美少女キャラたちと、同じ屋根の下で暮らす。『ブルーアーカイブ』を作ったIO DIVISIONが新作のテーマに選んだのは、それだった。
ゲームの名は『ファレイドリア』。2024年10月に「プロジェクトRX」の仮称で発表されてから約2年、正式タイトルが明かされたのは2026年8月24日のこと。
長らく詳細が伏せられてきた本作の一端が、9月17日から21日にかけて開催される東京ゲームショウ2026のネクソンブースで、試遊という形で明らかになった。
開発を率いるのは、『ブルアカ』を生み出した統括プロデューサーのキム・ヨンハ氏と、同作のグローバル版統括を務めたチャ・ミンソ氏だ。
サービス開始から約5年半を経てなお多くのファンを抱える『ブルアカ』を手がけたIO DIVISIONが「つぎに何を作るのか」は、美少女ゲームファンにとって大きな関心事のひとつだろう。
ひと足先に試遊させてもらった率直な感想は、「これは美少女キャラたちとのふれあいを、とことん追求した作品だ」というものだった。
3Dで描かれたキャラクターたちは、探索中に足を止めればさまざまな仕草を見せ、ご飯を食べていたりウトウトしていたりするところに声をかければ、こちらに応じてくれる。「彼女たちがそこにいる」という感覚が、プレイしている間ずっと押し寄せてくるのだ。
この体験の正体は何なのか。開発陣はいったい何を目指しているのか。
その答えとして、インタビューのなかでキム氏が挙げたのが、「帰りたい異世界」というフレーズだった。
異世界なのに「帰りたい」とは、どういうことなのか。一見矛盾するこの言葉の真意を、TGS2026の会場で、キム氏とチャ氏に聞いた。

美少女キャラたちが「すぐそばにいる」感覚を。キム・ヨンハ氏が掲げるキーワードは「帰りたい異世界」
──事前に試遊させていただいたのですが、美少女キャラたちとのふれあいをとても大切にしている作品だと感じました。やはり、そこをいちばんの魅力として打ち出していく形になるのでしょうか?
キム・ヨンハ氏:
結論から言うと、その認識で間違いありません。ただ、少しだけ補足させてください。
たとえば『ブルーアーカイブ』は、美少女キャラとの出会いや関係性、そしてそこから生まれる体験が根幹にあります。『ファレイドリア』もそこをベースにしているのですが、さらに「日常生活」という要素を加えることで、その体験をより強いものにしたいと考えているんです。
──その「日常生活」というのは、どういったものになるのでしょう。
キム・ヨンハ氏:
ラブコメディのシチュエーションを凝縮したもの、と言えるかもしれません。開発チーム内では「異世界ホームステイ」と表現しています。
一緒に生活し、ふれあうなかで生まれるさまざまなシチュエーションを、どう表現するか。それを工夫した結果が「日常生活」という言葉に表れているのだと思います。
──「美少女キャラたちと一緒に生活する」という部分を、かなり大切にされているんですね。
キム・ヨンハ氏:
美少女キャラたちが実際に存在し、すぐそばにいる。その感覚をプレイヤーに味わっていただくことが最大の狙いです。
では、どうすれば彼女たちを「身近な存在」として感じてもらえるのか。そのために、一緒にゲームを遊んだり、音声認識などの技術を使ったインタラクションを取り入れたりと、さまざまな仕掛けを用意しています。そうやって、できる限り身近に感じてもらうこと。それが私たちの目標です。
チャ・ミンソ氏:
現在のサブカルチャーのトレンドは当然吸収しつつも、私たちがもっとも重要視しているのは、本作ならではの「新しい感覚、体験」を提供することです。そこを突き詰めていった結果、たどり着いたのが今の形です。
──なるほど。登場する美少女キャラとふれあっているうちに、もはや美少女ゲームの沼にどっぷり浸かって、抜け出せなくなるような感覚すら覚えました……(笑)。
キム・ヨンハ氏:
ありがとうございます。まさに、そうやって体感していただいた没入感こそが私たちが届けたいものなんです。
試遊で感じていただいた「ときめき」や「ワクワク」を、プレイヤーのみなさんにもこの先のゲームプレイで味わっていただきたい。そのための要素は、今後さらに増やしていくつもりです。
──『ブルーアーカイブ』の「透き通るような世界観」のように、本作をあえてひと言のフレーズで表すとすれば、どのような言葉になるのか。そこがすごく気になっています。
キム・ヨンハ氏:
ひと言で表すのは難しいのですが、単純なキャッチフレーズというよりも、『ブルアカ』と対比して『ファレイドリア』の世界観をどう見せるか。いまはその部分を考えています。
