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『FFT』は、当時の我々が持てる力を尽くした最高傑作だった──松野氏ら開発陣に聞く、『ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリース クロニクルズ』が目指した、「『FFT』の決定版」とは

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オルランドゥ、算術ホーリー……『FFT』の明らかな「ぶっ飛んだ」要素、なぜ入っているのか

──『FFT』は、「オルランドゥ」や「算術ホーリー」などの、ある意味突き抜けたバランスのユニットや戦術も魅力のひとつになっていると思うんです。開発当時、ああいったユニットや戦術に「強いとはわかっているけど、入れよう」というご判断があったりされたのでしょうか?

松野氏:
オルランドゥに関しては、伊藤さんが設定を汲んでステータスを強くしてくれたんです。ただ、もともとは、「(オルランドゥが)年寄りなので、レベルが上がるたびにステータスがダウンしていく」という設定にするつもりでした。

戦うと、当然経験値がもらえるのでレベルアップする。でも、そこで弱体化していくので、「オルランドゥをどこで使うのか」という使いどころを悩むようなキャラクターにしたかったんですよね。ただ、当時の市場を考えると……さすがに尖りすぎだろうと(笑)。

その名残で、オルランドゥは強いままになってしまったんです。
でも、シミュレーションRPGが得意な人はいいけど、苦手な人はオルランドゥがいないとクリアできないだろうとも思っていました。チャプター4あたりとか。改めてプレイすると、たしかに強すぎるなとは思うんですけど、当時としては仕方ないのかなと。

前廣氏:
「エンハンスド」でも、強さはそのままですね。
あの強さあってこそのオルランドゥですから。

あと、「算術ホーリー」なんかも、当時から「プレイヤーがキャラクタービルドした結果あそこに至ったのであれば、もうそのままでいいんじゃないか」と。

【FFT】『FFタクティクス - イヴァリース クロニクルズ』松野氏ら開発インタビュー:本作が目指した「FFTの決定版」とは_028
『ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争』

【FFT】『FFタクティクス - イヴァリース クロニクルズ』松野氏ら開発インタビュー:本作が目指した「FFTの決定版」とは_029

松野氏:
繰り返すようですが、本作は、バランスもひっくるめて、ゲームシステムそのものはあまりいじってくれるなという話をしました。当時の開発メンバーがいたからこそ完成できた大切な子供だと思っているのもありますが、同時に、当時の我々の持てる力を尽くした、ある種の最高傑作だという自負もあります。

もちろんバランスに難があるなど、色々と改善するべきところもあります。それでも、あの時代にあの工数で開発したという、その完成度の高さと我々開発チームの思い入れを崩したくなかったんです。

開発チームの中にはすでに業界を離れた者も多いですし。だから、あまりそこはいじってくれるなというお願いを事前にしました。それがファンにとっても一番だろうと。

そのため、『FFT – イヴァリース クロニクルズ』はシステムそのものがあまりいじられていません。でも、「エンハンスド」では、源氏の小手を盗めるんだよね?(笑)

前廣氏:
いや、盗めないですよ。
なに言ってるんですか!?(笑)

あれは(エルムドアの)アイデンティティだから盗めないですよ。
アイデンティティを盗んだらダメなの(笑)。

松野氏:
えぇっ、盗めるようにしようよ!
「エンハンスド」だからいいじゃない。
そこは賛否両論になると思うなあ(笑)。

一同:
(笑)。

【FFT】『FFタクティクス - イヴァリース クロニクルズ』松野氏ら開発インタビュー:本作が目指した「FFTの決定版」とは_030
『ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争』

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前廣氏:
ただ、ゲームバランスの面で言うと、今回「エンハンスド」は3つの難易度を用意させていただきました。より物語を楽しみたい人に向けた「カジュアル」、オリジナルの難易度をベースにした「スタンダード」、いわゆるハードに該当する「タクティカル」という3つの難易度があります。

特に、「タクティカル」はガッツリ高難度にいじっていて、算術ホーリー連打ではクリアできないようになっています。

あと、シナリオの都合上、仲間になるのが遅くなってしまって成長させづらかったクラウドなども、「エンハンスド」ではちょっと加入がはやめになっていますね。

松野氏:
ちなみに、キャラクターの枠数は?

