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MMORPGの面白さってなんだ? スマホゲームによるライト化、ガチャ&Pay to Win、そして“回帰”の兆しなどが赤裸々に語られた、『タワー オブ アイオン』歴代運営スタッフによる座談会

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MMORPGのトレンドの変化を受ける形でAIONがリニューアル

──今回のアップデートには、クラシックサービス全体に対するリニューアルも含まれています。それにより、昔は1か月以上掛かっていたキャラ育成が3時間に短縮されるなど、思いっきりライトになっているのですが、そのことはご存じですか?

タナベ氏:
いや、にわかに信じがたいというか……。意味がわからない(笑)。

ミウラ氏:
そのほかにも飛行時の時間制限が撤廃されたり、速攻でクリアできるミッション報酬で最高級グレードの「ルドラ装備」や「パドマシャ装備」が獲得できたりと、全体的にめちゃくちゃ緩和しているんですよ。

タナベ氏:
すごいなー。でも、プレイヤーテクニックを鍛える機会をすっ飛ばしても大丈夫なのか心配になりますね。

MMORPG運営を知り尽くす『タワー オブ アイオン』歴代運営スタッフによる座談会。“MMORPGの面白さ”ってなんだ?_016
ルドラ装備やパドマシャ装備は、かつては全プレイヤーにとって垂涎の品だった

ミウラ氏:
そこに関しては、新クラスとして追加される「ルミネス ウイング」が、初心者プレイヤーの受け皿になっています。このクラスは主要スキルの種類が少なくて、スキルボタンを適当に連打しているだけでも、それなりに戦えるんです。

現在のクラシックサービスの流れをざっくり言うと、キャラ作成からレベル60まではサクっと育成して、必要な装備も得られて、ティアマランタの目にも参戦できます。そこから先のレベリングや、PVPでの上達などは、しっかり考えて頑張らないといけない。

このように、新規プレイヤーにとっての遊びやすさを重視しつつ、中級者以上にとっての手応えを両立したバランスにしています。

タナベ氏:
でも、レベル60まで駆け足で進められることで、失われる部分もあるんじゃないの?

たとえば、ほら、AIONってミッションのストーリーが濃密なんですよ。
あとは、初めてエリートモンスターの強敵に遭遇して、一人じゃ太刀打ちできないから、その辺の人と即席パーティを編成したら、全然関係ない雑談で盛り上がるとか……。そういう醍醐味を全部スキップしてしまうのは、ちょっともったいないかも。

ミウラ氏:
その気持ちはよく分かります。
でも、元々のAIONはコアすぎて、タナベさんが言うような醍醐味をひとつひとつ辿ってもらうゲームデザインは、残念ながらいまどきのスマホゲーマーには受け入れられないんです。

どこまで手軽にするかは本当に悩んだのですが、ちょっとやそっとの緩和では、まったく見向きもされない現実もあって。なので今回は思い切って舵を切りました。

MMORPG運営を知り尽くす『タワー オブ アイオン』歴代運営スタッフによる座談会。“MMORPGの面白さ”ってなんだ?_017

──そのあたりは、コアな要素とライトな要素のトレードオフですよね。

ミウラ氏:
以前のAIONをいろんな人にプレイしてもらって、初めての人の反応とかを見ているんですが、意外と簡単なことでつまずいたりするんです。自由飛行を楽しんでいたら時間切れで落下したり、ミッションの目的地を見つけられずにゲーム自体を止めちゃったり。

いまどきのスマホ向けのMMORPGに慣れていると、「画面右上のクエストボタンを押したら、目的地まで自動で進むんじゃないの?」と感じるのが当たり前だったりもします。

私たちにとっては常識のプレイスタイルは、コアで遊びごたえもたっぷりあるけど、実は未経験者にとってはハードルにもなっていて。それらの離脱ポイントを、ひとつひとつ潰していく必要がありました。

