厳しい結果・厳しい代償が生む友情
──単なる仮想空間を実現するだけなら、世の中に数多くあるMMORPGでもできると思うんです。でもHilmarさんは先ほどから、「現実より意味がある」とものすごく強調されている。そこまで言うからには、普通のMMORPGとは違う何かがあるはずです。『EVE Online』ならではの、他のMMORPGにはない特徴を教えていただけますか。
Hilmar氏:
まず1つ目は、EVE Onlineがワンサーバーで運営されていて、プレイヤー全員が同じゲームをプレイしている、ということです。
どのサーバーにいるべきかを選ぶ必要も、サーバー移転をする必要もない。全体がまるごと、1つの巨大なソーシャルネットワークであり、経済であり、友情と敵対が繰り広げられる舞台なのです。
2つ目は、このゲームが非常に懲罰的(パニッシング)であり得る、ということです。
ゲーム内のデスペナルティは非常に厳しく、宇宙船を失えば、それは消えてなくなります。もう一度自分で作るか、誰かに作ってもらうしかありません。
──確かに、どちらもユニークな仕様ですね。
Hilmar氏:
そして、このゲームの過酷さ──それは宇宙そのものの過酷さでもあります──ゆえに、人々は互いに信頼を築き、友情を築く方向へと、強く押し出されていきます。
なぜならこのゲームでは、「友情の強さが、そのままあなたの強さ」だからです。
──これほどまでにデスペナルティが厳しいMMORPGは、黎明期の『Ultima Online』くらいしか思い浮かびません。
Hilmar氏:
人々を信頼関係の構築へ向かわせること自体は、もしかすると、最初から意図してデザインしたものではなかったかもしれません。しかしそれは間違いなく、このゲームのデザインがもたらした帰結なのです。
つまり『EVE Online』が他のMMOと大きく違うのは、「全員が同じゲームをプレイしていること」、そして「プレイするのが非常にタフなゲームであること」なのです。
──そうした世界を作り上げる際に、参考にした作品はあったのでしょうか。あるいは『EVE Online』の登場後に、近しいものを感じた作品があれば教えてください。
Hilmar氏:
同じようなことをやっている、非常に印象的な日本のゲーム会社がありますよね。フロム・ソフトウェアです。
『Demon’s Souls』『ダークソウル』『SEKIRO』『ELDEN RING』──特に『ELDEN RING』を見れば分かりますが、あのゲームたちの持つ懲罰的な側面は、『EVE Online』にも色濃く通じています。

──ソウルライクの魅力は、理不尽の一歩手前の容赦ない懲罰と、プレイヤー自身の上達を経て、死線を乗り越えた先にあるカタルシスにありますよね。
Hilmar氏:
『EVE Online』とは、いわば「もしダークソウルがMMOだったら」というゲームです。もし本当にそれを実現したなら、きっと『EVE Online』のような感触になるでしょうね。
500人が去り、5000人が加わった「Guiding Hand Social Club 強奪事件」
──『EVE Online』は過酷なだけでなく、その先でしか得られない、さまざまな経験・体験もあると思います。同盟、裏切り、復讐……そういった人間ドラマの中で、特に印象に残っているエピソードはありますか。
Hilmar氏:
これはゲームのごく初期、2004年か2005年頃の話です。サービス開始から最初の数年のうちに、初めての「内部からの企業乗っ取り」が起きました。
何者かがあるコーポレーションに潜入し、組織のトップに上り詰め、全員の信頼を勝ち取り、すべての格納庫(ハンガー)の鍵を手に入れて、コーポレーションの全資産を盗み、持ち逃げしたのです。
──コアゲーマーのあいだでは有名なエピソードですが、あらためて紹介していただけますか。
Hilmar氏:
被害に遭ったコーポレーションのメンバーたちは、当然ながら激怒しました。そして我々、つまり『EVE Online』の運営会社であるCCP Games(※当時の運営会社)のもとに来て、こう言ったのです。「これを修正しろ。アイテムを取り返して、我々に返還しろ」と。
それに対して、我々はこう答えました。
「実のところ、何も壊されてはいません。彼らはハッキングをしていないし、ルールも破っていない。彼らが壊したのは”あなたたちからの信頼”です。そしてあなたたちは、誰を信頼するかに気をつけるべきでした。我々はこうした事柄には介入しません。正義は、あなたたち自身のやり方で見つけてもらうしかありません」
彼らは激怒し、それを知った多くの人が『EVE Online』を離れ、サブスクリプションを解約しました。
──バグではなく人間関係のトラブルだから、運営チームとしては介入できないし、それを行うのは筋違いだと。
Hilmar氏:
このときは約500人がゲームから離れ、それにより我々は赤字に転落しました。
EVEのごく初期のことで、500人というのは、黒字と赤字を左右する数だったのです。
そして経営が赤字になったことを受けて、CCP Gamesの社員たちも、私にこう言いました。
「Hilmar、こんなことをしてはダメだ。愚かだ。そんなに意固地になるな」と。
それでも私は方針を貫きましたが、これは非常に苦しい決断でした。
そして1年後のことです。ゲーム雑誌のPC Gamerが、この「Guiding Hand Social Club 強奪事件」について、8ページの特集記事を掲載しました。見事な記事でした。
