松野氏:
(『FFT』は)当時の我々の持てる力を尽くした、ある種の最高傑作だという自負もありました。
『ファイナルファンタジータクティクス』(以下、『FFT』)。
それは、『ファイナルファンタジー』でありながらも、異質な存在感を持ったタイトルだった。シミュレーションとしての完成度、人間同士の階級闘争を描いたストーリー、キャラクターたちのアツい言い回しと、心揺さぶるセリフの数々……「外伝」という立ち位置でありながら、ナンバリング並の根強い人気を誇っている。
そんな『FFT』が、『ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリース クロニクルズ』という「決定版」として発売されることが、先日発表された。
その機会に、なんと『FFT』のオリジナル開発メンバーでありつつ、今作にも携わっている松野泰己氏(脚本、加筆修正及び監修)、前廣和豊氏(ディレクター)、皆川裕史氏(アートディレクター)、そして今作のプロデューサーを務める松澤祥一氏にお話をうかがうことができた。
そもそも、なぜ『FFT』の決定版を作ることになったのか?
具体的に、なにをもって「決定版」としたのか?
「クラシック」と「エンハンスド」というふたつのバージョンを持った今作の開発経緯をお聞きししつつ、同時にオリジナル版『FFT』開発当時の秘話もたっぷりとお聞きしている。
『タクティクスオウガ』から、『FFT』が作られた理由。
シミュレーションRPGをより広く売るために、『FFT』は何をしたのか。
グラフィック、ストーリー、バトルシステム……オルランドゥ強すぎ問題、そしてみんなが気になっているであろう、「アレ」が盗めるかどうかについて。開発当時から、決定版となった本作まで、「『FFT』の気になること」を、これでもかと聞いてみました。
そして、実は『FFT』は、当時のハードの制約と戦いながらも完成した、血と涙の結晶だったのだ───と、まさに「後世から歴史を紐解く」ようなインタビューとなりました。ぜひ、最後までご覧ください。

「シミュレーションRPGを売る」ための、『FFT』の挑戦
──『FFT』は、1997年に発売されたタイトルですが、いまもファンの心をつかみ続けているタイトルだと思うんです。何年経っても変わらない「普遍性」を持った作品だと思うのですが、制作側として『FFT』の魅力をどのように捉えられているのでしょうか?
皆川裕史氏:(以下、皆川氏)
まず「28年前」と聞いただけで、結構ゾワゾワっとしますね(笑)。
松野泰己氏:(以下、松野氏)
最初に『FFT』のお話をいただいたのが、1995年の暮れだったので、実際にはだいたい30年くらい前になります。
企画当初は異なるスタイルのゲームでしたが、最終的にマス目+ターン制のタクティカルRPGになりました。新しいスタイルのゲームを作るよりも、私たちに実績のあった『タクティクスオウガ』【※】タイプにして欲しいというオーダーがあり、まずそこをベースにしました。
話は更に過去に戻りますが、私にとって『伝説のオウガバトル』や『タクティクスオウガ』はよくも悪くもプロダクトアウトな──つまり、「作りたいものを作った」という、実に尖ったタイトルでした。
当時のクエスト社【※】はほぼ無名のメーカーでしたので、「なんとか最低販売本数をクリアしつつ、ゲーム業界に風穴を開けて社名を憶えてもらおう」といった野心のようなものがありました。
また、『伝説のオウガバトル』と『タクティクスオウガ』はシリーズではあるものの、ゲームシステム的にはまったくの別物です。これはシステムを踏襲した続編ものを作っていたのでは先細りしてしまうという危機感が強くあったためです。『オウガシリーズ』は常に新しいものでなければならないというコンセプト、いえ、使命を持ったプロジェクトでした。逆を言えば新しくなければオウガを作る意味はないと考えています。
※「タクティクスオウガ」
1995年にクエストから発売された、スーパーファミコン用RPG。松野氏がディレクターを務めている。独自のグラフィックや衝撃的なルート分岐の要素を含め、シミュレーションRPGとして、いまもなお語り継がれる作品。『FFT』のベースとなっている部分も多い。
※「クエスト」
1988年設立のゲームメーカー。2002年、ゲームソフト開発事業をスクウェア(当時)へ売却。スクウェア以前に松野氏や皆川氏が在籍しており、『伝説のオウガバトル』や『タクティクスオウガ』などを開発した。


