『428 ~封鎖された渋谷で~』などで知られるイシイジロウ氏が総監督を務める新作実写アドベンチャー『シブヤスクランブルストーリーズ』(以下、『SSS』)。
2025年4月28日、「渋谷実写アドベンチャープロジェクト」としてお披露目され、『街 ~運命の交差点~』(以下、『街』)の雨宮桂馬役で知られるあらい正和氏、そして『428 ~封鎖された渋谷で~』(以下、『428』)の御法川実役で知られる北上史欧氏の参加が発表された。

2025年5月28日からはプロトタイプ版の開発を目指してクラウドファンディングがスタートし、目標金額500万を1日で達成。最終的には総額5475万、達成率1095%となり、大きな注目を集める。このクラウドファンディングの盛り上がりを機に、東急不動産とSkeleton Crew Studioが参画を表明。プロトタイプの開発を待たずゲーム本編の制作が決定し、プロトタイプ開発用として集まった支援金は、本制作のクオリティアップのための開発費に回されることが発表された。
その後、クラウドファンディングプラットフォーム「うぶごえ」からの未入金という前代未聞のトラブルにも見舞われたが、2026年4月28日にはメインキャスト5名が発表され、プロジェクトは順調に進んでいるように見えた。
しかし、2026年6月14日、主演のひとりと思われていた俳優のあらい正和氏が突如自身のXにて降板を発表。
本日ご報告した内容です。
— あらい正和 (@officeforza) June 14, 2026
楽しみにしておりましたので、無念でなりません…
皆様、本当に申し訳ありません… pic.twitter.com/Hp6yVtGt3Q
翌6月15日には「昨日お伝えした内容に、一部誤解が生じ、混乱を招いてしまい申し訳ありません」と訂正があったのだが、あらい氏の声明に記されていた内容の要約は以下となる。
- 「ふたり(あらい正和氏と北上史欧氏)を主演とした作品をつくるプロジェクト」としてクラウドファンディングがスタートした
- 主演とは、物語の展開の中心となるもっとも重要な役を演じることを表す言葉であり、ポスターやエンドロール等のクレジットでは先頭に掲出される
- 2026年3月、別の方が主演を務めることになっていた事実を知る
- 当初お受けしたふたりの主演を柱とした物語で展開できないかと制作側に相談したがそれが叶わなかった
- そのため、降板を申し出て2026年6月10日に承諾いただいた
これを受けてイシイ氏は、2026年6月15日に自身のXにて「あらい正和さんの出演見送りについてご報告」とポストしていたのだが、詳細な経緯の説明は近日中に行うというアナウンス内容だった。
あらい正和さんの出演見送りについてご報告いたします。
— イシイジロウ (@jiro_ishii) June 15, 2026
私たちは、あらいさんに本作の主演(プレイヤブルキャラクター)の一人としてご出演いただけるよう、条件面および制作面について、最後まで協議と調整を続けてまいりました。…
あらい氏と制作側のあいだに、いったい何があったのか? 電ファミ編集部は『SSS』総監督のイシイジロウ氏と、脚本を務める北島行徳氏にインタビューを実施させていただき、あらい正和氏降板までの経緯と真相を聞いた。
インタビューから判明したのは、出演料に関する認識の相違のほか、あらい氏からの「ふたり(あらい氏と北上氏)の主演の下に、ほかのプレイアブルキャストがいる構図でシナリオを書き直してほしい」という、群像劇である『SSS』の本質を覆す要望だった。
※取材は2026年6月16日にオンラインにて実施。イシイ氏、北島氏の写真は過去記事より流用しています。
聞き手・文/豊田恵吾
刑事K(あらい氏)と記者M(北上氏)が主演というのはプロトタイプ版の設定
── 本日はよろしくお願いいたします。あらいさんが出された声明について、クラウドファンディング支援者側の目線からお話を聞かせてください。いったい何があったのでしょうか?
