クラウドファンディングで目標額を達成したのに、集まった支援金がプロジェクト起案者に入金されない? そんな前代未聞のトラブルに、イシイジロウ氏が手がける『シブヤスクランブルストーリーズ』(以下、『SSS』)が巻き込まれている。
『SSS』は“渋谷実写アドベンチャープロジェクト”として2025年4月28日にクラウドファンディングサイト「うぶごえ」にて支援を呼びかけ、目標額500万円に対して達成率1095%、5475万4878円という金額を集めた。目標を大きく超え、サウンドノベルというジャンルに潜在的な市場価値があることも証明したのだ。
1095%!クラウドファンディング終了です。心から感謝です。この伝説を繋げていきます。#渋谷ADV #SSS #シブヤスクランブルストーリーズ https://t.co/ReN9RfaXKS pic.twitter.com/aPu9aRPG1H
— イシイジロウ (@jiro_ishii) July 25, 2025
プロジェクトの支援者数は3522人と、歴代でも類を見ない人数となっているのだが、2026年2月28日、イシイ氏より支援者向けに衝撃的な状況が伝えられた。
「皆様が託してくださった大切な支援金が、未だ全額プロジェクトチームに届いていないという遺憾な事態に直面しております。 私たちは皆様の想いを守るため、既に弁護士と協議を開始し、法的根拠に基づいた然るべき措置を講じております。一刻も早く支援金を全額回収できるよう、一切の妥協を排した厳しい姿勢で交渉を継続しております」
さらに、2026年3月28日には対外的に本事案が発表され、「うぶごえ」というプラットフォームのみならず、クラウドファンディング業界全体に大きな衝撃が伝わった。
クラウドファンディングサイト「うぶごえ」からの2700万円以上の入金遅延に関するご報告と、私たちの決意について…
— Shibuya Scramble Stories (@shibuya_adv) March 28, 2026
繰り返しとなるが、クラウドファンディングプラットフォーム「うぶごえ」からイシイ氏に対して支払いが行われていないというのだ。未払い金の総額はなんと2700万円以上になるという。
プラットフォーム側が起案者に支払いを行わないというのは前代未聞の出来事であり、クラウドファンディングという取り組みそのものを揺るがす事態となっている。
「うぶごえ」からなぜイシイさんに支払いが行われないのか? 『SSS』プロジェクトは継続できるのか? 支援者への対応は? クラウドファンディングの構造上の問題点、そしてクラウドファンディングは今後どうなっていくのか?
電ファミニコゲーマーは3月28日にイシイ氏へ取材を打診。弁護士同席のもと、イシイ氏にトラブルの現状を聞いた。

──3月28日の声明に驚きました。状況をわかっていない方も多いと思いますので、イシイさんがいまどんなトラブルに巻き込まれているのか、改めて詳細を教えていただけますか。
イシイジロウ氏(以下、イシイ氏):
順を追ってお話します。まず「うぶごえ」にて、クラウドファンディングが2025年の5月28日にスタートしました。おかげさまで1時間で500万円の目標を達成し、最終日の2025年7月25日にトータルで5475万4878円の支援をいただくことができました。
集まった支援金については、プロジェクトオーナーであるストーリーテリングに、2025年9月1日に全額振り込まれるというのが「うぶごえ」でのルールでした。ですが、支援金が当日に振り込まれなかったんですね。そこで「うぶごえ」の担当者に連絡したところ「把握していない」と。担当者の方も寝耳に水だったようで、存じ上げていなかったんですね。
2025年9月2日に「うぶごえ」を運営する、うぶごえ株式会社 代表取締役社長の岡田一男さんにお電話したところ、「誤って別の取引先に振り込みをしてしまった。そのため、振り込みは9月16日まで待ってください」との返答をいただいたんです。僕としては本当に驚くとともに慌てて、「全額でなくていいので振り込んでいただけませんか」とお伝えしたところ「300万円なら……」ということで、その場で確認しつつ振り込んでいただきました。それが1回目にお支払いいただいたときの話です。
──「1回目」ということは、その後数回に分けて、一部入金があったのですね。
イシイ氏:
