ゲームフリークの新作タイトル、『雨のちハレ女』(あめのちはれおんな)。
ある日突然発表され、その美少女ゲーム然とした絵面から、「えっ、ゲームフリークがこのタイトルを……!?」と困惑した方も、少なくないのではないだろうか。
そんな今作のディレクター/プロデューサーを務めているのは、ゲームフリークの大森滋氏。

大森氏は、長年ゲームフリークで『ポケットモンスター』シリーズの開発に携わり続け、近年の『ポケットモンスター ソード・シールド』や『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』などのディレクターも務めていた。まさに、「新時代のポケモンの担い手」と言えるクリエイターだ。
そんな大森氏は、なんと今作をポケモンタイトルと並行しながら作っていたらしい。そう、『ぽこ あ ポケモン』を作りながら、まったく新たな美少女ゲームを作っていたのだ。
率直に思った。
ど、どういうこと……!?
その謎を解き明かすべく、大森さんにお話をうかがってきた。
どんな経緯があって、『ハレ女』が作られていったのか? 全く新たな美少女ゲームを立ち上げるにあたって、大森さんはなにを考えていたのか? 大森さんが今作に詰め込んだ、「夢と希望」とは……?
『雨のちハレ女』のことをお聞きしながら、大森滋というクリエイター……ひいては「ゲームフリーク流のゲーム開発」の考え方や思想を、たっぷり掘り下げるインタビューとなった。ぜひ、最後まで読んでいただきたい。
聞き手/TAITAI・ジスロマ
文/ジスロマ
編集/柳本マリエ
撮影/永山 亘
本当に『ポケモン』タイトルを作りながら、美少女ゲームを作ってました──『ハレ女』が立ち上がった経緯と、大森さんが語るゲームサイクル
──まず最初にお聞きしたいのですが、『雨のちハレ女』はどんな経緯で立ち上がったタイトルなのでしょうか? 大森さんとしては、ディレクターとして『ポケモン』タイトルを作りながら、この企画を考えられていたのでしょうか。
大森氏:
きっかけとしては、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』【※1】の開発が終わったあとに、「つぎはどんなことをしていこうかな」と考えていた時期があったんです。
自分としては、『ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア』から、ずっと『ポケモン』シリーズのディレクションをしていて……そのなかで、「これからももっと発想の幅を広げてみたい」などとは日ごろから思っていました。
そこで、『ポケモン』シリーズだけに留まらず、いろいろなオリジナルのゲームについてもアイデアを考えていたんです。
そのうちのひとつが、『ぽこ あ ポケモン』【※2】ですね。
『ぽこ あ ポケモン』と『雨のちハレ女』は、同時に開発を進めたタイトルでした。
──その2タイトルが並行して作られていたのは、驚きですね。
大森氏:
自分としては、まず最初に「『ポケモン』の幅を広げたい」という思いがあり、そのなかで「じゃあ、『ぽこ あ ポケモン』みたいなタイトルはどうだろう」と考えたり……つまり、「いろいろな遊びの考えを、『ポケモン』に限らず広げていこう」と動いていた時期があったんですよね。

ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。
【※1】『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』
2022年に発売された、当時の『ポケットモンスター』シリーズ完全新作タイトル。「パルデア地方」での冒険が描かれる。大森氏がディレクターを務めていた。

©2026 KOEI TECMO GAMES
ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの商標です。
【※2】『ぽこ あ ポケモン』
2026年に発売された、『ポケモン』初のスローライフ・サンドボックスゲーム。企画開発は株式会社ポケモン・株式会社ゲームフリーク・株式会社コーエーテクモゲームス。大森氏がコンセプト&シニアディレクターを務めていた。
大森氏:
そして、『雨のちハレ女』を作るうえでは、「世のなかにありふれているものをうまく利用して、なにかゲームが作れないだろうか?」ということを、かなり考えていました。
それこそ、ファミコンが世に出たときには、「みんなの家庭にはテレビがあるから、そのありふれているもの(テレビ)を利用してゲーム機を作れば、モニターは作らなくてもいいんじゃないか」という任天堂さんの発想があったと思うんです。