松野氏:
さて、『FFT』ですが、まずその「とっかかり」から違うんです。
当時は「シミュレーションRPG」と呼ばれているものが、どんなタイトルでも、売れて最大50万本程度でした。『ドラクエ』や『FF』が300万本も売っている中、シミュレーションRPGは「50万本しか売れない市場」とも言えます。
そんな中、「シミュレーションRPGでも売り上げ100万本を目指したい!」と、当時のプロデューサーである坂口(博信)さん【※】がおっしゃっていて。我々に課せられたのはプロダクトアウトではなく、マーケットイン……つまりは「売れるゲーム」でした。
そのため、『FFT』は「売れるための要素」を如何に入れていくかが開発のテーマになりました。『FFT』と『タクティクスオウガ』は、似ているゲームですが、そこが根本的に違うわけです。
※「坂口博信」
『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親としてお馴染みの坂口博信氏。『FFT』にはプロデューサーとして携わっていた。
──その「売れるための要素」というのは、具体的にはどういったものなのでしょうか。
松野氏:
『FFT』を開発していた当時は、『FF6』までシリーズがリリースされていましたが、中でも私が好きだったのは、『FF3』や『FF5』のジョブやアビリティ等のゲームシステムでした。
それらは、シミュレーションRPGと親和性が高く、『タクティクスオウガ』の開発時も、そのシステマチックなところをかなり意識していましたね。
『FFT』の場合は、『FF』の冠をつけられるので、そのままジョブやアビリティを導入しつつ更に発展させることで、『FF』ファンが触れ易いようなシミュレーションRPGにしましょうというところからスタートしました。それがまさに「売れるための要素」のひとつです。
わかりやすいところでは、『FF7』のクラウドを登場させたことでしょうね。あれは、今でいうとコラボということになります。本家の『FF』からキャラクターを借りることで、少しでもRPGファンの目をこちらへ向けたいという切なる願いです(笑)。
坂口さんと北瀬さんに頼み込み、実装の許可をいただきました。

松野氏:
結果として販売は好調で、すぐに100万本を達成しました。
ですが、言い方を変えるとそれは『FF』なので当然であり、『FFT』に「普遍的な魅力があるか」と言われると……う~ん、どうなんでしょうね? 売れるための努力をしましたが、「普遍的な魅力」を問われると、『FF』シリーズの延長線上で作られた商品でしかないとも思っています。
──いやいや、やはりシリーズ内でも特別なタイトルだと思います。
松野氏:
発売当初、国内で135万本、最終的にPSベスト盤など海外と合わせて250万本くらい売れて……だから、ビジネスとしては大成功でした。会社側から課せられた目標を達成できたことは素直に嬉しく感じています。
皆川氏:
でも、開発初期の『FFT』として作っていたのが、『伝説のオウガバトル』【※】のようなシミュレーションだったんですよね。フィールドをユニットが動いて、エンカウントすると横俯瞰のアングルで、大きめのキャラクター同士が戦うようなスタイルで作っていました。
それこそ、ヴァニラウェアさんの『ユニコーンオーバーロード』のような形でしたね。

1993年にクエストから発売された、スーパーファミコン用シミュレーションRPG。「リアルタイムストラテジー」を主軸としており、「カオスフレーム」といった特徴的なシステムが組み込まれていた。『タクティクスオウガ』の前作的な立ち位置の作品でもある。
皆川氏:
ただ、当時のプロデューサーから「やっぱりタクティクスがいい!」との声があり、途中で大きく方針転換をすることになったんです。それもあって、割とタイトなスケジュールで作ったから、「大変だったなぁ……」という記憶はあるんですよね。
松野氏:
詳しくご説明しましょう。
当時、旧スクウェアではスーパーファミコンのプロジェクトがひととおり終了したことを受けて、チーム編成のし直しが行われました。1995年の11月頃だったと記憶しています。
開発1部では『FF7』がすでに動き始めていましたが、それ以外は一度スタッフをばらして再編しようという流れでした。開発2部は河津秋敏さんが『サガフロ』を、開発3部は田中弘道さんと高橋哲哉さんが『ゼノギアス』を、我々は開発4部として『FFT』を開発しようという形でした。
ただ、開発5部の時田貴司さんがロサンゼルスで海外チームと共に『パラサイト・イヴ』を作ることになりまして、その開発5部が解体され、プログラマーは開発1部に、残ったグラフィックと企画が、我々の開発4部に合流することになりました。
そもそも、開発4部はとにかく人数が少なかったんです。
特にグラフィックは『バハムートラグーン』のチームしかいなかったので、さすがにボリュームを構築するのに難があるなぁと感じていました。そこに、『スーパーマリオRPG』を手がけていた皆葉英夫さんら開発5部のグラフィックチームと企画チームが合流してきたわけです。
……前廣さんはそのころに移ってきたんですよね?
前廣和豊氏:(以下、前廣氏)
そのタイミングです。
僕は『スーパーマリオRPG』をほんの少し手伝って、その後『FFT』に合流した感じでした。
松野氏:
話が戻りますが、さきほど皆川さんからご説明があったように、チーム編成後の1995年12月からは、さきほどの『伝説のオウガバトル』タイプ、つまりRTSタイプのゲームの企画やグラフィックを作り始めていました。それを1996年の2月くらいまでは続けていましたが、前述のような理由でボツになりました(笑)。
そこからマス目をベースとしてターン制のタクティカルRPGとして作り直すことになり、4月に先ほどの開発5部からのメンバーが合流し、プロジェクトとして再スタートしたわけです。
松野氏:
開発は1996年の4月から始まって、1997年の4月か5月にマスターアップ。
前廣氏:
発売日は6月20日でしたよね。
松野氏:
開発期間で言えば、13ヵ月くらいでした。
そういう意味では、削らなきゃいけないところもたくさんあったりして……正直、企画としてはやり残した部分はたくさんありました。一方で、会社側から要求された達成しなければならないビジネス的なタスクは全部処理したと思っています。
特にゲームシステムには伊藤(裕之)さん【※】に入っていただいたこともあり、もともと目指していた「『FF』のシミュレーション」という条件はクリアしたのかなと。
やっぱり『FF』を楽しんでいたユーザーさん……特に『FF3』や『FF5』などのシステムが好きだった方たちに楽しく遊んでもらうことが、一番の越えなければいけない壁だったので、そこは達成できたのかなとは思っています。
※「伊藤裕之」
スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター。『FF4』における「ATB(アクティブタイムバトル)」システムや、『FF12』の「ガンビット」などの、数々のシステムを作り上げた。『FFT』には、ゲームデザイン・バトルデザインとして携わっている。