はい。その後、2025年9月8日に代表の岡田さんに直接お会いし、「2025年9月16日までに全額お支払いいただく」と覚書を書いてもらったんです。顧問弁護士に相談したところ「個人保証は必ずとってください」と言われていたので、連帯保証含めて、個人名と会社名に押印いただいて、「16日に全額支払います」という覚書をもらいました。
……ただ、結果的に9月16日までに600万円しか振り込まれなかったんですね。そのときに岡田さんが「ひと桁間違えて振り込んでしまったお金が戻ってきていない」という話をされたんです。これは緊急事態だと思い、スケルトンクルースタジオ【※】の顧問弁護士である、笠木先生にご相談させていただいたんです。
※Skeleton Crew Studio(スケルトンクルースタジオ):京都を拠点に、ゲーム、VR/AR、インタラクティブコンテンツなどを多国籍なチームで企画から実装まで手掛ける開発スタジオ。『SSS』開発支援パートナー。『SSS』はクラウドファンディングの反響の高さが功を奏し、プロトタイプの制作を待つまでもなくゲームの正式開発が決定。2025年7月、正式開発の支援パートナーとして、スケルトンクルースタジオと街開発などを行う東急不動産が就任することが発表された。
笠木貴裕氏(以下、笠木弁護士):
電羊法律事務所の弁護士の笠木貴裕です。スケルトンクルースタジオの顧問弁護士を担当しておりまして、スケルトンクルースタジオの立場ではございますけれども、イシイさんの案件にいろいろと関わっているということでご相談を受けました。
──笠木さんは今回の「うぶごえ」さんの対応について、イシイさんから相談を受けたときにどう思われたのでしょうか?
笠木弁護士:
スケルトンクルースタジオは『SSS』の開発支援パートナーという立場なのですが、イシイさんの顧問弁護士の方が対応が難しいということで、ご相談をいただきました。
スケルトンクルースタジオの村上雅彦代表取締役社長に「もし『SSS』の開発で揉めた場合に、今回イシイさんの代理人として僕が付いてしまうと、開発紛争でスケルトンクルースタジオの代理人として立てなくなる可能性がありますけど大丈夫ですか?」と確認させていただいたところ、「大丈夫だから、イシイさんを助けてほしい」とご回答いただき、今回の案件をお受けさせていただきました。
──なるほど。9月16日以降は笠木さんがイシイさんといっしょにこの問題に立ち向かうことになったわけですね。
イシイ氏:
誤振り込みをしてしまったのでお金がない、ということだったので、2025年9月17日に笠木先生といっしょに「うぶごえ」さんを訪ねまして、岡田社長に「入金ミスをした口座を見せてほしい」とお願いしたんです。ですが、「いや、見せられません」、「見せてくれないと困ります」、「いや、見せられません」と押し問答になりまして……。
笠木弁護士:
話し合うというよりは、ただただ押し問答をずっと繰り返す、という感じでした。
──かたくなに誤振り込みの証拠を見せてくれなかったのですね。
笠木弁護士:
「口座を見せられないのであれば、誤振り込み先を教えてください」、「銀行に誤振込であることを伝えて組戻しの手続きをしてください」、「先方にいま電話してください」とお願いをしました。電話をかけようとはしていただいたのですが、電話番号を間違えたり、かけてもつながらなかったりなど、埒が明かなかったんです。
イシイ氏:
とはいえ、こちらも引き下がるわけにもいかないので、引き続き「口座を見せてください」とお願いをくり返しました。「誤振り込みなのであれば対応すればお金は戻りますし、そうじゃないのであれば、言っていただかないと困ります」と。「ちゃんと見せてください」とお伝えしたんですね。
笠木弁護士:
それでも見せていただけなかったので、「弁護士の私は見ないので、イシイさんが見る分にはいいでしょう。私は見ないのでイシイさんに見せてください」と説得をくり返しました。
イシイ氏:
紆余曲折の末、ようやく口座を見せていただくことになりました。ただ、大事なところ、数字の部分を紙で隠されていて……。「これじゃ見えません。紙を動かしてください」とお願いしたときに、数字全体は見えなかったのですが、下部分のカンマが見えたんですね。カンマの数を数えると金額感がわかりますから、そこで「誤振り込みは虚偽だ」と確信したんです。
その後、笠木先生と相談して「分割で支払ってください」というお話をして、公正証書を作成することにしたんですね。
笠木弁護士:
公正証書を作るとなると1~2ヵ月ほどかかるので、作成までの期間もお支払いを継続してください、とお願いしました。毎月5日と15日に500万円、20日に100万円(土日祝の場合は翌日)を支払うというお約束です。
「うぶごえ」さんの顧問弁護士にも確認いただいたうえ、2025年11月4日に公証役場で公正証書を作成しました。2025年12月以降は毎月21日に350万円をお支払いいただくことで同意をいただいたのですが、現在までにお支払いいただいた総額は2700万円です。
笠木弁護士:
「誤振り込みをした」という話ですが、誤送金が発生した場合、通常であれば金融機関に対して「組戻し」の依頼をしますので、事実かどうかは怪しいと思っていた状況でした。さきほどイシイさんからお話がありましたとおり、先方にいっしょに訪問した際、誤振り込みではないということが確信に変わりましたが、その場で公正証書の締結には至らず、いったん持ち帰って後日公正証書を作成したという流れです。
── 状況はわかりました。イシイさんは今回、どういったスタンスで現状を公開しようと考えられたのですか。
イシイ氏:
「2026年4月28日からクラウドファンディング第2弾を行います」というお約束を、支援者の方と結んでいたんですね。つまり、当初はもう一度クラウドファンディングを「うぶごえ」さんとやる予定だったわけです。ただ、この問題が発生してしまった以上、第2弾のクラウドファンディングを行うにあたって、支援者の方に「今回は『うぶごえ』さんを使いません」と説明しなくてはならない。
そのため状況を発表せざるを得なかったんですね。もしクラウドファンディング第2弾を実施しないのであれば、こういった公開は行わなかったかもしれません。
── イシイさんはクラウドファンディングが世に出始めた2014年、“Kickstarter”(キックスターター)にてアニメ作品『Under the Dog(アンダー・ザ・ドッグ)』【※】プロジェクトを立ち上げ、当時アニメ史上最高額の出資を集めたじゃないですか。つまり、クラウドファンディングについて、ゲームクリエイターの中でも深い知見を持っていらっしゃると思うんです。これまでクラウドファンディングはプロジェクトオーナー側の問題はいくつか事例がありましたが、プラットフォーム側が問題を起こすというのは前代未聞ですよね?
※アンダー・ザ・ドッグ……2014年、アメリカのクラウドファンディングサイト“Kickstarter”で出資を募ったアニメ制作プロジェクト。原作をイシイジロウ氏、監督を安藤真裕氏、キャラクターデザインをコザキユースケ氏が務めた。
イシイ氏:
「お客様からの支援金はお預かり金」というイメージで捉えていました。実際、規約上は銀行のように預かっているわけではなく、一度クラウドファンディングプラットフォーム会社が売上として計上します。預かっているお金は、手数料を引いて私どもにそのまま渡るわけですが、「うぶごえ」さんの場合は手数料が外にある形になっています。
「うぶごえ」では、プロジェクト起案者の手数料は0円です。一方、支援者は決済ごとにシステム利用料を負担する形となります。この仕組みによって、「うぶごえ」では起案者が集まった支援金の全額を受け取れるようになっていたわけです。ですので、「うぶごえ」さんが集まったお金を触るってイメージはまったくなかったんですね。

──改めての確認となりますが、 本件においてイシイさんは何か特別なことをやっているわけではないわけですよね。これまでのクラウドファンディングと比較してもそうですし、「うぶごえ」で募集されている別プロジェクトと比べてもそうですし。
イシイ氏:
通常のクラウドファンディングと何ら変わりのないプロジェクトです。支援者からお預かりしたお金をそのままお渡しいただけるということでしたので、入金されないという事態はまったく想像していませんでした。
ただ、資金を預かる仲介業者(「うぶごえ」)がお金を使ってしまったことに対する罰則や規約のようなものがないということは、今回気づいたことではありました。私たちの確認不足もあるかもしれませんが、仕組みが悪用できてしまうことにとても驚きました。
笠木弁護士:
クラウドファンディングに対して、支援者が「うぶごえ」に振込み、「うぶごえ」がプロジェクト起案者に支払うというように、「うぶごえ」が銀行のような立ち位置だと捉えている方も多いかもしれません。
ですが、実際の契約はそうはなっていないんですね。あくまでも支援者とプロジェクト起案者とのあいだに契約があり、その契約に基づくお金をプロジェクト起案者の代わりに「うぶごえ」が受け取るというイメージです。