そこに近い発想で、「いま、みんなが当たり前に持っているもの・ありふれているもので、なにか新しい遊びが作れないだろうか」と考えていて……そして、いまはみんなが「スマホ」を持っていて、あらゆる情報が手軽に手に入る世のなかになっている。
それがいまの「ありふれているもの」で、それを利用してゲームができないだろうかと、ずっと考えていたんです。
──では、改めて大森さんに『雨のちハレ女』のゲームサイクルがどういったものになっているのか、お聞きできればと思います。
大森氏:
まず、街中にゴミが溢れています。そして、そのゴミが「穢れる(けがれる)」と勝手に動き出して、「ヤミクモ」という怪物になり、悪さをしてしまいます。それを退治しましょう……というのが、『ハレ女』の基本的なゲームサイクルですね。
これは「付喪神(つくもがみ)」から着想を得ていて、「ものを放っておくと、勝手に妖怪となって動き出してしまう」という日本人の感覚から考えました。
そんな街をハレ女が「パトロール」と称して、きれいにします。「ゴミの清掃」のようなイメージですね。その清掃を、「天気予報の記号を使った魔法カードバトル」のようにしています。
大森氏:
そして街が段々キレイになっていき、みんなが晴れやかになることで、ハレ女たちもパワーアップして強くなっていきます。基本的には、これをずっと繰り返していくゲームですね。
──遊び方としては、毎日ちょっとずつプレイするようなイメージなのでしょうか。
大森氏:
ちょっとずつ遊んでいくイメージですね。
自分のなかでは、「スローライフゲーム」っぽい感覚で作ったところもあります。それこそ、汚れた服を洗濯すると、乾くまで時間がかかるので、「時間を置いてまた来てくださいね」といった待機時間があったりします。
やっぱり日常的にも、時間が経つと、部屋にゴミが溜まってくるじゃないですか。まさにゲーム内でも、「今日はこのくらい掃除をして、服も汚れました」というところで一旦やめて、服を洗濯します。しばらくすると、服が乾いてキレイになる。ただ、どうしても生活しているとゴミは出てしまうから、また街中にゴミが溢れる。
それをずっと繰り返していくゲームサイクルなんですが……これは本当に、「人間の普通の生活サイクル」と一緒なんです。
大森氏:
そこに、「常に天気情報を使う」という要素を、ゲーム性として入れています。ゲームを立ち上げると、すぐに天気予報がわかるようになっているんです。
たとえば、会社に行く前に天気予報を調べて、今日はすごい雨が降りそうだったりする。そう思ってたのに、「やっぱり降らないじゃん!」とか。
──まさに今日はそうですね(笑)。
※なんの縁か、インタビュー収録日はちょうど東京都内に線状降水帯が予報されていた……のだが、思ったより雨が降らなかった。やっぱり降らないじゃん!
大森氏:
やっぱり「天気」にはみんな興味があるし、毎日ニュースを見ていますよね。
朝に「今日の天気はこれか」と見て、夜に帰ってきて「明日の天気はこうか」とチェックする……人間は、1日に2回天気を見るんじゃないかなと。その時間をこのアプリに置き換えることで、1日2回は遊んでもらえるんじゃないかなと考えています。
──なるほど。スマホにデフォルトで入っている「天気」アプリの代わりに、『ハレ女』で天気のチェックをするようなイメージですね。
大森氏:
そうですね。
「ゲームを生活のリズムに取り入れる」と言いますか。そこに、「ゴミ拾い→パトロール→洗濯」というゲームサイクルを取り入れています。
──「天気アプリの代わりになるゲーム」とは、すごい着眼点ですね。
大森氏:
なるべく、生活に馴染ませたいんですよ。
なにか特別なゲームというより、「いまあるもの」に馴染んでもらう。無理に生活の時間を奪うのではなく、天気アプリを開く時間を『ハレ女』に置き換えてもらう……そんな風に遊べるようにしてはいますね。
──そういった「生活に馴染ませる」というアイデアの切り口は、「外へ出かけること」をゲームにした『Pokémon GO』や、「睡眠」をゲームにした『Pokémon Sleep』に近いように感じます。
大森氏:
たしかに、近いですね。
ただ、やっぱり自分がそういう考え方をしているというか……「すでにみなさんがやっていることをゲームにする」という切り口は、ゲームフリークならではの発想かなと思います。
これはさきほどの「みんなが知っている単語でゲームを作る」という考え方にも近くて、やっぱり「人が普段やっているものを遊びにするのがおもしろいだろう」と思っています。
──ちなみに、ゲーム内に出てくる天気の情報は、どのくらい詳細なものなのでしょう。
大森氏:
そこは各地域ごとの天気データを、ウェザーニュースさんからいただいています。だから、ちゃんと当日の天気もある程度のリアルタイム性を持っていますし、向こう1週間の情報なども出ます。
──しっかりとした「天気予報」なんですね。
