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『Another World』エリック・シャイ氏×『ICO』上田文人氏対談 ― 上田氏の「言葉に頼らない」作品世界はどこから来たのか。「ゲームのための世界」ではなく「生きている世界」を描くということ【The Tenth Mosaic】

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東京日仏学院にて9月22日から23日にかけて開催されたゲームカルチャーを祀る祭典「The Tenth Mosaic」。

本イベントでは9月23日、『Another World』を手がけたエリック・シャイ氏と『ICO』『ワンダと巨像』『人喰いの大鷲トリコ』などで知られる上田文人氏による特別対談が実施された。

※『Another World』
エリック・シャイ氏がほぼ独力で制作し、1991年にDelphine Software Internationalから発売されたアクションアドベンチャー。日本では1992年に『アウターワールド』というタイトル名でスーパーファミコン用として発売。実験中の事故で異世界に飛ばされた主人公レスターが、異星人と協力して脱出を目指す。インターフェースを排した映画的な演出で知られる。

言葉に頼らない独自の作品性という共通点を持つふたりが、お互いの作品との出会いから、制作プロセス、そしてインタラクティブな世界を通じてプレイヤーの感情をどう作るかまでを語り合った。

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▲写真の左からエリック・シャイ氏、上田文人氏

ふたりは、その言葉に頼らない作風を「そうせざるを得なかった」と口を揃えて語る。

名作を世に送り出してきたクリエイターふたりは、作りたい世界と技術の制約に悩みながら、はたしてどのように独自のスタイルを生み出していったのか。

上田氏が『Another World』を遊んだのは、大学生の頃。友達に協力してもらってクリアしたその作品から受け取ったのは、「ゲームのための世界」ではなく「世界のために世界を作っていい」という感覚だった。

『ICO』の「手をつなぐ」動作は、『Another World』の主人公と異星人の関係を突き詰めた先に生まれた。そして言葉を排するという決断は「『Another World』がなければ、とても怖くて」取れなかったという。

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(画像はSteam版:Another World – 20th Anniversary Editionより)

敬愛する作家との出会いの記憶。言葉に頼らない作風の起源。そして「制約がスタイルを生む」という制作論……。上田文人氏と、同氏が影響を受けたと公言するエリック・シャイ氏。ふたりが1対1で語り合う貴重な機会となった。本稿ではその対談の様子をお伝えしていく。

取材・文/としあど
撮影/Credit | Alexander Degiorgio・Credit | Kristof Sagna


お互いの作品に感じたこと

── 簡単な自己紹介と、お互いの作品を知ったきっかけをお聞かせください。

上田氏:
僕が最初にエリックさんの作品を知ったのは大学生の頃です。『アウターワールド』【※】のスーパーファミコン版でした。

※注釈:日本版タイトル名は『アウターワールド』

僕自身は当時スーパーファミコンを持っていなくて、友達の家で遊んだのが最初でした。

いちばん最後のエンディングの手前が、どうしてもクリアできなくて。友達に協力してもらってクリアした、というのが出会いでした。

エリック氏:
エリック・シャイと申します。私はゲームクリエイターで、1983年からゲーム制作をしています。実は『Another World』の前からゲームを作っているんです。

『ICO』との出会いは、『Heart of Darkness(ハートオブダークネス)』【※】を制作した後のことです。同僚に「素晴らしいゲームがあるよ。絶対プレイしてみて」と勧められたんです。

※『ハートオブダークネス』
エリック・シャイ氏が『Another World』のあとに手がけたアクションアドベンチャー。1998年発売。少年アンディが、影の世界にさらわれた愛犬を救いに行く物語で、影の姿をした敵が登場する。

私の関心を強く引いたのは、主人公のイコと少女ヨルダとの関係性でした。「手を繋いで歩かせる」という要素が素晴らしい発想だと思ったんです。

上田氏:
『Another World』にもレスターと異星人との関係がありますが、『ICO』からその影響を感じましたか?

