コラボを実現させたのは「リーグ全体」を盛り上げる組織?
──今回のコラボは、マリーンズだけではなくパ・リーグ6球団合同という大規模な企画ですが、“パ・リーグだからこそできる企画”という感じがします。
上田氏:
セ・リーグさんも是非やるべきだと思います!
パ・リーグには「6球団をまとめてリーグを盛り上げることだけを考える」というミッションを持った「パシフィックリーグマーケティング」(以下、PLM)【※】という組織があります。というわけで今回の6球団合同コラボは、PLMが存在意義をかけて行っている施策の1つなんです。
各球団、自分たちの球団の中でもっとやるべきことがあるわけで、川島さんのように日々忙しい……その上さらに、リーグ全体のことまで考える余裕はまったくないと言っていいでしょう。でも、今日のようなリーグ全体の企画についても動いてもらえるのは、6球団それぞれが投資して作った組織“PLM”があるからこそ、だと思います。
※パシフィックリーグマーケティング
パ・リーグに所属する6球団により2007年に設立された会社のこと。主な事業としてはプロ野球動画配信サービスの「パ・リーグTV」があるが、ほかにも共同イベントの企画運営などを手がけている。
── 言われてみれば確かに、PLMのような組織はセ・リーグにはないですね。
上田氏:
我々PLMは毎シーズン、いろいろなコンテンツとコラボしていまして、コンテンツホルダーさんのほうからお話をいただくこともありますし、間をつないでくれるメーカーさんだったり、ライセンシーさんなどがいらっしゃったりもします。
そんな中で、今回はたまたま、アニプレックスさん【※】とお取引がある会社さんからご紹介があったんです。『アイドルマスター』というコンテンツは、元々「野球ファンが多い」と言われていたらしくて……。
※アニプレックス
アニメーションの企画製作/販売配給や、ソーシャルゲームの企画製作を手がける大手企業。ソニー傘下で、設立は1995年。略称ANX。「アイドルマスター」シリーズのアニメのほか、多数の人気コンテンツを手がける。
──女性Pを取材したら、「『SideM』のP、かつプロ野球ファンです」という声をけっこう聞きました!
上田氏:
アニプレックスさんからも、「以前オリジナルグッズとして出した、ベースボールシャツが好評だったので、親和性があるのでは」というお話がありました。
そこで、「きっといいコラボになるんじゃないか、これはいい機会だ」と判断し、企画がスタートしたんです。
──先ほどの川島さんのお話にもあったように、『アイマス』ファンにはプロ野球ファンも多いようですね。何か理由があるのでしょうか?
上田氏:
私も何度か、勉強のために『アイマス』のライブに行ったんですけれど、なぜかマリーンズの、しかもビジターのユニフォームを着たPの方が、ライブで盛り上がっていたんです。「ああ、こういうことなのか……な!?」と、プロ野球との親和性を肌で感じましたね。
なぜなのか、まではしっかり説明できませんけど(笑)、おそらく──ライブ会場とスタジアムそれぞれにいるときの“ワクワク感”、ステージ上のキャスト&グラウンド上の選手とファンの“距離感”、ファンアイテムを身に付けてのコール&応援歌による“一体感”、といった点が、共通項としてある──そう考えています。
あと、『アイマス』の声優さんの中にプロ野球ファンの方が何人かいる、ということは知っています。
超重要人物、突然の乱入!?
???:
プロ野球ファンの知り合いの間でも、『アイマス』好きの人もいましたし、初めて会ったアニメ好きの人と会話したとき、「え、お前も野球ファンだったの?」なんてこともありました。学生時代からそういう話は聞いていましたね。
──!? あ、あなたは?
鈴木智大氏(以下、鈴木氏):
申し遅れました。PLMのコンテンツ「パ・リーグTV Lite」【※】(@ptv_lite)にて「アイマスのP」として活動している「中の人(部)」こと、PLMマーケティング室の鈴木です。
※パ・リーグTV Lite
2016年より始動しているTwitterアカウント。本家の「パ・リーグTV」とは別に、初心者に向けて野球のルールを解説したり、試合中の一コマの映像を流したり、選手の豆知識を呟いたりと、ゆるくプロ野球を楽しんでもらうための情報を提供している。なお、中の人は『アイマス』でPを目指しており、その様子も垣間見ることができる。
──お世話になります。えっと、それだけ『アイマス』との親和性があったのなら、コラボ実現までは意外とトントン拍子だったりしたのでしょうか?