大森氏:
アプリを立ち上げると、「今日はどの地方に行きますか」というステージ選択画面が出るのですが……それが、テレビでよく見る「全国の天気予報」みたいな画面なんですよね。

大森氏:
その画面を見ると、まず日本各地の「ここは雨が降っている、ここは晴れている」という天気の情報がわかります。その時点で、その情報が現実で役に立つ可能性もあるから、イヤじゃないんですよ。
そこから「今日、北海道は雨が降っているんだ」と知って、北海道に「雨女」を派遣して、そこでパトロールをして街をきれいにするゲームが始まる……実際にスマホを持って移動するのではなくて、その場所の天気にあわせて、「今日は晴れ女をここに、雨女をここに」と派遣して戦います。
そして、日本各地で戦いながら、その場所のいろんな情報を得られるようになっています。じつはサブイベントが3000個以上あって、「この地方はこういうものが特産物なんだ」ということもちょっとわかったりします。
そういう「日本を知る」ことにも繋がるような、「旅をしている感」を演出しています。そこは旅行会社のJTBさんと協力しながら作っているので、たくさんの地方イベントが入っていますね。
「開発本部長がこんな変なことまでやってもいい会社なんだ」ということを示したい
──少し話が戻ってしまうのですが、本作を企画していたころの「もっと発想の幅を広げてみたい」というのは、具体的にはどういったお気持ちだったのでしょうか。
大森氏:
ゲームフリークには、最近若い人たちも入社してきているんですが……やっぱり、どうしてもみなさん「ゲームフリークは『ポケモン』シリーズを作る会社だ」というイメージがあると思うんです。
それはそうなんですが、もともとゲームフリークはいろいろなタイトルを作っていて、そのなかでの発想のひとつが『ポケモン』シリーズだったわけです。
だから、もともとゲームフリークは何を考えてもいいゲーム会社ですし、資本的にも独立しています。本当は、かなり広い幅でゲームを考えてもいい会社だなと思っているんです。
大森氏:
もうひとつは、「ポケモンからポケモンを考えてはいけない」ということです。そうすると、ゲームの幅が広がっていかないんですよ。
つまり、なにか現実として面白いと思えるものから着想を得て、ゲームにしていく……そもそも『ポケットモンスター 赤・緑』自体が、田尻(智)さん【※】の「虫取り」の経験から生まれたゲームですから、「現実の虫取りを知らないまま、ポケモンの経験からポケモンができていく」ようにはなっていけないなという葛藤もありました。
だから、自分自身が新しいものを作っていくところを見せていかないと、示しがつかない。「会社としてどっちに行きたいんですか」ということも、ちゃんと示せないと思っていて。
そこを含め、若い人たちには『雨のちハレ女』を通して、「こういうことをやってもいいんだよ、ここまでやってもいいんだよ」「開発の本部長がこんな変なことまでやってもいい会社なんだよ」ということを見せたい……そんな気持ちはけっこうありましたね。
【※】「田尻智」
ゲームフリークの代表取締役。同社の創設者であり、『ポケットモンスター』シリーズの生みの親としても知られている。田尻氏が幼少期に経験した「虫取り」の遊びが、その後『ポケットモンスター 赤・緑』の開発に繋がった……というのは、有名な話。
──それは、大森さんが個人的に考えられていることなのでしょうか。それとも、なにかゲームフリーク全体として、そういった考えがあったりされるのでしょうか。
大森氏:
会社として「新しいアイデアも出すべきだ」という意識はあり、取り組みとして「ギアプロジェクト」という新規タイトル開発制度も精力的に行っています。
最近『ビースト・オブ・リンカネーション』【※】を出したのも、やっぱり「『ポケモン』シリーズ以外のゲームを作ってもいいし、そこからまた新しい発想が出てくるかもしれない」という思いがあったからですし、上層部にも「オリジナルのゲームを作り続けたい」という意思はあります。

【※】『ビースト・オブ・リンカネーション』
2026年に発売された、アクションRPG。「穢れ」が蔓延る世界で、主人公のエマと、相棒のクゥ(犬)が旅をする。ゲームフリークが開発を行っている。
──そういったゲームフリークという会社の思想やアイデンティティは、田尻さんが持っていたエッセンスや考え方などがベースになっているとは思うんです。大森さんは、そこの「ゲームフリークとしての考え方」をどのように捉えているのでしょうか。
大森氏:
これはなにか直接指導を受けたわけではなく、本当にゲームフリークという会社の雰囲気として、「『ポケモン』シリーズを作る会社」というよりは、「新しい遊びを生み出す会社」だと感じていました。これは、入社してからずっと感じていたことですね。