舞台となるのは、現実とは異なる少し奇妙な異世界です。ただ、そんな未知の世界であっても、プレイヤーにできるだけ親しみを持ってもらい、なじんでもらえるような空気感を作りたい。そこが重要なので……そうですね、あえて言うなら「帰りたい異世界」でしょうか。
──「帰りたい異世界」。異世界という非日常に、「帰りたい」という日常の言葉をあわせるのは、興味深いです。
キム・ヨンハ氏:
現実を生きていると、やはり苦しいことや大変なこともいろいろとありますよね。そうしたものをひととき忘れて、異世界なのに「帰りたい」と心から感じていただけるような場所にしたいんです。
あくまで現時点での仮の表現ですが、そういう安心感を与えたいという意味で「帰りたい異世界」と考えています。
──なるほど。仕事で疲れ果てても、彼女たちとふれあうことで癒やされ、「明日も仕事をがんばろう」と思えるような(笑)。
キム・ヨンハ氏:
ええ。こっちが現実なのはわかっているけれど、「むしろあっちの世界のほうが……」と、ついどっぷり浸ってしまう。そんな感覚を目指しています(笑)。
「露出には限界があってもフェチは無限大」。あの言葉は『ファレイドリア』でどう受け継がれるのか
──じつは1年半ほど前に『ブルアカ』のインタビューをさせていただいた際、キムさんが「露出には限界があってもフェチは無限大」とおっしゃっていました。今回、『ファレイドリア』でその「無限大のフェチ」がどう表現されるのか、すごく楽しみにしているんです。
キム・ヨンハ氏:
ゲーム内には、美少女キャラたちとユーザーがやりとりするシチュエーションがいくつも出てきます。そうした場面をたくさん用意していて、そこで「無限大のフェチ」を追求していくことになるのかなと(笑)。
『ブルアカ』の「メモリアルロビー」のように、何かインタラクションできる要素があるかもしれないですね……。
──というと、見た目というよりは「体験」のほうにフェチが詰まっている、ということでしょうか?
チャ・ミンソ氏:
見た目のほうもぜひ期待していただきたいところで、そのあたりはTGS会場で公開中のPVをご覧いただければと思います。『ブルアカ』で追求してきたフェチの方向性そのものは、本作でも変わりません。
ただ、『ファレイドリア』には「生活感」という重要なテーマがありますから、そこはビジュアル面でもしっかり追求していきたいですね。……と、いまお答えできるのはここまでということで(笑)。
──ちなみに試遊の際、太ももに謎のアクセサリーをつけているキャラクターを見かけて、あれもフェチへのこだわりなのではないかと、勝手に思っているのですが……。
キム・ヨンハ氏:
これ以上フェチについて語るのはお預けにしておきますが、私たちが込めた狙いを感じとっていただけたようで何よりです。
チャ・ミンソ氏:
『ブルアカ』よりもキャラクターを大きく見せられるようになったので、そのぶん表現できることも増えていくのかなと。そこは今後にご期待いただければと思います。
──たしかに、探索パートで足を止めていると、キャラクターたちがいろいろな待機モーションを見せてくれますよね。とくに猫耳キャラのシャミの動きがすごくかわいかったです。
チャ・ミンソ氏:
ありがとうございます。登場するキャラクターたちを「本物の人間」のように感じていただきたくて、そうした自然な仕草を取り入れています。挙動のひとつひとつに人間らしさがにじむよう意識しているので、今後もそこは追求していきたいですね。
──そこまでの実在感があるからこそなのですが……探索中、カメラを操作して下からのアングルをのぞきこもうとしたら、見事にガードされてしまいました。すごく悔しかったです。あのガードの堅さは、やはり意図的な仕様なのでしょうか?
キム・ヨンハ氏:
ええ。なんでも露骨に「ガン見」できてしまう状態というのは、先ほど申し上げた「無限大のフェチ」の美学からは外れてしまいますから。
チャ・ミンソ氏:
悔しい思いをさせてしまったかもしれませんが、そういうイタズラをしたくなるほど没入してプレイしていただけたということで、ありがとうございます。
「自然さ」が少しでも欠けると、ときめきもワクワクも冷めてしまう
──話を戻しまして、ゲーム内では、ご飯を食べていたりウトウトしていたりするキャラクターに声をかけると、こちらに応じてくれますよね。あの反応から、「共同生活のなかで受け入れられている」という感覚を強く抱きました。ああいった作り込みも、「帰りたい」空間を生み出すためのこだわりなのでしょうか?