──クラウドファンディングは、いわゆる金融業的なものではないということですね。支援者からの出資金は企業側の売上となり、プロジェクトオーナー(起案者)に対して、契約に基づく支払いを行う、と。売上と支払いが別々の契約で成立しているといいますか。
笠木弁護士:
法的に言うと収納代行になります。わかりやすい例で言えば、コンビニで電気代を払うとか。あれとまったく同じなんです。要はプロジェクトに賛同した支援者が「うぶごえ」に支払った時点で、支援者としてはイシイさんに支払ったことになります。あとは収納代行会社である「うぶごえ」とイシイさんとのあいだで契約に基づいて金銭の支払いが発生するという流れになっています。
収納代行は資金移動業ではないと整理されているので、当然ながら法的に違法性はありません。今回の場合は支援者がお金を支払った時点でイシイさんに払ったという扱いになるので、支援者の保護という観点は発生しないんです。ですので、「うぶごえ」からイシイさんに支払いがなかったからといって、イシイさんは返礼品、リワードを渡さなくていいということにはならないんです。

──支援者は「うぶごえ」ではなくイシイさんに対して支払っているので権利を持っており、イシイさんは実際にはお金をいただいていなくても、対応する必要があると。
笠木弁護士:
そうです。それが収納代行です。
──それは恐ろしいですね。支援者はお金を支払った。起案者はお金をもらっていない。でも、支援者へのリワード対応などの責任は起案者にある。収納代行である「うぶごえ」は責任を問われないということですよね。こんなことが起こるなんて想像できませんから……。
イシイ氏:
2025年8月、我々がこの問題を確認したあとでも、ある程度大型のプロジェクトが「うぶごえ」で立ち上がっていました。支援金が5000万円以上あったのに起案者には300万円しか払えません、という状態の中で「うぶごえ」が運営を続けていたことには恐ろしさを感じます。
──3月28日のイシイさんからの発表やこの記事が公開された時点で、ほかのプロジェクトの問題も表面化しそうですね。ちなみに、一般的に収納代行会社が支援者から預かったお金を起案者に払わなかった場合、どうなるものなんでしょうか?
笠木弁護士:
決済代行会社の破産事例はあるようです。プロジェクトオーナーが持ち逃げするケースはこれまでにもあったようですが、クラウドファンディング業者が持ち逃げするというケースは、私は把握しておりません。
──債権というか、負債みたいなものをプロジェクトオーナーが背負わなければならないのはなぜなのでしょうか?
笠木弁護士:
規約には「支援者とプロジェクトオーナーとのあいだに契約が成立します」と書かれています。個々のプロジェクトを支援する画面で、リワードの内容や引き渡し時期等が定められています。
法的なことはサイト上の利用規約等に記載されていて、その内容で成立するという形です。利用規約が支援者とプラットフォーム、プロジェクトオーナーの三者間になっているので、三者とも規約に同意しているということになります。
イシイ氏:
収納代行会社が起案者にお金を払わなかったときに対する保証がないことが問題なんですよね。これまで一度もそういった問題が発生していなかったため、規約内容を疑問視することがなかったわけですが……。
──今回の件は日本のネット史を揺るがす話だと感じています。根本的な信用が崩れて、クラウドファンディングそのものに対する疑惑や見直しみたいなものをやらざるを得なくなるのかなと。プロジェクトオーナー側としては、規約が変わらない限り、怖くてもう使えないですよね。支援者側も「お金を払ってもあいだに入っている会社に持ち逃げされる危険がある」という認識になるわけですし。
笠木弁護士:
法的にはこれまでにも起こり得たリスクではありました。
イシイ氏:
「クラウドファンディングはこれだけリスクがあるものだ」ということを自覚していなかった僕にも責任があると思います。
──いやいや、イシイさんは完全な被害者ですよね。
イシイ氏:
僕自身、収納代行会社が持ち逃げしたときに、プロジェクトオーナー側が責任を被るということをわかっていなかったというか、性善説的に動いていたということです。
──これまでのお話でイシイさんが置かれている状況がよくわかりました。まずは支援金を最大限回収したいというお気持ちですよね?
