び合っていて。たとえリアルでは社会的に弱かったとしても、そんなのは誰も気にしていなくて、ゲーム内で強いやつが尊敬されるとか。
もうひとつの人生が、そこにはあった。メタバースなんかが言われるよりもはるか前から。
アライ氏:
しかも、リアルとゲームが絶妙に絡み合っていたと思います。
仲良しになったフレンドからSkypeのIDを聞いてコミュニケーションを取って、そこから恋愛に発展して結婚した人とかも普通にいますし。
逆にネカマもいましたけど(笑)。
──『ファイナルファンタジーXI』や『ラグナロクオンライン』などもそうですが、当時のPC向けMMORPGは、コミュニケーションが濃厚になることが多いからなのか、現実世界で起こりうることの多くが同様に起こってました。
タナベ氏:
やっぱり、人と遊ぶ楽しさっていうのが一番ですかね。
しかも画面の向こうにいる見ず知らずの人と会って、一緒に遊ぶっていうのが楽しい。たとえばパーティ募集をかけて、野良の人と一緒に遊んで、死んだら生き返らせてくれるとか。わからないことがあれば教えてくれるとか。
コンテンツを攻略できてアイテムをゲットしたとかよりも、コミュニケーションを取ること自体が楽しい。そもそも戦闘なんかしなくても、それこそ首都エリアでだらだらと喋ってるだけでも、じゅうぶんに楽しかった。
カトウ氏:
でも、いっぽうでバトルが激しいゲームだから、コミュニケーションを駆使した結果、バトルに反映できたときの喜びもひとしおでしたよね。
レギオンの仲間とドレドギオンに行って、最初は「いや、だから最初に攻撃するのは1番だって言ってんじゃん!」とか、もう全然バラバラなんですけど。辛抱強くやりとりを行って、少しずつ上達して、最後はお互い言わずとも阿吽の呼吸で動けるようになるとか。
──個人的に、昔ながらのPC向けMMORPGの醍醐味は、「他プレイヤーとの出会いによって生まれる、偶発的な何か」だと思っていて。その“何か”の幅が広ければ広いほど、MMORPGとしても面白い。
ミウラ氏:
おお、それはまったく同感です。
タナベ氏:
そうですよね。予定調和ではなく、何が起こるか分からないワクワク感がないと、MMORPGじゃない。
──同時に、誰がプレイしても似たような展開にしかならないタイトルに対しては、善し悪しは別として、同じジャンルだとは思えないんです。
タナベ氏:
あと、これは大前提だけど大人数であること、かなと思います。
AIONで面白かったコンテンツを振り返ると、さっき言ったスナヤカとか、アビスの守護神長やメノティオスの奪い合いとか。あとは首都エリアでのバカ騒ぎもそうだけど、みんなMMOのフィールドでの出来事だよね。大人数が参加するからこそ盛り上がる。
逆に言うと、人数が制限されたインスタンスダンジョンがメインコンテンツのタイトルは、その時点で、僕が考えるMMORPGらしさからは離れてる。MMORPGは「Massively Multiplayer Online RPG」の略だけど、インスタンスはMassively(大規模)ではないから。
──その議論は、2001年に『Anarchy Online』がインスタンスエリアを発明したときから、なぜか延々と繰り返されているんですよね……。
話を戻させてもらうと、ここまで皆さんが挙げられたMMORPGの魅力は、昨今のスマホ向けMMORPGでは味わえないものばかりだと、あらためて思いました。
タナベ氏:
そうですね。だから少なくとも、この両方を同じジャンル名で語るのは、やっぱり違うんじゃないかなと思います。

今後のMMORPGジャンルはどうなる?
──MMORPGの姿形はスマホゲームの台頭によって激変したものの、ここ1~2年は回帰の兆しのようなものが見え始めているという話も聞けました。今後、このジャンルはどのように変わっていくと思いますか?
タナベ氏:
これは僕の想像ですけど、さっき言った“BOTゲーム”、そろそろみんな飽きてませんかね?
