いま読まれている記事

「ディレクター自ら1000日間ゲームを推し続ける」って、どういうこと……?発売から2年経ってなお、タイトルを終わらせないために推され続けた『スカーレットネクサス』執念の軌跡

article-thumbnail-230906s

1

2

そもそも、なぜディレクター自ら『スカネク』を1000日間推し続けているのか?

──実際のところ、『スカネク』は『テイルズ オブ』シリーズのファンの方に向けて作られたタイトルではあったのでしょうか?

穴吹氏:
 いえ、実際のところプレイヤー層はそこまで被っていません。
 正直に言うと、「本当はもっとテイルズファンの人にも遊んでほしかった」と思っています。そこに関しては、こちらの訴求力が足りていなかった部分でもありますね……。

 やはり『テイルズ オブ』シリーズは国内に高い熱量のファンの方がたくさんいらっしゃるのですが、『スカネク』はどちらかというと海外のファンの方が多かったりするんです。同じバンダイナムコタイトルでも、どちらかというと、『ゴッドイーター』【※12】や『コードヴェイン』を好きだった方が入ってきてくれた印象ですね。

※12「ゴッドイーター」
2010年にバンダイナムコゲームスから発売されたアクションRPG。巨大な怪物「荒神(アラガミ)」を相手に戦うアクションゲームとなっている。小説やアニメなどのメディアミックスも盛んであった。

──実際、メディアとしても『スカネク』が発表された時はどちらかというと『コードヴェイン』などに近い空気感を感じていました。先ほど「新規IPを作る流れ」の話が出ていましたが、同じ時期に生まれたからこそ雰囲気が近かったりするのでしょうか?

穴吹氏:
 いえ、それはあまりないですね。
 逆に、「雰囲気が近い」と言われて「あ、そうなんだ!」と思うくらいでした(笑)。

一同:
 (笑)。

穴吹氏:
 それに関して思い出深いのが、BNE側のプロデューサーから「『スカネク』は他のタイトルと並べた時に見分けがつかないから、この並んだ時のパッと見をどうにかした方がいいです」と言われてビジュアルなどを差別化していったことです。やはり、「言われるまで気付かない」ということは本当にあるんですよね……。

発売から2年経ってなお、タイトルを終わらせないために推され続けた『スカーレットネクサス』執念の軌跡_014
『スカーレットネクサス』公式サイトより

穴吹氏:
 僕としてはなんとか『スカネク』に『テイルズ オブ』ファンの方を引き込みたかったので、僕個人のアカウントで『テイルズ オブ』に携わっていた頃の昔話をガンガンしていたんです。そうしたら、富澤さんや飯塚さんから「アナタは今『テイルズ オブ』の人じゃないのでほどほどに!」と言われたりして……(笑)。

──なるほど(笑)。
 ちょうどそのお話が出たのでお聞きしたいのですが、穴吹さんはご自身のアカウントで「毎日スクショ」と称しておよそ1000日近く『スカネク』に関することを投稿され続けています。それだけでなく、『スカネク』のコスプレをしてマラソンに参加されたり……。正直、ディレクターとはいえ明らかに異様だと思うのです。あの活動の原動力などは、どこから来ているのでしょうか?

穴吹氏:
 そもそも、僕がアカウントを開設したきっかけのひとつが「『スカネク』を宣伝するため」だったんです。

 当時はいろいろな事情があって、『スカネク』の発売前に「新たな情報を期待してくれている人たちに何も情報をお届けできない」という状況がしばらく続いてしまったんです。その状況に対して「何か自分でできることがないだろうか」と考えて始めたのが、この「毎日スクショ」の始まりです。

 ですが、当初はBNE側にはあまり説明しないまま始めてしまったので、「勝手にやらないでくれ!」と怒られてしまいました(笑)。

一同:
 (笑)。

穴吹氏:
 確かに発売前ではあったので、宣伝チームが予定しているプロモーション計画よりも前に、情報が出てしまう可能性もあります。そのために、発売前は「1ヶ月分の投稿を事前にスプレッドシートにストックして共有しておく」という方法でなんとかBNEにも納得してもらい、毎日投稿を続けていました。

穴吹氏:
 当初は「発売日まで続けよう」と思っていたのですが、そこそこ反響が良かったうえに、SNS上でも反応してくださる方が結構多かったんです。だから、「少なくとも500日までは続けてみよう」と考えていました。