イシイ氏:
お客様から預かった大切なお金だと思っていますので、法的にどうというのは置いておいて、心情的には「うぶごえ」さんから回収することを諦めていません。
もう一点大事なことは、つぎのクラウドファンディングを約束していたということです。制作参加型のエキストラをはじめとする各種リワードについては、少ない参加枠しか提供できなかったので、「次回はたくさんの参加枠を提供します」とお約束をしていました。
ただ、今回の問題を受けて、既存のクラウドファンディングプラットフォームではリスクがあるため、利用できないという判断となりました。そこで、スケルトンクルースタジオさんといっしょに独自のクラウドファンディングの仕組みを作り、そちらでお約束を守ろうと思っています。
僕自身、クラウドファンディング自体の理想については、すごく賛同しています。10年前にキックスターターが始まったときに、「これはすごい仕組みだ!」と思いました。資本に関係なく、ファンの皆様からクリエイターに直接支援をいただいてクリエイティブを作れるというのは、本当にすごい可能性を持っていると思っています。
キックスターターが始まったときは、プロジェクトオーナーがお金を持ち逃げしたり、何億円も集めながらも実現できないプロジェクトがあったり、制作された作品のクオリティが低かったりと、いろいろな問題がありました。
ですが、それから10年以上が経過して、ゲーム制作に何十億円も集めるようなプロジェクトは消えていきました。丁寧なリメイクのプロジェクトや移植プロジェクトなど、地に足をつけたものが出てきたことで、クラウドファンディングは持続可能な理想のシステムだと感じていたんですね。
そんななかでこういうことが起こってしまったのは非常に残念でなりません。ただ、クラウドファンディングの理想自体は守っていきたいという気持ちがあります。クラウドファンディングプラットフォームは、こういった問題を解決していってほしいし、安心して使える形にしてほしいですね。
そういった考えから、第2弾のクラウドファンディングは自分たちでやることにしました。仲介会社を通さずに直接お金が入ってくるので、このお金がどこかに消えることはありません。
──リワードの責任がイシイさんになってしまう点について、支払いがない状況ですが、問題はないのでしょうか?
イシイ氏:
現状、物理的なリワードに関しては、すべて対応が終わっています。制作参加のリワード、体験版の先行配信やクレジットへのお名前の掲載、一部の出演権などについてはゲームを開発していく中で対応を行わせていただきます。
問題はクオリティアップに使わせていただくための予算についてです。支援金総額5500万円のうち、2700万円以上が「うぶごえ」さんから支払われておりません。回収ができない可能性もありますが、クオリティアップは支援者の皆様とのお約束ですから、お金がなくても「やる」としか言いようがありません。
──「うぶごえ」からの未払いによって 『シブヤスクランブルストーリーズ』自体がなくなってしまう、ということはないんですよね?
イシイ氏:
はい、それはありません。発表しているとおり、東急不動産さんの支援をいただいたことで、本プロジェクトの実現は確定しているので安心してください。
──ちなみに、今回の件を東急不動産に説明された際、どのようなリアクションだったのでしょうか?