僕がいまメインで遊んでいるのは『フォートナイト』で、これはこれで非常に面白いんですが、翌日にゲームを起動して、「あれ、昨日あんなに頑張ったのにパワーアップしてないな?」って物足りなさを感じるときもある。
テクニックを磨く面白さとは別に、コツコツと積み重ねて強くなる面白さを、懐かしく思い出すこともあるわけです。
経済、流行、技術など、さまざまな分野で「10年周期」と言われるけど、MMORPGでもコアな遊び方が再び注目される可能性というか、前兆のようなものを感じています。
──現在は、スマホのMMORPGがトレンドになってから約8年が経過しています。あと2年で、10年を迎えますね。
タナベ氏:
たとえMMORPGの体験がライトになろうが、コアなコンテンツを求める層は一定数必ずいるはず。そして、現在そこに向けてサービスを届けられているパブリッシャが、どれだけ存在しているのか。
ここは、エヌシージャパンにとっての勝機があるんじゃないかと。
ミウラ氏:
10年周期ですか……。確かに。
どんなジャンルでも言えますけど、カジュアルなゲームが一気に広がると、それに慣れた人がもっとコアな方面への興味を持ち始めるんですよね。「コアなMMORPGを遊びたい」というニーズが表面化したときに、AIONのクラシックサービスを受け皿にしたいですね。
カトウ氏:
僕個人の希望としては、リアルとの適度な距離感をきちんと取れるゲームであってほしいですね。
あまりにもお金や時間を掛けすぎたり、しかもそれを継続しないと他のプレイヤーに追い越されたりとか。そういうゲームって、いつかリアルに支障をきたしてもおかしくない。
ゲームから離れたあと、「やっぱりMMORPGって、お金や時間を無駄に消費するだけだったね」という印象が残ってしまうのは、娯楽のサービスを提供する会社の人間として、ちょっと寂しいと感じます。
お金や時間などを大きく犠牲にしないと続けられないようなものではなく、長く楽しめるMMORPGであってほしいですね。
“無駄”を大切にするMMORPG
──残念ながらそろそろ時間となります。最後に、今後のAIONに向けた期待感などを語っていただけますか。
タナベ氏:
えーと、そうですね。
昔で言うと、首都エリアに初めて行くと、高レベルの人が煌びやかな装備とかを着てて。「それってなんていう装備ですか?」って聞いたり、そういう人に憧れたりして、自分の目標ができたり、世界が広がっていく。
そうやって何年も続けて情熱を注ぎ込んだMMORPGって、もはや人生の一部といっても過言じゃないと思うんです。
──人生、ですか。
タナベ氏:
そして人生は効率だけを追求しているわけじゃないし、むしろ無駄な時間もたくさんある。AIONも同じで、ただ殺し合うだけじゃない。無駄をも含めて楽しめるような世界や、居場所であってほしい。
──効率重視は虚無しか残らないですよね。「俺は“娯楽”で、いったい何をやってるんだ?」と、我に返るというか。
タナベ氏:
今回の座談会の依頼を受けて、AIONでどの瞬間が一番楽しかったかなーって思い返したんですけど。これが意外と、プライベートで遊んでいる時にレギオンに誘われたりした瞬間だったりするんですよ。あとは、ふと出会った人とボイスチャットで盛り上がって、気がついたら3時間くらい話していたとか。
そういった無駄な時間のひとつひとつが、かけがえのないものだったりする。スナヤカの大規模PVPは最高に面白かったけど、もしかするとそれ以上に。
アライ氏:
そうですね……。うん、そうだよ。
タナベ氏:
今回の座談会に参加して、超久々にAIONをプレイしたくなったんですけど、そのときは首都エリアでぼーっとしながら、見知らぬ人とチャットをしたい。
「こんにちは! 新人さんですか? 僕、MCタナベって言うんですけど!」 「は? 誰ですか?」みたいな。そういう他愛の無いやりとりを無性にしたくなりました。
ミウラ氏:
ぜひライブ中継してください(笑)。
──先ほどタナベさんは、MMORPGは人生だとおっしゃいましたけど、とてもステキな“余生”の過ごし方だと思います。僕も付き合いますよ。
タナベ氏:
今のAIONは3時間でレベル60に到達して、PVPの最前線に立てるみたいだけど。
でも、チャットすら一切せずに効率だけを突き詰めて駆け抜けても、いつの日かAIONから離れて振り返ったときに、たぶん何も残らない。そのときに思い出すのは、どちらかというと無駄なことだと思う。
だからAIONは、そういう部分も大切にしてほしいなと。
僕から最も伝えたいのは、そういった部分ですね。
ミウラ氏:
そうですね……。
今回の座談会に参加して、このAIONを、昔ながらのMMORPGが好きな人や、新たに共感してくれた人にとっての居場所にしたいと思いました。タナベさん、ありがとうございました!
──皆さんも、今日はありがとうございました。とても興味深いお話が聞けました。
アライ氏:
……ところで、この座談会で話した内容、半分以上が公にできなさそうなんだが?
<了>