タナベ氏:
なるほど。

ミウラ氏:
16年前とは違って、いまはネット上に娯楽があふれ返っていて、サクッと遊べなきゃ切り捨てられてしまう。昔のAIONのようなTime to Win【※】のMMORPGは、その最たるものです。
この現実を受け入れたうえで、どうすれば今後もAIONが盛り上がり続けられるのかを考えた結果、今回のリニューアルに至りました。

※Time to Win(T2W):
時間をかけることでゲームを有利に進められる、または強くなれるゲームデザイン

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スマホゲームとP2Wによって激変したMMORPGジャンル

──ここに集まっていただいた皆さんは、昔ながらのコアなMMORPGが好きで、エヌシージャパンに入られました。しかし現在のMMORPGジャンルは、ご存知の通りスマホ向けに最適化されたものが主流です。このジャンルの移り変わりについて、率直な意見を聞きたいです。

タナベ氏:
僕はエヌシージャパンを退職して久しく、好き勝手に言える立場ですが、いまスマホで主流のMMORPGは、僕たちが夢中になった頃のMMORPGとは、まったくの別物だと思いますね。

あれはMMOのシステムを使って、“BOTゲーム”を動かしているだけと感じます。ロールプレイをしていないし、そもそもRPGなのかな? という部分から疑問に感じています。

MMORPG運営を知り尽くす『タワー オブ アイオン』歴代運営スタッフによる座談会。“MMORPGの面白さ”ってなんだ?_019

ミウラ氏:
ロールプレイ、ですか……。確かにそうですね。

先ほど、クラシックサービスを取材された川崎さんと、軽くパーティプレイをしたんです。僕はサポート役に徹して、回復したりエリアを紹介したりしてたんですけど、それだけでもすごく楽しかった。自分が人のために役立っている実感とか、各プレイヤーの役割分担がしっかりできる醍醐味は、昨今のMMORPGでは失われているのかも、と感じました。

アライ氏:
今のスマホのMMORPGは、基本的に全員が“主人公”なんですよね。一人でなんでもできるのが当たり前で、むしろ、そうじゃないと受け入れられない。

攻撃は弱いけど仲間を守れるタンク役とか、攻撃はからっきしだけどサポートやヒールは任せてくれ、とか。そういった個性のある面々が、それぞれの得意分野で力を発揮することで、パーティ全体で難所を乗り越えられるとか。そういった部分は、いまのスマホのMMORPGでは失われてしまった、貴重なゲーム性なんですよね。

タナベ氏:
別に、どっちが良い悪いとか言ってるわけではないので、そこは誤解しないでほしいんです。AIONやリネージュ2の頃のPC向けMMORPGと、現在広く認知されているスマホ向けMMORPGを、同じジャンル名でくくるのは間違っていると個人的には感じますね。

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──スマホ向けのMMORPGが初めて登場した頃、多くのパブリッシャが「PC向けMMORPGの醍醐味がスマホで!」みたいな売り方をしていたんですよね。当時の売り方としては正しかったわけですが……。

カトウ氏:
あとは、やっぱりガチャとPay to Win【※】ですかね。
現在のAIONでも課金アイテムを導入してはいますが、それが決定的な要素にはなっていません。スキル回しを練習するなど、プレイヤーテクニックを磨けば、トッププレイヤーが相手でもじゅうぶんに渡り合えるバランスです。

でも、P2Wのタイトルだと、リアルマネーを湯水のごとく注ぎ込めば、「どけどけ! 俺が1番だ!」となってしまう。

※Pay to Win(P2W):
課金を行うことでゲームを有利に進められる仕組みや、そうしないと勝利や成功がかなり困難になるゲームデザイン

──P2WのMMORPGが出てくること自体は、ニーズなので構わないと思うんです。お金に対する価値観は人それぞれですし、昔のAIONのようなT2Wだって、手放しでは褒められない部分もあります。けれども、近年はスマホに最適化されたMMORPGばかりで、ゲーマーにとっての選択肢の幅が狭まっているのは残念だと思います。

全員:
そうなんだよねぇ……。

(※記事には掲載できないやりとりがしばらく続く)

今後のMMORPGはP2Wじゃなくなる兆しが?