イシイジロウ氏(以下、イシイ氏):
詳しく話をさせていただく前に、最初にお伝えさせてください。今回、電ファミさんの取材に応じたのは、あらいさんを否定するのが目的ではありません。あらいさんが降板を発表されたいまでも、私はあらいさんにどんな形であっても『SSS』へご出演いただきたいと願っています。これは最初にお伝えさせていただきます。

── あらいさんは声明を2回出されていますが、2回目に出された声明を見ると「主演」という認識に相違があったのではないかと感じました。また、プロトタイプと本編を混同されているといいますか……。
イシイ氏:
あらいさんを主演にしたいというのは、クラウドファンディングをスタートさせた当時から現在まで変わっていません。 2025年の3月ごろにあらいさんにオファーさせていただいたときは、企画書をお渡ししていたんですね。まず北上史欧さんにお会いしてお話し、その1週間後くらいにあらいさんにお話をさせていただきました。
そのときの企画書には「あらい正和さん、北上史欧さんが主演」と書いてありますが、当初から群像劇を想定していましたので「ほか出演交渉予定」という記載もしております。
クラウドファンディングの流れを見ていただくとわかると思うのですが、あらいさんが「刑事K」、北上さんが「記者M」とさせていただいているのは、「おふたりがこの役柄を務めるプロトタイプをまず制作します」というものなんです。刑事K、記者Mというのは、北島さんにシナリオを依頼する前に私が用意した設定です。「まず渋谷を舞台にした実写ADVのプロトタイプを作らせてください。そのために500万円を目標にしています」というクラウドファンディングなんですね。

イシイ氏:
このプロトタイプをベースとして、本編のシナリオを北島さんに依頼させていただいた、というのが時系列としてあります。Game Creator Finding(東急不動産・Skeleton Crew Studio)の参画が決定したタイミングにて、クラウドファンディングの盛り上がりを受け、プロトタイプの開発を待たずにゲーム本編の制作が決定したことも2025年7月13日に発表させていただいています。
ゲーム本編のシナリオを北島さんが手がけるにあたり、キャラクターを何人にするかは決めていませんでした。俳優さんが決まったのち、北島さんが脚本家としてその俳優さんたちとお会いしながらどんなキャラクターにするのかを決定する。その後、プレイアブルキャラクターの人数を定め、本編のシナリオを北島さんが書き始める、という進め方にしていたんですね。
そのときに刑事K、記者Mという役柄についてはプロトタイプ用の設定でしたので、新たな設定で書き直していただきました。「プロトタイプから設定を引き継ぐ可能性もあれば、引き継がない可能性もあります」というのは、すべてのスタッフ、キャストに対して、事前に私から説明していたことです。
ですので、あらいさんを主演のひとりにさせていただくというのは、当初から一度もブレておりません。

北島行徳氏(以下、北島氏):
イシイさんのおっしゃるとおりです。イシイさんとは企画の最初期から「キャラクターは何人にしましょうか」という話をしていたんですね。
刑事Kと記者Mが主役というのはあくまでもプロトタイプ版での話であり、クラウドファンディングで支援を集めることができて本制作が始まったら、「そのときは複数人をメインキャストとした群像劇のシナリオを用意しましょう」と最初から話していました。

イシイ氏:
いちばん最初に協力してくれたあらいさんと北上さんには、北島さんを交えて打ち合わせもさせていただきましたし、そのお話もしています。
あらいさんが最初の声明の中で主張されていた「刑事K、記者Mのふたりが主演だったはずではないか」、「この企画書をもとに作るはずだったのではないか」というお話は、2026年6月8日の対面打ち合わせまで言われたことはなかったんですね。
2026年6月8日に最初の企画書のプリントアウトを持参されて、「なぜこれをやらないのですか?」ということをおっしゃられて……。
その後、2026年6月10日にメールにて「本日を持ちまして、交渉は不調となりましたことを確認させていただきました。いままで大変お世話になり、ありがとうございました」とご連絡をいただき、2026年6月14日にあらいさんが降板の声明を出された、という形となります。
メインキャスト5名のうちのひとりは、ずっとあらい氏を想定していた
──イシイさんおよび制作サイドは、一貫してあらいさんに「主演」としてのご出演をお願いしていたわけですよね? なぜこのような事態になったのでしょうか?