すると、その記事のおかげで5000人がゲームに参加したのです。
──離脱者の10倍の人数ですか。
Hilmar氏:
これはおそらく、このゲームの歴史上、最も重大な出来事だったと思います。あの詐取と裏切りのすべて、そして我々のこの運営姿勢のせいで、ゲームは死にかけました。
しかし同時に、まさにその姿勢があったからこそ、このゲームは生き延び、より強くなったのです。
RMTとBOTを再考する──『EVE Frontier』が向き合う3つの命題
──『EVE Online』では「意味のある仮想空間」を実現し、現在も現役でサービスが続いています。しかしHilmarさんは、現在開発中の新作『EVE Frontier』で、また新しい宇宙を作ろうとしています。『EVE Online』では満たせていない何かが、Hilmarさんの中にあったということなんでしょうか。
Hilmar氏:
『EVE Online』の運営から学んだことが、いくつもあります。また、当時の我々は若く、ゲームを作ったこともなかったので、十分に備えられていなかったことがあるのです。
1つ目。『EVE Online』は2000年代初頭に作られたゲームです。当時メジャーだったPCスペック、たとえばPentium IIIのCPUや、NVIDIAのグラフィックスボードといった環境向けに作られています。
つまり、PCスペックの制約によって、提供できる仮想世界への没入感に限界があったのです。その点、今回の『EVE Frontier』ではグラフィックスと物理演算を大幅に強化しており、ゲームの手触りはかなり違います。
──『EVE Online』から20年以上経っているわけで、スペックは雲泥の違いですよね。
Hilmar氏:
2つ目。『EVE Online』では実際に、多くの人がゲーム内アイテムをリアルマネートレード(RMT)で売買しています。この事実に、真正面から向き合いたかった。
もちろん、RMTは許可されていません。利用規約違反であり、我々はやった人を次々とBANしてきました。しかし、それでもなくなりません。
そしてそもそも『EVE Online』は、RMTが起きる前提ではデザインされていないのです。
だから私たちは、そのような行動に対して、ゲーム体験そのもののデザインを通じて向き合いたいと考えました。
──RMTが行われることを念頭に置いて、ゲームデザインに組み込んだと。
Hilmar氏:
私はアイスランド出身なので、これを「開放経済か、閉鎖経済か」「通貨統制があるか、ないか」という視点で見ているんです【※】。つまりFrontierのアプローチは、通貨統制を撤廃するようなものです。
※アイスランドは2008年の金融危機後、厳格な資本規制(通貨統制)を導入し、2017年に撤廃した経緯を持つ。Hilmar氏は「RMTの禁止」をゲーム内経済における通貨統制に、「容認」をその撤廃になぞらえている。

──多くのMMOでは、レアアイテムなどはプレイヤー間でトレードできないようにするといった形で対処していますが、それとは違うアプローチで向き合ったわけですね。
Hilmar氏:
3つ目。EVEの周辺では、多くのサードパーティー開発が行われています。人々がウェブサイトを作って、ゲームのプレイを支えているのです。最も有名なものの1つが、zKillboardという撃墜記録サイトです【※】。
※zKillboard:『EVE Online』のゲーム内で生成される撃墜記録(キルメール)を収集・集計し、プレイヤーの戦績や戦闘の損害規模を誰でも閲覧できるようにした、有志による外部Webサイト。https://zkillboard.com/
私は、サードパーティー開発者がワールドの状態を「読む」だけでなく、「書き込める」ようにしたかった。そういう、より深い仕組みが欲しかったのです。そして実は、スマートコントラクト【※】はまさにそれに向いています。
※スマートコントラクト:ブロックチェーン上に置かれる、あらかじめ決められた条件を満たすと自動的に実行されるプログラム。人手や管理者を介さずに取引や処理を確定できるのが特徴で、ここでは「外部の開発者がゲーム世界に対して動作する仕組みを作り、動かせる技術」として言及されている。
──つまり従来の外部ツールは、zKillboardのようにゲーム内のデータを取得して「見る」ことしかできなかった。それを『EVE Frontier』では、外部の開発者が作った仕組みからゲーム世界そのものに手を加えられるようにする、ということですか。
Hilmar氏:
ええ。それからもう1つ、BOTの問題があります。クリックボットのようなプログラムを作って、自分の代わりにゲームをプレイさせる行為。これは、どんなMMOでも起こることです。
だから私は、人間とautomated agents(自動化エージェント)が共存できる、バランスの取れたプレイグラウンドを作りたかった。Frontierのバックストーリーが、オートメーションとAIを軸にしているのはそのためです。
しかもこのバックストーリーは、現在のAIバブルが来る前に書いていたものでした。結果として、我々はよく備えられていたわけです。
──BOTも、禁止するのではなく世界観ごと取り込んでしまうわけですね。先ほどのRMTと同じ発想を感じます。
Hilmar氏:
つまり、より高い没入感、RMTへの解決策、そしてサードパーティー開発。これらが、私が本当に取り組みたかったことなのです。






