この夏、スタジアムは『アイマス』で熱かった。
2017年夏、プロ野球パシフィックリーグ6球団と「アイドルマスター」シリーズという異色のコラボが実現、7月4日には東京ドームで、8月6日にはメットライフドーム、そして9月3日にはZOZOマリンスタジアムにて、コラボイベントが実施された。
下の写真は、9月3日の「千葉ロッテマリーンズ VS 北海道日本ハムファイターズ」戦を観戦しにきた4人組の女性プロデューサー(Pともいう。『アイマス』プレイヤーの通称)だ。
「パ・リーグが『アイマス』とコラボするニュースを聞いたとき、その場でガッツポーズしました! もともとオリックスのファンなので」
「7月4日の東京ドームでのコラボイベントにも行って来ました」
「私もオリックスのファン、かつ『アイドルマスター SideM』のPなので、自分のためのような、そんなコラボですよね」
「今日、友人に誘われて初めてスタジアムに来ました。推しの声優さんによる始球式が目当てだったんですけど、いいですね、この球場の雰囲気!」
この日は、コラボイベントのラストを飾る「315PRODUCTION DAY」。315(サイコー)プロダクション所属の男性アイドルをプロデュースする、というゲーム・アニメ作品『アイドルマスター SideM』とのコラボデーとなっており、会場限定オリジナルコラボグッズやオリジナルドリンクの販売が行われ、上記の彼女たちだけなく、多くのPがコラボグッズを身につけて観戦していた。
今日がコラボデーであることを、球場に来て初めて知ったマリーンズファンからは、
「今日は『アイマス』のファンが多いみたいですけれど、試合自体も楽しんでいるようで、球場の雰囲気もヘンな感じじゃないし、こういうコラボはウェルカムです」
「今日は女性向けの『アイマス』とのコラボだそうだけど、キャラのユニフォーム姿がカッコイイ。自分も『アイマス』やってみたい」
といった声が。そのほかのファンからも、今回のコラボは好評だったようだ。
「スポーツ観戦」と「ゲーム・アニメ」──一見「エンターテイメント」という点以外、共通項が見当たらないモノの組み合わせだったにもかかわらず、Pからも、そしてプロ野球ファンからも盛況のうちに幕を閉じた「パ・リーグ6球団×アイドルマスター」シリーズ。
この夢のコラボ実現にこぎつけるまで、相当のエピソードがあったはずだ……そう考えた電ファミ編集部は、パ・リーグサイドに取材を打診、コラボ最終日というタイミングで運良くキーマンにインタビューすることができた。企画実現までの経緯や苦労話から今回のコラボを振り返り、NEXTの可能性を想像したい。
取材・文/浅井 渚、透明ランナー、なかJ
カメラマン/増田雄介
Pの皆さんには、最後まで試合を楽しんでいただけた
──今日の球場の雰囲気、いつもと比べていかがですか?
川島氏:
今日は、「アイドルマスター」シリーズ(以下、「アイマス」シリーズ)【※1】の中でも特に女性ファンが多い『アイドルマスター SideM』(以下、『SideM』)【※2】とのコラボなので、たぶん来場者も女性が多いとは思います。
とはいえ、ここ数年、プロ野球は女性ファンのシェアが増えていますから、数年前なら「女性ファンがとっても多いな」と思ったかもしれませんが、いまはそんなに違和感がないですね。今日の対戦相手の北海道日本ハムファイターズ【※3】は、もともと女性ファンが多い球団だから、ということもあるかもしれません。
※1「アイドルマスター」シリーズ
2005年より稼働していたアーケードゲーム『THE IDOLM@STER』(アイドルマスター)を1作目とするシリーズのこと。現在に至るまでXbox 360やPSシリーズ、スマホ版として、およそ20作のタイトルが発売されており、アイドル育成ゲームとして破格の人気を誇る。また、メディアミックスも盛んに行われているほか、登場キャラクターを演じる声優によるイベントには多数のファンが押しかけることで有名。
※3 北海道日本ハムファイターズ
北海道日本ハムファイターズ。パシフィック・リーグに所属するプロ野球チームで、本拠地は北海道・札幌ドーム。昨年(2016年)、リーグ優勝・日本一を果たした。
上田氏:
今日のコラボ特別チケットは、何席分くらい販売されたんでしたっけ?
川島氏:
当初、目標として1000席を用意していたのですが、おかげさまで売り切れまして、急きょ200席ほど追加でご用意しました。
──それも完売したんですね。すごい!