イシイ氏:
さきほどお話したとおり、企画の最初期からあらいさんと北上さんは主演としています。つまり、プレイヤブルキャラクターのひとりである、とお伝えしていました。また、群像劇であることや「そこから主演が増えました」ということも、もちろんお伝えしていましたし、おふたりにはコミットし続けていました。
さまざまな方と交渉しながら、撮影スケジュールが確保できると判断できた方を主演候補とし、「だれだれは主演でいけそうなのですが、シナリオとしてどうでしょうか?」という提案を北島さんにひとりずつぶつけていったんですね。
北島氏:
そうですね。当初から複数の主人公がいることを想定していました。「だいたい5人だろう」という考えがあり、その5人を誰が務めるのかを決めていくということですね。ただ、入れ替わりがあるにしても、あらいさんと北上さんが5人の中に入るというのは、変わらず決めていたことです。
残りの3人のキャスティングをイシイさんが交渉して進めていき、「撮影スケジュールが確保できたので、この人はOKになりました」という感じでほかの主演が決まっていったんですね。
── つまり、あらいさんが最初の声明で述べていた「総監督や制作サイドから事前の説明がないまま、別の方が主演を務めることになっていた事実を知るに至りました」というのは思い違いということですよね?
イシイ氏:
はい。そのようなことはいっさいありません。
──2026年4月28日に5名のメインキャストが発表されましたが、その中にあらいさんの姿はありませんでした。それ以前のタイミングからあらいさんと認識の相違が生まれていたのですか?
イシイ氏:
くり返しとなりますが、メインキャスト5名の構想の中にあらいさんはずっと入っていましたし、制作側としてはあらいさんを含めた5名の主演を2026年4月28日に発表する予定でした。
──えっ? では、なぜ発表時にあらいさんが5名の中にいらっしゃらなかったのですか?
イシイ氏:
主演を務める5名の方に企画内容をすべてお話したうえで、2026年4月28日に発表するトレーラーとメインビジュアル用として、2026年3月16日に撮影をさせていただきたいとお願いしていたんですね。主演5名にお集まりいただき、スーツを着ていただいてビジュアル撮影を行いたいと。
あらいさんにもその旨をお伝えし、ご快諾をいただいていたのですが、撮影直前の2026年3月11日に「3月16日と4月28日の稼働は見送らせていただきたいと存じます」というご連絡をマネージャーの方からいただいたんです。
──それはどのような理由からだったのでしょうか?
イシイ氏:
ある条件を出されて、それが飲めないのであればビジュアル撮影とイベント出演を見送らせていただきたい、というものでした。
その条件というのは、出演料と「逆競合」【※】による金額の上乗せでした。「『街』のときのイベント出演料よりも安い」ということもおっしゃられていて。
私から「出演料は『街』のときと同じくらいで」というお話をしていたのですが、それはイベントのお話ではなく、主演としての出演料のことだったんですね。まずそこの誤解があったのかと思います。
また、『SSS』出演に関して制作側からは「競合なし」とお伝えしていたんです。つまり、ほかの類似するゲームやドラマに出演することを制作側は縛ってはいなかったのですが、あらいさんのマネージャーの方からは「逆競合に引っかかるので出演料を上げてほしい」というお話をいただいて。ただ、制作側としては逆競合は広告案件などで該当するものであって、ゲーム出演には該当しないのでは、という考えもあり……。
そういった認識の相違のほか、いちばん問題だったのはビジュアル撮影の5日前に「稼働は見送らせていただきたい」というご連絡をいただいたことでした。お電話でもお話をさせていただいたのですが、合意に至らずでして……。もう一点補足すると、提示した金額についても、私たちの本意の提案金額ではないんです。
※逆競合……すでに決定している仕事には「競合縛り(同業他社への出演制限)」がないにもかかわらず、あとから受けようとした別の仕事に競合条件が重なってしまい、両立できなくなる状態を指す。別案件の撮影・出演時期が被ることで、企業イメージのバッティングが発生し、エントリーを断念せざるを得ない状況に陥ること。

ほかの主演がいること、刑事Kという役ではないことも事前に説明済み
── ほかの出演者と差異のない条件を提示されていたわけですよね?
