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「懐かしいものは猛毒。ラクしてインプットできてしまうから」── 青春クリエイターアニメ『ぼくたちのリメイク』作者に訊く、クリエイティビティの源泉となる「好奇心」を維持する方法とは

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代打で書いたシナリオから始まった、シナリオライター人生

──そこから次はシナリオライターのお仕事をなさっていますが、これはどういうきっかけだったんでしょうか。

木緒氏:
 当時、タイトル画面やロゴ作成、UIの調整みたいな「同人ゲームの面倒くさいところを全部やります」みたいな仕事を仲間内で請け負ってたんですよ。そのうち、ご縁があって美少女ゲームメーカーさんからもその仕事を請けることになって。

 それである日、いつも通り仕事先のオフィスに行ったら、すごい騒ぎになっているんです。話を聞いたら「頼んでたライターが逃げて、全然納品物上がってきてない」とのことで……。

──まさに『ぼくたちのリメイク』の冒頭のような状況ですね。

木緒氏:
 大変だなあと思っていたら、「木緒さんってテキスト書けないですか?」と聞かれまして。「大学の時に課題で脚本書いてたぐらいですけど……」「じゃあ出来るじゃないですか!」と言われまして、その場で急遽シナリオを書くことになったんです(笑)
 プログラマーもディレクターも、みんな手分けしてテキストを打っていくという。今からしたらとんでもない大事故なんですけど、当時はまだそういう事件がよくあったみたいなんです。

──猫の手も借りたい状況に居合わせてしまったと(笑)。

木緒氏:
 「ここのパートのシナリオをお願いします!」と言われて、テキスト枠を渡されて。「マジですか?本当に何やってもいいんですか?品質、保証しないですよ」って言ったら「大丈夫です、できあがるのが何より大切なので」って……(笑)。

 それで、「まあいっか」と思って渡されたシナリオを3日ぐらいで納品したんです。
 そうしたら納品先のメーカーさんが見てたみたいで「シナリオが出来るんだったら、うちで1本やってみませんか」とお誘いがあって。本業のデザインの仕事も落ち着きつつあったので、そのメーカーさんのエロゲーでシナリオをまるまる1本書いたりしました。
 ちょうどその仕事が終わったあとぐらいに、ねこねこソフトの代表の方に誘われて、そこから本格的にシナリオライターとしての仕事を始めましたね。

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──シナリオライターとして、そのゲーム会社に入社したってことですか?

木緒氏:
 そうですね。デザインの仕事も減ってきていたので、そのままそこに行ったって感じですね(笑)。

 そこで『サナララ』『Scarlett』という作品のシナリオを担当しました。ありがたいことにそこそこ評判がよくて、ねこねこソフトさんが当時のトップブランドのひとつだったのもあって、いきなり注目されるようになったんです。

──ノベルゲームを作っていたときは、ご自身でスクリプトも書いたりしていたのでしょうか。

木緒氏:
 そうですね、暗転やBGMのタイミングなんかまで指示していました。ねこねこソフトさんが「シナリオライターは演出家でもあれ」という方針だったのも大きかったと思います。

デザイナーとシナリオライターは構造が似ている

──ちなみにシナリオを書いてみて、手ごたえはどうだったんですか?

木緒氏:
 よく「デザイナーとシナリオライターって、両立できるもんなの?」と聞かれるんですけど、自分の中では近い業種だと思っています。

 僕としては、人間の目から見て美しいデザインって「色彩やレイアウトなどが一定のルールに沿ったもの」だと思うんですが、じつはシナリオにも似た部分があると思っていて。

 たとえば、ギュウギュウに文字を詰め込んだ画面よりは、適度に改行してあげた方が読みやすいし、頭にも入ってきやすいですよね。同人時代にも納品物を見て「これもっとスッキリすればいいのにな」とか、「デザイン的に文章をとらえたらもっと読みやすくなるのにな」と思うことがよくあって。

 ちょうどそんなことを思っているときにシナリオの仕事をできるチャンスが来たので、いろいろやってみようと思ってたことを試しましたね。
 そこで自分なりのロジックがうまくハマったこともあって、今もラノベを書いたりしてるんだと思います。

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──なるほど。ゲームシナリオだとBGMや暗転など、スクリプト込みでの演出になりますけど、小説だとそこも全部文字で表現することになるじゃないですか。木緒さんのロジックは、小説でもうまくハマったんでしょうか?