上田氏:
コラボデーの3日間は、オリジナルグッズ販売を実施させていただいたから……というのもありますが、これまで開催した東京ドームとメットライフドームのコラボデーの雰囲気も合わせて、けっこう多くのプロデューサー(以下、P)さん【※】にお越しいただけたと思っています。
こういったコラボをするにあたって、いちばん危惧するのは──たとえば声優さんによる選手紹介や始球式といったイベントが済むと、そのファンが帰ってしまうということなんですが、Pの皆さんはそんなことはなく、最後まで試合を楽しんで帰られる方がほとんどでしたよ。
※プロデューサー
ここでは「アイドルマスター」シリーズファンのことを指す。ゲーム内で、プレイヤーはプロデューサーと呼ばれる主人公に成り代わってプレイすることに由来。
川島氏:
そうですね。試合終了後に行われるグラウンドウォーク(希望者がグラウンド内に入って選手の気分を味わえるイベント)まで、本当に最後の最後までいらっしゃって。
──今回の『SideM』とのコラボで、イチバン人気だと感じたのは、どのキャラクターと球団の組み合わせでしたか?
上田氏:
東北楽天ゴールデンイーグルス【※1】と柏木翼との組み合わせが、「イラストが“野球感”にあふれてる」という意見が多かったですね(笑)。あとは、今日の千葉ロッテマリーンズ【※2】と天道輝との組み合わせが、かなり人気があるように思います。
他に反響が大きいのは、「なんでカエル?」と言われた、埼玉西武ライオンズ【※3】とピエールの組み合わせですね(笑)。野球ファンも、あの“カエール”が気になったらしくて、試合前に調べてきてくださったみたいです。
ちょうど『SideM』は10月からアニメも始まるので、これまで『アイマス』を知らなかったプロ野球ファンも、今から入りやすいコンテンツなのかな、と思います。Twitterでも「このキャラはウチの球団とコラボした人だ!」というツイートがあったりしました(笑)。
※1 東北楽天ゴールデンイーグルス
パシフィック・リーグに所属するプロ野球チームで、本拠地は宮城県・Koboパーク宮城。2004年のプロ野球再編の折に新規参入した。直近では、2013年にリーグ優勝・日本一に輝いている。
※2 千葉ロッテマリーンズ
パシフィック・リーグに所属するプロ野球チームで、本拠地は千葉県・ZOZOマリンスタジアム。2005年にはリーグ優勝から日本一に、2010年にはリーグ3位から“下克上”の日本一となる。
※3 埼玉西武ライオンズ
埼玉西武ライオンズ。パシフィック・リーグに所属するプロ野球チームで、本拠地は埼玉県・メットライフドーム。直近では2008年に、リーグ優勝・日本一に輝いている。
プロ野球と『アイマス』は相性バッチリだった!?
──それにしても、まさかパ・リーグと『アイマス』がコラボするとは、思ってもみませんでした。
上田氏:
Pの皆さんから、「プロ野球」へのリスペクトがとても強いことを感じました。『アイマス』だけを応援するのではなく、野球もちゃんと観てくれるというのは、すごく嬉しいですね。
「プロ野球」と『アイマス』という組み合わせの相性が非常に良かったんだと思います。Pの方々の間の会話でも普通に野球の話が出るようになったようで、違和感なく融合したのかな、と。
──相性が良かった、と言いますと?
川島氏:
もともとマリーンズでは、選手がヒットを打った際に応援団が歌う“ヒットテーマ”に、『アイマス』の『キラメキラリ』【※】という曲を原曲に使わせてもらっていたんです。
ということもあり、今回のコラボ以前から、マリーンズファンの皆さんから「アイマスとコラボしないんですか?」という声を、ずっといただいていたんです。
──マリーンズファンの中に、『アイマス』ファンがいらっしゃるという証拠ですね。
川島氏:
ファンの数でいえば、ウチのチームは巨人や阪神、ソフトバンクのような球団と比べれば少ないです。しかし“地域球団”ということもあって、「ファンの声を聞きながら多少自由が利く」というメリットがウチにはあります。
それに、さっきの『キラメキラリ』のヒットテーマのように、もともと球団ファンにコミックやアニメ、ゲームに明るい方が多いということもあり、“そういうジャンルとコラボすると喜んでもらえる”、という前例がいくつもあるんです。
──確かに、マリーンズは、これまでも漫☆画太郎さん【※1】や『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』【※2】といったさまざまな作品と、ユニークなコラボをされていますもんね。
川島氏:
昔はコミックやアニメとのコラボというと、眉をひそめるような人がマリーンズの社内にもそれなりにいたのですが(笑)、こうしてファンが喜んでくれていますし、コラボ側のファンもプロ野球に対してリスペクトしてくれる方が多いので、今後もコラボを続けていけたら、と思っています。
今回、「315プロダクション」【※】のキャラクターとコラボできて、とても嬉しいです。
※315プロダクション
「サイコープロダクション」。『アイドルマスター SideM』内に登場する芸能事務所。