前廣氏:
「クラシック」は変わらずです。

「エンハンスド」のほうは、ユニークキャラとモンスターを何体か仲間にしても余る「50体」なので、枠も増えている状態です。ただ、ウッカリするとたまごでいっぱいになるので、そこだけ気をつけてください!

【FFT】『FFタクティクス - イヴァリース クロニクルズ』松野氏ら開発インタビュー:本作が目指した「FFTの決定版」とは_032

実は、吉田直樹氏が「〇〇〇〇〇」に参加している

──ちなみに、『FFT』の発売から28年経っているということで、「いまだから話せる当時の裏話」があればぜひお聞かせください。

前廣氏:
もう、ここまでの話が全部そうなんじゃないかと思います(笑)。

松野氏:
そういえば、今回フルボイス対応をするにあたって、私が脚本を提出し終わってから、前廣さんと吉田(直樹)さん【※】が、すごく長い時間をかけて読み合わせをしたと聞きしました。

つい先日吉田さんと酒の席で話したときも、それを熱く語られていて……僕は「そうですか、ってか、どうして?」って感じだったんだけど(笑)。

※「吉田直樹」
スクウェア・エニックス所属のゲーム開発者。『FF14』のディレクター兼プロデューサー、『FF16』のプロデューサーを務める。松野氏をクリエイターとしてリスペクトしていることでもお馴染み(?)本作ではエグゼクティブ・プロデューサーという立ち位置。

前廣氏:
今回、その吉田が業務過多ということと、プロデューサーに松澤が立候補したことで、吉田は後方支援に回っていたんですが、やっぱりウチの吉田直樹も、「松野泰己ファン」なんですよ。

『FFT』に対しても相当な想い入れを持っているし、吉田なりの解釈もある。
それは僕にもあるし、松野さんご本人が思っていない解釈もあるはず。

そこで、松野さんがフルボイス化のために新しく書いた脚本に対して、「果たして我々の解釈は合っているのか」と。加筆された部分に対しても、調整された部分に対しても、その演出を作っていくことになるからこそ、松野さんの意図を出来る限り汲み取ろう、ということですね。

そのために吉田と時間を取って、本当にタイマンで読み合わせをしていました。全部のセリフを画面にひとつずつ映して、「ここのアルガスの心情はさあ、合ってるよね?」みたいな感じで(笑)。

お互いの解釈で喧嘩しつつも、最後はプレイヤーに向けてより良い演出方針に落ち着いて、「やるな」「お前もな」みたいな少年漫画のライバル同士の戦い的な展開で終わりましたけど(笑)。

松野氏:
それ、見たかったなあ。

一同:
(笑)。

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松野氏:
さきほど言った通り、収録現場には私か前廣さんの必ずどちらかがいる状態で、いろいろ議論しながら進めていたのですが……思いがけず、ラムザの最終収録で、立花さんから「最後のセリフはこれでいいんですか?」というツッコミが入ったんです。

「エンハンスド」はバトル中の会話の追加する仕組みは用意していたのですが、「それ以外」のセリフの追加の仕組みは予定されていませんでした。だから、その場で前廣さんら開発チームと相談して、仕組みを作ること前提で、その場でセリフを書き下ろして立花さんに演じていただきました。

だから、「エンハンスド」はほんのわずかですが、エンディングが変わっているんです。「余計なものを足しやがって」と思われる方もおいでかもしれませんが、そこには立花さんなりのラムザ……つまりプレイヤーとしての立花さんではなく、ラムザを演じた立花さんとしての思い入れがある。そこを加味しつつ、我々もその提案に「たしかにその通りだよね」と思い、セリフの追加をしました。

──それは楽しみです。

前廣氏:
さきほども「声優さんの解像度が高い」という話をしましたが、やっぱり声優のみなさんにもキャラの解釈があって、それを集約したことが、「エンハンスド」の一番の魅力かもしれないです。

30年経っても、世界は変わっていなかった

──最後に、『FFT – イヴァリース クロニクルズ』を楽しみにされているユーザーのみなさまに、ひと言ずつメッセージをいただければと思います。

皆川氏:
ちょうどここに特典の商品がいろいろ置かれているんですけど……今回のラムザのフィギュアは、すごく力を入れて監修しました。よろしければ、ぜひお手に取っていただきたいなと。