イシイ氏:
ほかの方々については、この時点で出演料の提示はしておりません。なぜなら、まだ撮影予算が確定していないからです。これはすべてのキャストさんにご納得いただいています。
キャストのみなさんには「Game Creator Findingのサポートにより、現在『428』の約半分の撮影予算を確保しております。ただし、この予算はシナリオ内容を最低限成立させるための制作規模となります。そのため、クラウドファンディングの第2弾を行うように準備しております。『428』と同程度の撮影予算を確保するように準備を進めております」と文書で連絡をさせていただいていたんですね。つまり、「現状では50%の予算しかありません」と。
撮影スケジュールも撮影期間も撮影予算も明確に定まっておりませんので、現時点では出演料のお話はできないということを、すべての出演者さんにお伝えしていたんです。
ただ、あらいさんからは「いま出演料を決めてほしい」とお願いをいただいたんですね。「現時点ですと、半分のギャランティしか提示できません」とお話をさせていただいていたのですが、「安いのではないか」、「いや、お伝えしたように半分の金額です」となってしまったため、この文書を提示させていただいてご納得いただいたと思っていたのですが……。
──念のためのご確認となりますが、2026年2月に発覚した、うぶごえからの未入金【※】の影響があったわけではないのですよね。
※うぶごえからの未入金……クラウドファンディングプラットフォーム「うぶごえ」にて、『SSS』は5475万4878円の支援金を集めたが、うぶごえから2775万4878円が未入金(現時点においても未入金)となっている。2026年2月28日、イシイ氏より支援者に未入金の状況が伝えられ、3月28日に対外的にアナウンスがされた。
イシイ氏:
その問題は関係ありません。もともと第1回のクラウドファンディングでは撮影予算の支援を謳っておりませんし、うぶごえからは2700万円の入金はありましたので、当初の目標金額である500万円は達成しており、リワードの対応もすべて完了していますから。
──なるほど。出演料の交渉はあったものの、主演の話はずっとお伝えしていて、あらいさんが演じる役柄の脚本も用意されていたと。
イシイ氏:
2025年12月に北島さんの中で5人のキャラクターができあがりました。あらいさん、北上さん含めて、誰が演じるのか、どんなキャラクターなのか、それが決まったわけです。2026年4月28日の発表に合わせてメインビジュアルを撮影するにあたり、演じるキャラクターの説明を差し上げる新年会を2026年1月21日に設定したんですね。
そこで主演の方ひとりひとりに「あなたのキャラクターはこういうキャラクターです」と説明をさせていただきました。
北島氏:
どういうキャラクターなのかは、僕から直接、その場であらいさんに説明しています。もちろん「刑事Kではなくて、こういう名前のこういうキャラクターになります」と。さらに、かなり細かなところまですべて説明させていただいて、そのときはけっこうノリノリで「わかりました」という感じだったんです。
その会に参加されていた主演を担う方には全員に同じように説明をしています。ですから「主演はあらいさんと北上さんのふたりだと思っていた」という思い違いが起こるわけがないといいますか……。
また、2026年1月21日以前に「このビジュアルを皆さんで撮りますよ」と主演5名が並んだ仮ビジュアルもお渡ししているんですね。
イシイ氏:
2026年1月14日に、あらいさんのマネージャーの方に「主演5名のビジュアル撮影をさせてください」というお願いをしています。合わせて「キャラクターの詳細は2026年1月21日の新年会で北島さんから説明させていただきます」とお伝えしていましたので、さきほど北島さんがお話したように、あらいさんにもご参加いただいてキャラクターの説明を行わせていただきました。ふたりが写った写真も北島さんがXで投稿しています。
本日は『街 』の発売28周年。昨日は新年会で、あらいさんに新しい役の話を伝えました。
— 北島行徳@シナリオ会社ジンテーゼ代表 (@y_kitajima) January 22, 2026
