数値化の苦悩――「わかりやすさ」と「趣」のあいだで
――ついずっと『みんGOL』の話を聞いてしまいましたが、『パワプロ』の皆さまは、近い部分はありましたでしょうか?
豊原氏:
いや、やっぱり色々と似たような悩みを抱えてるんだなと思いますね(笑)。
チラッと話が出てましたが、「パラメーターをプレイヤーに見せること」って悩みませんか? 特に選手のパワーは出したくなくて、なるべくぼかして「成績で感じて」ほしくないですか?
村守氏:
「やっているうちに、なんとなくわかってくる」がいちばん嬉しいですよね。
例えば野球選手には、淡口憲治さん【※】のような代打の名選手もいるじゃないですか。そういうのって内部で特殊な打率を設定したりなどは……。
※淡口憲治
1952年生まれ。元プロ野球選手。右投左打。1971年、ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団し、70年代から80年代の巨人で主に“代打の切り札”として活躍した。その後近鉄バファローズに移籍。1989年、現役引退。通算代打本塁打17本はプロ野球歴代4位。
谷渕氏:
もちろんあるんですが、どの程度上がるかは公開しません。攻略本にも、あえてちゃんと書きません。
――そういうパラメーターの作り方も聞いてみたいですね。パラメーターの話をゲームクリエイターの皆さんに伺うと、「ゲームバランス」の面からの話と「キャラクターの特徴付け」の面からの話の2つがよく挙がるテーマなんです。おそらくスポーツゲームでは後者が重要な気がするのですが……。
豊原氏:
僕はランナーと野手を作る担当だったのですが、主に成績に近いパフォーマンスになるようにしています。具体的には、テストプレイでそれっぽさが出るかを見て調整をかけますね。
例えば初代の頃、ヤクルトにハウエル選手【※】がいたんです。彼は年間のサヨナラホームランの記録を持っていて、「サヨナラ男」と呼ばれていました。あの「サヨナラ男」という能力値は、実は彼のために生まれたものなんです。そういう場面ではパワーアップするように能力値を上げています。
僕らの場合は、それ専用の特殊パラメーターを入れることが多いですね。以前、薗部さんがパラメーターの数を少なくしているという話を読んで「耳が痛いな」と思いましたけど(笑)、僕らについて言えば、特殊パラメーターこそが『パワプロ』の味だし、喜ばれるものだと思います。
※ジャック・ハウエル
1961年生まれ、アメリカ合衆国・アリゾナ州出身の元プロ野球選手(内野手)。通称「サヨナラ男」。1992年にヤクルトスワローズに入団し、翌年には当時日本記録だった1シーズン3本を軽く塗り替える5本のサヨナラホームランを記録。ヤクルトの15年ぶりの日本一の立役者となった。
――面白いですね。薗部さんは「特殊パラメーターは解析されてしまうと底が浅くなる」と言っていましたが、確かに『パワプロ』は特殊パラメーターこそが面白さを生んでいますね。
谷渕氏:
僕らは名称が必殺技みたいなものですから。その選手が持っている能力に相当する特殊能力がなかったら、どんどん作っちゃいますね。有名な選手は、やはりそれらしい固有の特徴があるんですよ。
ただ、一作目ではパワーすら数値で出さなかったんです。開発チーム内でも「出すべき」派と「出さないでいるべき」派がいました。前者は、「全てを出した上で、どっちが上手いかを決めるのが正義だ」と言い張るんですね。
――それもゲームとして一つの立場なんですよね。それもそれで「納得感」はあるじゃないですか。
豊原氏:
そして、「わかりやすさ」の軸を持ち出すと、圧倒的に「出すべき」派の方が強くなる(笑)。
でも僕としては、起用する選手を「プレイヤーが自分の気持ちで選んでくれないかな」と思うんですね。それは、先ほども言いましたけど、パワー0でもホームランを打てるように設定してるからです。思い入れがあるだけの選手を代打で起用したり、スタメンに登用しても、それなりに活躍してほしいからなんです。
もし全てをデジタルに表示してしまうと、そうはならない。「ここぞという場面でホームランを打ってくれる選手だから」という思い入れで代打に出そうとして、ふと冷静にパワー値を見たら「なんだ」となってしまう――それでは楽しくないじゃないですか。数値化されてしまうと、戦略が一つの方向に集中してしまう気がしますね。
村守氏:
わかります。あと、僕は数をこなすことで、あくまでも「経験則」で学んでほしいんです。
つまり、「最初は下手であってほしい」わけです(笑)。まずはいきなりボギーを出して、飛距離も徐々にわかってきて、だんだんスコアも上がっていく。そういう長くプレイしたからこそ漠然と知る味わいを、クリエイターとしてはゲームの中で体験していただきたいんですね。
