今年で20周年を迎える『龍が如く』シリーズ。
その記念となる節目の年にリリースされるのが、『龍が如く3』のリメイクと、その外伝作を合わせた『龍が如く 極3 / 龍が如く3外伝 Dark Ties』だ。
その発売を2月に控え、電ファミでは同作のプロデューサー兼ディレクターを務める堀井亮佑氏に、他ゲームメディアと合同でインタビューさせていただく機会を得た。
『龍が如く 極3 / 龍が如く3外伝 Dark Ties』は、シリーズとしての歴史を踏まえながら『龍が如く3』を新たに描き出すと同時に、本編の敵役だった峯義孝を『外伝 Dark Ties』の主人公に据え、その世界をより深く描こうというタイトルだ。
峯義孝といえばシリーズ中でも屈指の“せつない”敵役。いわゆるITヤクザ風を彷彿とさせるインテリ風のスマートな風貌で、冷静沈着な知性の人……という印象ながら、その実しっかりヤクザものらしい狂暴性も秘めた人物、そして複雑で不器用な“せつなさ”を抱えた、同シリーズの人気キャラクターだ。
そんな峯を、新作ではどのように描こうとしているのか。インタビューでは、彼の兄貴分でどうしようもない「クズ」とも言われる神田強が本作の「ヒロイン」のようなキャラと言われるなど、興味深い話も伺えた。ぜひ楽しんで読んでいただければ幸いである。

執筆/恵那
神田強は『外伝 Dark Ties』の“ヒロイン”みたいな存在。単純であけっぴろげなクズだけど、単純だから複雑な峯に刺激を与えられる
──『外伝 Dark Ties』は峯義孝が主人公となっているため、兄弟分である神田強にもかなりフォーカスされている作品だと感じました。過去作のプレイヤーからすると、「こんなに神田が出てくるの!?」と驚かれるのではないかとも思うのですが、どうしてこんなに出番が多いのでしょうか?
堀井亮佑氏(以下、堀井氏):
峯義孝が主人公である以上、神田がセットでたくさん出てくるのは避けられないんですよね。神田は『外伝 Dark Ties』のヒロインみたいな存在なので。
──あの「神田強」の話ですよね……?
堀井氏:
そうです。神田というキャラクターは、言ってしまうと「深みのないクズ」なんですよ。見えてるだけが全部と言うか、すごく単純であけっぴろげな人間であり、その上でクズなんです。
ですがそういう単純な神田だから、その正反対の場所にいる峯義孝っていう複雑なキャラクターが、いろんな刺激を受けたりするんですよ。今作は「絆ドラマ」で峯と神田の話を描いていますが、その辺りはすごく丁寧に書けたと思っています。
──だから“ヒロイン”なんですね。すごいクズなのに、神田のことをちょっと好きになっちゃいそうだなと思ってたんですが。
堀井氏:
クズである点は別に全く変わらないというか、むしろひどくなってるくらいだと思います(笑)。僕としても可愛く書くつもりはなかったんですが、「ダメな子ほど可愛い」と言ったりするじゃないですか。その意味で、神田ファンも増えるんじゃないかと思ってます。
──クズさゆえに、その点をチャーミングに感じてしまうわけですね。
堀井氏:
神田も峯も、本編では悪役じゃないですか。でも悪役として登場するだけでは、そのキャラクターの断片しか見えないんですよね。密着して普段の日常を覗いてみると、彼らの生活的な面が見えてきます。その意味で、今作はふたりのことを深くまで理解できるのではないかと思っています。
──今作に取り組んでみて、「峯義孝」という人物については改めてどう思われましたか?