説明が悪かったのか、ずっと「俺、裸になるの?」と言ってました。なりませんw#シブヤスクランブルストーリーズ #SSS #シブスク pic.twitter.com/ssEeAf3IhH
ですから、「主演が5名いることをあらいさんが知らなかった」ですとか、「制作側があらいさんを主演から降ろした」ですとか、そういった事実はございません。北上さんも新年会にいらっしゃっていて、御堂筋美登里というキャラクターであることを説明してご理解いただいていますし、5名が並んだ仮ビジュアルは主演を務める方、全員に送っております。
あらい氏の代わりに窪塚洋介氏が主演になったという事実はない
── ビジュアル撮影直前のお話に戻させていただきますが、あらいさんのマネージャーの方から「稼働を見送りたい」とご連絡いただいたあと、イシイさんが電話をされたということですが……。
イシイ氏:
私からは「いまビジュアル撮影を降りていただいては困ります」、「主演、主人公のひとりですので、5人揃って撮影をしないとメインキャストの発表ができません」と電話でお伝えしました。
「撮影5日前のこのタイミングで撮影にご参加いただけないとおっしゃるのであれば、2026年4月28日に発表する主演から降りていただくことになってしまいますので困ります」とお伝えしたのですが、「ビジュアル撮影には参加しない」というお返事で……。
「現状、私どもとしてはあらいさん側の条件には応えられません。ビジュアル撮影を辞退されるとおっしゃられるのであれば、2026年4月28日に発表する主演5名の中にあらいさんを入れることを諦めざるをえません」とお伝えさせていただきました。
そのときに「メインビジュアルの5名から降りていただくのはすごく悲しいです。ファンは待っていますので、それ以外の役でご出演いただけませんか?」とお聞きしたところ、主役以外の形での出演は受け入れられない旨の回答でした。
── そのタイミングですと、ビジュアル撮影までは平日の2日ほどしかないですよね。そこから主演のできる代わりの役者さんを見つけるのはほぼ不可能だと思うのですが……。
イシイ氏:
おっしゃるとおりです。我々も諦めかけていたのですが、ある役者さんにお願いをさせていただいたところ、ビジュアル撮影に駆けつけていただいたんです。
──そんな奇跡のようなことが起こっていたんですね。
イシイ氏:
どなたなのかは申し上げられませんが、窪塚洋介さんではないことだけはお伝えさせていただきます。窪塚さんにはもともと出演をご快諾いただいておりましたので。また補足ですが、メインビジュアルの撮影に参加されたみなさんは、この5名が並列の主人公ということを理解されています。
私たちからの無理なお願いを聞いてくださり、駆けつけてくださったその役者さんには、心より感謝を申し上げます。一生、頭があがりません。衣装も用意できていない状況だったわけですが、その方は撮影時に自前のスーツまでお持ちいただいたんです。本当に感謝しかありません。
出演者の方々には『SSS』はインディーであることをずっと説明し続けているんですね。通常、出演予算の話というのは、シナリオが完成して撮影に何日間の稼働が必要なのかが確定した時点で初めて予算の提示ができるわけです。逆に言えば「このキャラクターは予算上、撮影でこれくらいの日数しか出演できないからシナリオはこうしよう」という条件ばかりで脚本を書いてしまったら、ものすごく歪なものになってしまうんです。
北島さんが書いたシナリオをどこまで実現できるか、ということが『SSS』のクオリティの担保だと思っています。ですので、出演者の方たちにもシナリオが完成して撮影日数が確定してから出演料は交渉させてください、とお伝えしているんです。本当にありがたいことに、みなさん「わかっています」とご了承いただいていて……。
だからといってあらいさんが間違っているとも思っていません。プロとしての仕事ですから、契約書を用意して予算を先に決めてほしいというのは、正当なご要望です。
でも『SSS』はインディーで潤沢に予算があるわけではありません。「『街』や『428』の出演料と変わらない額はお支払いします」とお伝えしてご納得いただいているのは、過去の出演経験があるみなさんだからこそですし、信頼関係があるからこそです。