ところが、数値化すると、長いあいだプレイすることでスコアが上昇していく部分が減るんですね。極力、隠せるならば隠したいという想いはあります。
――数値化というのはかなり決定的にゲームバランスの難易度に影響を与えますからね。
豊原氏:
ただ、ここは難しいところですね。やはり「趣」を味わってほしいという想いは、マニアックであることも間違いないですから。決して、万人にわかりやすい話ではない。
最近は、僕らも「わかりやすく作りたい」と思うようになりました。
村守氏:
そうなんですよね。今のお客さんは昔に比べて飽きっぽいんで、いきなりボギーが出るようでは、すぐに離れて行ってしまうのも事実なんです。長く遊んでもらう「味わい」の工夫と、お客さんを「引き込む部分」での工夫の両立には毎回悩んでいます。非常に苦労するポイントです。
そもそも、現実のゴルフも最近では9ホールが主流【※】になり始めているんです。でも、それでは全てバーディを取って、すぐに9アンダーというようなスコアの上限に達しやすい。ゴルフはスコアの上限という枷が厳しいという点はありますね。バーディはそうやすやす取らせたくない。しかもイーグルはチップインなので、実力で得たと実感できるスコアとも違ってくる。まあ、毎回ジレンマです。
※9ホールが主流
ゴルフの1ラウンドは18ホールだが、プレイ時間の短縮などの理由から9ホールのトーナメントも開催されるようになってきている。
小林氏:
まあ、このゲームのタイトルが全てなんですよね。別のタイトルだったら別のことをやっていたんじゃないかな。
村守氏:
やっぱり「みんなの」という、この四文字がそうさせないという(笑)。
風向きもそうなんですが、矢印で表示せずに「風で芝が巻かれる絵を見て、その流れを見てください」とやってしまうと現実のゴルフには近くなりますが、「みんなの」の四文字の前では「やりすぎ」になるんですね。ですから、さじ加減を易しい方向に意図的に振ってしまっているのはあります。
『みんGOL』は理想のゴルフ!?
――あの……もしかして村守さんって、本当に「好きに作ってよい」と言われたら、数字を入れたくなかったりするんですか?
村守氏:
いやあ、それを答えると、怒られるかもしれない(笑)。
――ははは、わかりました(笑)。
小林氏:
一度、プロトタイプで何も出さないバージョンも作ったのですが……厳しかったですね。
――ただ、『みんGOL』の最大パワーのパーセント表示って面白いですよね。ティグラウンドやフェアウェイだと100%近いけど、荒れているところだとランダム要素が強くなるじゃないですか。あの表示が無いままで、ティグラウンドやフェアウェイではそのまま行って、バンカーでは上手く行かないというのは、ちょっと納得感が弱い気もするんです。
村守氏:
まあ、基本的にはラフの草の生え方や摩擦の度合いを、単純にデジタルに表現しているんですが、あそこはシミュレーションとランダム要素の食い合わせの悪さが出る場所で、さじ加減が難しいところですね。まあ、バンカーはペナルティゾーンと捉えて、ある程度多めに数字をつけるような感じでやってます。
小林氏:
まあ、そこはリアルゴルフの視点で言うと、「バンカーはそこまで大変じゃないよ」と思うところもあるんですけどね。逆にラフなら楽かと言えば、そうでもないですし。そこは難しいところです。
村守氏:
でも、本来はゴルフって正確な残り距離などは出ないものなので、「果たして自分のやっていることは正しいのか」と作るたびに常に考え込んでしまうのも事実です。実際のゴルフのドキドキ感って、逆に「距離はわからないけど、なんとなくこのくらいかな」と思って、ちゃんとグリーンに乗ったときなどの喜びにあるわけですから。
でも一方で、難しいものは難しい。グリーンの傾斜なんかは典型ですね。『みんGOL 3』のときに粒子で傾斜の強弱を表示する手法を思いついたんですけど、傾斜をデジタルで表現するのは本当に大変なことで、やはりそれまでは難しすぎたと思っています。
――実際、『みんGOL3』以降の方がやりやすいんですよね。あれがあるからこそ、外したときの納得感や「学習効果」があるのも事実ですよね。
村守氏:
デジタル表現と相性が悪い部分は、アナログな感覚を持ちつつ数値化するものと、ビジュアルの工夫で頑張っていくという感じですかね。本当は芝の形から理解してほしかったりもするのですが。
――ちなみに、小林さんはリアルゴルファーなんですよね。こういう数値化という問題に対して、ゴルファーの視点からの不満というのは……。
小林氏:
いやいや、村守さんの意見とはまったく逆ですよ!