【FFT】『FFタクティクス - イヴァリース クロニクルズ』松野氏ら開発インタビュー:本作が目指した「FFTの決定版」とは_034
特別装丁コレクターズBOXに付属する特典の数々。

皆川氏:
やっぱり「クラシック」は当時の僕らが最大限頑張った、努力の結晶がそのまま入っていますし、「エンハンスド」はフルボイスなどの魅力的な要素が追加されて、少し違った解釈や要素を楽しむことができます。

お時間が許せば、両方遊んで「どこが変わったのかな?」とたしかめてもらえたら嬉しいなと(笑)。

──1タイトルで2度楽しめますね!

前廣氏:
オリジナル版の発売から30年近く経って、この令和のご時世になっちゃいましたけど……『FFT』が、「クラシック」と「エンハンスド」のふたつのバージョンになって蘇ります。

オリジナルのファンの方も、名前は聞いたことがあるけど遊んだことがなかった方も、これを機に初めて名前を聞いて『FFT』に触れる方も、どの方も存分にイヴァリースの世界を楽しめるタイトルになっています。ぜひ、楽しんでいただければと思います。

松澤氏:
やはり、「私が味わった感動を、ひとりでも多くの方に味わってほしい」という思いからプロデューサーとして携わらせていただきましたので、ぜひ新しくプレイされる方に遊んでいただきたいです!

あと、私と同じように当時遊んでいただいた方にも、モンスターだけで縛ってプレイしたり、陰陽士だけで縛ってプレイするとか……そんな新しい遊びがいっぱいあると思うので、ぜひまた楽しんでいただければと思っています。

前廣氏:
松野さん、ちゃんと締めてくださいね(笑)。

松野氏:
じゃ、真面目にしようか(笑)。

……30年近く前に作ったゲームですが、当時はバブルがはじけたり、湾岸戦争もあるなど経済的にも政治的にも問題の多かった時代でした。特に日本はバブルの後遺症で景気は悪化し、倒産する企業も多く、就職氷河期にもなりました。

そうした世情の中、『FFT』は「持てる者」と「持たざる者」を大きなテーマとして、階級闘争を描いた作品としてリリースしました。そこから30年経っても、いまも世界を取り巻く環境というのは残念ながら変わっていません。

経済格差は相変わらずですし、分断という意味ではけっして良い状況ではありません。また世界を取り巻く戦争に関しても同じです。ロシアとウクライナ、イスラエルとヒズボラ、シリアなど各地で紛争は絶えず起きています。

「30年後はもうちょっとよくなっているかな」と思ったら、何も変わっていなかった、むしろ90年代の方がマシだったかもしれない。その意味で、このゲームを2025年にプレイしても、なにか感じるところはあるんじゃないかと思います。

未プレイの方はもとより、プレイ済の方も、ぜひとも、手に取ってプレイしていただければ幸いです。

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このインタビューで率直に感じたのは、『FFT』のコアとなる部分が、「当時のハードの制約」によって形作られていったものだった……という事実への驚きである。

私は、何年か前に『ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争』で、初めて『FFT』をプレイした。そのときに感じたのは、「あらゆる意味で、時代性を感じさせないゲーム」ということだった。

リメイクだからある程度変わっている部分はあるにせよ、シナリオ、ゲームシステム、キャラクター……どれも「古さ」を感じさせない仕上がりだった。これがハードの制約に悩まされていたとは、とても思えない。しかしその裏には、当時の開発陣の技術と努力がふんだんに詰め込まれていた。

なんだか、まさに歴史書を読んで、「歴史の裏」を知ったような気分です。
チャージタイムバトルが、そんな事情があって作られていたなんて……。

そんな『FFT』が、『ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリース クロニクルズ』という決定版となって返ってくる! 当時の技術の結晶でもあるオリジナル版を楽しみたい方は「クラシック」へ、新たな『FFT』を楽しみたい方は「エンハンスド」へ、どっちも楽しみたい方は両方へ!!

まさに、「30年経っても変わらないタイトル」だと思います。
そして『FFT』で描かれる「真実の歴史」を、ぜひ目の当たりにしてください。

※掲載されている画面写真はすべて開発中のものです。
※内容・仕様は予告なく変更される場合があります。
© SQUARE ENIX

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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