「館は、それ自体がひとりのキャラクター」時に舞台そのものが主役となるホラーゲームの特異性と、舞台をより印象的に演出する技法
──先ほど柴田さんが「『アローン・イン・ザ・ダーク』の主役は館だ」とおっしゃっていましたが、みなさんは舞台のセッティングをどれだけ重視していますか?
レイナル氏:
館という舞台は、それ自体がひとりのキャラクターだと思います。主人公も大事ですが、それはやるべきことをやるキャラクターにすぎません。
なので、環境こそが制作で最も手をかけていたところです。環境は、ある意味でテキストよりも前にある「語り」で、常にゲームの中心にいます。
キャラクターは成長したり新しい能力を得たりしますが、環境もプレイヤーの進行度とプレイヤーに何を発見させるかに合わせて変化していきます。だからゲームの中の一キャラクターとして考えるべきなんです。

外山氏:
自分はキャラクターよりも舞台のセッティングから作り始める方です。舞台が町であることが多かったのも、必然性は環境で決まるから、という考えを持っていたからではないかと思います。
私は、主人公とは基本的にプレイヤーの分身であり、「ストレンジャー」(よそ者)であるという立場を取っています。主人公が見知らぬ場所に迷い込んで、何を感じて何に興味を惹かれるかを考えると、どうしても舞台のセッティングが大事になるんです。
基本的に『サイレントヒル』では、モダンホラー的な町を作ろうとしていました。『SIREN』以降はもっとそのあたりを深めていき「傍観者の立場で入ったはずなのに、場所の歴史やバックボーンを知れば知るほど、抜け出せなくなっていく」という感覚を表現しました。
ホラーを離れて『GRAVITY DAZE』というゲームを作ったときも、まず「重力に支配された町」という舞台から設定しました。その中で人間の生活があるとしたら、という考えが出発点です。

柴田氏:
『零』シリーズは、大まかに言うと「幽霊が出そうな場所を歩いていくとやっぱり幽霊が出る」というゲームなんです。だから、幽霊が出そうな場所を“コレクション”していました。
外出したときに「なんか嫌だな」と思う場所をストックしておく。それらをゲームで集合させて、ひとつの家を作る、ということをやっていたんです。
つまり、幽霊が出そうな場所の集合体として環境を作りました。これは部屋ごとにキャラクターを作っていると言ってもいいかもしれません。
『SIREN』も同じように、特徴的な場所を集めて環境を構成していたと思います。でも外山さんと私では、微妙に感覚が違うんですよね。
私は、建物や部屋が「死んでいる」のではなく、「眠っている」ような場所を探してるんです。それは、汚くて荒廃しているだけの場所ではなく、「さっきまで人がいたかも」という痕跡を感じるような場所です。そういう場所なら、幽霊が存在できると考えているんです。
そういう生々しさを感じられるのが、『零』の舞台の特徴だと思います。
河野氏:
僕の場合は、ゲームプレイやシチュエーションをどれだけ作れるかを出発点にしているので、基本的に「ワンシチュエーション」なんですよね。だから、ギミックを組み込む余地がどれだけあるかを重視して舞台を考えています。
ただ、外山さんのお話を聞いて、なるほどとも思いました。
今後ホラーの舞台をどうするか考えてみると、もうやり尽くされた感があるんですよね。だから、新鮮な舞台設定を思いつけたら、もうそれだけで勝ちなんじゃないでしょうか。
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──これまでに、ゲーム以外のメディアで作品を作ろうと考えたことはありますか。あるいは、ゲームというメディアで最も惹かれる特性は何でしょうか。
レイナル氏:
一番わかりやすいゲームの特性は、「インタラクティブ」であることでしょう。受け身になるメディアに対して、ゲームでは自分から物語の中に入っていける。これが、ゲームというメディアの最もラディカルな点です。
しかし、私が惹かれているのは実は別のところです。私は昔から、手を動かしてものを作るのが好きでした。ゲームよりも、おもちゃを作るのが好きなんです。
コンピューターの黎明期、ゲームは新しいメディアで、私は新しいおもちゃを作っている感覚がありました。
「コンピューターはルールを処理してくれるから、ゲームを作るのに適している」と思ったんです。
だから『アローン・イン・ザ・ダーク』では、画面上に何も表示していません。体力などの人工的なルールを処理するのはコンピューターに任せて、プレイヤーはただ体験すればいい。ボールで遊ぶように、ただ触って遊べばいいと考えていたからです。
2010年ごろにも『Battle Tag』というレーザー銃で遊ぶシューティングゲームを作りました。FPSのルールを現実に持ち出して、人間同士で遊ぶ楽しさを取り戻したかったんです。
時代が進んで、デジタル化が進み、ゲームは今やどこにでもあります。ところが時が経ちデジタル化が進んで、今やゲームは私が好きな「手で触れられるもの」ではなくなっています。
コンソールやコントローラーは変化を止めてしまい、そこから「遊ぶ」という感覚が欠けていっています。だから私は、普通のコントローラー以上の何かをもたらしてくれるゲームに惹かれているのです。
そして今でも、ゲーム制作には特別なインターフェースとの物理的な接触が必要だと信じています。
外山氏:
私は大学時代にやっていたビデオアートが一番しっくりきています。それは映像を抽象化する現代美術的なもので、技術を問われなかったのが性に合っていました。
私は、絵を描いても、立体をやっても、プログラムに触ってみても、大した能力がありませんでした。でも、概念を抽象化してこれまでにない形にするのは、唯一の取り柄だったんです。
すごいプロが集まるゲーム制作の場でも、この取り柄は生かせました。正直、他のジャンルでも同じような仕事ができるイメージは全く湧きません。だから、自分にとってはゲーム作りが天職だと思っています。
柴田氏:
『アローン・イン・ザ・ダーク』が先鞭をつけて以来、色んなクリエイターがホラー空間の表現に挑んできました。私はこれがゲームの特徴だと感じています。
ゲームはインタラクティブに空間を歩くので、プレイが終わった後でも「あの場所に自分は確かにいた」という感覚が残るんですよね。
私は、幽霊が出そうな、懐かしい雰囲気の場所を作りたい。そして終わった後も、夢にその空間がよみがえるようにしたいんです。そこを目指すための、最適な空間の伝達方法がゲームだと思っています。
これがゲームにこだわる理由です。
──今手掛けているプロジェクトなど、お話しできる範囲で今後の目標を教えてください。
レイナル氏:
いまはメガドライブの周辺機器とゲームを作っています。プログラミングは私ひとり、グラフィックは妻ひとりという小規模体制で、最初にゲームを作っていたときの楽しさに戻ろうとしています。