木緒氏:
 小説での演出でいうと、僕は筒井康隆先生に影響された部分が大きいですね。当時のあの方の小説って実験的なものが多くて、1ページずつ読むスピードと中の小説の時間が同じように進んでいく話とか、1文字ずつ文字が欠けていく小説とかがあったりして。

 そういう筒井先生の小説が好きでよく読んでいたこともあって、ライトノベルでもゲーム的な演出ができる工夫の余地はありそうだなと。1作目・2作目ではなかなか落とし込めなかったんですけど、3作目の『ぼくたちのリメイク』でやっと形にできたかな、という感触でした。

懐かしいものは猛毒。ラクしてインプットできてしまうから

──ここまでのお話を聞いていると、木緒さんはとにかく好奇心が強い方なんだなと感じます。
 好奇心はクリエイティブにも密接に関わってくるものだと思うんですが、じつは「好奇心を維持する」ってけっこう難しいことなんじゃないかな?と最近よく思うようになってきて。木緒さんはどう思われますか?

木緒氏:
 好奇心があるかないかって、おそらくクリエイターの条件のひとつだとは思いますね。意識せずにインプットができるかどうかって、非常に重要なはずです。

 たとえばすごいプロ野球選手って「頑張ろう」じゃなくて、一日3000回バットを振ったり、走り込みをしたり、そういうことを当たり前のようにやった上で自分が今後どうやっていくべきかを考える、みたいな話があるじゃないですか。それに近い話だと思います。

 そういう意味で言うと、僕が最近気をつけてるのは「懐かしいものに手を出さない」ということなんですよ。むしろ「懐かしさは猛毒」とまで言ってますね(笑)。

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──「猛毒」ですか(笑)。それはどうしてなんでしょうか?

木緒氏:
 懐かしいものって、もともと知ってるものだから自然に取り入れやすいじゃないですか。つまり、新しいものよりもインプットがラクなんですよ。
 でもラクしたくて懐かしいものばかり取り入れちゃうと、それで頭がいっぱいになって、新しいものが生まれなくなっちゃうんじゃないかと思っていて。

 最近自分でやってるゲーム実況なんかでもそうなんですけど、自分がやっててラクなのは間違いなく昔やってたPCゲームなんですよ(笑)。でもそこでラクしたら、そのうち新しいゲームに手を出さなくなるだろうなと。

──言われてみれば、たしかにそうですね。年を取るにつれて好奇心の維持が難しくなるのって、ラクさに逃げちゃってる部分は大きそうです。

木緒氏:
 もちろん、必要があれば昔のドラマやアニメを観たりもしますけどね。一番インプット能力が高かった自分の若い時期にやってたものをもう一回頭に入れるのって、必然性がないのなら、クリエイターにとってはむしろ毒にもなるんじゃないかと思っています。

──いわば「プロ意識のある好奇心」みたいなイメージでしょうか。いちユーザーとして享受するだけではなくて、自分のクリエイティビティを伸ばすような好奇心の持ち方というか。

木緒氏:
 そんな感じに近いですね。あとは、エンタメの体感速度や感覚がちゃんとアジャストできているかも意識したり。ズレを見つけたら、どこでズレてるのかをその都度分析して調整していく感じですね。

──VTuberとしての活動を始めたのもその一環なんでしょうか。

木緒氏:
 そういう部分もありますね。VTuber活動を始めて一番大きかったのは、20代の友達がめっちゃ増えたことです(笑)。

──コラボしてる方も若い方が多いですよね。

木緒氏:
 そういう若い人たちと話していると、当然のことなんですけど、自然と話題も若くなるんです。
 その子たちに「木緒さん、INDIE Live Expoみましょうよ」と誘われて初めて、 今インディーゲームがめちゃめちゃ流行ってるのを知ったりして。若い子たちと話すときは、できるだけ「おじさんの壁」を作らないように気をつけてますね。その壁を感じた瞬間にみんないなくなっちゃうので……(笑)。

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(画像は【雑談】マイクラジオ・何か作ったりはじめますか【マイクラ】より)

「クリエイターものを書くときに、クリエイターの一人称にしたくなかった」

──『ぼくたちのリメイク』のアニメ版では、原作者の木緒さんが自らシリーズ構成を手掛けていますが、具体的にはどのようなことをなさったんでしょうか?