『FFT – イヴァリース クロニクルズ』が作られた経緯、実は……
──そんな『FFT』が、『FFT – イヴァリース クロニクルズ』として、決定版になるわけですよね。「クラシック」「エンハンスド」といったバージョンの違いを含め、どのような流れで『FFT – イヴァリース クロニクルズ』を制作することになったのでしょうか?
前廣氏:
そもそものプロジェクトの目的としては、やっぱり「新しい世代のプレイヤーに触っていただきたい」ということを強く思っていました。オリジナル版の発売から30年近く経って、それこそ「名前は聞いたことがあるけど、現行のプラットフォームでプレイできない」と思っていた方もいらっしゃるはずです。
そして、どうせ作るのであれば、新しいプレイヤーも入ってきやすい……より快適にプレイできる『FFT』を目指そうと。そこが、今作の一番大きなコンセプトですね。
企画が動き出したきっかけとしては……まず、『FF14』に「リターン・トゥ・イヴァリース」という松野さんがシナリオを担当されたコンテンツがあるんです。そのリリースを記念して、『FF14』側で、みんなで『FFT』をプレイする生放送をやったんですよ。

前廣氏:
僕も皆川も、松野さんもその生放送に出てたんですけど……本当に『FFT』を久しぶりに触って(笑)。でも、めちゃくちゃ面白かったんです。
同時に、UIや作りの部分などに「さすがに昔のゲームだな」とも思い……事実、昔のゲームだから当たり前なんですが。だとしたら、ゲーム内容はそのままに、UIを作り替えたり、いまのプレイヤーが入ってきやすいような加工をしてあげれば、それが『FFT』にとって一番いいだろうなと。
ただ、僕自身が数々のリマスターやリメイクされたタイトルを触ったときに感じたこととして、オリジナル版のファンであればあるほど、「余計な脚色はいらない」と思うんですね。そう思う方も、ユーザーのなかには当然いらっしゃるはず。
そのために、オリジナル版をそのまま持ってきた「クラシック」と、いまのプレイヤーに向けてフルボイス対応やUIの刷新を行った「エンハンスド」の2バージョンを作ろうかなと考えたんです。

──「クラシック」は、本当にオリジナル版がそのまま入っているんですね。
前廣氏:
そうなります。
バランスやUIも、基本的にはオリジナル版に準拠していますね。
松野氏:
オルランドゥの強さとか、クラウドが加入するタイミングとかも……。
前廣氏:
全部そのままですね。
一度『ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争』(以下、『獅子戦争』)【※】でバランス調整がされた部分も戻したうえで、オリジナル版を基準にしています。