――え、そうなんですか!?
小林氏:
だって、リアルのゴルフ場にはヤードを示す杭が置かれているでしょう。あれは「ここは150ヤードで、杭までが11ヤードだから、足して161ヤードで……」と計算するためのものです。僕たちリアルのゴルフ好きは、本当はむしろ徹底的にデジタル情報に置き換えてプレイしたいんですよ!
一同:
(笑)
――じゃあ、むしろ画面に様々な数値情報が出ている『みんGOL』は、真のリアルゴルフ好きには理想だと……(笑)。
小林氏:
そのとおりです!
僕はリアルのゴルフでも曖昧なショットなんてしたくない(笑)。最近は腕時計に地図なんかも表示されていて、残り距離が表示されたりもするんですね。リアルのゴルフはそういうデジタルの発展を取り入れることを拒否しがちなジャンルなんですが、最近のこういう技術の発展は素晴らしいですね。
――うーん、なるほど(笑)。
スポーツゲームとメディア
――しかし、そう考えると、改めて我々はスポーツゲームの何を楽しんでいるのか考え込みますね。かなり厳密に参照されるものがあって縛りも大きいですし、でもそこが魅力でもあって……。
谷渕氏:
『実況パワフルサッカー』【※】を開発したときに、『パワプロ』で上手く行ったことが、どうも上手く行かなかったんですね。例えば、「通常は自動の早送りで試合を進め、ピンチのときだけプレイが回ってくるモード」というのが『パワプロ』にあるんですが、これがサッカーに適用されるとどうも納得がいかないんです。
というのも、シュートチャンスから操作し始めてシュートが外れたら、単にもう一回蹴りたくなるんです。それをさせると、今度はいつ早送りの試合に戻したらいいのか、どうも上手い場所が見つからないんです。「スポーツによって切り取れる部分と切り取れない部分があるんだな」と思った瞬間でした。
村守氏:
難しいですよね。たぶんゴルフでも、自分ではない人間が勝手にホールを回ったあとに打つことになったら、あまり納得感はないですね。
――この「納得感」というのは、どうすれば生まれるのでしょうか。デフォルメの際の、本当に重要なポイントだと思うんです。
小林氏:
結局、いかに良いとこ取りをするか……なんだと思いますよ。
実際にゴルフを観に行っても、ボールなんて見えないですよ。それがちゃんと見られるし、しかも疲れない(笑)。すごい気持ちいい思いができる上に、実際のゴルフよりもはるかにいいスコアで回れる。そんな気持ちいい体験をダイジェストで体験できるのが、『みんGOL』の魅力だと思います。
村守氏:
そういう面白さを、いかにボタンをポチポチするところに落とし込むか……なんだと思います。
谷渕氏:
実際に投げたり打ったりしているわけではないのに、本当にやっているときと同じ脳の部分が働いて、上手く行くと「やったー」となれる。やっぱり、ゲームの画面の中でも、サヨナラの場面で打席に行ったときには緊張するし、そこで打ったときにはアドレナリンも出る。
気持ちいいところが抽出されているんですよね、いろいろな方法で。
――しかも、そのときの演出がゲームだと実況が聞こえてきたりするわけですよね。考えてみれば、「2ランホームラン!!」とか、実際のスタジアムでは聞こえるはずないですからね。非常にテレビ的というか……。
豊原氏:
やっぱり、僕らも「観る野球」を再現していると思いますからね。「テレビで観る」とか「ラジオで聴く」とかの体験がベースにあるんですよ。
――薗部さんに至っては、自分のゲームでは「野球はデータを観てれば楽しいから、スキップできるようにした」と言ってましたからね。
村守氏:
僕も数字フェチでしたからわかります。「張本の3割8分すげー」とかで興奮してましたからね。
谷渕氏:
データを見始めると、細かいところがわかるんですよね。盗塁の成功率を見て、「この人はすごく走っているけれど、すごく失敗しているな」などわかってくると、興奮するわけです。
豊原氏:
野球ゲームを作るようになってから、僕もデータへの興味は強くなりましたね。『パワプロ』も、記録にはすごくこだわってます。