──スマホに最適化されたMMORPGはコアではなくなり、誰でも楽しめるようになりました。しかしライトになった弊害で、誰もが似たようなゲーム体験になりがちです。また、ガチャやP2Wに嫌気がさした人は離れ、MMORPGジャンルに対するイメージも、昔からは大きく変わりました。

ミウラ氏:
そこは、個人的にもずっと悩み続けている部分です。
僕らも商売ですから、「強くなりたい」というプレイヤーの欲求を満たすために、いろいろなものを販売してきました。ただ、それと引き換えに失っているものもあると感じます。

やっぱり、MMORPGの運営で一番大事なことって、大勢のプレイヤーが参加してくれることなんですよね。短期的な売上に執着するあまり、プレイヤーのコミュニティをないがしろにしてしまうと、長期的な盛り上がりを失ってしまう。それによる被害が大きいのではないか? と。

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──僕は、自分の子供のような年齢の編集者やライターさんと話すことも多くて、「MMORPGってどう思います?」って聞くんですが、我々とは認識がまったく違うんです。でも僕には、彼らの認識を覆すことができません……。

全員:
そうなんだよねぇ……。

(※記事には到底掲載できないやりとりが再び延々と続く)

──ただ、ここ1~2年に登場した新作MMORPGの動きを見ると、課金のプレッシャーを減らすことをアピールすることが増えている印象があります。この辺りに対して、パブリッシャ視点で思うところなどはありますか?

ミウラ氏:
そうですね。じつは1~2年前からはP2Wを悔い改めて……、というと語弊がありますが(苦笑)、少しずつ回帰する流れがあります。

じつは、今回のAIONのリニューアルも同様なんですよ。
以前は月額課金を行わないと毎日1時間までしかドロップアイテムが得られないとか、色々と制約があったのですが、それらはほとんど撤廃しています。大半のゲーム内アイテムがギーナ(※ゲーム内通貨)で購入できますし、ゲーム内で頑張った人は相応の報酬が得られるデザインになっています。

アライ氏:
私が担当している『リネージュ2』のEVAサービス【※】や、あとは『ブレイドアンドソウル』をリニューアルした『ブレイドアンドソウル NEO』でも、いわゆる課金圧を下げる方向で調整していますね。

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※『リネージュ2』のEVAサービス:2025年4月にスタートした、原点回帰を謳った新サービス。ソロプレイヤーや初心者でもストレスフリーで遊べるように最適化されている(※公式サイト

──おぉ、そうなんですか……!

ミウラ氏:
もちろん、いまサービスが安定しているタイトルで、いきなりP2WからT2Wにポンと切り替えるのは現実的に難しいです。
なので、既存のタイトルで特殊仕様のサービスを新たに立てる際に、上記の試みを試験的に行っています。これが好評で、他のタイトルにも少しずつ波及させている状態です。

今回のAIONクラシックサービスも、弊社のタイトル全体を俯瞰すると、その大きな流れの一部でもあります。

──エヌシージャパンはMMORPGのリーディングカンパニーなので、このジャンルのイメージを変えるために、メッセージを打ち出すことも期待したいです。

ミウラ氏:
そうですね。やっぱり、現在のゲーマーにとっては「MMORPGって、どうせ課金ゲーなんでしょ」というイメージが根付いてしまっているのは事実なので、今後どうやってアピールするかも含め、真摯に受け止めています。

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編集者
元4Gamer。『Diablo』 『Ultima Online』 『EverQuest』 『FF11』 『AION』等々の、黎明期のオンラインRPGにおける熱狂やコミュニティ、そこから生まれたさまざまな文化は今も忘れられません。

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