 そして去年、400日を達成した時に「あと100日でやめます!」ということを告知したら……意外に「残念」「寂しい」といった反応が多かったんです。でも、僕はもう既に『テイルズ オブ』シリーズに戻っていたから、他にもやることがたくさんありました。

 しかも400日も続けたから……もうネタなんかないんですよ(笑)。

──それはそうですよね(笑)。

穴吹氏:
 ですが、僕がこの「毎日スクショ」をやめてしまうと、『スカネク』の活動が何もなくなってしまうんです。公式アカウントもほとんど動いていないし、僕がこの活動をやめてしまうと、『スカネク』というIP自体がアクティブじゃなくなるんですよね。

 そしてこの「何も動いていない」状態が続くと、「いつの間にか『スカネク』というタイトルが忘れられてしまうんじゃないか」とも思いました。やっぱりディレクターである僕自身は、いつかまた『スカネク』の続きを作ってみたいです。つまり、僕が活動をやめることでタイトルそのものが消えてしまうのは……やっぱり嫌だと思ったんです。
 
 だからこそ、「大変だけど、もうちょっと頑張って続けてみるか」と思えました。

──『スカネク』というコンテンツの灯を絶やさないための活動でもあったのですね。やはりあの活動は、現在はもう穴吹さん個人で行われているような状態なのでしょうか?

穴吹氏:
 完全に自分のプライベートの時間を削って続けています。

 しかも、発売日以前はある程度ネタをストックできていたのですが、今はもう「今日なにを投稿するか」すらその日に決めるような状態が続いています。仕事が終わって、帰ってから投稿する内容を決めるという……(笑)。

 これの何が辛いって、本当に毎日投稿し続けるので何があろうと止めてはいけないんです。土日も関係ないし、家族と旅行に行った時は旅行先で投稿するし、実家に帰った時も実家から投稿しています。家族からは「もうやめればいいじゃん!!」と言われています。

一同:
 (笑)。

穴吹氏:
 一番しんどかったのは、僕がコロナにかかってしまった時でしたね。症状もひどくて、もう1週間近く寝込んでいたのですが……「毎日投稿だけは続けなければ」と思い、なんとか続けていました。その後、奥さんからめっちゃ怒られました……(苦笑)。

 ですが、そんな状況でも「これだけは続けなければいけない」という使命感があったんです。「僕が続けなければ、このタイトルは終わってしまう」という思いから、なんとかここまで続けてこれました。

まさに「執念」のゲーム開発。穴吹氏の原動力は、どこから来る

──先ほども「開発のために京都に泊まりこむ」というお話が出ましたが、そこに加えて毎日投稿を1000日続けたり、もはやこれは「精神力」の域なのではないかと思います。

穴吹氏:
 少し話が逸れてしまうのですが……それはもしかしたら僕自身の「ゲーム業界に入るまでのいきさつ」が関係している部分かもしれないですね。

 まず、僕は元からゲーム業界で働いてみたかったのですが、10社くらい受けたゲーム会社の面接に全て落ちてしまったんです。

 要は、「業界に入りたかったけど、上手くいかずに就職浪人」状態でした。ですが、それでも中学生の頃から「ゲーム業界で仕事をしたい」と考えていたので、システムエンジニアをしながら副業でファミレスでバイトをして、ゲーム業界に入るためのお金を貯めていました。

 ファミレスでのバイトは一番の下っ端として入ったので、「大学生と一緒に22時から仕事をする」ような状況でなんとか頑張っていました。でも、それくらいのことをしてでも「自分でゲームを作り、誰かに影響を与えてみたい」と思っていたんです。

 そして、その「執念」のようなものを抱えたまま、ここまで来ています。20年前にそんな思いでゲーム業界に入ってから、あの気持ちのまま今もゲームを作り続けています。だから、よく言うと「粘り強さ」があり、悪く言うと「執着が強い」のだと思います。

──その「どうしてもゲーム業界に入りたい」と思ったことの明確なきっかけなどはあるのでしょうか?