エリック氏:
どちらかというと『ハートオブダークネス』の影の敵のほうからインスパイアされたのかなと感じました。

確かに『Another World』にも、レスターと異星人との関係はあります。でも、直接の接触はないんです。いっぽう『ICO』には、手と手を握り合うという接触がはっきりとある。だから、すぐにはピンとこなかったですね。

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Credit | Alexander Degiorgio

上田氏:
個人的には『Another World』のレスターと異星人の関係をもう少し突き詰めたもの、その延長線上にあるものは何か、というところから「手をつなぐ」というものが出てきたんです。そこは気づかれたかと思っていました。

『ハートオブダークネス』でいうと、影の敵はけっこう影響を受けているんです。そこに気づかれていたのは驚きです。

エリック氏:
『Another World』は『プリンス オブ ペルシャ』に影響されたと言われるんですが、実際に私に影響を与えたのは『カラテカ』【※】というゲームだったんです。

人々が見るものと、実際に反映されているものとでギャップがあるのは面白いことですよね。

※『カラテカ』
ジョーダン・メックナー氏が制作を手がけ、1984年に発売されたApple II用アクションゲーム。ロトスコープによるリアルな動きが特徴。メックナー氏は後に『プリンス オブ ペルシャ』を手がけた。

インスピレーションを受けたものとオリジナリティの見出し方。「自分だったらこうする」という想像がオリジナリティになる

── おふたりがゲーム作りのインスピレーションや着想をどこから得ているのかをお聞かせください。

エリック氏:
キャリアを通じて、さまざまなものからの影響がありました。

私のゲーム作りはまず、アーケードゲームの影響を受け、その後はハリウッド映画や『スター・ウォーズ』といった作品の影響を受けました。さらにはマンガ『ドラゴンボール』シリーズや、ファンタジーなイラスト、SFの作品などにも強く影響されました。本当に、時が経つとともに、影響を受けるものはだんだん幅広くなっていきました。

そういったインスピレーションや影響は、いくつもの「層」のように蓄積されているんです。「これが直接の影響」というのではなく、いくつもの要素がありますね。

逆に、はっきり特定できる要素もあります。たとえば『ドラゴンボール』は、『Another World』における「銃での溜め撃ち」に影響を与えています。ほかにも『フロムダスト』【※】では火山や砂漠など、現実の自然から大きな影響を受けています。

このほかに『ペーパービースト』【※】では、生き物、生態系との関わりであったり、生きているものを「ロコモーション」【※】を通じて表現したい、という思いもありました。

※『フロムダスト』
エリック・シャイ氏がユービーアイソフトで手がけ、2011年に発売された「ゴッドゲーム」。プレイヤーは地形そのものを操作し、変化する自然環境の中で部族を生き延びさせる。

※『ペーパービースト』
エリック・シャイ氏が手がけ、2020年に発売されたVRゲーム。インターネットのデータの海から生まれた、紙のような生き物たちの生態系を探索する。生き物の動きと物理シミュレーションが特徴。

※ロコモーション
キャラクターや生き物の歩行・移動の動きのこと。ゲームでは、移動アニメーションやその制御システムを指す。

ビデオゲームでも好きなもの、影響を受けたものももちろんあります。直接的という意味ではやはり『カラテカ』でしょうか。ただ、ピンポイントで「これ」という作品を挙げるのは、なかなか難しいかもしれないです。

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(画像はSteam:Paper Beastより)

上田氏:
タイトルによってバラバラなんですよね。だから「こういうプロセスで作っている」というのは、あまり言えないです。

たとえば『ICO』で言うと、先ほどの『Another World』のふたりのキャラクターの関係性をもっと掘り下げたら、どんなものになるだろう?もしこれを自分が作ったら、どういう表現にするか──と想像するんです。その結果として、「もしかして手をつないだら、もっと良くなるんじゃないかな」とか。そういう発想の仕方が多いかもしれないですね。

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(画像はThe Tenth mosaic会場で展示されていた『Another World』主人公のレスターと異星人である友人のパネル)

アートや映画といった影響もありますが、僕がいちばん現実的にゲームデザインを考えるときに効果的なのは、やっぱり「ほかのゲームを見ること」なんです。

ほかのゲームを見て「自分だったらこうするのにな」という想像が、自分のオリジナリティになる。「自分にしか作れないもの」になるという感覚が今のところありますね。

エリック氏:
たしかに上田さんのクリエイションの中には、とても個人的な個性が表現されていると感じます。それが素晴らしいんです。

上田氏:
映画のティーザー映像やゲームのティーザー映像、誰かがプレイしているゲームをちらっと見たときもそうなんですが、自分の中で勝手に「こういうゲームかもしれない」「こういう映画かもしれない」という想像をするんです。