堀井氏:
峯っていうのは、コンプレックスの塊みたいな男だと思います。でもそういう部分がすごく人間くさい魅力になっていると思いますし、僕らとしても自分を重ねやすいキャラクターでした。
イケメンだし、身体も強いし、良いポリゴン使ってるし(笑)、何よりお金もある。一見すると満たされてるんだけど、彼自身は自分が空虚だと知ってるんです。人が集まってくるのも自分がお金を持ってるからで、例えばそれは友情とか絆みたいなものではない。
虚無の中で生きている男なんだけど、それでも人を信じてみたいとも願っていて、だからこそ彼は堂島大吾みたいな存在に希望を見出すわけです。それに憧れながらも、同時に「自分はそうなれない」っていう劣等感とかコンプレックスも抱えていて、そういう苦悩こそが彼の魅力なんだと思います。
──これまでの主人公だった桐生一馬や春日一番と比べると、どこか斜に構えたような感じがありますよね。
堀井氏:
そこは意識して変えた部分でもありますね。やっぱ桐生とか春日は何でも助けちゃうんですよ。困ってる人がいたら「どうしたの」ってすぐ言っちゃう。でも峯にはそんなに簡単に言えないんですよね。
彼は自分がヤクザであることにすごく自覚的で、自分が大衆から求められてるような正義の人間じゃないと分かってます。だから「自分みたいなヤクザが堅気の人間に関わる方が迷惑だ」くらいに思っていて、自分から積極的に外の人間と関わろうとはしません。
それでも、どうしても見過ごせないものは彼にもあって、それを峯なりの優しさで表現しようとしたりします。そうした今までの主人公と比べたときの違いは、書いていても面白かったですね。
桐生と峯は「陽と陰」。無償の愛を否定しながら求めてしまうのが、峯の哀しさ
──『極3』本編とも見比べてみると、桐生と峯って、陽と陰みたいな感じにも見えますね。
堀井氏:
ふたりとも結局はヤクザなので、根っこのところでは繋がってもいるとは思うんですけど、芽の出方は違っているんですよね。桐生は素直に前向きだけど、峯はひねくれてしまっているというか。
ふたりとも孤独で、愛や絆みたいなものを求めてるんだけど、峯は「でもそんなものは本当はない」と思ってる。思ってるのに求めてしまうのが、彼の悲哀でもあります。
──その哀しさこそ、峯義孝っていうキャラクターを形作ってるという印象です
堀井氏:
でも一方で、桐生はちゃんとそこを目指してるんですよね。彼はアサガオの子どもたちを愛したいし、自分を真人間だとは思ってないけど、だからこそ真人間になりたいとも思ってる。
桐生にはそうした前向きの葛藤があって、アサガオでも最初はダメなんだけど、ちょっとずつパパっぽくなっていきます。『極3』のアサガオは、そうした桐生の成長みたいなものもしっかり描けるように意識しました。
──そうした主人公としてのあり方の違いは、作劇上でも何か影響があったのでしょうか?
堀井氏:
ダークヒーロー的な動かし方は、意識させられましたね。正義感を示さないキャラクターを主人公として成立させるのって、やっぱり難しいんですよ。人を助けることに対してモチベーションがないわけですからね。
今作では「神田カリスマプロジェクト」っていうものがあって、要するに神田のパシリをやらされるんですが、あれも「神田の言うことを嫌々やらされる」っていう体で、峯を無理やり動かすやり方としても機能していたと思います。
──素直じゃないキャラを“主人公らしく”動かす工夫でもあったんですね。
堀井氏:
彼は正義の味方ではないし、人の幸せなんてどうでもいいと思ってるけど、それはそれとして目の前で苦しんでいる人がいたとしたら、助けてやりたいとも思ってしまう人間らしさもあるんです。そうしたバランスについては、かなり繊細に書いたつもりですね。
──今作は『極3』と『外伝 Dark Ties』が2本セットになっているわけですが、一方では子どもたちをお世話し、一方では神田の世話をすることになりますよね。面白い対比だと思ったのですが、これも狙って取り入れたものなんでしょうか?
