ゲームでも体験型エンタメでも、つい「自由度が高いほど面白い」と考えてしまいがちだ。だが、謎解きやイマーシブシアター、マーダーミステリーといった、参加者自身が物語の世界に入って選択し、行動する「体験型エンタメ」の作り手たちが語ったのは、むしろその逆ともいえる考え方だった。
「基本的には一本道で考える」。小説家であり、体験型ゲームの制作者でもある河野裕氏はそう語った。
『FGO×リアル脱出ゲーム』などを代表作に持つ謎解きゲームのシナリオライター・平井真貴氏は、分岐やマルチシナリオがかえって参加者の不満につながる場合があると明かす。
イマーシブシアターのクリエイティブチーム・ムケイチョウコクの今井夢子氏も、参加者と自由にやり取りするためには「最初が肝心」だと強調した。
では、作り手たちは参加者の自由と、伝えたい物語をどのように両立させているのか。
2026年10月2日に東京・御茶ノ水の「オチャノバ」で開催された「SIG-体験型エンタメ ミニセミナー VOL.4『体験型エンタメのシナリオ』」の模様をレポートする。
本セミナーは、国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の体験型エンタメ部会(SIG-体験型エンタメ)が主催し、日本出版販売が共催したもの。SIG-体験型エンタメは、体験型・参加型エンターテイメントの製作者同士の交流と、知見・情報の共有をミッションとする部会だ。
司会を務めたのは、SIG-体験型エンタメの正世話人で、エレメンツのゲームデザイナーでもある石川淳一氏。ゲストは、ムケイチョウコクの全作品で構成脚本と共同演出を担当する今井氏、『歌舞伎町 探偵セブン』なども手がけた平井氏、『サクラダリセット』で知られ、ARG『3D小説 bell』やマーダーミステリーも手がける河野氏(オンライン参加)の3名。ゲストごとの講演ではなく、4つのテーマを軸に3名が意見を交わす形式で進行した。

体験型エンタメは「参加者が何者か」から始まる
最初のテーマは、「映画や小説、演劇といった直線的に進む物語と、体験型エンタメとでは、設計の考え方や物語の書き方がどう違うのか」というものだ。
今井氏がまず挙げたのは、参加者が「何者としてその場にいるのか」を明確にすることの重要性だった。観客が客席から舞台を眺める通常の演劇とは異なり、イマーシブシアター(観客が舞台空間の中に入り、物語の一員として体験する演劇)では、観客もまた作品世界の中に存在している。
参加者がなぜその場にいて、どのような立場で物語に関わっているのか。その設定に納得感を持たせることが、シナリオを作るうえで欠かせないのだ。
また今井氏の場合、使用する場所が先に決まり、そこから物語を考えていくことも多いという。そのため台本も、セリフを頭から並べる形式にはならない。会場、参加人数、チケットの種類ごとの体験、キャラクター設定、各シーンで起きる出来事などを整理したうえで構築していくことになる。
作品によってはセリフを書かず、「ここでこの人物が何をするか」だけを指定するケースもある。さらにキャラクターごと、時間ごとの進行をまとめた表も必要になるため、資料の量はかなり多くなるそうだ。

一方、河野氏は、体験型エンタメではユーザーの能動性そのものが企画のコアになることが多いと説明した。重要なのは、単に大量の選択肢を用意することではない。
ユーザーが自然に「こうしたい」と思うモチベーションを作り、その行動に物語の側が応えているように感じさせることだという。

平井氏もまた、謎解きゲームの大きな特徴として「自分自身が主人公になる」ことを挙げた。参加者は本人として参加する場合もあれば、「高校生」や作品世界の一員といった設定を与えられる場合もある。
その設定をどこまで自然に受け入れてもらえるのかを見極め、体験の途中でも「自分ならこんなことはしない」という違和感を生じさせないこと。それが没入感を維持するポイントになるのだ。

「なぜ、この謎を解くのか?」 ミッションと物語をつなぐ“見立て”