それこそアイデアの出し方も、「ポケモンの世界だからこうだ」と考えるのではなく、まず「人と人を通信で繋ぐとしたら、どういうネタがいいだろうか」「人を喜ばせたり驚かせるために、こういう遊びをいれたらいいんじゃないか」という発想があり、「そこをどうゲームに落とし込むか」はあとづけなんですよね。
もともとの発想として、「人をどう喜ばせようか」という考えが中心になっている……だから、『ポケモン』シリーズに限らずそういうものを作っていくことは、ゲームフリークとしては変ではない。それがDNA的なものなのかはわからないのですが、その雰囲気はもとからありましたね。
大森氏:
ちょっと特殊だなと思うのは、「人を喜ばせよう」ということ自体は、どの会社もそうしていると思うんですよ。ただ、その喜ばせるためのあとづけに対して、「そのアイデアをちゃんと世界観に落とし込みましょう」ということに、ものすごく力を入れているんです。
たとえば、人を驚かせようとしても、みんながわからない言葉や設定、グラフィックで出してしまうと、その世界観を理解するまでに時間がかかってしまって、驚くことすらできない。
でも、みんなが知っている言葉や要素で構築されたものだと、なんの説明もなくその場面を出しても、ビックリさせることができるんですよね。
だから、なるべくそのゲームならではの設定や世界観に頼らず、「身近な要素だけでゲームを作っていく」ということは、ゲームフリークのDNAとして残っているものかなと感じていますね。
いま、「みんなが知っている前提」がなくなってきている。でも、「◯◯◯◯」は人間みんなが見てる……?
──大森さんのなかで、その「みんなが知っている言葉や要素の前提」は、どのように捉えられているのでしょうか? たとえば、現代の異世界ファンタジーなどは、『ドラゴンクエスト』(以下、ドラクエ)や『ファイナルファンタジー』(以下、FF)などの「みんなが知っているゲームっぽいファンタジー」の前提に成り立っているものもあると思うんです。
大森氏:
それこそ、『ドラクエ』や『FF』が出た当時は、先に『指輪物語』のような土台があって、それを日本のゲームクリエイターがRPGに乗せていった……そこの世界観が土台になったゲームは、その当時にファンタジーが流行っていたから、「みんなが知っている言葉」だったと思うんです。ドワーフやエルフと言えば、みんなわかるような。
でも、いまの時代にそれがみんなわかっているのかというと……つまり、当時ほど熱狂的にファンタジーが流行っているのかというと、ちょっとそうではないなと思っていて。
現代における「下地」と言われる部分……みんなが知っている前提のようなものは、みなさんが主体的にネットから情報を取るようになったから、「統一した土台」がなくなってきているのかなとは感じています。
なにか流行ったものがひとつあり、テレビを通してみんながそれを知っている……そういうことは、もうなくなってきていますよね。
──まさに、いまオリジナルや新規のタイトルを立ち上げようとすると、その「みんなが知っているもの」を取っかかりにするのがすごく難しいと思うんです。ただ、『雨のちハレ女』も、その取っかかりを「みんなが知っているもの」としている部分があるのでしょうか。
大森氏:
実際、そこは難しいですね。
この企画に関しても、じつは当初は「魔法少女モノで、服がいっぱいあるといいな」くらいのライトな発想から始まっているんです。
でも、その発想を「じゃあ、なんで服をたくさん持っているんだっけ」と掘り下げ、そこを現代のゲームに落とし込んでいく……「みんなが知っている世界で、それを作るにはどうすればいいか」ということを、すごく考え始めたんです。
そして、「みんなが知っていて、かつ下地がしっかりしているもの」というところで、日本という国が持つオリエンタルなところに、なにか共通したテーマ性があるんじゃないかと感じていたんです。その前提を、利用しようと思いました。
大森氏:
ただ、これは結果そうなっただけで、もともと「服をたくさん集める」というアイデアがあり、そこの理由として「なぜ服がたくさんほしくなるんだろう」「ゲームギミック的に服を変えたくなる理由をちゃんと作るにはどうすればいいだろう」と考えていたんです。
そこで、「気温や天気のデータが取れるんじゃないか」と思いつきました。つまり、雨が降ったら雨用の服を着て、晴れていたら別の服を着る……そんな流れにすると、勝手に衣替えをしてくれるゲームサイクルが作れるんじゃないかと考えたんです。
そして、「この仕組みであれば、服をたくさん集めるようなゲームが作れるのでは?」と考え始めたのが、『雨のちハレ女』を本格的に作り始めたきっかけですね。