上田氏:
話がはじまったのは、去年(2016年)の夏から秋ぐらいからでしたが、実際に動き始めたのは年明けからでした。
当日のイベントの企画は各球団にお任せして、グッズに関しては基本的にアニプレックスさんに企画していただいたのですが、アニプレックスさんがかなりがんばってくださって、トップイラストレーターの方に18枚ものイラストを描き下ろしていただいたんです。
ファンの方々からも「イラストがいい」というお声をいただけたので、そこに力を入れたのは良かったと思います。
──先ほど取材したマリーンズファンの方も「キャラのユニフォーム姿がカッコイイ」とおっしゃってました。
上田氏:
ほかに、球団ごとにオリジナルグッズを用意したのですが、それは球団側や我々から提案させてもらったモノもあります。
たとえば、埼玉西武ライオンズは「フラッグ応援」という応援方法があるので、フラッグを作ってもらって、球場限定で販売しました。日本ハムファイターズはキャラクターのイラストが入ったカップを作ったりと、それぞれプラスアルファはありましたね。
川島氏:
マリーンズは今回、アニプレックスさん側の個人的な思いも含めて(笑)、独自の企画として『ビックリマン』【※】とコラボしました。
『ビックリマン』は、球団の親会社であるロッテの人気コンテンツですし、野球ファンと『アイマス』ファンの中心世代である20〜30代と合致するということで、「何かできませんかね?」と、最初は雑談程度での話だったんですけどね。
これまで、球団と『ビックリマン』のコラボは事例があったので、ロッテに無理をお願いして、シールを作っていただきました。今年7月に入ってからのお願いだったので、スケジュールの調整がなかなか大変で諦めかけていたんですが、何とかできたのでホッとしています。ウチだけしか作れないモノですからね(笑)。
──確かに、マリーンズでしかできないトリプルコラボですね!
川島氏:
もう少し続けていいですか?(笑)
実は、『ビックリマンチョコ』としてのコラボではない、今回のような“シールだけ”のコラボというのは実現が難しいんですよ。
たいていコラボする場合は、シール同様のサイズではなく、大きめのステッカーだったりと、別の形で作ることが多いんです。ですから、あのシールの形をしたオフィシャルなモノというのは、コラボアイテムとしてはとても珍しい! ということを、ゲットした皆さんにお伝えしたいです(笑)。
『アイマス』をきっかけに、さらに広がるコラボ展開に期待
──このコラボがきっかけで『アイマス』を知った人には、自分のファンの球団とのつながりで、応援するキャラクターが決まることもある。また逆に、プロ野球から『アイマス』を知る人も。ジャンルが違うからこそお互いの客を食い合うことなく、新たな間口が双方にある、というのはかなりの強みですね。
上田氏:
それに、『アイマス』とコラボした企業同士がつながる、ということもあるみたいです。
???:
「日本商工会議所検定」さん【※1】や、「江戸切子」さん【※2】と、PLMはTwitter上でやり取りしていたりします。どちらさんも、今なお『アイマス』とコラボしていて、「日本商工会議所」さんには先日ご挨拶をさせていただきました。それを機に、私が“簿記の検定を受ける”という企画が始まっています(笑)。
※1日本商工会議所検定
国内の商工会を組織する日本商工会議所(日商)の実施する検定事業のこと。年間約60万人の受検者を誇る簿記検定をはじめとして、販売士検定、日商PC検定などを主催している。2016年に『アイマス』とのコラボを果たし、大きな話題となった。
※2 江戸切子
江戸時代に起源をもつガラス工芸技法。東京都および国によって伝統工芸品に指定されており、工芸の振興と発展を担う組織として「江戸切子協同組合」がある。2015年放映のアニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』の18話で題材として江戸切子を扱ったことをきっかけに、アイマスとのコラボ作品などがこれまで発表されている。
──あ、あなたは!?
鈴木氏:
先ほどご挨拶した、「パ・リーグTV Lite」の「中の人(部)」、鈴木です。二度目の登場です。
上田氏:
簿記検定……って、いつの間にそんなことしてるの!?(笑)
──(笑)。ということは、パ・リーグに『アイマス』、さらにもう1つ加えた3種のコラボも、将来的には可能かもしれませんね。
鈴木氏:
コラボしたコンテンツ同士のつながりで、どんどん相乗効果が生まれて、三者+ファンが喜ぶコンテンツになると思います。ものすごい数の方に届くんじゃないでしょうか。たとえば、「パ・リーグ×アイマス」のコラボに、さらに「江戸切子」さんにも加わってもらう……なんてこともできるかもしれませんし、どんどん夢が広がりますね。
上田氏:
その他だと──いろいろ難しいこともあると思いますが──、ゲーム内でのコラボもやれたら、と思います。じつはスマホゲーム『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』【※1】のゲーム内で、“コラボイベントのポスターが貼ってある”といったことまではできたんですが、せっかくなら今回のイラストのように、ゲーム内でキャラクターが各球団のユニフォームを着ている、なんていうのもやれたらいいですね。
【パ・リーグ6球団コラボ】ミリシタ内にもポスター登場中です♪https://t.co/E7ps0dgg6w #imas pic.twitter.com/1aiH38GkLY
— アイドルマスター (@imas_anime) August 5, 2017
※1 アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』
バンダイナムコ開発のもと、2017年6月より配信されているスマホゲームアプリ。略称は「ミリシタ」。ソーシャルゲーム『アイドルマスター ミリオンライブ!』(GREE配信・2013年)を題材としている音楽リズムゲームである。事前登録の段階で登録数は100万人を突破し、配信後の9月には500万ダウンロードを突破した。
あと、我々PLMでは「パ・リーグTV」【※2】という独自のメディアを持っていて、先日そこで放送する野球中継の副音声を、『アイドルマスター シンデレラガールズ』【※3】の姫川友紀役の杜野まこさんと、小早川紗枝役の立花理香さんにやっていただきました。どちらも今回コラボしたキャラクターを演じた声優さんですね。
※2 パ・リーグTV
パシフィックリーグマーケティング(PLM)の運営する、パ・リーグ公式試合のインターネット動画配信サービス。2007年のPLM設立よりサービスが開始され、2012年に現在の視聴形式になった。セ・リーグには同様のサービスは存在しない。
※3 アイドルマスター シンデレラガールズ
2011年よりMobageの提供するソーシャルゲーム。『アイマス』の世界観をモチーフにしているが、本作には100人以上のオリジナルキャラクターも登場する。また、2015年にはテレビアニメ化されたほか、本作をさらに発展させたゲームも発売されている。
鈴木氏:
私も、副音声に出演しました(自慢)。
上田氏:
え!? 俺は呼ばれてなかった……。
これからのパ・リーグとアイマスの関係は?
