3Dホラーゲームの始祖『アローン・イン・ザ・ダーク』の恐怖表現は、「何もしていないのに死んではいけない」というゲームのお約束を“破壊”することで生まれた
──ここからは、『アローン・イン・ザ・ダーク』に焦点を当てたいと思います。まずレイナルさんに、制作の背景をお伺いします。
レイナル氏:
本題に入る前にひとこと、今日こうして開発者の仲間たちと同席できて本当に光栄です。
私も皆さんのゲームを遊びましたが、私の作品よりもよく考えて練り込まれていると感じました。
というのも、私が『アローン・イン・ザ・ダーク』を作ったときは、参考にできるものが何もなかったんです。
当時、「どうすればゲームで人を怖がらせられるのか」繰り返し自問しました。なにしろ、モンスターが40ポリゴンしかないから、ビジュアルでは怖がらせられないんです。だから他のもので恐怖を表現しようと考えたのです。

レイナル氏:
まず、技術的な問題を乗り越える必要がありました。恐怖の表現以前に、モデラーを作らなければならなかったんです。
背景が静止画なのも、映画のようにしたかったからではありません。3Dの背景と3Dのキャラクターを両立できなかったからです。
主人公がひとりなのも、同じ理由です。3Dのキャラクターを「どう動かすかの試行」だけで膨大な手間がかかったので、会話を減らして作業量を削減する必要があったんです。
そして、モンスターのビジュアルでは怖がらせられないから、想像力を働かせるための工夫も必要でした。だから文学の技法を取り入れたのです。見えるものより「そこにあると想像するもの」のほうが怖いと思っていましたから。

最後に、恐ろしい物語を用意したとして、どうやって怖がらせればいいのかが課題でした。そこにも、参考になるものはありませんでした。
そこで、自分が作っているものがゲームであるという点に立ち返りました。そして「プレイすること」そのものに恐怖を仕込もう、と思い至ったのです。
当時は、ゲーム一般に共有されていたルールは、わずかしかありませんでした。
そのひとつが「何もしていないのに死んではいけない」というものです。死ぬ場所があるなら、それを回避する手段がなければならない。
しかし、私はあえてそうでないゲームを作ったのです。
『アローン・イン・ザ・ダーク』で多くの人の記憶に残ったシーンのひとつが、最初の廊下で歩いていると、何の理由もなく床がきしんで、突然死ぬ場面です。これは反射神経で避けられるものではなく、ゲームのルールが壊れる瞬間です。

これで「ここから先、プレイヤーのすることはすべて予測不能で、何でもないことで死ぬかもしれない」と理解させるんです。
最初のドアの向こうにゾンビがいるシーンも同じです。「このゲームではドアを開けるたびに何かが起きるかもしれない」と伝えるのです。もっと意地悪な例だと、本を開かなければ進めないところで、開くと死ぬ本を一冊入れたりもしました。
要するに、プレイヤーの基本的な行動を、あえて不確かで、死と隣り合わせなものにしたんです。そうやって、具体的な雰囲気を作りました。
この雰囲気を作ることに比べれば、ラヴクラフト的な物語や想像上の恐怖といった要素は、言わば小手先の技にすぎません。
私はプレイヤーに、自分がやっていることそのもので、怖がってほしかったのです。
──ありがとうございます。そんな創意工夫の込められた『アローン・イン・ザ・ダーク』を、当時のみなさんはどのように受け止めたのでしょうか?
柴田氏:
私が『アローン・イン・ザ・ダーク』に触れたのは大学生のときです。
PCゲーム雑誌を作っていた先輩に「お前が好きそうなすごいゲームがある」と教えてもらいました。当時はパソコンも高価だし翻訳もされていませんでしたが、実際に観たらびっくりしました。
ちゃんとしたカメラワークで空間がわかるし、プレイしていると先が見たくなるように場所が作られている。何も出ない時間が長いのに、要所でちゃんと出てくるから、恐怖がコントロールされている。

「何か出そうな空間」「何かいそうな空間」「何か起きそうな空間」そして「死に直結することが起きる空間」がすでに出来ていたんですよね。

柴田氏:
それ以降、日本でもさまざまなホラーゲームが発売されました。たとえば外山さんの『サイレントヒル』は、見たことがある風景を少しずらして描いていました。空間を使って、「ここにいてはまずい、どこかへ行かなければいけない」という不安感を作っていたんですね。
私はさらにその後、『零』で幽霊が出そうな場所を作ろうとしました。先人たちがやってきたカメラワークや場所のセッティング、雰囲気作りはベースにあったので、そこからどういった意味合いの空間を作るかが始まりでした。
先ほど触れたように私はたまに霊が見えるので、その幽霊が出そうな場所の雰囲気を、ゲームで再現することを目指しました。
レイナルさんが作ったものがすでに土台にあったので、その上での味付けに注力できたのは、すごくありがたかったと思っています。
外山氏:
『アローン・イン・ザ・ダーク』は、自分の中では少し特別な立ち位置にあります。
発売したのが、自分がゲーム業界に入る直前ぐらいなんですが、当時の日本は世界的に見るとやや特殊で、PCでゲームを楽しむ文化がほとんどなかったんです。
ですので、実は『アローン・イン・ザ・ダーク』は、当時プレイしたことがありません。ただ、ゲームメディアでどれだけ斬新な作品かを熱烈に語られていたのはよく覚えています。
あの頃は雑誌の写真から想像を膨らませるしかなかったのですが、画面が当時としては考えられないぐらい緻密で、本当にゲームなのか疑うほどでした。
しかも日本でまともに移植されることもなかったので、私にとっては長らく「伝説のゲーム」でした。おまけに知れば知るほど、なぜ当時あそこまで斬新なことが可能だったのか、不思議になる。そういう特別な作品なんです。
河野氏:
レイナルさんのやり方には共感するところがあります。「ドアを開けるのが怖い」という感覚をプレイした後まで抱かせることができたら、ホラーとしての成功なんです。
ジャンプスケアを多用するゲームは多いんですが、それはレベルの低いテクニックだと思っています。柴田さんがおっしゃったように、「いるんじゃないか、と思わせて、やっぱりいた」ときに怖いのが、よりレベルの高いテクニックで、『アローン・イン・ザ・ダーク』はそれを実現できているのが素晴らしいと思います。