ただ、これまであらいさんにお願いしてきたイベント出演等のプロモーション業務については、その都度あらいさん側から請求書をいただき、請求内容に基づいて精算していました。2026年3月16日に予定していたメインビジュアル撮影についても、ゲーム本編の出演料とは別に、プロモーション業務としての費用をご提案しています。
この時点で未確定だったのは、シナリオ完成後の撮影日数に応じて協議するゲーム本編の出演料であり、メインビジュアル撮影を無償でお願いしていたわけではありません。
出演料に関しては過去の経験から「だいたいこのくらいだろう」という感覚で捉えていただいていることに私どもが甘えてしまっている状況もありますし、「先に出演料を決めてほしい」というご要望に対応できなかったことは、私どもの至らなさだと思っています。
ですから、私たち制作側としては、あらいさんが降板を発表された現在も、何かしらの形でご出演いただけないかと望んでおります。
── 5名のメインキャストが発表されたあと、イシイさんからあらいさんの出演について、まだ可能性があるようなニュアンスの発言がありました。
イシイ氏:
それは完全に私の勇み足でした。お客さまのために、あらいさんは何かしらのことを考えていただけると勝手に思い込んでおりました。私自身、発表したビジュアルにあらいさんの姿がなかったことはすごく悲しかったですし、支援してくださっているみなさんに対して説明が必要だと思ってしまったんですね。
2026年4月28日の発表イベントの中で「あらいさんについては別の形で出ていただけると思っています」と発言してしまったのですが、結果的にそれはあらいさんの本作へ対する情熱を軽視するものでした。
その後の配信では「今回発表した方以外についての出演は決定しておりません」とお伝えし直しましたが、あらいさんに出演いただきたいという思いが先走ってしまった私の至らなさとなります。
北島氏:
その後、イシイさんは現場でずっと「あらいさんに出演いただける方法が何かないか」と言い続けているんですね。あらいさんのために書いたシナリオでしたし……。
イシイ氏:
もともと用意していた脚本は当て書きで、あらいさんが活きるシナリオを北島さんに書いていただいていたものだったんですね。ですので、さきほどお話したビジュアル撮影をあらいさんが辞退されるとなったときから、新しい方に合わせてゼロからシナリオを北島さんに用意していただいたんです。『SSS』は群像劇ですから、あらいさんが演じるはずだったキャラクターが欠けてしまうと、シナリオをすべて書き直す必要があるわけで……。
すごく苦渋の選択を北島さんにしていただくことになってしまって……。北島さんに対しても本当に頭があがりませんし、申し訳ないという気持ちでいっぱいです。
あらい氏からの「主人公に序列を設ける脚本にリライトしてほしい」という要望は飲めなかった
── なるほど。そういった状況だったことから、支援者の方々に対して、制作側からあらいさんのことは言えなかったんですね。ただ、あらいさんに拒絶されても、制作側としてはどうにかしてあらいさんに出演していただきたいという思いが、いまもあると。
イシイ氏:
あらいさん側から「出演については発信しないでほしい」との依頼がありましたので、あらいさん側から発信があるまで、我々制作側からメッセージを出すことができなかったのですが……。じつは、北島さんが2026年4月28日の発表会以降に新しくあらいさん用のシナリオを書いてくださったんです。
北島氏:
もうひとり、プレイアブルキャラクターを作ろうと考え、新たなキャラクターのシナリオを用意しました。
イシイ氏:
発表させていただいた5名に勝るとも劣らない、たいへん魅力的なキャラクター、あらいさんに合わせたキャラクターを北島さんが新たに書いてくださったんですね。
この新しいキャラクター、シナリオを持って、もう一度あらいさんに「この役柄でご出演いただけないでしょうか」とご提案をさせていただいたのですが……結果としてはご納得いただくことが叶いませんでした。
あらいさんが声明でおっしゃっていた「ふたりの主演に戻してほしい」ということについて、誤解がないように説明をさせていただきたいのですが、冒頭でお話したように、それはプロトタイプ版の設定であり、本編では複数人のプレイアブルキャラクターによるシナリオを北島さんは想定していました。つまり、北島さんとしてはふたりのキャラクターだけが主人公のシナリオは想定していないわけです。