──今回は東京、埼玉、千葉と首都圏3試合のみでのコラボ企画でしたが、3試合だけといわず、これから先もまた続けてほしいと思っているファンも多いのではないでしょうか?
上田氏:
そうですね……これは、『アイマス』サイドとお話しないと何とも言えませんが、何らかの形で継続していきたいとは思っています。
今回はたまたま3球場3球団でイベントさせてもらいましたが、「地方でもやってほしい」という声も多いので、いろんなところへ遠征してみたいですね。Pの皆さんがプロ野球を応援してくれるようになってきていますから、ちゃんとしたコミュニティとして確立させて、常に応援してもらえるように活動していきたいと思います。
とにかく、パ・リーグでやる限りは、必ず前年を超える取り組みをしたいです。
と、その前に、まだクライマックスシリーズ【※】が控えていますが、そこに『アイマス』コラボが進出できるよう、Pの方々の中でもムーブメントを起こしてもらえたら……と思っています。
※クライマックスシリーズ
プロ野球にてポスト・シーズンに行われるトーナメント方式のプレーオフのこと。シーズン終了時点のセ・パ各リーグ上位3チームが進出することができ、各リーグで勝ち抜いたチームは日本一決定戦へと進む。
川島氏:
マリーンズとしては、今回「315プロダクション」のキャラクターたちとコラボさせてもらえましたが、また他のアイドルたちとコラボできたらいいな、と思っています。
『アイマス』のライブやトークショーが、球場のすぐ近くの幕張メッセで開催されているそうで、Pの方々の中には、この辺りを「聖地」と考えている方もいらっしゃると聞いています。
ですから今回、本当はキャストの皆さんのトークショーやステージライブなどもやりたかったんですが、残念ながら時間の関係でそこまで準備できなかったので、もしまたコラボできるのであれば、さらに皆さんに“聖地”と思っていただけるような仕掛けをしたいと思っています。
またチャンスをいただけることを願っています。
???:
今回、アイマスとコラボさせていただき、本当にありがたいことがいっぱいありました。また来年もコラボができればとても嬉しいですし、それが叶ったら、今年以上に全力でやらせていただきたいと思っています。
──え、また、あ、あなたは!?
鈴木氏:
PLMの鈴木です。三度目です。
個人的には、一生『アイドルマスター』しますので、皆さん一緒にプロデューサーとして、がんばっていきましょう!(了)
「パ・リーグ×アイマス」コラボの機に「アイマスのP」として活動をはじめた「中の人(部)」こと鈴木氏が、両ファンから暖かく迎え入れられているという。彼の存在こそ、このコラボが成功した証だろう(インタビュー中ではイジってしまってごめんなさい)。
今夏のパ・リーグの熱さは、このコラボの“熱量”が一翼を担っていたのは間違いない。「じつは親和性が高いのでは?」というコンテンツの組み合わせは机上では数あれど、実際に動いた関係各者の行動力があったからこその“パの2017夏”だったといえるだろう。
今回は首都圏の3球場でのみの開催となったが、地方遠征や新たなグッズ展開など、その夢はまだまだ広がっている。今回の成功で弾みをつけて、さらに魅力的に発展することを願うばかりだが、来年も実現するかは、Pの皆さんの後押し次第。
「パ・リーグでやる限りは、必ず前年を超える取り組みをしたい」という上田氏の言葉に期待して、電ファミも皆さんと一緒にパ・リーグ&『アイマス』を応援していく所存だ。
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