堀井氏:
桐生と峯っていう2人の人格の違いが、ゲームシステムにも少し影響するように設計しましたね。たとえば桐生とアサガオの関係は、いわゆる「無私の愛」みたいなものですね。自分のメリットなんて考えずに相手に何かしてあげたい、桐生の親心や優しさがきちんと出るようにしたいとは思っていました。
神田プロジェクトの方は逆に、打算的なものですね。そもそも峯が神田にパシられてるわけですし、ミッションこなすことによって評判が上がるとかお金がもらえるとか、そういう互恵的なメリットありきの関係として設計していますね。
──ふたりの違いで言うと、『極3』と『外伝 Dark Ties』にはどちらもカラオケみたいなプレイスポットがありますが、ここも桐生と峯で大きく違いが出たりってしましたか?
堀井氏:
それでいうと、峯のキャラを崩壊させるバランスは難しかったですね。峯のキャラを壊さない範囲で「これぐらいはっちゃけてくれるんだ」というのはしっかり示したかったんですよ。
なんでもやってくれる人ではないけど、みんなが驚くような反応をする場面もあるというか。逆に桐生はもう全部ノリノリなんで、もう何でも良かったんですけど(笑)。
──峯の場合だと、呼んだら神田が来るっていうのは面白かったですね。いや、来るんかい(笑)という
堀井氏:
まあ峯が呼べるのって神田くらいですよ(笑)。キャバ嬢のお姉ちゃんとも付き合いなさそうだし。それに神田が来てくれたらファンも嬉しいかなと思って、お楽しみ要素的に入れた感じでもありますね。
『極3』でのキャスト変更は、「オリジナル版の思い出に勝つ」ため。物語を丁寧にひもとくためのシーン追加も多数
──今作は一部のキャストさんが変更されただけでなく、声が新録されて、以前とは少し違った演技になっている箇所も多いですよね。新録個所を選んだ基準などはあったんでしょうか?
堀井氏:
『龍が如く』はシリーズ全体として20年やってきたわけで、『龍が如く3』の後にも17年分の積み重ねがあります。キャラやシーンの意味付けが変わったところもありますから、その積み重ねを踏まえた上で、違和感のある個所は撮り直していますね。
ただ、今作では既存シーンの撮り直しよりも、全く新しいシーンとして追加したものの方が圧倒的に多いです。元の『龍が如く3』って展開が結構スピーディーで、もうちょっと説明が欲しい個所もあったと思います。力也と桐生の関係とか、もう少し繊細に描いていてもいいよなと。
──力也が桐生に惚れた経緯を、ちゃんと丁寧に描いたりしていると。
堀井氏:
そうです。『龍が如く3』のストーリーをより深く面白くするためのシーン追加をたくさんやっているというわけです。追加によって話の流れが変わるところも出てくるので、そのあたりも練り直してますね。
──もともと高橋ジョージさんが演じられていた浜崎に対して、伊達が「AV男優みてえだな」みたいに言うセリフがあったと思うんですが、あれがそのまま残っているのかは少し気になります。香川照之さんになったことで「歌舞伎役者みてえだな」になってたりとか(笑)
堀井氏:
結構いろんな方が気にされるんですよね。そこは実際にプレイして確かめてみてほしいですね(笑)
──キャスティングが変更されたキャラについては、どういった意図があったのでしょうか?
堀井氏:
いろいろありますが、原作とは違う体験の作品にしたかったと言うところが大きいですね。『龍が如く3』と同じキャストさんで同じ演技を、というのでは体験としては変わりませんし、同じ体験であれば新しい作品をやってもらう意味もありません。
『極3』ができたからと言って、『龍が如く3』がなくなるわけではないので、“別の作品”として遊んでもらいたいと考えています。力也や浜崎など、今回キャスト変更しているキャラは登場機会も多いですから、見慣れたシーンであっても新しい印象で見てもらえるのではないかと思います。
──そうした大きな変化を取り入れるのには、かなり大胆な勇気が必要だったのではとも思います。
堀井氏:
当然、キャスト変更に対する批判があることも覚悟していました。ただそれでも、作品をよりフレッシュなものにするためには、こうした影響範囲の大きな変更が必要だったと判断したんです。
最終的には、私たちが純粋に「この人が演じる姿を見てみたい」と心から思える方々にお声掛けし、出演をお願いしています。
──演じ方について役者さんに指示されたりなども?