ふたつ目のテーマは、「プレイヤーのミッションを物語と連動させるとき、あるいは連動させなければいけないときに気をつけていること」だ。ここで、普段から謎解きを中心に制作している平井氏が挙げたのが、「見立て」という考え方である。
たとえば単純に暗号を解かせるだけでは、プレイヤーにとっては突然ゲーム的な問題が出てきたように感じられてしまう。しかし、物語上の状況や目的に置き換え、「なぜこの作業を行う必要があるのか」という理由を与えれば、同じ仕掛けでも物語の一部として受け止めてもらいやすくなる。
とくに終盤の「大謎」(謎解きゲームの最後に待ち受ける、解けば結末にたどり着く大きな謎)は、物語の設定そのものを利用することでバリエーションを作ることができる。
ただし、見立てをやりすぎると、今度は純粋な謎解きとしての面白さが失われてしまう。物語との一体感と、謎そのものの面白さ。そのバランスの見極めが欠かせないという。
河野氏が指摘したのは、ミッションを物語と連動させる以前の段階として、企画とプレイヤーのあいだに信頼関係を作る必要があるということだ。例として挙げられたのが、プレイヤーがボットと会話するコンテンツである。
最初に「こんにちは」と入力してもまともな返事が返ってこなければ、プレイヤーは「決められた言葉にしか反応しないもの」と判断し、その後は自由に話しかけようとしなくなる。
後半で自由なやり取りを面白さとして使いたいなら、序盤の段階から「この世界は自分の行動に応えてくれる」と信用してもらう必要があるというわけだ。
その信頼関係を作ったうえで、キャラクターの動機とミッションに矛盾が生まれないよう設計していく必要がある。
一方、今井氏が活動するイマーシブシアターでは、そもそも「ミッション」という言葉で捉えないことも多いという。キャストとのやり取りのなかで出来事が起きるため、キャストと参加者の関係性から、その行動をする必然性が生まれているかどうかが問われるのだ。
ただ「これをしてください」と指示して終わるのではなく、それを行うことで誰がどう変わるのか、次に何が起きると期待できるのか。あるいは選択を迫るなら、簡単には答えられないほどの葛藤を、それまでの体験で積み上げておく。
そうすることで、参加者の行動そのものをドラマにできると今井氏は語った。
自由度は高ければいいわけではない。「一本道」だからこそ生まれる体験
3つ目のテーマは、「参加者の自由度と、伝えたい物語のコントロールをどう両立させているか」だ。これに対して河野氏は、意外にも「基本的には一本道で考える」と説明した。
重要なのは自由度を増やすことではなく、プレイヤーが「なぜこの行動しかできないのか」とストレスを感じないことだ。不自由さが生まれるのは、ユーザー自身のモチベーションと、物語の側が取らせたい行動とが食い違うところである。
そのため、基本となる流れは一本にしつつ、参加者によって判断が分かれそうな場所だけに幅を持たせているという。企画全体を自由にするのではなく、会話のように「ここは自由であること自体が面白い」という場面だけに自由度を持たせるというわけだ。
河野氏は、マーダーミステリー(参加者がそれぞれ登場人物を演じ、会話を通じて事件の真相を探る体験型ゲーム)のエンディングについても、興味深い考え方を示した。複数の選択肢から結末を選ばせることすら、場合によってはユーザーを決められた箱へ押し込める「不自由」になるというのだ。
そこでキャラクターの将来を物語の側で決めてしまうのではなく、周囲で何が起きたのかだけを提示し、その先を参加者自身に想像してもらう。その方が、エンディングではより大きな自由を残せるという。
今井氏も、イマーシブシアターでは自由な会話をシナリオだけですべて制御することは難しいと語る。実際に俳優と稽古を重ね、どんな反応が来てもキャラクターとして対応できるようにしていく必要があるのだ。その際、どれだけやり取りが揺らいでも戻ってこられるよう、キャラクターや物語の「芯」や「軸」はテキスト上にはっきりさせておくという。