穴吹氏:
 それは明確にあって、自分が中学生の頃に遊んだ『FF4』【※13】がキッカケですね。当時の僕はまだ中学1年生だったので、新聞配達のバイトでお金を貯めて、なんとか苦労してスーパーファミコンと一緒に買ったタイトルでした。そこから、全キャラを育てきるくらい『FF4』をやり込みました。

 その「自分で苦労して手に入れて、最後までやり込んだ」という思い出と感動がすごく焼き付いていて、それが原動力となって「ゲーム業界に入りたい」「いつか自分が作ったゲームで、誰かに影響を与えてみたい」という思いを抱きました。

 こういう「泥臭いやり方」ってあまり今の時代にはマッチしてないかもしれないんですが……それでも、その体験が原動力だったりします。

※13「FF4」
1991年にスクウェアから発売されたSFC用RPG。『FF』シリーズのナンバリング4作目。初の「アクティブタイムバトルシステム」が採用された作品であり、そのストーリー性の高さも人気。

穴吹氏:
 そういう意味で、「『スカネク』を遊んで影響を受けたので、バンダイナムコスタジオに入ろうと思いました」と言ってくれる人に面接で出会うことがあると、報われるような気持ちになりますね。

 まぁ、だからといってそれだけを理由に合格にしたりはしないんですけど……(笑)。

──他にも、穴吹さんの中で「『スカネク』が誰かに影響を与えている」と実感したエピソードなどがあればお聞きしてみたいです。

穴吹氏:
 他にも、発売後に「BNS社内のほとんど話したこともない後輩から、すごい熱量のメッセージが送られてきた」なんてこともありました。「ちょうど今クリアして、この熱が冷めないうちに穴吹さんに伝えようと思いました」といったことが書かれていて、すごく嬉しかったですね。

 もうひとつ印象に残っているのが、「スペインのゲームメディアの記者」のことですね。当初、彼は僕のアカウントによくリプライをくれる海外のファンだと思っていたのですが、のちにスペインでゲームメディアの記者をしていることが発覚し、僕にメールインタビューやサインのお願いをしてきたことがありました(笑)。

 国内外問わず、そういうことがあると「自分がこれまでやってきたことがちゃんと影響を与えられている」と実感できます。その瞬間だけは、ゲーム開発のしんどさが報われるような想いが得られますし、むしろ「その瞬間のために生きている」ところはあると思います。

発売から2年経ってなお、タイトルを終わらせないために推され続けた『スカーレットネクサス』執念の軌跡_015

──やはりバンダイナムコ自体が大きい会社なので、オリジナルIPを世に出すためにはある種の「ビジネス的な賢い立ち回り」が必要だと思うんです。ですから、穴吹さんのように執念や熱量を両立しつつ、大きな会社で企画を通していくというようなケースは本当に稀で難しいことだと感じます。

穴吹氏:
 確かに両立は必要なのですが……僕の本質はやっぱり後者の「執念」のようなものだと思いますね。多分僕って、頭が悪いんでしょうね(笑)。だからもう、ある意味「愚直にやる」ということしかできないのだと思います。

 会社や組織の中で企画を通していくためにビジネス的な立ち回りをするのは、何年か仕事をする中であとから身についた部分です。だから、やっぱり第一には「執念」が来ていると思います(笑)。

飯塚氏:
 やはり穴吹さんがこれだけのこだわりを持ってくれているからこそ、パブリッシングをするBNE側も安心して任せることができます。

 たとえば、「キャラの見た目を変えてほしい」という意見要望をBNE側からも出すのですが、その場の穴吹さんは「わかった」かのような顔をするんです。でも、そういう時の穴吹さんは大体心の中で「要望を無視してでもここは変えないでおこう」とか考えています(笑)。

穴吹氏:
 キャラクターのデザインとか、いろいろな意見や要望が出てくるんですけど、中には細かい点だったり納得できないものもあったりするんです。

 そんな時には言われたその場では了承して、ある程度調整したバージョンを持っていきます。それで納得してもらえたら、次の日にはこっそり調整前に戻したりしています。

一同:
 (爆笑)。

発売から2年経ってなお、タイトルを終わらせないために推され続けた『スカーレットネクサス』執念の軌跡_016
『スカーレットネクサス』公式サイトより

いま、「JRPG」そのものが再評価されている

──これまでのお話を聞いていると、やはり穴吹さんの中では「RPGを作ること」への執念がすごく強いのではないかと感じます。

穴吹氏:
 やはり『テイルズ オブ』シリーズも含めた「アクション要素のあるRPGをずっと作ってきた」ことに関する自負はあります。だからこそ、その部分で会社に貢献したり、お客さまに楽しんでもらえるタイトルを作りたいという思いは強いですね。

 『テイルズ オブ』チームのスタッフの間でも「『テイルズ オブ』100周年を目指せたらいいよね」という話をすることもありますし、そのくらい「RPGを作ること」には誇りをもって取り組んでいます。