『FFT』の移植タイトル。基本的な内容はオリジナル版を基準にしつつ、いくつかの追加要素も存在している。2007年にPSP版が発売され、のちにiOS/Android版も発売された。
前廣氏:
ただ、現行のプラットフォームでプレイするにあたって、オートセーブなどの機能は加えました。あとは、30年近く前に残していたバグフィックスを行い、快適にプレイできる状態にしていますね。
また『獅子戦争』では、オリジナル版のデータが残っていなかったり、当時の仕様の影響もあってか、描画やVFX、SEの挙動が不安定になっていました。ですので、本作はこのあたりも全面的に改修することで、オリジナル版の再現に徹底しています。もちろん、この点は「エンハンスド」も同様です。
──逆に、「エンハンスド」を作るうえで、なにか「これは絶対に入れよう」と、こだわった部分などはあるのでしょうか?
前廣氏:
いや、一番というのはないですね。
たとえばボイスに関しても、いまはゲームに対して「声が入って当たり前」の世の中になっていますから。UIも流行り廃りがあるので、そこに合わせたり……具体的に「どれか」というよりも、とにかく「現行で一番遊びやすい『FFT』」を目指していました。
だから、「クラシック」がいわゆるリマスターだとするなら、「エンハンスド」はリマスターでもリメイクでもなく、「この令和のご時世に、我々がもう一度『FFT』を作るとしたら」というつもりで、作り上げていきました。
そのため、オリジナル版に準拠した「クラシック」同様に、「エンハンスド」でも、あえて『獅子戦争』で追加されたキャラクターやジョブの要素は取り入れない形にしています。
それらの要素は『獅子戦争』が発売されたタイミングでは、当時のプレイヤーの期待に応える十分なものだったと思いますが、28年を経て、改めて本作を作っていく中で、オリジナル版を作った我々だからこそできることはなにかと考えたとき、オリジナル版のプレイ体験を最高のかたちで蘇らせることこそ、最も適切な選択だという結論に至りました。
──ちなみに、プロデューサーの松澤さんは、どの段階で合流されたのでしょうか。
松澤祥一氏:(以下、松澤氏)
さきほど話題に出た『FFT』の生放送が終わって、『FF14』で「リターン・トゥ・イヴァリース」の開発が落ち着いたころに、前廣が「いまのプラットフォームで『FFT』がプレイできたらいいのになあ」と言っているのを聞きつけたんです。
そこで、「じゃあ、会社の予算提案とかのめんどくさいところを僕がやりますから!」と話をして(笑)。
──なんと、本当にあの生放送がきっかけでスタートしたんですね。
松野氏:
最初にその話をうかがったときに、前廣さんと議論をしたのを憶えています。
その時、「UIなどを変更するんだったら、それはもう原作とは違うんじゃないか?」と考えました。幸い、オリジナル版のリソースは社内に残っているし、『獅子戦争』もある。そこで、「だったら、ふたつのモードを選べたらいいんじゃない?」と提案しました。
オリジナル版を「至上」と考えているファンのみなさんのために、良くも悪くも当時の空気感、その操作の不自由さも含めてそのまま原作を味わっていただくためのバージョンを用意しつつ、未プレイの方が今時のテイストで遊べるバージョンも作ればいいと。それが、今作の「クラシック」と「エンハンスド」というわけです。
その際、「エンハンスド」についてはUIやグラフィックなどを調整したとしても、ゲーム性を大きく変える必要はない、むしろ変えてはならないと考えていました。『FFT』についてはあれはあれで完成していたと自負していますし、『オウガシリーズ』と違い、常に新しくある必要性はない。そこがコンセプトの違いでもあります。
この話し合いが、まず最初にありました。
「後世から歴史を紐解く」独自のシナリオ構成、どう作られた
──やはり、『FFT』はアルガスなどのキャラクターを含めた、エッジの効いたシナリオも魅力的だと思います。開発陣のみなさまが『FFT』のシナリオのどういった部分が魅力的だと感じているのか、改めてお聞きできますでしょうか。
松澤氏:
いちプレイヤーとしての言葉になってしまいますが、『FFT』って必ずしも個々のキャラクターのセリフ数が多いわけではないんです。登場人物によっては、本当に、数行のセリフだったりします。ただ、そのわずかなセリフだけでも、キャラクターの生き様みたいなものが垣間見えるところが、すごく魅力的だなと思っています。
ちょっとした言葉遣いや所作から、その人がどういうことを考えていて、なんのために戦っているのかが覗ける……そこが魅力のひとつなんじゃないかなと思いますね。
前廣氏:
僕は、子どものころからゲームっ子で、『FF』もずっと遊んでいました。そして、当時憧れていたスクウェアに入社したんですよね。そのなかでも、特に『タクティクスオウガ』を含めた、松野さんのシナリオには憧れていました。
やっぱり、ゲームにおいても政治劇よりかは、少年少女が活躍するジュブナイルであったり、王道な『少年ジャンプ』路線のほうが作りやすいんですよね。
ただ、そこに政治劇を組み込んで、キャラクターのひとりひとりが思惑を持っていることを、ゲームとして体感できる。それが、『FFT』のシナリオをプレイされたみなさんに刺さる要素なんじゃないかと思います。
キャラクターも「コイツはこういう思想を持っている」とハッキリ描いてしまったほうがわかりやすいのに、どんなことを考えているかわからないキャラも多数登場する。「ダイスダーグって、なにを考えてるんだ?」みたいなことが展開しながらも、それがちゃんと集約していくのがすごいですよね。