堀井氏:
カラオケとかのアクティビティでお願いしたりとかはしましたね。ハイテンションで高い声になってしまうと逆につまらなく感じてしまうこともありますから、低い声で「プリクラ撮りますよ~」みたいに言っていただいたり(笑)。
歌についてはノリノリでやっていただきましたね。まさか歌ってくれると思わなかった方にも参加していただくこともできたりして、僕らもすごく楽しく収録できました。
──『龍が如く3』から『極3』になって、一番大きな変化を感じた役者さんはどなたでしょう?
堀井氏:
具体的なキャストについて言えば、例えば先ほども話に上がった浜崎役の香川照之さん。オリジナル版の高橋ジョージさんの演技も素晴らしかったと思いますが、香川さんはまた違ったアプローチで、浜崎特有の「嫌らしさ」や「性格の悪い凄み」を抜群の表現力で演じてくださいました。
力也役の笠松将さんの演技も、すごく現代的なリアリティを感じました。藤原竜也さんが演じたオリジナルの力也は「いかにも子分」っぽい感じの愛嬌がありましたが、笠松さんの力也には、「どこかにいそうな、燻っている若者」という等身大の質感があり、これもこれで素敵なやつになったなと思っています。
今回のリメイクでは桐生と力也の関係性を深く描いていますが、彼らのやり取りもより「生っぽく」なったと感じていますね。
──今作でシリーズのリメイクも3作目になりましたが、手ごたえとして掴んだものはありましたか?
堀井氏:
今作について言えば、「リメイク」という言葉がもったいないくらい、新しくフレッシュなものができたなと満足しています。『極』がどうというより、「僕たちなら『龍が如く3』をこう作る」という観点で、新しく作りなおしてきたつもりです。
──単純なリテイクではなく、新しさを含んだリメイクに、というのは多くの作品が目指すところだと思いますが、最も困難だったことは何でしょうか?
堀井氏:
一番センシティブで難しいのは「過去の要素をどこまで引き継ぐか」という境界線だと思います。そこが曖昧だと、中途半端なリメイクになってしまいますから。
過去作を大事にしたいのはもちろんなのですが、一方で「過去作に頼りたくない」とも考えていました。ユーザーの皆さんの思い出の中にある『龍が如く3』は、時間が経つほど美化されていきますよね。でも実際、今の視点で冷静に見れば、粗い部分も当然あります。
──確かに、思い出に勝つ、というのは難しいことですよね。
堀井氏:
作り手としては、旧作と全く同じキャスト、同じストーリー、同じシステムにするのが一番「安全」で楽な道ですし、批判も出にくいと思います。
ですが、それではリメイクを作る意味がありません。作り手は「美化された思い出」と戦い、それを超えるものを作る勇気を持たなければいけないのだと思っています。
2009年“ジャスト”を再現するために当時の雑誌を徹底リサーチ。ガラケーなど、当時の文化を感じてもらうゲームシステムも
──『龍が如く』シリーズは、その作品の時代を反映して作られていると思いますが、リメイクである今作はオリジナル版(2009年)15年以上の時間が経過しています。そのずれを埋めるための工夫などは行いましたか?