──ちょっとディスカッション的にお話しできればと思うのですが、近年「JRPG」というジャンル自体が再び盛り上がってきていると思うのです。それこそJRPG的な要素を取り込んだ『崩壊:スターレイル』などは世界中でヒットしていますし、ワールドワイドにJRPGが再注目されているような空気を感じています。
 だからこそ、『テイルズ オブ』シリーズや『スカネク』が挑戦していることは、すごくポテンシャルがあることなのではないかと思います。

穴吹氏:
 それは僕もそう思います。直近の『テイルズ オブ アライズ』と『スカネク』も、実は結構レビューサイトなどでの数値が高いんですよね。この2作は直前に出ていた他のタイトルと比べても明らかに数値が高かったですし、「JRPG」というジャンルそのものが世界で再評価されるような流れは来ていると思います。

 ただ、僕らとしては「JRPGそのものを閉じたものとして作ろう」という思いはなくて、しっかりと誰が遊んでも楽しめるようなタイトルとして作っています。もちろん、JRPGが強みとしている「キャラクターの魅力」「ストーリーの面白さ」などは意識しつつも、『Horizon』シリーズなどの海外タイトルが好きな方にもJRPGを楽しんでもらえるようなタイトルを目指しています。

 先ほどの「これまでの『テイルズ オブ』の経験値」の話もそうですが、自分たちが得てきたこれまでの知見や実績を駆使しつつ、今のゲームユーザーにも楽しんでもらえるようにチューニングをしています。そういった「これまでの経験値の多さ」こそが、今のJRPGの再評価に繋がっているのかもしれません。

発売から2年経ってなお、タイトルを終わらせないために推され続けた『スカーレットネクサス』執念の軌跡_017
『テイルズ オブ アライズ』公式サイトより

穴吹氏:
 ちょうど今お話に出た『崩壊:スターレイル』や『原神』などは、HoYoverseが現在のトレンドをすごくしっかり考えた上で作ったタイトルだという印象があります。

 その2タイトルの前に作られていた『崩壊3rd』【※13】で一度ステージ型のアクションを作り、そこでファンを獲得した上で「ステージ型の『崩壊3rd』からオープンワールドの『原神』へ拡張する」という広げ方をしていったのはすごいですよね。

 最初からオープンワールドを作るのではなく、段階的に風呂敷を広げていくようなあの作り方は、かなりHoYoveseさんの手腕のすごさを感じます。正直、僕らとしても「今から『原神』を作れ」と言われたら、作れないと思います。少し前はこちら側が参考にされる側だったはずなのに、いつの間にか参考にしなければならない側に立たされていたような感覚がありますね。

※13「崩壊3rd」
HoYoverseから配信されているアクションRPG。『崩壊』シリーズの3作目であり、美麗なキャラモデルなどが魅力的なタイトル。

──ちょっと個人的な感覚なのですが、「日本のアニメ調のグラフィック」がJRPGの強みのひとつなのではないかと思います。それこそHoYoverseのタイトルが強みとしているのもその部分ですし、『テイルズ オブ』や『スカネク』のような「日本のアニメ風のビジュアルで、楽しくて大満足できるRPGを遊べる」ことは、JRPG的タイトルの独自の魅力のひとつではないのかなと。

穴吹氏:
 確かにJRPGはタイトルによっては「アニメ調のグラフィック」が受け入れられている面もあるのですが、実のところリアル調のグラフィックに比べるとまだまだパイが少ないのが現状です。

 ここの「アニメ調にするべきか、リアル調にするべきか」というせめぎ合いは、ゲーム開発においても毎回あるんです。アニメ調のグラフィックが独自の魅力に繋がる部分もあるけれど、世界規模で展開すると考えた際は、リアル調のグラフィックの方がより多くの方に受け入れられやすい側面もあります。

 その上で、一口に「アニメ調」と言っても、より細かいニュアンスがあったりします。たとえば『テイルズ オブ アライズ』は、アニメ調のモデルに対して明と暗をハッキリ分けるセルルック調の影を描くのではなく、グラデーションのかかった影を乗せており、アニメ調というよりイラスト調になるようなグラフィックを目指しています。