残念ながら、今のAAAのゲーム作りは、30年前に比べてずっと楽しくなくなっていると感じています。それが歳をとったということなら、受け入れるしかないでしょう。
もちろん大作にも遊んでいて楽しいものはありますが、自分の仕事をそちらに向けたいとは思いません。もっとシンプルなプロジェクトを楽しんで作りたいんです。
だから、これからも今作っているような「おもちゃ」的な側面のあるものを作っていきたいですね。
電子工作もやっているので、ガジェットやマシン用のアクセサリー、あるいはマシンそのものも設計したいとも思っています。ゲームではいつだって新しい想像ができますから。
今もアイデアはたくさんあります。今はメガドライブの小さなプロジェクトですが、ほかにもコンピューターを組み込んだおもちゃのような、遊びのプロジェクトをいくつも考えています。
私は、まだゲームの世界が混沌とした時代に仕事を始められる幸運に恵まれました。そこから標準化が進んだ今の時代だからこそ、ぶっ飛んだものを想像し続けたいと思っています。
外山氏:
私もメガドライブで作りたいです(笑)。
自分は比較的遅くに独立し、自分の会社で5年で1本くらいのペースでゲームを作っています。そこで、ゲーム作りは勢いだけでどうにかなるほど簡単ではないということを学びました。
それでも、自分の作品に興味を持って集まってくれたチームメンバーに、きちんと橋渡しがしたい。そのためにも、ホラージャンルに確固たる足跡を残したいんです。
このように「この先は自分だけじゃないぞ」と思って頑張っています。
柴田氏:
先のことはまだ全然考えていません。今年3月に出した『零 ~紅い蝶~ REMAKE』にいろんなご意見や反響をいただき、まだまだそのフォローに携わっていかなければならない状況です。
河野氏:
僕は、3本ぐらい作りたい企画を用意して、プロトタイプなんかも作ったりしています。今年は久しぶりに、あちこちで熱い商談を繰り広げました。なので、早く皆さんに新作をお届けできたら嬉しいなと思っています。