その想像が実際のゲームや映画と違っていたりすると「これは自分のオリジナルのものなんだ」というふうに考えて、そこから掘り下げることが多いですね。

先ほど『Another World』では『カラテカ』に影響を受けたとおっしゃっていました。『カラテカ』は戦闘のゲームだったと思うんです。でもそこから、戦闘という要素だけじゃなく、リアルなキャラクターを2Dで表現するというフォーマットを受け継いで、さらに広げていったのかなと思いました。

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(画像はSteam:メイキング・オブ・カラテカより)

エリック氏:
ビジョンを定めて、それをチームに伝えるというのはあります。というのも、私の制作チームで作った作品というのは、自分だけのものではないんですね。

もちろん自分の個性は入っていますが、チームの貢献や、メンバーそれぞれの個性も当然入っていて、それがプロジェクトの中に生きているんです。だから最終的な作品は、複数の人たちでたどり着いたものになるのだと思います。

「ゲームのための世界ではなく、世界のための世界」。エリック・シャイ氏のゲーム制作の転換点

上田氏:
『Another World』を初めて見たときに感じたのは「画面の中にも世界がある」ということでした。当時のほかのビデオゲームには、画面の中にある要素の後ろに「数字的なもの」を感じていたんです。

たとえば「この敵を倒したら何点入る」とか「これを壊すことで鍵が手に入る」とか。そういう機能で埋め尽くされているような感覚を他のビデオゲームでは感じていたんですね。

でも、『Another World』からはそういったものが──まったくということではないですが──「機能で作らなくていいんだ」と強く感じて、「ゲームのための世界」ではなくて「世界のために世界を作っていい」というふうに感じたんです。どうしてそういったことができたのか、というのが聞きたいことのひとつです。

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(画像はSteam:Another World – 20th Anniversary Editionより)

もうひとつ感じたことがあって。当時はアーケードゲームからの流れでコンソールゲームがあったと思うんですが、プレイしていくと徐々にゲームの難しさが上がっていくのが普通だったんです。

でも『Another World』は、次のステージに行ったらすごく簡単になったり、また次のステージは難しくなったり。そういう「予定調和」があまりなくて「次はどんなステージが待っているんだろう」とすごくワクワクしたのを覚えています。

それはきっと、チームワークというよりは、エリックさん個人の「作家性」のようなものから生まれているんじゃないかと思っていたんです。

エリック氏:
当初はひとりでやって、その後はチームで、そして今は再びひとりで制作しています。だから上田さんがおっしゃるとおり、基本的なアプローチとしては「ひとりの作家」として活動していると言えますね。

そして、どのようにしてゲーム内で「自律している」という印象を感じさせる「生きている世界」を作り上げたのか。自分のいる世界が自律している、という感覚は、上田さんの制作の中にもすごくあると思います。

じつは、私の作品群には、転換点があるんです。私が作った1980年代のゲームは、どちらかというと小規模で、アドベンチャー系のゲームもありましたが「生きている世界」と感じさせる没入感はありませんでした。

あるとき『悪魔の棲む家』という映画に影響を受けて『Le Pacte』【※】というホラーゲームを制作しました。この作品の制作時から「雰囲気」を作り込み始めたんです。

※『Le Pacte』
エリック・シャイ氏が1986年に制作したホラーアドベンチャーゲーム。

そして、「ゲーム作りの中でも、より映画的な世界を表現したい」という思いがさらに大きくなり、『Another World』が最終的な転換点となりました。

本作の映画的な要素として、ゲーム冒頭のイントロがあります。さまざまなカットがあって、インタラクティブでありながらとても映画的です。しかし、それ以外の場面では、そういったカットがあまり用意されていないんです。それなのに、『Another World』では映画的な動きとリズムの中に入り込んでいくような印象をプレイヤーに与えられたと思うんです。

その要因のひとつは、画面上にインターフェースやスコアがないことです。これにより、作品の世界の中に没入するうえで邪魔になる要素がなくなっているんです。そしてその次に、ゲームの体験に映画的なリズムを与えることを強く意識しました。

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(画像はSteam:Another World – 20th Anniversary Editionより)

そこからゲームの世界を形作っていきました。風が吹いていて、風の音が鳴っている。たどり着くと、あちこちにクリーチャーがうろついている。そして何より、ステージとステージのあいだに連続性があるように制作していました。