 他にも、『FF7R』は確かにベースはリアル調のグラフィックではあるのですが、「完全にリアル調か」と言われると……別にそうではありませんよね。

──確かにそうですね。

穴吹氏:
 でも、「完全にアニメ調か」と言われると、そうでもありません。
 
 それ以外にも『オーバーウォッチ』の場合キャラデザインはデフォルメのかかったアニメ調ではあるけれど、いわゆる日本のアニメ的な表現ではありません。とにかく、極端に「アニメ調」「リアル調」と分別するより、「どこのレンジを狙うか」が重要なのです。

 この「どのレンジのビジュアルにするべきか」という点は、本当に毎回悩みます……。とはいえ、僕らが作ってきたタイトルは「アニメ調のグラフィックを独自の強みにしよう」という狙いのものが多いですし、「アニメ調の強み」は間違いなく意識している部分ではあります。

飯塚氏:
 今は海外でも日本のアニメを楽しんでくれている方がたくさんいるので、そういった意味でもさまざまなビジュアルが受け入れられるようになってきた感触はありますね。 

 昔は結構「アニメ調」「リアル調」は方針の段階からパキっと二極化していた印象があるのですが、グラフィック技術の向上につれて、さまざまな表現ができるようになってきました。今はもう「どんなグラデーションを持たせてキャラクターを表現していくか」という部分の方が重要だと思います。

穴吹氏:
 先ほど一例に挙げた『Horizon』シリーズだって、確かにリアル寄りではあるけれど、「完全にリアル」ではないですよね。直近のタイトルは、そこの「アニメか、リアルか」の部分を狙って崩してきているものが多い印象があります。

発売から2年経ってなお、タイトルを終わらせないために推され続けた『スカーレットネクサス』執念の軌跡_018

もし……『スカーレットネクサス 2』を作るとしたら?

──ちょっとこれを聞いていいのかわからないのですが、もし仮に『スカーレットネクサス 2』を作るとなった際の具体的な構想などはありますか?

穴吹氏:
 そうですね、僕が考えているのは…………って、これを言ったら今作っていないのがバレバレになってしまいますね(笑)。

一同:
 (笑)。

穴吹氏:
 実際の『スカネク』における「超能力(ゲーム内では「超脳力」)」という要素は、バトルのための要素として振り切っていたのですが……当初は「アドベンチャー要素として超能力を使ってみたい」という構想があったんです。

 たとえば、超能力の中の「透視」という能力をひとつ取ってもバトル以外にさまざまな使い道があるんです。

 他のNPCと会話する時や街を歩いている時など……「超能力の使い道」を考えた時、具体的に思いつくのは「日常生活での使い道」でした。そして、バトル面で「超能力」を活かそうと考えると、途端に魔法チックになってしまうという問題もありました。

 そこから、「超能力という要素そのものを活かすのであれば、バトル以外のパートの方が活かしやすいのではないか」と考え続けています。アドベンチャーパートなどでも超能力を駆使して、「超能力者になれる」という体験をより際立たせた続編を作ってみたいですね。

発売から2年経ってなお、タイトルを終わらせないために推され続けた『スカーレットネクサス』執念の軌跡_019
『スカーレットネクサス』公式サイトより

穴吹氏:
 加えて、「超能力を使っている=ヤバい力を使っている」というイメージを、さらに演出などで際立たせてみたいですね。一応実際の『スカネク』でもある程度は意識していたのですが、やはり「超能力」はなんらかのリスクや危険性を孕んでいた方が、より「それっぽい」んですよね。

 だから、次回作があるとしたら多少レーティングを上げたとしても「危険な力を扱っている」という雰囲気をより際立たせてみたいです。

 個人的に「やられた!」と思ったのは『サイバーパンク エッジランナーズ』【※14】のサンデヴィスタンのデメリット表現ですね。「強い力=ヤバい力」ということを端的に表現しているし、だからこそ「その力を使いこなしている」ことのカッコ良さもより際立ちます。

※14「サイバーパンク エッジランナーズ」
『サイバーパンク2077』を原作とした、TRIGGERのアニメ作品。原作の舞台や表現を取り入れた魅力的な映像表現が高く評価され、ファンからの支持も厚い。

──ああいう「ヤバい力を使っている」表現ってカッコいいですよね。一方でそれと同時に、ゲームでああいった表現を取り込もうとするとゲーム体験的に手触りが悪くなってしまう部分もあると思います。
 「絵的にカッコいいこと」と「ゲーム体験的に気持ちいいこと」がバッティングしてしまうと言いますか。

穴吹氏:
 そこの「ゲームの表現としてどう描くべきか」は議論するポイントですね。もちろんゲームとしてよい落としどころにすべきだとは思うのですが、他タイトルとの差別化なども考えて「よりユニークに尖らせる」ためには、そういった表現を取り入れていきたいと考えています。