でも、あらいさんと最後にお話した際には「ふたりに戻してほしい」、「シナリオを書き直してほしい」というご要望でした。補足となりますが、この件について北上さんに確認をとりまして「プロトタイプではあらいさんと私が中心でしたが、本編は複数主人公の群像劇になると理解していました。ふたりをほかの主人公より上位に置く案には賛同していません」とご回答いただいております。
また、最終的なあらいさんの要望は「主演キャスト(あらいさん、北上さん)の下に、その他のプレイアブルキャストがいる構図でシナリオを書き直してほしい」ということだったんです。
主人公が並列の群像劇ではないシナリオでは、当初の「渋谷実写ADV」の理想とかけ離れたものとなってしまいますし、いままで1年以上かけて自身の最高傑作だという群像劇シナリオを書いていただいた北島さんに「主人公に序列を設ける脚本にリライト」というお願いをするわけにもいきません。
また、「『街』や『428』のような群像劇ゲームの感動をもう一度」とお約束していたこと、そしてこれまで支援者に示してきた制作方針とも両立しないことから、あらいさんのご要望を飲むことはできませんでした。

── 『街』は隠しシナリオがありますし、『428』も物語後半にプレイ可能になるキャラクターがいます。また、操作できないキャラクターの中にも、心に残る強烈な個性のキャラクターもいるわけで……。プレイヤー側からの意見を言わせていただくと、ゲームスタート時に選べるプレイアブルキャラクター、ゲーム発売前に発表されている主演はそこまで重要ではないというか。
イシイ氏:
最終的にはお客さまがほしいものを用意しなければいけないわけですが、お客さまと同様、私が作るべき「実写ADV」は『街』や『428』と同様に主人公が並列の群像劇であり、あらいさんにご出演いただいているものです。
ですので、北島さんといっしょに最後の最後まで、あらいさんから2026年6月10日に「交渉は不調となりましたことを確認させていただきました」とご連絡をいただくまで、「どうすればあらいさんにご出演いただけるのか」とずっと考え続けていました。
ただ、私たちとしては「群像劇の機能を制限する要望」ですとか、「主人公を並列に扱わないシナリオへ書き直してほしい」ですとか、そういった『SSS』という作品の本質自体が変わってしまうことはお受けできないわけです。
支援してくださっているお客さまたちといっしょに、もう一度、『街』や『428』のような群像劇で描かれる実写ADVの感動を共有したい。それが『SSS』の本質だと思っています。そこが否定されるような前提はお受けすることはできなかった。
「あらいさんの主演であれば『街』や『428』のような群像劇の本質に拘らないゲームでも良かった」という方々に対しては、私たちは平謝りすることしかできません。ですが、『SSS』にあらいさんに出演してほしいという希望を、私は最後まで、撮影の最終日まで諦めません。間に合うタイミングであればもちろん主演、つまりプレイヤブルキャラの可能性を探りたいですし、撮影最終日にでも間に合うのならワンカットだけでもかまいませんので、あらいさんの姿を『SSS』で描きたいと思っています。
── 制作側としては和解したいし、いつまでもあらいさんが出演できる門戸を開いているということですね。イシイさんもXで声明を出されていましたが、その中で「出演見送り」という言葉を使っていました。あらいさんは声明で「降板」と書かれてましたが、イシイさんは「出演見送り」と書かれていたのを拝見し、イシイさんがあらいさんのご出演を望まれていることが伝わったといいますか……。
イシイ氏:
「出演見送り」という言葉も「降板」も同じ意味ではあるのですが……「もしかしたら」という可能性を感じる言葉とさせていただきました。
改めてとなりますが、制作側としては、並列する複数主人公による群像劇という作品方針を維持し、双方が合意できる条件が整うのであれば、あらいさんの出演の可能性を閉ざしておりません。この声があらいさんに届くことを祈っております。(了)