――そういう意味では、我々日本人にとってのゴルフや野球は、まず「自分でプレイする」ものと言うより、テレビや新聞などの「メディアで観る」ものなのであって、海外とはシミュレートする場所が違う気もしますね。実際、薗部さんも『ダビスタ』で再現したのは、テレビ中継の競馬だと言っていましたし。VRのようにその場のプレイをリアルに再現することよりも、むしろ我々はテレビの平面ディスプレイで普段観ているものの中に、バーチャルに入り込みたがっているのではないか――そんな気もしますね。
村守氏:
まあ、これは難題ですよ。一言で答えが出しづらいものだと思います。ここについては、北米の人たちは野球やゴルフがすぐに出来る住環境にあるのに対して、日本では簡単にはできないことも理由にある気がしていますね。
『パワプロ』のサクセスモードとは
――というところで、そろそろ時間ですが、最後に一つだけ。ここまで聞きそびれていたのですが、まさに日本のスポーツゲームらしい話として、『パワプロ』の「サクセスモード」【※】があると思うんです。あれって前代未聞のモードだと思うのですが、一体どういうテンションで作られたんですか?
小林氏:
まあ、麻雀のゲームにRPGがついてくるのとかはありましたけどね。なぜかストーリーやキャラクターとかバカバカと出てきたりとかして(笑)。
豊原氏:
そうそう、PCエンジンでナムコの『プロテニス ワールドコート』【※】のクエストモードのような、RPG風のやつで、世界を一人で巡る……みたいな。
ただまあ、サクセスについては、二作目で野球ゲームとして一定の完成を見たので、何か別の楽しさを入れたいと思いました。飽きやすい方なので(苦笑)。基本のアクションゲームとしての野球部分がしっかりしているので、色々と遊ぼうと言う方針でやってます。
※プロテニス ワールドコート
1987年にファミコンで発売した『ファミリーテニス』をアーケードおよびPCエンジン用に移植する際にナムコ(当時)が付けたタイトル。ここではPCエンジン版にあったRPG調のクエストモードが語られている。国を脅かす“テニスまおう”打倒の旅に出た主人公は、エンカウントや待ち構える敵との戦いをセットマッチでこなし、賞金を稼いでアイテムを強化。最終的に“まおう”と戦う。
谷渕氏:
最初は『マイライフ マイラブ ぼくの夢わたしの願い』【※】みたいな感じで、選手の一生モノをやりたいという話をしてたんです。ただ、当時隣のセクションで作っていた『実況ワールドサッカー』というゲームがなかなか大変なことになっていて、その手伝いをしなきゃいけなくなり、あんまり時間がなかったんです(笑)。で、「もうええわ、一軍に上がったところで終わってまえ」と。
そんなときに、ちょうど広島(カープ)の「二軍に3年いたらクビになる」と書かれている本を読み、さらに横を見たら3年間で卒業するゲームがあるわけですよ(笑)。
※マイライフ マイラブ ぼくの夢わたしの願い
1991年にバンプレストから発売されたファミコン用ボードゲーム。『少年アシベ』で有名な森下裕美をキャラクターデザインに起用したすごろく形式の一見ファンシーなタイトルだが、ひとり専用で100年分の人生を追体験する仕組みとなっており、詳細なパラメータ、死の概念など、開発の一端を担っていたパンドラボックス(当時)の飯島健男(現・多紀哉)の作風が色濃く出ている。
――……って、それ『ときめきメモリアル』じゃないですか(笑)! じゃあ、やっぱりサクセスモードが『ときメモ』をベースにしているというのは本当だったんですか。
谷渕氏:
まあ、向こうは告白するゲームなんですけどね。一応、僕らはちゃんとした野球ゲームのつもりなんで、広島の話のように裏付けはなるべく取るんです。
豊原氏:
ただ、ゲームとしては、本当は『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』【※】を意識しています。
※トルネコの大冒険 不思議のダンジョン
1993年にチュンソフトからスーパーファミコンで発売された、ダンジョン探索型のRPG。1980年に発表された『ローグ』を下敷きに『ドラゴンクエスト』シリーズで馴染みのキャラクターを配した、いわゆる“ローグライクRPG”の一種。中断は可能だがやり直しの利かないゲーム性を始め、ランダム生成されるダンジョンや、キャラクター(トルネコ)の死亡によるアイテムやレベルの消失など、繰り返しのプレイを想定した構造であり、キャッチコピーがそのまま「1000回遊べるRPG」であった。開発秘話を聞いたゲームの企画書はこちら。
――!?