チャ・ミンソ氏:
まず前提として、私の役割は、統括プロデューサーのヨンハさんが考えているビジョンを「どうやってゲーム内に具現化するか」を必死に考えることです。
その観点からお答えすると、「帰りたい」と思える楽しさの裏には、「キャラクターはたしかにそこに存在するけれど、プレイヤーの所有物ではない」という絶妙なニュアンスがあります。ヨンハさんは、そこを追求したいと考えているんです。
では、それをどうやってプレイヤーに伝えるか。ゲーム内のさまざまなシステムや仕組みを通じて、彼女たちが自律して生活していると解釈できるようにしなければなりません。私はそこを追求して実装しています。
キム・ヨンハ氏:
私が開発現場でよく使う言葉に「自然に」というものがあります。要するに、ゲームのなかの世界を「リラックスできる空間」だと感じさせたい。それがいちばん重要なんですね。
ただ、その「自然な生活感」をゲーム内で表現するのは、開発リソース的に非常にハードルが高い部分でもあります。それでも最大限実現できるよう、私からいろいろな要望を提示して作ってもらっています。
チャ・ミンソ氏:
たとえば、キャラクターが椅子に座り、机の近くまで体を寄せて、また立ち上がる。そうした何気ない日常の動作だけでも、実際には膨大な数のアニメーションや関連技術が必要になります。
開発チームとしてもこれまで挑んだことのない取り組みが多く、チャレンジングでおもしろい反面、難しい部分でもあります。「どこに自然さを感じるか」はユーザーによって感覚が違うので、その正解をつかむのがいちばん難しいですね。
キム・ヨンハ氏:
キャラクターの開発には膨大なリソースがかかるため、業界的には「ごまかす」「見せかける」手法もよく使われます。開発現場では「ゲームトリック」と呼んでいるのですが。
しかし、それをやってしまうと、私たちが目指す「自然さ」からは遠ざかってしまいます。できるだけトリックに頼らず自然さを追求したい。とはいえ、そのぶんだけ開発工数も跳ね上がるので、どこでバランスを取るか、チームで一生懸命に試行錯誤しています。
チャ・ミンソ氏:
そうして妥協しないからこそ、「自然さ」を追求できているのだと思います。
この「自然さ」が少しでも欠けてしまうと、先ほどヨンハさんからお話があった「ときめき、ワクワク」が冷めてしまうんです。だからこそ、少しでも不自然さを与えないように、全力で開発に取り組んでいます。
──プレイヤーが「不自然だ」と感じてしまうのは、たとえばどういった場面なのでしょうか?
キム・ヨンハ氏:
技術的な話をすると、ふたつの異なるアニメーションをつなぎあわせて表現するケースが業界的には多いのですが、これが不自然さを生む代表的な例なんです。
たとえば、「キャラクターが歩いてきて、椅子に座る」という動作があるとします。開発リソースを節約するなら、「歩く」と「座る」のアニメーションを別々に作ってつなぎあわせるのが効率的です。でも、それだとどうしても違和感が出てしまう。
ですから、できるだけひとつの滑らかなアニメーションのなかで表現したいのですが、それと開発工数とのバランスをどう取るかが、いちばん苦戦しているところですね。
チャ・ミンソ氏:
さらに、このジャンルのゲームは運営を続けるなかでキャラクターが段階的に増えていきますからね。このクオリティを保ちつつ、いかにスマートに対応できる体制を作れるか。そこが悩ましいポイントのひとつです。
泣かせる前に、まず共感を。カタルシスの土台になるのは、キャラクターとの日常だった
──韓国では「サブカルチャーゲーム」と呼ばれる美少女ゲームですが、『ブルーアーカイブ』の誕生から約5年半が経ちました。いまの市場の流行や、ユーザーが求めるものの変化を、どう捉えていらっしゃいますか?