前廣氏:
ちなみに、「聖石」を出したのって、やっぱり『FF』だからなんですか?
松野氏:
『FF』はやはり「クリスタルの物語」ですからね。
「クリスタル」と「ファンタジックな要素をやる」ことは、『FF』である以上絶対外しちゃいけないだろうと。
あと、前廣さんが挙げた通り、やはり『少年ジャンプ』の王道路線を意識しました。『タクティクスオウガ』はよくも悪くも群像劇で、グッドエンディングもあればバッドエンディングもあるといった色々なルートを用意していました。ですが、『FFT』は王道路線で行こうと、そうでなければならないと決めていましたね。
前廣氏:
その政治劇のなかで、やっぱり主人公がいる。群像劇だと、どうしても登場人物を俯瞰して見ることになるけど、『FFT』の場合はラムザという主人公がちゃんといるから、『FF』として成り立っているのだと思います。そこが魅力ですよね。
──やはり、『FFT』はシナリオ面でも『FF』としての要素を入れることは意識されていたんですね。
松野氏:
そうですね、さきほども申し上げたとおり「最後はファンタジーにしないといけないな」というのを強く意識していました。一方、『タクティクスオウガ』のような政治劇を期待していた当時のプレイヤーさんからは「人間どうしの戦いで終わってほしかった」という声も耳にしていました。
今回の「エンハンスド」ではそのあたりを若干調整しています。できるだけ「人間対人間」の構図に落とし込むように、セリフを変更しました。もちろん、バトルの中身やシチュエーションまで変更しているわけではありません。これは28年も経過して、より広い年齢層のプレイヤーさんが遊ぶだろうと考えたためです。
ややネタバレになりますが、「ルカヴィになったから」ではなく、「何故ルカヴィになったのか」に焦点をあてて修正しました。
──「エンハンスド」は、セリフにもそういう細かな調整が入っているんですね。
松野氏:
さきほども申し上げたとおり、新たなキャラクターや新たなイベントが追加されているわけではありません。あくまでもより「補完」したという意味です。まぁ、開発当時に時間がなくてやり残しちゃったことを、そのまま入れたといったほうが正しいかもしれません(笑)。
それこそエルムドア侯爵も、「なぜ彼がそうなったのか」という点を含め、かなり補完のセリフを増やしています。

──『FFT』は、「後世から歴史を見たときの、ラムザとディリータというふたりの英雄(を、アラズラムが語る)」というシナリオ構成も独特だと思うんです。あの独自の視点は、どのように決められたのでしょうか。
松野氏:
あのアラズラムのオチは、もうプロットの段階から決めていました。
オーランがああなることもそうですね。
たとえば大河ドラマにおいても、戦国時代に信長・秀吉・家康という武将が活躍した歴史的事実は変わらないけど、それを書く脚本家によって、ドラマの内容やキャラクター性が大きく変わるじゃないですか。
たとえば、徳川家康も、『葵・徳川三代』(2000、脚本・ジェームズ三木)で津川雅彦さんが演じた家康は、いかにも古ダヌキでイヤな感じなんですけど……もっと昔の『徳川家康』(1983、原作・山岡荘八、脚本・小山内美江子)で滝田栄さんが演じる家康は、すごくキレイな家康なんですよ。
有名な「方広寺鐘銘事件」では、これ幸いとばかり戦の口実に使う津川家康と違い、口実に使われてしまうような失策を心から心配する滝田家康。そこが、脚本家の描き方によって大きく変わってくるところなんです。
「歴史をひとつ作ったうえで、それを後世の人が脚色したときにどう変わるのか」という作り方をやってみたかったんですよね。「歴史に対する、脚本家のアプローチ」という感じでしょうか。
その意味では『FF12』も、『FFT』と地続きではなく、後世の作家が書いた虚構のフィクションといった位置づけでもおもしろいと考えています。小説家ではなく、歴史家が書いたらヴィエラやバンガなどの他種族の登場しない人間だけの『FF12』になるとか(笑)。