イシイ氏:
スケルトンクルースタジオさんからお話いただいたのですが、ありがたいことに事情をご理解いただいて、今回の件を受けて撤退することもない、とうかがっています。
──今回の事件を受けて、「未払いが発生したときの保険をセットにする」ですとか、「規約を変える」ですとか、クラウドファンディングが変わる形になるのでしょうか。
笠木弁護士:
個人的な見解となりますが、「クラウドファンディング業者の法的な要件を厳しくしましょう」という方向には行ってほしくないと思っています。たとえば、「資金移動業」だと整理されてしまうと、現在のクラファン業者のほとんどが資金面が理由でクラウドファンディングを行えなくなってしまう可能性が高いからです。
まずは、この件を受けて、クラウドファンディング業界での自主的な動きに期待をしたいです。おっしゃるような保険を作るというのも、ひとつの解決法なのかもしれません。
──オンラインの事業決済だったり、新しい仕組みに対しては一部法律で対応している分野があるにも関わらず、クラウドファンディングはある種、見過ごされていたのかもしれませんが、ここまで来てしまった理由は何なのでしょう?
笠木弁護士:
収納代行という業態が昔からあったから、というところが理由のひとつだと思います。収納代行自体が資金移動業だと言ってしまうと成り立たなくなってしまうので、そういった、ある種歴史的な話もあるのかなと思います。
──2月28日にイシイさんから支援者へメッセージを送られたとうかがいましたが、どのようなリアクションがあったのですか?
イシイ氏:
とくに大きなものはありませんでした。「今回の件はまだ内密にしてください」ということも記していましたので、SNSなどの外部に漏れることもありませんでしたね。皆さん、本当にすばらしいお客様だなと改めて感じました。
──3000人以上に伝えて表に出なかったというのはすごいですね。
イシイ氏:
「うぶごえ」のサイトにメッセンジャーのような機能があるのですが、そこに「こういうこともあるでしょう、応援します」というメッセージをいただきました。あとは「職業上、金銭の取扱いにおいて一抹の懸念がある団体と関与できないため、返金は求めないのでクレジットについては載せないでほしい」というご連絡もいただいて……。いずれも冷静なご意見をいただきました。
……ただ、本当に怒りを共有せざるを得ないというか、悔しいという思いがあります。同時に、このプロジェクトを高いクオリティで実現して「あのときは本当に悔しかったけど、よかったね」と言えるように成功させないといけないと思っています。
──この状況を踏まえて、今後についてお聞かせください。まず、さきほどお話があったように、2回目のクラウドファンディングを実施されるんですよね。
イシイ氏:
1回目のクラウドファンディングでは、本来用意したいリワードのすべてを準備できなかったんです。この点については「もっとたくさん支援したい」というリクエストを当初からいただいていました。ですので、前回のクラウドファンディングが終了するときに「次回、2026年4月28日からスタートする第2弾クラウドファンディングにて、人気があるリワードを改めて募集します」と発表していたんですね。
目立つものでいうと、「ネームドキャラ出演権」や「エキストラ出演権」、あとは「Tips執筆権利」や「ゲーム内命名権」などです。これらはすごく人気が高く、10倍以上の抽選確率だったんですね。「来年もう一度クラウドファンディングをやりますので」とお約束していたので、4月28日からのクラウドファンディング第2弾で実施予定です。
そのほか、今回新たに出てくるキャラクターに関連するものやグラフィック、マスコットキャラクターなどの新たなマテリアル、それとノイジークロークさんと協力した音楽周りについても予定しています。たとえば生録音の見学権とか、楽譜とか、そういったものについてもリワードとして準備している、というのが第2回のクラウドファンディングになります。
──かなり豪華ですね。
イシイ氏:
エキストラ出演リワードも大人気だったので、さらに100名募集します。また、4月28日にはゲームのさらなる情報についても発表する予定です。
──楽しみにしています。あと、これまでイシイさんはとても冷静に、理性的に話をされているという印象なのですが、最後に少しだけでも心情を吐露していただければと思います。また、改めて支援者の方々へメッセージをお願いしたいです。
イシイ氏:
支援者の皆さんの気持ちで考えると、いちばんの感情は「私たちのお金はどこに行ったんだ?」という怒りだと思います。プロジェクトオーナー側としても「自分たちのお金が?」ではなく、「お客様のお金がどこに消えてしまったんだ」と感じており、素直な感情として腹立たしくて仕方がありません。