 また、「どの超能力を使って、このゲームを攻略するのか」という攻略法が十人十色になるようなゲームデザインを目指したいとも考えています。まさに今は前提として「いろいろな楽しみ方ができること」が求められる時代だと思いますし、「自分はこの超能力で攻略した」とプレイヤーの間で盛り上がることもできたらいいですよね。

 ちょっと最近、個人的に「認知心理学」というものを勉強していて……この「自分が見つけた方法でクリアしていく」ことの楽しさや気持ち良さは「自立性の欲求」というものに紐づいているらしいんです。「自分の選んだことを、自由にやれる」ことを、人間は何よりも求めるそうです。

 最近の『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』なんかは、まさにそうですよね。プレイヤーによっていろいろなギミックの解き方がありますし、まさしく「自分のやり方でクリアしている」という楽しさを得られるタイトルです。
 
 ところが、実際の『スカネク』はむしろそこの逆を行ってしまっていたんです。
 「こういう戦い方をしてください」というゲーム側からの意図が強すぎたために、「自分のやり方でクリアする」楽しさはそこまで得られませんでした。だからこそ、次回作があるとしたら「自分はこの超能力で解いた」という気持ち良さが得られるゲームデザインにしたいですね。

発売から2年経ってなお、タイトルを終わらせないために推され続けた『スカーレットネクサス』執念の軌跡_020

──最後に、改めて穴吹さんから『スカネク』ファンや読者の方に向けたメッセージをいただければと思います。やはりこの記事は「『スカネク』を遊んでほしい」ことに尽きると思いますので、できれば熱い思いをいただきたいです。

穴吹氏:
 『スカネク』は、もう発売から2年経っているタイトルです。正直……注目度も日に日に薄れていっているタイトルではあります。ですが、今も『スカネク』のための活動を続けている僕としては、これからも変わらず楽しんでいただきたいタイトルでもあります。

 やはり星の数ほどコンテンツがある今の時代、「手に取るまで」のハードルが一番高いと思います。まず「選ばない」ハードルがあり、そこから「選んだけど遊ばない」ハードルがあります。Steamなどのセールで買ったのはいいけど、起動されないタイトルだってたくさんあると思います。

 そんな中でも「ディレクターが1000日宣伝してるタイトルがあるらしい」と面白がって、そこから手に取ってくれる人がいたらすごく報われるような気持ちになります。この記事も、そんな機会になれたらいいなと思います。

 あまり綺麗な言葉では言えないのですが……『スカネク』が楽しいタイトルであることは間違いなく保証します! ぜひ、プレイしてください!

 そして……! 個人としてはいつか「スカーレットネクサス 2」を開発したいと思っていますので、応援して頂けるととてもとても、とても嬉しいです!!

──穴吹さんの思いと熱意は、この記事ですごく伝わっていると思います!
 本日はありがとうございました!(了)

発売から2年経ってなお、タイトルを終わらせないために推され続けた『スカーレットネクサス』執念の軌跡_021


 極めて個人的な感想になってしまうのだが、なんだか、私は純粋に穴吹さんの人柄に……心を打たれてしまった。

 言っていいのかわからないけれど、私は「人間っぽい人」が好きなのである。人間味を感じる人が好き。人間臭さのある人が好き。だからもう……穴吹さんの「人間らしさ」が好きになってしまった。

 特に「自分が活動をやめてしまうことで、タイトルそのものが消えてしまうのは嫌」という言葉からは、穴吹氏の強い思いがこれでもかと伝わってきた。

 穴吹氏の思いを感じた方は、『スカネク』というタイトルが存続するための活動に参加してみてはいかがだろうか。そして穴吹氏自身の活動も……いや、もし1000日を超えたらどうなってしまうんだろう。もしかして未来永劫終わらないのでは……?

 と、とにかく! やはりこれだけの思いを込めて作り上げられたタイトルが「ずっと愛される」ということは、間違いなく良いことである。そして穴吹氏が『スカネク』で得た経験や知見は、今後の『テイルズ オブ』シリーズにも活かされるのだろう。このふたつのタイトルが、末永く続いていくことを願う。

 そして…………『スカーレットネクサス 2』、お待ちしてます!!

1

2

編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

Amazon売上ランキング

集計期間:2024年5月15日04時~2024年5月15日05時

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