「リポビタンD」のファイト!一発シリーズをはじめ、『ウルトラマンパワード』のウルトラマンパワード/ケンイチ・カイ隊員や『忍者戦隊カクレンジャー』のニンジャブラック/ジライヤ役などでお馴染みのケイン・コスギ氏が、突如Twitchにてゲーム配信を開始した。
初回配信は2018年3月8日。視聴者は瞬く間に16000人超えを記録した。この数字は驚異的なものだ。
というのもTwitchは英語圏のユーザーが多く、言語分布の問題でどうしても日本語による配信の視聴者数は伸びにくいのだが、同日、ケイン氏の配信はTwitch上でもっとも視聴者の多いものとなった。
また、Twitchでは視聴者の多い配信がトップページの左上に表示されるが、そこに日本語の配信が入ったこともケイン氏が成し遂げた快挙である。
配信のページを開いてみると、プレイしているタイトルは『League of Legends』(以下、『LoL』)とわかる。『LoL』は、月間アクティブユーザー数が1億人を突破(2016年発表)しているPC向けの大人気MOBAタイトルで、アジアオリンピック評議会主催による多種目スポーツイベント“第18回アジア競技大会”の採用タイトルともなっている。
ケイン氏はこの『LoL』を黙々とプレイする映像を配信していたのだ。
これだけでも充分に興味を惹かれる内容なのだが、初回以降も同配信には、時折「PERFECT BODY!」というSEが響き渡ったり、突然ケイン氏が筋トレを始めたり……というケイン氏ならではのユニークな遊び心が詰まっており、視聴者どうしのチャットも相まってカオスな配信となっていた。
だがケイン氏の配信でもっとも興味深かったのは、氏の周囲に対する心遣いだ。
通常、対人ゲームは殺伐としやすいが、ケイン氏の配信は非常に穏やかで、対戦相手に対するリスペクト──つまりスポーツマンシップを感じさせた。言いかたを変えれば、ケイン氏は子どもから大人まで安心して観ることができる配信を行っていたのだ。
世界を股にかけて活躍しているケイン氏が、老若男女が安心して観られるゲームの配信を趣味で行っている──これは凄いことなのではないだろうか。
そこで電ファミニコゲーマーは、ケイン氏にインタビュー取材を打診。
ご快諾をいただき、配信を始めたきっかけやゲーム遍歴はもちろんのこと、スポーツマンシップを重んじるケイン氏のプレイスタイルやポリシー、そしてeスポーツに対する考えかたなどについて伺った。
聞き手/野口智弘、クリモトコウダイ
文/クリモトコウダイ
写真/佐々木秀二
タイのロケ中に『CoD』をプレイするもラグに悩まされる
──本日はアクションスターであるケインさんの、ゲーマー的な側面に迫っていきたいのですが、そもそもケインさんってお忙しい方ですよね。ゲームの時間はどうやって確保しているんでしょうか。
ケイン・コスギ氏(以下、ケイン氏):
映画やドラマの撮影って、待っている時間が多いですよね。たまに1日ずっと待ったあげく出番がないときもあります。そういう待ち時間にゲームをするんです。
3年間やったTVドラマ『はぐれ刑事』のときは、クルマにプレイステーションをセッティングして、ずっと遊んでいました(笑)。最近は携帯ゲーム機が便利なので、移動中も含め、外に居るときはずっと携帯ゲームで遊んでいますね。
──著名人でゲーム好きな方でいえば、とくに加山雄三さんを筆頭に、据え置き機をそういうロケ先に持って行っていると伺ったことがありますが……「あるある」なんですかね?(笑)。
ケイン氏:
ゲームが好きな俳優は多いですね。撮影する地域や出演者によって周りのみんなのゲームの好みが変わるので、僕の場合は持っていくゲーム機やソフトを変えています。
中国のときは『HALO』をやって、タイのときは『コール オブ デューティ』をやって、日本のときは『モンスターハンター』をするみたいな(笑)。
ただ海外の場合は、ネット回線が不安定なことが多くて……タイで『コール オブ デューティ』をやったときは、もうラグがヤバかったですね。
──えっと……まずはFPSも遊んでいるんですね!
ケイン氏:
僕はあまり漢字が得意ではないので、RPGのようなゲームではなく、アクションゲームや対戦系のゲームでよく遊ぶんですよ。
──FPSはいまも遊んでたりするのでしょうか?