豊原氏:
当時、『トルネコ』にハマってたんで、「何遍も繰り返し遊べるようにしたいな」と。
谷渕氏:
チームみんなが好きだったんです。一撃死してしまうところとか、クビみたいなので終わるところに活かされてます。もちろん、リセットも許されない(笑)。何回もやり直せないから、ドキドキする。まさに『トルネコ』ですよね。
豊原氏:
二作目のヒーローインタビューで、「なんでヒーローになったか」の理由として、「今日3打点の大活躍」みたいな文章が沢山出るでしょう。あれは、トルネコが倒されたときにどういう理由で倒れたかを示すメッセージに影響を受けてます。
※パワフェス
サクセスモード20周年を記念して『実況パワフルプロ野球2016』に追加された“パワフェス”モード。過去のサクセスモードに登場したチームが続々登場する、いわばオールスター的なモードで、全6試合の特定の場面を操作し、勝ち抜きながら選手を育成する。
――そんな、わかりにくすぎる影響関係が……。ちなみに、あの『パワプロ』サーガのような、作品をまたいで続くシナリオの謎展開も、皆さんがそんな感じのノリで書いてるんですか? 彼女イベントはさすがに『ときメモ』の影響ではないかと思うんですが……。
豊原氏:
そうです。あれは「ぜひ野球ゲームに入れたい。こんなの他にないで(笑)!」と思いながら作りましたね。まあ大体、サクセスモードなんて、最初は一作やって終わりだと思ってましたから。20年も続くとは思わないですよ。
谷渕氏:
まあ、ゲラゲラ笑いながら作ってましたよね(笑)。そんな重厚長大なもんじゃなくて、「笑えるものがいいな」と思ってます。
――このあたりは、もはやシミュレーターでも何でもない、日本的なゲームの進化のあり方としか言えない、謎展開だと思うんですよ。まあ、単に関西のノリなのかもしれませんけど(笑)。ただ、こういうキャラゲー的な方向での見せ方は、面白い軸の一つだとは思うんです。
谷渕氏:
でも別にキャラゲーにしたいわけじゃないんですよ。むしろチーム内では、僕なんかは「キャラゲーにしたくない派」で、「キャラゲー化したい派」と争ってますから。だって、あんまりやり過ぎたら、純粋な野球ファンが嫌がるじゃないですか。まあ、ストーリーとか作っていくと、それなりにキャラが出来上がっていっちゃうんですけどね。
――ですよね。でも、『パワプロ』と『みんGOL』の比較のようになりますが、『みんGOL』って、あまりキャラクターやリアルな人物を登場させないですよね。
村守氏:
僕らの場合は、丸山茂樹さん【※】と『みんGOL5』でコラボさせていただきましたが、基本的にはやっていないです。というのも、やはり架空のキャラクターからスタートしているので、数値がインフレしているんです(笑)。現実の飛距離が持ち込まれると困ってしまいますね。
それに、「飛距離」にしても打率のような数値がプロゴルファーにはないんです。コントロール性能やスピン性能のようなデータベースもないですし。球筋や持ち球、ドライバーの平均飛距離くらいはデータとしてあるとは思いますが。
――先ほどの薗部さんの話もそうですけど、野球というゲームに僕らが感じている選手の細部まで楽しめる魅力って、実はそういうデータベースの整備しやすさに裏付けられてるんでしょうね。実際のところ、野球選手と違ってタイガー・ウッズとジャンボ尾崎の差の表現なんて、僕らにはわからないというのもありますからね。
豊原氏:
まあ、僕らからすれば、『みんGOL』さんはオリジナルキャラクターだけで作っていて凄いんですけどね(笑)。
僕らの場合は、初代『パワプロ』の開発当時は、一般紙やスポーツ新聞を購読して情報を収集していました。でも、選手の情報は打率だけではやっぱり表せないんです。そこを特殊能力で色を付けした面はあります。まあ、「チャンスに強い」という内容とかで、今ほど複雑ではなかったですけどね。
――昔、選手の強さを決める会議に、皆さんユニフォームを着て現れたと聞きますが(笑)。