堀井氏:
オリジナル版の舞台だった2009年の世界観に、作り手の僕たちが正確に乗っかる必要があると思っていました。だから最初は、当時のファッション雑誌などを大量に買い集めることから始めました。若いころの若槻千夏さんや安西ひろこさんが活躍していた時代の空気感や、当時の人たちのマインドを徹底的に学習しようとしたんです。
ただ2009年“ジャスト”に乗っかるのは、結構難しかったです。ネットで見つかるような情報はどうしてもピンポイントではなくズレがありますから。例えば西野カナさんとかもあのあたりの時代でブレイクした方ですが、全盛期は2009年ではなくもう少し先です。
──そこまでこだわって調査されていたんですね。
堀井氏:
もちろん限界はあるんですけど、ゲーム的にもそうした時代感をしっかり感じて欲しかったので、当時の文化をゲーム的なシステムに組みこむような工夫も考えましたね。
例を挙げると「ガラケー」ですね。赤外線通信みたいなものを使ったり、待ち受け画面も変更できて、それを和田アキ子さんに設定すると強くなるとか(笑)。遊びのなかで時代を感じてもらえる工夫を盛り込みました。
──ゲームデザインについてもリメイクで調整されたのでしょうか?
堀井氏:
そこは現代的な「遊びやすさ」を優先して作っていますね。システム面は完全新作である『外伝 Dark Ties』と同じレベルまで洗練させています。過去の仕様に逆行させるようなことは一切していません。そこを変えないなら、リメイクを遊んでもらう必要がなくなってしまうわけですから。
特に大きく変えたのはバトルです。オリジナルの『龍が如く3』のバトルはシリーズでも特に難しくて、実は僕ら自身もクリアするには苦労しました(笑)。
オリジナル版当時と比べると、使っているゲームエンジンも新しくなりましたし、僕ら自身もアクション作品の経験を積んでいます。ですから過去作にこだわらず、今の僕らが「最高に面白い」と自信を持っておすすめできるアクションに刷新していますので、その点はぜひ安心して楽しんでいただきたいですね。
──アクションで言うと、今回は琉球武器を使った戦闘も大きな新要素でしたよね。
堀井氏:
そこは非常に悩んだポイントでした。琉球スタイルは8種類の武器を使って攻撃ができるのですが、最初はそれぞれの武器を個別に装備するシステムも検討しました。ただ、それだと操作が煩瑣になって、めんどうくさくなってしまったんですよ(笑)。
なので最終的には、「ボタン連打で次々と武器を繰り出し、爽快に戦える体験」をベースに据えることにしました。武器も知名度よりも「アクションとしての個性」を重視して選んでいて、8つの武器をコンボの中でどう切り替えていけば、操作がごちゃつかずに気持ちよく動かせるかを意識しています。
──今作ではゲーム内のゲームとして、ゲームギアなどの過去の名作タイトルが多数実装されていましたが、堀井さんの印象に残っているものなどはありますか?
堀井氏:
それでいうと、今回のラインナップでは『救急車』を特におすすめしたいです。今の感覚からすると、タイトルからして「本当に売る気があるのか?」と思ってしまうような潔さがありますが(笑)、中身がとにかく凄いんです。
セガの昔のアーケードで、タイトル通り救急車を運転するゲームなんですが、運転に失敗すると乗っている患者の命に関わるという、現代のコンプライアンス基準ではちょっと二の足を踏むような内容で、僕自身とても気に入っています。
──なかなかスリリングな(笑)。次回以降で「これをやりたい」といったタイトルなどもあるのでしょうか?
堀井氏:
今後については何とも言えないですね。毎回、次にどのタイトルを収録するかはチーム内で相談して決めていますが、実現には技術的な課題やライセンスの問題が大きく関わってきます。それらをクリアした上で、今後も面白い試みを続けていきたいですね。
なので、ひとまずはぜひ『救急車』をプレイしてみてください。本当に凄まじい熱量を持ったゲームですし、クリエイターとして「いつかこんな熱い作品を作ってみたい」と心から思わされる作品です。
「裁縫ミニゲーム」はセガの名作レースゲーム『アウトラン』に着想。裁縫とレースゲームは同じ仕組み……?