また、参加者が世界観から逸脱しないためには「最初が肝心」だとも語った。序盤から少しずつ世界のルールを体験させ、参加者とのあいだに暗黙の合意を作っておく。そうすれば、その後に自由なやり取りを許しても、大きく外れにくくなるのだ。
ふたつ目のテーマで河野氏が語った「序盤で信頼関係を作る」という話と、構造は同じだといえるだろう。
謎解きの場合、平井氏の答えはさらに明確で、むしろ自由度を削ることが重要だという。参加者を迷わせる要素を「ノイズ」と捉え、今どこに集中すればいいのかが自然に伝わるよう、余計な情報を削っていくのだ。
議論は「分かりやすい体験である必要はあるのか」という話にも広がったが、ここで平井氏が指摘したのは、体験型エンタメならではの制約だった。
謎を解いたり歩いたりしながら物語を受け取る体験型エンタメでは、座って作品を見る場合に比べて、一度に理解できる情報量そのものが少ない。
そのため作り手が考えている以上に、物語を理解するハードルは高くなるという。
平井氏によれば、分岐やマルチシナリオを作りたくなることもあるが、それは参加者に必ずしも好まれない。1回数千円を払って参加する謎解きの公演では、「自分が見られなかったルートが存在する」こと自体が不満につながる場合もあるのだ。
自由度を高めることが、そのまま満足度の向上につながるわけではない。
シナリオは「誰が作品を立ち上げるのか」まで考えて書く
最後のテーマは、「体験型エンタメのシナリオや物語を書こうとしている人に向けてのアドバイス」だ。
今井氏が挙げたのは、観客だけではなく、そのシナリオを実際に立ち上げる人のことまで考えて書くことである。演劇の戯曲であれば、それを読む演出家や俳優が存在する。体験型エンタメでも同様に、演劇の俳優が演じるのか、GM(ゲームマスター。ゲームの進行役)のような役割を持つ人が運用するのかによって、同じテキストでも求められるものは変わる。
参加者にどう届けるかだけではなく、その前段階で作品を作るスタッフにどう届けるかを意識すべきだと話した。
河野氏は、まず「この企画で絶対に壊してはいけないコアは何か」を把握することを勧めた。制作を進めていると、目の前の問題を解決するためのアイデアを思いつくことがある。
しかし、その部分だけを直した結果、作品全体の魅力を損なってしまうこともある。企画の根に何があり、そこからそれぞれの要素がどう枝分かれしているのかを、常に意識することが大切だという。
平井氏は、謎解きのシナリオについて「伴走型でなければ難しい」と語った。すべての謎やゲームシステムが完成した後に「ここにいい物語を付けてほしい」と依頼されても、両者をきれいにつなげるのは簡単ではない。そのため、できる限り早い段階から、シナリオとゲーム設計を一緒に作っていくことが望ましいという。
そして実制作では、壮大なプロットを考えること以上に、参加者が余計なことを考えてしまう原因をひとつひとつ取り除く作業に重きを置くべきだと語る。3つ目のテーマで語られたとおり、体験中に受け取れる情報量には限界がある。
必要な情報が確実に伝わるよう「枝葉を刈り取る」ことが、最終的な満足度にもつながると平井氏はまとめた。
演劇、小説、マーダーミステリー、謎解き。異なる分野で活動する3名の話は、切り口こそ違うものの、同じ方向を向いていた。参加者の自由は、選択肢を増やせば生まれるものではない。何者としてそこにいるのかを定め、序盤で世界との信頼関係を築き、余計なノイズを削る。
そうした設計の積み重ねがあって初めて、「自分で選び、自分で動いた」という実感が生まれるのだ。体験型エンタメのシナリオとは、物語を書く仕事であると同時に、参加者の行動や感情まで含めた体験そのものを設計する仕事なのだと実感させられるセッションだった。
今回で4回目を迎えた「SIG-体験型エンタメ ミニセミナー」。現時点では次回開催についての案内は出ていないが、今後はどのようなテーマが取り上げられるのか、引き続き注目していきたい。