ケイン氏:
『フォートナイト』を始めましたが、『HALO』や『コール オブ デューティ』は最近触っていませんね。ずっと『LoL』をやっています(笑)。
目の前に壁を作り出してロケラン弾を防ぐ!──『フォートナイト バトルロイヤル』は銃を撃ち合うだけにあらず。100人による“高速建築バトル“を解説
あと、ゲームの時間を確保するという意味では、僕にとってはゲームを遊ぶことも仕事なんですよ。
ケイン氏のアクションはゲームキャラの超人的な動きを参考にしていた
──実は「ケインさんの人生にゲームはどのような影響を与えているのか」という質問を後でしようと思っていたんですが、ゲームが仕事になるという事は、ゲームがケインさんに影響を与えているということですよね。
ケイン氏:
そうですね。ゲームで遊んでいると、映画のアクションのためになるというか、いろいろなヒントが得られるんですよ。とくにゲームは人間ができない動きをするじゃないですか。
たとえば『ストリートファイター』のケンの竜巻旋風脚とかは、人間だとできない。
でもそれに近い技だったらできそうだから、トレーニングのときに練習してみるんですよ(笑)。実際、映画のアクションシーンで活きた、ゲームから受けた恩恵は大きいですね。
というのも、世の中のアクションはどんどんどんどん進化していて、いままでのトラディショナルな空手や武道だと、みんなもう見飽きているじゃないですか。だから、それ以上のものを出さないといけないわけですよ。
──それがゲームだと、現実の人間じゃ再現できない超人的な動きをするから参考になる、と。
ケイン氏:
そうです。ゲームには本当にいいコンビネーションが多いんですよ。『鉄拳』の三段蹴りのようなやつは、かなり自分に採り入れました。
あと、具体的な時期までは覚えていないんですが、あるときからブレイクダンスを採り入れたアクションがゲームに増えてきたと思うんですよ。
そのアイデアから自分もブレイクダンスを始めたりもしましたね。ちなみにそれで脱臼しましたけど(笑)。
一同:
(笑)。
ケイン氏:
ゲームはそういうアクションのトレンドに触れるきっかけにもなるんです。やはり格闘技だけではなく、ダンスやバレエなど、いろいろなジャンルの動きを見て、採り入れることが大切なので。最近だと体操系のアクションが多いですね。
──ゲームや映画をそういう視点で観ると面白いかもしれませんね。
ケイン氏:
ゲーム──とくに格闘ゲームは本当に勉強になるんですよ。
「これ、ワイヤーなしでできるかな?」というようなことをしょっちゅう考えています(笑)。それで実際にやってみると、どんどんできるようになるんです。
──いや、それができるのはケインさんぐらいですよ(笑)。
幼少期はアタリと任天堂、来日後はゲームセンターで格ゲーにのめり込む
──続いてケインさんのゲーム遍歴をお伺いさせてください。昔からゲームはお好きだったんですか?
ケイン氏:
子どものころからゲームが大好きです。自分はアメリカ出身なんですが、アタリやニンテンドーのゲーム機でよく遊んでいましたね。
でもアメリカと日本では売っているゲームが違うので、日本に行ったときに日本のゲームを買って、アメリカに持って帰って遊ぶというような幼少期を過ごしていました。
本体もよく日本で買いました。PCエンジンやネオジオは日本に行ったときに買って帰りましたね。
──子どものときから格闘技を習われていたとのことだったので、そこまでのゲーム体験があったとは、とても意外です。
ケイン氏:
旅行に行くときもつねにゲームボーイを持ち歩いて、弟とずっとホテルの中でゲームをしていました。兄弟はスポーツかゲームしかやらないです(笑)。
──(笑)。子どものころにプレイしたゲームで、何か思い出深いタイトルはありますか?
ケイン氏:
アメリカにいるころで熱心に遊んだのは、定番の『テトリス』や『パックマン』、それからSNES(スーパーファミコン)の出始めのころの『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』(アメリカでは1992年発売)や『スーパーマリオワールド』(アメリカでは1991年発売)……あとはアメフトなどのスポーツゲームですかね。
日本に住み始めてからは、ひとり暮らしでまったく友達がいなかったので、ずっとスーファミやセガサターンで遊んでいました(笑)。
そのころ、とくにハマっていたのが『ストリートファイターII』(以下、『ストII』)で、そこからファイティングゲームを頻繁にやるようになったんです。ちなみにキャラは、リュウかケンをよく使っていましたね。
──1990年代初めの『ストII』ブームに触れていたとは驚きです。実際にゲームセンターに行って対戦もしていたんでしょうか?
ケイン氏:
そうですね。『ストII』のほかにも、時代的には少し後になりますが『バーチャファイター』や『鉄拳』でも対戦をしていました。
じつは日本に来てから、初めてゲームセンターというものを知って……それはもう衝撃的でしたね。だって対戦できるんですよ?
アメリカにもアーケードはありましたが、僕の周りには日本のゲームセンターのような文化はありませんでしたから。
──いわゆるゲーセンは、アジア独特の文化だと思います。ケインさんはご自身でも負けず嫌いと仰っていますが、ゲーセンでは、もう凄かったんじゃないですか?