つまり、いまみなさんが普通に取得できる情報……しかも自分が取りに行くのではなく、勝手に流れてくる情報が、「天気」だと気づいたんです。昔ほど「テレビを見れば勝手に情報が入ってきて、みんなの流行りが同じになる」ということはないけど、みんな天気予報くらいは見ているんですよね。
そういう「みんながなぜか知っている情報」をうまく使って、それを利用したゲームにすれば、なにか新しい遊びになるのではないかと考えたんです。
──『雨のちハレ女』の「人間が普段やっていることをゲームに取り入れる」というコンセプトを含め、ゲーム制作では「ゲームからゲームを作るな」と言われがちだとは思うんです。この時代における、「ゲームからゲームを作らないこと」の大切さや難しさがあれば、お聞きしてみたいです。
大森氏:
いまの人にとっては難しいよなぁ……と思いますね。
自分が子どものころは、まだそんなにゲームがなかったので、ゲーム以外の遊びからゲームを作る……それこそ「虫取りからゲームを作る」といった体験が理解はできるんです。でも、いまは自分から「虫を取りに行こう!」と思わない限りは行かない。受動的には摂取できない体験ですよね。
──昔の子どもが自然にやっていた虫取りや川遊びが、いまはデジタル的なものに置き換わっていますよね。
大森氏:
そうなんですよ。
いまの人にとっては酷というか、「ゲームからゲームを作るなと言われても、じゃあどうすればいいんですか」と言われると……「そうですよね」と。みんなに共通している体験からゲームを作り上げるのが、いまはすごく難しい。
自分はそう思ったので、「洗濯」や「掃除」がテーマに合うんじゃないかと考えたんですよね。あれはどうやっても、人間がやらなきゃいけないことですから。
──そういう意味では、一見「洗濯」や「天気」は変わった切り口に見えるけど、じつは王道のアプローチでもあるということですよね。
大森氏:
まさに、昔ながらの「王道なゲーム作り」をしているとは思います。
結果、変なゲームになっちゃったんですけど(笑)。
明確に企画としてまとまった瞬間、それは「◯◯◯」という言葉が決まったとき
──大森さんがそうしてアイデアを考え始めたときは、おひとりで考えられていたのでしょうか? それとも、なにか社内でブレストなどをされていたのでしょうか。
大森氏:
いや、ひとりで悶々としていましたね。
ほぼ賛同者がいない(笑)。
一同:
(笑)。
大森氏:
周囲の反応としても、「こういう美少女ゲーム……本当にやるの!?」という感じで、最初は本気にしてもらえなかったと思います。だから、ひとりでちまちまとやっていた感じではありましたね。
──割と冷ややかな反応だったんですね。
大森氏:
でも、「大森くんはこうだよね」と知っている人もいるし、「やりたいことやってんじゃん」と思っていた人もいたはずです。
逆に若い子のなかには、「これをゲームフリークで出すんですか!?」と驚いている人もいて(笑)。それはそれで狙い通りだし、自ら「ここまでやっていいんだよ」と言えるのは、すごく大きかったです。
──ちなみに、大森さんがおひとりで考えられているときは、どんな風にアイデア出しなどをされているのでしょう? なにかメモとして残していたりするのでしょうか。
大森氏:
明確になにかがあるわけではないのですが……「いったん、いろんな方向で考える」ということはしていますね。
まず、そのアイデアをゲームデザインとして考えたときに、さきほどの「服を変えなければいけない理由はなんだろう」という前提の疑問から考える発想と、「そもそも人はなんで服をいっぱい持っているんだろう」という必然性から考える発想があったり……。
ほかにも、「ストーリーや世界観はどういうものがいいだろう」「天気などのデータを使うのであれば、時代設定は現代のほうがいい」といった感じで、いろんなものを断片的に考えていきます。
ただ、正直その段階ではアイデアが結びついていないので、自分のなかには「ひとつのゲームになるかもわからない情報」が無数にある感じですね。もしかしたら、その組み合わせは別のゲームに使うかもしれない……ただ、日常的に興味があるようなものを、とりあえず言語化しておく。これは頭のなかでやっていますね。
──とくにメモを取るわけでもなく、日常的に頭のなかで言語化されているんですね。
大森氏:
そうですね。
そして、その興味があるものを深掘りしていきます。
たとえば、今作には「ハレ着」(はれぎ)や「ハレ女」という単語が出てきますが、それは頭のなかで気になっていた「“晴れ”というものはなんだろう」「なんで日本には、こういう天気にまつわる言葉や考えが多いんだろう」といった疑問を調べたことが、発想のもとになっています。
大森氏:
それで言うと、明確に「企画としてまとまったな」と思った瞬間は、魔法少女を「ハレ女」と呼んだことですね。これがいちばんの、すべてがまとまったアイデアでした。
──それはどういったことなんでしょう?