僕らに支援金が渡ってからお金が消えたのであれば「制作費がなくなってしまった」という捉え方ができますが、その前の段階でなくなってしまったため、「お客様のお金が盗まれた」と感じていて、その怒りがすごくあります。
クラウドファンディングは「ビジネスっぽく見えていながらビジネスではない」というところがすばらしいと感じていました。返礼として出演者を招いてのお茶会を実施したときには、役者さんとお客様とのコミュニケーションも含めて、ビジネスでやっていたらできない「場」が用意できたんですね。お客様が応援してくれているという感覚をより強く感じられるというか、利害関係のないボランティア感があるというか。同じ目標に対して、お互いが「お金じゃないんです」といった気持ちを持っているところが、クラウドファンディングのすばらしさのひとつだと思っています。

イシイ氏:
クラウドファンディングがうまく回っていたときは、クリエイターとして「いただいたお金以上のことを少しでもお返ししよう」という思いに純粋に向き合っていました。今回の「うぶごえ」さんの対応は、その素敵な時間、支援者の方々とつながった素敵な時間を汚されたという気持ちがすごくあります。
じつは、この件は役者さんにしばらく話せていなかったんですね。2026年2月28日にお客様にお伝えする手前になって、ようやくお話できたんです。少数で内密に対応していた案件のため、役者さんに言えないことが本当に辛かったんです。
もしかしたら「うぶごえ」さんから全額回収できるかもしれない、約束の日に払われなかったけれども「10日後に払います」と連絡がくるかもしれない。そんな気持ちでずっと過ごしていました。お客様と役者さんたちに悲しい思いをさせたくないということで、ずっと「うぶごえ」さんを信じていたのですけど、その約束は何度も破られてしまいました。
最終的に、2月28日に公表せざるを得なくなってしまったときに、出演者の方々ひとりひとりに説明をしたのですが、「大丈夫ですか?」、「できることは逆に何でもしますよ」と言ってくださって……。本当にその言葉のひとつひとつがうれしかったです。
『シブヤスクランブルストーリーズ』をどうやってもう一度盛り上げるのか。いまはずっとそのことを考えています。4月28日からスタートするクラウドファンディング第2弾で、「こんなことでは『シブスク』は終わらないぞ」、「僕たちが夢見たものを絶対に実現させるぞ」と、未払いなんかで潰されないという気持ちで進んでいきます。
僕らにとって2700万円という額は大きいですが、支援してくださった方々の1万円、10万円のほうがはるかに大きいと思っているんですね。「出資してよかったな」と感じていただけるクリエイティブにするしかないですから、そこを目指して一生懸命、努力していきます。
クオリティについては、「自分たちが倍働けば埋められる」という気持ちで邁進します。4月28日からのクラウドファンディングでも制作費を集めはしますが、さらなる応援といいますか、気持ちの部分を伝えていただければこんなにうれしいことはありません。お客様からの気持ちを送っていただけることで、僕らも悔しさをバネにできると思います。
皆さん、ぜひ『SSS』を応援してください。ひと言でいいので、SNSで応援のメッセージをつぶやいてください。応援の言葉が広がることによって、役者さんを含めて凹んだ部分をやる気に変換できると思っています。
「ファンからクリエイターに直接支援いただき、クリエイティブを作れる」。
イシイ氏が話したように、本来クラウドファンディングは、ファンとクリエイターがともに同じゴールを向いて、コミュニケーションを取りながら進めていくという、理想のプラットフォームである。
だからこそ世界的な広がりを見せ、数多くのクリエイティブをクラウドファンディングは生み出してこれたのだ。
しかし、今回イシイ氏が巻き込まれた事件により、クラウドファンディングがこれまで築き上げてきた信頼は失われてしまった──。
クラウドファンディングは、これまでもさまざまな問題が生じてきたが、それは支援金が起案者に渡ったあとの話であり、プラットフォーマーが預かったお金を起案者に渡さないというのは前代未聞であり、クラウドファンディングの仕組みそのものの是非を問う問題だ。
「うぶごえ」がなぜ支払いを行わないのか。残念ながら「うぶごえ」側の主張はわからないままではあるが、イシイ氏は引き続き法的根拠に基づいた然るべき措置をとると明言されているので、今後の動向に注目したい。