ケイン氏:
凄かったですね。負けたときはこう……チラっと筐体の向こう側を見るんです(笑)。
一同:
(笑)。
ケイン氏:
それでまた100円、また100円と入れていって、勝つまでやめない。「絶対勝つ!」みたいな(笑)。そんな日々を過ごしていました。
──それって相手の人は絶対にドキってしていますよ(笑)。その時代ですと、そろそろ『筋肉番付』のゲームが出てきますよね。
ケイン氏:
もちろんやっていましたよ。東京ゲームショウで開催された全国大会にもゲストとして、2年連続で出場したり。まあ来場者に敵わなかったですけどね(笑)。
でも『筋肉番付』(シリーズ1作目は1999年発売)に自分が登場しているのは本当に嬉しかったですね。
その前に『立体忍者活劇 天誅』(1998年発売)でゲームのモーションキャプチャーは体験していましたけど、自分がキャラクターとして出るのは『筋肉番付』が初めてだったので。だから『筋肉番付』が出たころは本当に嬉しくて、いつも家で遊んでいましたね。
2001年発売のPlayStation 2ソフト『筋肉番付 〜マッスルウォーズ21〜 』ゲーム画面
(画像は筋肉番付 〜マッスルウォーズ21〜 | ソフトウェアカタログ | プレイステーション® オフィシャルサイトより)
そこから先は『NINJA GAIDEN』(2004年発売)にハマりました。もともと『忍者龍剣伝』が好きだったので、新しいほうの『NINJA GAIDEN』がやりたくなったんですよ。
ただ『NINJA GAIDEN 2』(2008年発売)が結構難しくて……100%クリアするにはかなり苦労しました(笑)。その『NINJA GAIDEN』がきっかけで『デッド オア アライブ』シリーズもやるようになったんですよ。
──『DOA』もですか! そして先ほど話に出たFPSにハマる、と。
ケイン氏:
『コール オブ デューティモダン・ウォーフェア2』から毎年新しく買って、『コール オブ デューティ ブラックオプス』まではシリーズを全部買っていました。
とくに始めてから2年目か3年目はかなり本格的にトレーニングをしていましたね。チームに入って、毎日手榴弾の練習とか(笑)。
──そのチームって一般の方が作られたチームなんですか?
ケイン氏:
そうですね。リアルで会ったこともありません。
──ではチームメイトはケインさんと知らずに?
ケイン氏:
そうですね。ボイスチャットで声を高くしたり低くしたりできるじゃないですか。それで結構変えて(笑)。
──なるほど(笑)。因みにそれらはコンソール版ですか?
ケイン氏:
すべてプレイステーションでしたね。
ケイン氏が語る『LoL』の魅力。なぜモチベーション高くプレイできるのか
──となると、ずっとコンソールでゲームをプレイされていたということですよね。なぜPCゲームの『LoL』に出会ったんでしょうか。
ケイン氏:
僕はそれまでPCゲームをやったことがなかったんですが、プレイステーション版の『コール オブ デューティ』をマウスとキーボードで操作している人が周りに結構多かったので、「それらで操作するゲームも面白そうだな」と前から思っていまして。
そんなある日、友達から「『LoL』ってゲームをやっているんですが、一緒にやりましょう」と誘われたんですよ。以来、この1年半はずっと『LoL』をやっていますね。やっぱりもっと上手くなりたいし、ランクを上げたいので。
──それはかなりの熱中ぶりですね。
ケイン氏:
『LoL』の面白いところは、絶対に飽きないところです。ゴルフやバスケに似ているというか、同じマップでも、絶対に同じ試合はないですよね。
やっぱりいろいろなチャンピオン(プレイヤーキャラクター)がいますし、いろいろな状況があって、それらが遊ぶたびに変わるから面白いんですよ。
1年、2年プレイしても、まだまだ研究しないといけないことや、練習しないといけないことが、すごくいっぱいあるんです。それが難しくもあり、面白くもあるので、いまはプロの試合を観たり、動画や攻略系のサイトを観たりして研究しています。
──完全に一般的なプレイヤーですね。ゲームに慣れる前の、本当に最初のころはどうしていたんでしょうか? そこはご友人がフォローを?
ケイン氏:
最初は一緒にやってもらいました。ビックリしましたね。ゲームを始めて2週間ぐらいでランク戦がやりたくなって、何も知らずに突撃しちゃったんですが、そしたらもう……凄いショックなことを言われました(笑)。
『コール オブ デューティ』のときも結構ショックなことがありましたけど、「まさかここまで言われるのか……」と。まあでも、それは皆さん誰でも絶対に経験することだと思います(笑)。
── 多くの人が通る道ですよね(笑)。
ケイン氏:
もしかしたらいまは、昔よりは酷くはないかもしれませんけどね(笑)。まあでも、本当に楽しいゲームなので。やっぱり楽しくやるのがいちばんですね。
──プレイをしていて、ゲームのモチベーションが下がることはないのでしょうか。
ケイン氏:
モチベーションは下がりませんね。でも負け続けると悔しいので、落ち込みはしますよ(笑)。
あとモチベーションという意味では、ランクの概念が面白いですよね。ランクがあることによって、自分がいま世界でどれぐらいの強さなのかがわかるじゃないですか。
さらに、上を目指すときにも目標を作りやすい。もっともっと上手くなりたいという気持ちと、負けず嫌いの性格が相まって、もっともっと高みを目指したいと思うんですよ。
──ランクシステムと負けず嫌いな性格がかみ合ったわけですね。