大森氏:
いままで別々で考えていたアイデアが、「ハレ女」という言葉が決まったときに、一気にまとまっていったんです。
これは、自分自身のエピソードなんですが……妻が毎朝洗濯をするときに、なぜか自分に「今日の天気は何?」と聞いてくるんです。心のなかでは、「(なぜ自分が調べなきゃいけないんだろう……)」と思うんですよね。
一同:
(笑)。
大森氏:
そう思いながらも、いまの天気だけじゃなくて、その日の午後の天気も知る必要がある。さらに、花粉があるのかないのか……いろんな情報があったうえで、「今日は外に干すべきか、部屋の中に干すべきか」という判断をしなきゃいけない。
その体験が、ゲームとしておもしろいような気がする。そして「スマホを使えば天気の情報が取れる」というアイデアも、どこかうっすら頭のなかにはある。でも、ゲームとしてはバラバラなんですよね。
それを「ハレ女」という言葉にしたときに、「このアイデアが全部くっつくのでは?」と、ひとまとまりになったような感覚があったんです。そこにモチーフとしてどういう意味合いを持たせられるか、ゲームデザインをどうするかもイメージができました。
つまり、「ハレ女」という言葉を中心にいろんなものがくっついて、そこを軸に発想を固めて広げていく……という作り方でした。
──そのアイデアがまとまったタイミングで、大森さんが企画書などを書かれていたのでしょうか?
大森氏:
いや……じつは「ハレ女」という単語に行き着くまでに、絵は描いていたし、試作も作っていたんですよ。
──もうゲームシステムを組んでいたのでしょうか?
大森氏:
自分がゲームフリークYouTubeチャンネルの動画で説明していた、『ぽこ あ ポケモン』の試作のように、こちらも「とりあえず動くもの」を作っていたんですよね。

大森氏:
そのころは、もうちょっとゲームシステム的には『プリンセスメーカー』【※】などに近かったんですよね。成長していくと学力が上がり、なにかの職業になって、その服がまた自分のストックになって……といった感じで、現在の形とはぜんぜん違うゲームを作っていたんです。
そこに、ちょっとしたサブ要素として「天気のシステムもあるとおもしろいよね」と考えていたんです。まだ、天気がメインの要素にはなってはいませんでした。
あとは、キャラクターデザイナーと、ずっと「どんな女の子にしたらかわいいかな」という話はしていましたね。なんとなく2~3人くらいでキャラの方向性とゲームデザインは漠然と進めていたのですが、「まだしっくりこないな」という感覚で、モヤモヤしていた時期もありました。
【※】『プリンセスメーカー』
ガイナックスが制作を行った、美少女育成シミュレーションゲーム。プレイヤーは戦災孤児の少女の父親となり、自分の娘として育て上げていく。プレイヤーの育て方によって、どんな性格の女の子に育っていくのかが決まる。
──その企画書などを作る前の期間は、どのくらいだったのでしょうか。
大森氏:
半年くらいでしたかね……キャラクターについては、1年くらい作っていたかもしれないです。
ゲーム自体がそのころから大きく変わったわけではないのですが、やはり「ハレ女」というモチーフができた時点で、いろんなものが明確になっていきました。サブ要素だった「天気」をメインに持ってきたり、ゲーム内に天気予報を常に表示しておいたり……。
そして「ハレ女」という単語をベースに、ダジャレ的な「ハレ着」や「ハレ姿」(はれすがた)といった要素も決まっていきました。この「“晴れ”というのはなんだろう」と考えたところから、いろんな言葉や考え方が出てきて、それをゲームサイクルにしたらおもしろいんじゃないかと考えたんです。
