──同じく新要素について伺いたいのですが、今回はアサガオでいろいろな「家事」がミニゲームになっていますよね。その中の「裁縫ミニゲーム」が、実はセガの名作レースゲーム『アウトラン』に着想を得ていると伺ったのですが、ぜひ開発の経緯を伺えるでしょうか。
堀井氏:
実は、裁縫ミニゲームの企画はかなりの難産でした。「裁縫」という題材は珍しいものなので絶対にミニゲームとして盛り込みたいと思っていたのですが、若手メンバーにアイデアを出させても「型抜き」や「あやとり」といった、いまひとつ盛り上がりに欠ける案しか出てこなくて(笑)。
僕も必死に考えていたある時、ミシンの動きに注目したんです。「固定された針に対して、布(地平)が手前に近づいてくる」という構造……これってどこかで見たことあるな、と。
そこで「これ『アウトラン』じゃないか!」と気づいたんです。
昔のレースゲームって、画面の中で車体が固定されて、背景の方だけを動かして走っているように見せる、っていう仕組みで作られているんですけど、これが「ミシンと同じだ!」と気づいたんです。思いついたときには自分でも大興奮して「これは天才的な発想かもしれない」と思いましたね(笑)。
──SNSでは、裁縫に打ち込む桐生の真剣な表情が「シュールで面白い」とバズっていました。あのカメラアングルも狙い通りだったのでしょうか?
堀井氏:
そこは絶対に譲れないポイントでした。企画当初から「地平線の奥に桐生の顔を置くこと」と「手元をしっかり映すこと」を必須条件にしていたんです。
デザイナーからは「どう考えても姿勢がおかしい」「物理的に成り立たない」と文句を言われたんですけど、そこは僕がダダをこねて、強引に押し通しました(笑)。結果として、あの真剣な表情が多くの反響を呼んだので、こだわって本当に良かったです。
ミニゲームは全部で8ステージあり、最後は「龍の刺繍」を打つという超高難易度のステージが待っています。かなり難しいですが、ぜひ挑戦してみてください。
──アサガオの運営については、リメイクで大きく変わったポイントですよね。これは開発側としては何かしらの意図があったのでしょうか?
堀井氏:
アサガオの要素は、企画の最初期から「今回最も大事にすべき要素」だと決めていました。オリジナル版の『龍が如く3』でもアサガオは登場していましたが、当時は困りごとを解決して終わる「イベント」の色が強くて、家族としての描き方が少し浅いと感じていたんです。
シリーズを通して見ると、未来の桐生はこの先孤独な道を歩むことになりますよね。だからこそ、彼が若いころの『龍が如く3』の時代でしか描けない、桐生とアサガオの子どもたちっていう家族の絆を今作で描かないといけないと考えていました。
──全体的にはシミュレーションっぽい形式になっていたと思うのですが、それも家族の絆を描くために?
堀井氏:
「父親としての桐生一馬」を正しく描きたかったからですね。僕も人の親ですが、子育ての本質は、たまに良いことを言って父親面をすることではないと思います。毎日の料理、掃除、裁縫……。そういった地道な日常の積み重ねがあって初めて、子供たちが心を開き、悩みを相談してくれるようになる。それが健全な親子関係ではないでしょうか。
僕自身が料理・裁縫・掃除みたいな家事は苦手で、だからそれをあえてゲームにし、それらをこなすことで「パパとしてのランク」が上がる仕組みにしました。子供のために面倒なことを引き受けるという「子育ての基本」をゲームデザインに落とし込もうとしたつもりです。
そうすることで、次第に桐生が信頼されていって、子供たちが学校の悩みや恋バナを聞かせてくれたり……といった絆が生まれていくという過程を、手応えのある形に仕上げられたと自負しています。
──レディースのチームを率いるっていうのもミニゲームになっていましたが、あちらはいかがでしょうか?