木緒氏:
 そもそも「シリーズ構成って何?」と思われる方のほうが多いかと思います。脚本ともよく混同されがちなのであらかじめ簡単に説明すると、シリーズ構成はお話全体の設計をする仕事なんです。

 たとえばアニメの場合は1クール12話という区切りがあるんですけど、まずお話全体の始まりと終わりを決めて、どういう話をどの区切りで描いていくのかというあらすじを決めていくのがシリーズ構成ですね。
 自分の場合はA4紙1枚分ぐらいを1話分として、そこに収まるように各話で表現しなければいけないことを考えていました。

 一方で各話の脚本は、そのシリーズ構成を元にして、具体的にお話を書いていくのが仕事です。

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──なるほど、お話の設計図的なものを作る仕事なんですね。

木緒氏:
 そうですね。シリーズ構成のみ担当する方もいらっしゃいますが、アニメ業界では大体はメインの脚本も兼ねるパターンが多いです。
 今回は脚本にもうひとりサブで入っていただいて、自分がメインの脚本家も兼ねて担当しました。

──アニメのお仕事はこれまでにも経験があったんですか?

木緒氏:
 前に自分が企画を立てたPCゲームのアニメ化のときは、「お願いします!」と頼み込んで、各話の脚本を担当させてもらったりしていました。
 あとはソーシャルゲームのアニメ化作品でもお願いしてシリーズ構成を担当させていただいたこともあって。その経験があったので、今回のアニメでも比較的スムーズにやらせていただけましたね。

──今回のアニメ版に関しても木緒さんが自ら志願したんでしょうか。

木緒氏:
 ですね。じつは制作の方からしても、原作をどう変えるかという部分はけっこう難しいらしくて。いろいろ話を聞くと、原作の人間がガッチリ絡むのはやりやすいことも多いみたいです。

──『ぼくたちのリメイク』は制作(ディレクション)という部分にフォーカスした作品ですけど、それってどういう意図があるのでしょうか。最近ちらほら見かけますけど、まだ珍しいジャンルではありますよね。

木緒氏:
 それは、「クリエイターものを書くときに、クリエイターの一人称にしたくなかった」というのが一番の理由ですね。クリエイターっていう職業って、やっぱり異常性を伴ったりとか、普通の人との意識が全然違うところにあったりとか、大切にしているものがそもそも違うということがありうるものだと思っています。

 でもそういうのって、クリエイターの一人称としてそれを語らせるよりは、周りがそのクリエイターの異常さを見たときの感情を語らせるほうが、より鮮明に伝わると思ったんです。

 あともうひとつは単純に、「制作」をテーマに取り上げた作品がそこまでフィーチャーされることがなかったからです。最近でいちばん大きかったのは『SHIROBAKO』くらいですかね。それでも2014年ですし。

 そういった仕事はどういったことをやっているのか、どういうことを考えてモノを動かしているのかというのが伝わる作品がひとつあってもいいんじゃないかと。

──アニメ化にあたって、たとえば「本棚に2006年当時の本やゲームが置いてある」ような、アニメならではのギミックもあるとお聞きしました。
 第1話放送のタイミングで、「こういう見方をするとまたちょっと楽しみ方が違う」みたいな部分はあるんでしょうか。

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木緒氏:
 じつは第1話でさっそくあるので楽しみにしておいてください(笑)。第1話が60分スペシャルという形で始まるのですが、なぜ60分なのかを楽しみにご覧いただけたらと思います。

 ひとつだけヒントを言っておくと、原作を一通り読んでからだとより面白く見られると思います。以上です。なので、原作を買って読んでください(笑)。(了)


 『ぼくたちのリメイク』で描かれた制作現場の風景は、木緒氏が実際に体験してきたさまざまな制作現場に裏打ちされているものだった。取材中に感じたのは、クリエイティブだけではなく、ディレクターやシリーズ構成など、いわゆる上流に位置する仕事まで難なくこなしてしまう木緒氏の器用な才能だ。
 
 こうしたバックボーンがあったからこそ、『ぼくたちのリメイク』のテーマが制作(ディレクション)である理由も頷ける。
 「クリエイターものを書くときに、クリエイターの一人称にしたくなかった」。ときには異常性さえ感じさせる、クリエイターの生き生きとした姿を描くには、そのすぐとなりで一緒にものを作る人間から見た姿を描くのがもっともふさわしいというわけだ。

 そんな木緒氏が自らシリーズ構成を手掛ける『ぼくたちのリメイク』アニメ版は7月3日より放映される。最後に語られた「アニメならではのギミック」を楽しみに待ちたい。

©木緒なち・KADOKAWA/ぼくたちのリメイク製作委員会

インタビュアー
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電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。
元々は、ゲーム情報サイト「 4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「 ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「 ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter: @TAITAI999
ライター
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『プリパラ』、『妖怪ウォッチ』ありがとう。黙々とゲームに没頭する日々。こっそりと同人ゲーム、同人誌を作っています。
Twitter:@zombie_haruchan
編集
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ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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