谷渕氏:
各球団の担当がいて、最後に選手の強さを話し合いで決めるんです。「お前のところの選手が強すぎる」など言い合うんです。かつては、まさに皆で担当球団のユニフォームを着て、資料を持ってきて「さあ、やるぞ!」と会議をしてました。それが喧々諤々で……。
豊原氏:
しかも、「この選手のここを下げるから、こいつのここは上げてくれ」とか取引をし始めるんですよ。そういう問題じゃないだろう、と(笑)。あまりに殺伐とするので、僕はあえて「歓談会」という名前を付けたくらいです。まあ、さすがに殺伐としすぎてしまって、最終的にはメールでやり取りして最後に選手データ隊長が決定することにしましたけど、あの頃はやり過ぎでしたね。
村守氏:
もはや、合理性で決まるものではなくなり始めていたんですね(笑)。
――「なんでこの選手がこの評価なんだ!」というのも『パワプロ』の面白さですけどね(笑)。
終わりに
――さて、そろそろ時間になってしまいました。それでは、最後に互いにエールを送り合っていただければと思います。
谷渕氏:
いやあ、今回お話をさせていただいて、長年続いているスポーツタイトルとして、お互い戦友というかデフォルメキャラのスポーツゲームとして、競技は違いますが通ずるところがあると思いました。新作を楽しみにしています。
村守氏:
ありがとうございます! 自分も野球が大好きなので、ぜひこれからもガンガン進化させてすごく面白い野球ゲームにしていただければと思います。
豊原氏:
というか、こんなこと言ったらダメだと思うんですけど、村守さん、『みんなの野球』を作ってくださいよ。見たいですよ。
谷渕氏:
ぜひ作ってもらいましょう(笑)。
村守氏:
ははは(笑)。
小林氏:
実は構想だけなら、何度もあるんですよね……とだけ言っておきます(笑)。
まあ、我々もだいぶ歳を取ってきていますが、いいものを作り続けましょう。今日は本当に刺激になりました! (了)
二つの大人気「スポーツゲーム」タイトルのチームによる座談会、皆さんはどうだったろうか。
実は初対面だったという両者だが、座談会の最中、しばしば「うんうん」と互いにうなずき合っていたのが印象的だった。スポーツゲームに特有の、「ルールを勝手に変更できない」「本当は数値化はしたくない」などの、開発者ならではの悩みはどうやら共通するモノだったらしい。
さて、取材の中で話題になったのは、やはり「スポーツゲームは何を楽しんでいるのか?」ということ。その中でも興味深かったのは、欧米の「シミュレーター志向」に対して、日本の「デフォルメ志向」のスポーツゲームがどんなふうに作られているのかが、確認できたことだ。
しかも、日本がデフォルメする際に、一つ「テレビを再現する」という方向性があったのでは……という“説”は、なかなかプレイヤー感覚としても納得がゆくものだ。確かに、我々の多くにとって、スポーツとは外で遊ぶものであるよりも、まずはテレビ画面で見るものであるのかもしれない。
そして、もう一つ。
今回の取材記事を読み返して、日本のゲームクリエイターって、つくづく面白い人たちだなあ! ……と、改めて感動してしまった。スポーツゲームに限らず、日本のこうしたデフォルメの「職人芸」や文脈依存度の高い「悪ふざけ」は、座談会でも語られたように、なかなか昨今の世界市場で、分かりやすく受け入れられるものではないのかもしれない。
だが、ゴルフのカメラからあえてボールを外して勢いを表現してみたり、なぜか「ときメモ」の要素が入った謎のストーリーモードを野球ゲームに入れ込んでくる、彼らの発想の自由さと来たら! その「繊細さ」や「痛快さ」は、やはり独自の魅力に溢れている。そう、思う。
身体を駆使するスポーツを、あえてTV画面とコントローラーの“ポチポチ”に落とし込むスポーツゲーム――それは、日本のクリエイターの、世界でも類いまれなセンスが突出して現れてくる場であるのかもしれない。