堀井氏:
こちらは半分「ノリ」で入れました(笑)。『7外伝』ではチームバトルが好評だったので、今作でもその楽しさを継承したいと考えたのがひとつ。もうひとつは、純粋に僕がヤンキー文化が大好きだったからです。いつかやりたいなと思っていたんですよ。
例えば『特攻の拓』のような、少し古くて「ダサかっこいい」世界観は、2009年当時の少し若い桐生なら違和感なくアジャストできます。沖縄と東京を股にかける物語のスケール感にも合致しますし、僕たちの「やりたいこと」を詰め込んだ形ですね。
峯義孝には「もっと素直になれよ」と言いたい
──今回、『外伝 Dark Ties』で幼少期から最期まで、峯の人生を深く描ききりました。少し感傷的な質問にはなってしまうのですが、もし今、彼に言葉をかけるとしたらどんな言葉を贈りますか?
堀井氏:
非常に難しい質問ですが……一言かけるとしたら、「もっと素直になれよ」という言葉に尽きますね。
峯は、どうしても自分に素直になれない男なんです。例えば春日一番なら、何か間違ったことをしてしまっても、悪いと思えばすぐに「ごめん!」と素直に謝れます。桐生一馬なら、大切な相手に「好きだ!」と真っ直ぐに伝えることができます。
しかし峯は、自分の過ちも、誰かを慕う気持ちも、すんなりと表に出すことができません。だからもし彼がもっと単純に、もっと楽に生きられる性格だったなら、別の道もあったのではないかと思います。
──なるほど……でも、そういう不器用さこそが峯義孝という男のアイデンティティでもありますよね。
堀井氏:
そうなんですよね。それができないのが峯なんです。「素直になれば、もっと早く解決できたのに」──そう頭では分かっていても、どうしてもできない。そんな男たちの葛藤こそが『龍が如く』というドラマの本質だと思っています。
──そう聞くと、最期の瞬間だけは、峯もようやく少しだけ素直になれたのかもしれないと思いますね。
堀井氏:
そうですね。損得勘定抜きで自分を慕ってくれる相手の存在に、あの一瞬だけは希望を見出せたのではないでしょうか。そう思うと、改めて切ない男ですし……可哀想な奴なんですよね。
──最後の質問ですが、ゲームの発売を待たれているファンの方々に向けて、ひとことメッセージをいただけるでしょうか。
堀井氏:
『極3』はリメイク作ではありますが、僕たちとしては完全新作を作るつもりで挑んだタイトルです。
単なるトレースではなく、フレッシュな体験ができるように挑戦してきたので、かつて『龍が如く3』をプレイした思い出がある方も、ぜひ新しい『極3』を楽しんでいただけると嬉しいです。
『外伝 Dark Ties』については、峯義孝という普段とはちょっと毛色の変わった特殊な主人公で、『龍が如く』シリーズお決まりの展開とは違った、いろんな解決方法だったり、違った感情だったりを描いた作品になっています。もちろんこちらも自信作なので、ぜひ合わせてプレイしていただければと思います。
このふたつは、シリーズとして20年という長い期間やらせていただいたことの記念作品でもあります。ボリュームも2本分で、開発としてはスーパー大変でしたが、感謝の気持ちを込めて作っています。ぜひ、遊んで楽しんでいただければ嬉しいです!
『龍が如く』はシリーズ開始から20年を経たことで、これまで語られてきた物語の意味も少しずつ変わってきている。積み重ねられた歴史の中で、物語やキャラクターにより「深み」が生まれているのだ。
キャストの変更や、同じセリフであっても新たな演技で撮り直されたシーン、新たに追加されたシーンなどは、オリジナルの『龍が如く3』を踏まえつつ、その世界をさらに深く味わってもらうための取組みだろう。
「もっと素直になれよ」──最後に堀井氏が峯に送った言葉は、彼というキャラクターをまっすぐに捉えたものであり、同時に『龍が如く』シリーズに生きる多くの男たちへも向けられたものであるように感じられた。
峯義孝というキャラクターの物語は、結末が既に決まっている。だが、そこへ至るまでの彼がどのような道をたどったのかをみることで、その複雑で割り切れないあり方に、さらに深い魅力を見出せそうだ。