チャ・ミンソ氏:
『ブルアカ』を開発した当時は、「とにかく自分たちが好きなものを貫こう」という熱意のもとにチームが集まり、それが幸いにも、多くの方に受け入れていただける結果につながりました。
もちろん『ファレイドリア』でも、待ってくださっている方々の期待に応えたいという思いがあります。ただ、この5年で市場は大きく変化し、競合となる強力な作品も増えましたから、プレッシャーを感じていないと言えば嘘になります。
それでも、私たちの中には「まだ表現しきれていない、自分たちが本当に好きなこと、やりたいこと」が熱として残っているんです。周囲がどう変化しようとも、ヨンハさんとその熱源を共有しながら、これからも自分たちの信じるものをまっすぐに作っていきたいですね。
キム・ヨンハ氏:
いまの開発チームとしては、市場のトレンドにあわせるというよりは、「自分たちが歩むべき道を追求していく」ことを第一に考えています。
たとえば『ブルアカ』が世に出たタイミングは、ちょうど銃や艦船などの兵器を「擬人化、萌え化」することが流行っていた時期でした。ですが私たちはそうではなく、完全なオリジナルIPを作りたいという思いで開発をスタートしたんです。
また、当時のサブカルコンテンツは「ディストピア」や「終末世界」のような暗い雰囲気のものが多かった。それならばと、あえて逆行して「明るい雰囲気のコンテンツを作ってみよう」と生まれたのが『ブルアカ』でした。
つまり、トレンドに迎合するのではなく、本当に自分たちが追求したい方向へ進む。いまの市場を見ると、オープンワールド形式のサブカルコンテンツが増えてきていると思いますが、私たちは逆に「じゃあ、家のなかでの生活はどうなの?」というアプローチで『ファレイドリア』を開発しました。
──最近は、美少女キャラを過酷な運命で苦しめるような、いわゆる泣きゲー的な方向性もひとつのトレンドです。そのなかで本作は、癒やしを中心に据えた物語になりそうですね。
チャ・ミンソ氏:
ヨンハさんが話した、トレンドの逆を行くというのは、あくまで戦略的な視点なんです。
私たちが本当にやりたいのは、自分たちの表現したい物語をユーザーのみなさんにお届けすること。本当に安らかで、穏やかで、安心できる……そういった雰囲気をゲームで表現したいと考えています。
だからといって、ゲーム全体がずっとそればかりというわけではありません。シリアスで奥深いストーリーも当然用意しています。そうしたメリハリをつけつつも、全体の空気感としては「穏やかさ」や「安心感」を追求していきたいですね。
キム・ヨンハ氏:
ゲームの展開において、いまおっしゃった泣きゲー的なカタルシスは当然必要になってきます。その過程では、葛藤や争いなど、感情の振れ幅が激しくなる展開もしっかりと用意しています。
ただ、そのカタルシスを生み出すためには、まずこの作品のストーリーや世界観に「共感」してもらうための土台を作らなければなりません。プレイヤーのみなさんがキャラクターに感情移入できるよう、その背景となる日常を丁寧に描くこと。そこが、私たちがいちばん優先しているポイントなんです。
TGSブースは作中の「黄昏館」を再現。彼女たちと生活を共にする「一体感」をブース全体で
──あらためてになりますが、今回のTGSで出展した試遊ビルドを通じて、ユーザーのみなさんにいちばん体験してほしかったことは何でしょうか?
チャ・ミンソ氏:
今回の試遊ビルドは、ゲームの冒頭部分を抽出して構成したものです。これまでは情報としてお伝えするだけでしたが、TGSの会場で実際に触って体感していただくことで、本作のイメージや空気感がよりはっきりと伝わるのではないかと考えました。
キム・ヨンハ氏:
「美少女キャラと日常生活」というコンセプト自体はすでにお伝えしていましたが、それが実際のゲーム内でどう表現されているのか。また、戦闘などほかの要素とどういう「バランス」で成り立っているのか。今回はそのエッセンスをお見せしたかったんです。
あわせて、TGSの出展ブースは作中に登場する「黄昏館」を再現しています。彼女たちと生活を共にする「一体感」をブース全体で表現した結果、あのような構成になりました。
──TGSでのブース出展を経て、次の展開を楽しみにしているユーザーも多いと思います。いまお話しできる範囲で、今後の動きなどがあれば教えてください。
チャ・ミンソ氏:
そうですね。いまはとにかく「着実に、入念に開発を進めています」というところです。
キム・ヨンハ氏:
現時点で次の展開やタイミングをお伝えするのは難しいのですが……TGSは昔から憧れの展示会だったので、今回、日本のユーザーのみなさんに本作を披露できたことを非常に光栄に思っています。
反応も気になるところですし、これから作り込まなければいけない要素もたくさんあります。できるだけ高い完成度でお届けできるよう、がんばっていきます。
あと、新作が本格的に動きだすことで「『ブルアカ』がおろそかになってしまうのでは」と心配される方がいるかもしれません。ですが、そんなことは決してありません。両方のコンテンツに全力を注ぎ、情熱を持って開発していますので、そこはどうかご安心ください。
──「炎と影」編、「オデュッセイア」編と更新されてうれしかったです。
チャ・ミンソ氏:
ありがとうございます。どんどん準備していますので、楽しみにしてください。(了)