ここからは制作プロセスの話になるのですが、『Another World』の制作においては「即興的」なものが含まれているんです。ゲームのイントロをまず作って、その後に最初のステージを作ったんですが、その次のことは考えていなかったんです。

だから常にゲームの体験の中にギャップがあって、それが創作に良い流れをもたらしてくれました。

上田氏:
「予定調和じゃない」「次にどうなるかわからない」というのは、まさにそういうことなんでしょうね。

あらかじめ「こういう流れの構成にする」「こういうステージにする」というのが決まっていなくて、ある程度即興で作ったから生まれたものなのだと聞いていて感じました。

エリック氏:
そうなんです。上田さんがおっしゃるとおり「体験」という意味での即興だったんです。自分が作っているものを、自分自身が体験する。その体験が、次のステージを作ることに影響していきました。だから結局、自分が冒険者というか、自分の世界の中で作り上げている冒険の「主人公」だったような感じなんです。

というのも、私は何かを具体化しないうちには、なかなか制作ができないんです。執筆もデッサンも白紙の前で何もしなければ、何も書けません。だけど、手を動かして具体的なイメージが現れたら、それを最終的な媒体の上で形にしていくことができます。本なら紙に書きますし、ゲームならとにかくコードを打ち込んで、実装していくかたちです。

むしろ、私のほうから上田さんに質問があるんです。どういうふうに制作プロセスを決めているんですか?  最初の段階にあるのはアイデアですか?  それとも「こういうふうにやりたい」という明確な意思があるんですか?  そして、それをどう具体化していくのでしょうか。

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Credit | Alexander Degiorgio

上田氏:
この質問がいちばん困るんです。これを聞かれると毎回違ったことを答えていると思います。

世界観から作る場合もありますし、ゲームメカニクスから作る場合もあります。本当に「1枚の絵」から作る場合もありますね。本当に作品ごとでバラバラなので、「これ」というのはないんです。

強いて挙げるとすれば「自分がゲームプレイヤーとして、何があったら手に取ってみようと感じるか」という感覚と常に照らし合わせながら、自問自答しながら作っていく。それだけは共通していると思います。

よく「ビジュアル優先」と言われるんですが、自分としてはそこまででもないんです。

たとえば『ワンダと巨像』で言えば、「しがみついてよじ登っていく」というメカニクスからスタートしていますし、『人喰いの大鷲トリコ』に関して言えば、それまで培ったAIキャラクターの制御を中心として広げていけば、お客さんが喜んでくれるようなものになるんじゃないかと考えました。

最初のお客さんである自分が「これがあれば新鮮に遊べるかも」というふうに思うと、「よし、これを作ろう」という気持ちになる。その繰り返しですね。

エリック氏:
たしかにプロジェクトによって違いますね。これまで『Another World』の話をしましたが、『ペーパービースト』のときは違ったんです。

まず、ロコモーションのプロトタイプを作りました。その後チームで3Dにして、さまざまな進化を経ながら、ロコモーションのシステムを改善していったんです。ロコモーションのシステムこそが「生きている」ということの象徴だったからです。

だから、このテーマのゲームは、まずロコモーションから作り始めて、その後に世界を作っていきました。

いっぽう『Another World』の場合は、ストーリーの中に私が直接没入していくところからゲームの制作が始まっていました。だから、上田さんがおっしゃるように、制作プロセスは、プロジェクトによるんだと思います。

上田氏:
ゲーム制作はどうしても制作期間が長くかかってしまうので、そのあいだの「モチベーション維持」のようなものがけっこう重要だと思うんです。最初に「こんな世界を作りたい」「こんなゲームを作りたい」と思っても、それはあまり長続きしない。

だから、先ほどのメカニクスがうまくいったりとか、新しいテクノロジーが見つかったりとか、そういったもので制作のモチベーションを維持しながら続けていく、というところもありますよね。

エリック氏:
そうですね。ゲームの「具体化」が、結局うまくいったかどうかが重要なんだと思います。唯一残る事実ですよね。

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ライター
RPGにノベルゲー、シミュレーションまで様々なジャンルのゲームを遊び、アニメや小説、スポーツまで関心を向ける雑食系。毎晩、友人たちとゲームをする日々を送っており、高校時代に遊んだ『Apex Legends』を皮切りに『オーバーウォッチ』や『League of Legends』と、対人ゲームの沼を転々としている。癖のあるキャラほど凝る性分で、『オーバーウォッチ』ではレッキング・ボールOTP。

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